NAGAHAMA ワインカスクブレンド for 乾杯会 58% Dream of Craft Distillery
- カテゴリ:
- ★6
- 長濱(長濱浪漫ビール)
DREAM OF CRAFT DISTILLERY
NAGAHAMA
Wine cask blend
Blended Malt Japanese whisky & Scotch whisky
For KANPAIKAI
700ml 58%
評価:★★★★★★(6)
香り:白ワインやシャンパンを思わせる爽やかな酸と、ブリオッシュ香にも似たアロマ。乾いた麦芽、ドライアップルやグレープフルーツ。奥からケミカルなニュアンスを伴う華やかでフルーティーな香り立ち。時間経過で麦芽由来の甘さが一層感じられる。
味:柑橘を思わせる酸と麦芽の柔らかい甘み。濃縮感のあるフレーバーで、ほのかに乾草や土っぽさのあるピートフレーバーがアクセント。度数を感じさせない口当たりから、飲みこんだ後でトロピカルなフルーティーさが盛り上がるように広がり、麦芽風味と共に口内に染み込んで長く続く。
長濱蒸溜所の赤ワイン樽熟成原酒と白ワイン樽原酒をレシピ全体で過半数以上使用しており、ワイン樽由来の個性と長濱の麦芽風味、らしさを感じることが出来る仕上がり。ブレンドした複数種類のハイランドモルト由来の、系統の異なる麦芽風味と干し草のニュアンスが牧歌的な雰囲気を感じさせ、余韻にかけては近年流行りのフルーティーさが広がる。ブレンドコンセプトは朝靄を纏う伊吹山に、柔らかく差し込む朝日のような、陽のイメージを持つウイスキー。それぞれのフレーバーが、コンセプトの各要素に紐づくようにブレンドされている(自画自賛)。
先日、ウイスキーが縁で相談をいただき、プライベートボトル2種のブレンダーを務めさせていただきました。
蒸溜所は滋賀県は長濱蒸溜所。ジャンルは国産原酒とスコッチモルトウイスキーを用いたブレンデッドモルトウイスキー。勝手知ったる…というのは失礼かもしれませんが、グレンマッスルやお酒の美術館の発刻、祥瑞など、これまで度々同様のリリースに関わらせて貰っている蒸留所です。
既にウイスキーは発売され、販売分は完売しております。有難い限りです。
勿論、これまで同様に当方が本売り上げやブレンダー料等を受け取ることはありませんが、自分が関わらせて貰ったウイスキーが完売するというのは、どこか安心してしまうものです。
今後はBAR等飲食店で、あるいは手元にあるボトルを飲んでいただく段階にあるわけですが、ブレンダーとして本レシピに込めたイメージや、今回のレシピ作成の際の苦労話など、商品情報を深掘りする形で当ブログに掲載させていただきます。
まず本リリースの主体である乾杯会について。
本ボトルの国内向け販売を頂いた、長濱浪漫ビールや信濃屋で紹介されている通り、乾杯会は愛好家、鄭冲氏が立ち上げた、会員制組織かつ酒販企業となります。
発起人である鄭氏は10年以上日本に住まれている中国出身の非常に熱心なウイスキー愛好家で、日本において北から南までBAR巡り、イベント参加、蒸留所訪問をし、新旧問わず様々なウイスキーを飲んで勉強されています。
一方で、世界的にウイスキー需要が高まる中で、愛好家間では通常リリースと異なる特別なウイスキーを飲みたいという要望が増えつつあります。自分たちの手でそうしたウイスキーを届けたいと考え、会員制組織を立ち上げての今回のリリースを企画や、各クラフトウイスキー蒸溜所での樽購入、さらに六本木でウイスキーBARの共同オーナーとなってウイスキーを提供する場所も整えるなど、一般的なウイスキー愛好家としての枠組みを超えた活動も行っています。
※鄭氏が共同オーナーとなっている、六本木のBAR莨樽(ろうたる)。2022年8月オープン。新旧問わず様々なボトルが揃っている。
そんな中で鄭氏から相談を受けて調整させていただいたのが、今回のリリースとなります。
頂いた条件は以下の3点。
・ラベルは日本を象徴するような和的なイメージ。
・蒸溜所を代表する原酒を使いたい。一つはシェリー系を希望。
・グレーンは使わずブレンデッドモルトで無加水、フルーティーな味わいで2種類。
ラベルについては筆字で漢字2文字ドーンみたいな、某S社さんを想起させるデザインは使いたくなかったため、日本文化の一つ、日本画をラベルに取り入れることを提案。
以前から交流させて頂いている、若手日本画家の外山諒さんを紹介し、ラベルを担当頂くこととなりました。
続いて原酒については、長濱蒸溜所を代表する原酒といったら、WWAや IWSCなどの国際酒類コンペで高い評価を受けているワイン樽熟成原酒とシェリー樽熟成原酒しかないだろうと、伊藤社長、及び同蒸溜所ブレンダーの屋久さんにイメージを伝え、原酒をピックアップしていただきました。
ラベルOK、原酒OK、スケジュールも決まってここまではトントン拍子で進み(長濱蒸溜所は本当に仕事が早いw)、さあ後は私の仕事だと、いざブレンドとなってサンプルを手に取って…ここから先が困難でした。
ご存じの方も多いと思いますが、昨今、世界的なウイスキー需要増から輸入原酒の価格は上昇傾向にあるだけでなく、手に入る原酒も長期熟成のモノが手に入らなくなってきています。
グレーンなら比較的なんとかなりますが、それでも以前の2倍、モノによっては3倍近い価格まで高騰しています。
その結果、以前PBをブレンドした時は使えた長期熟成の輸入ハイランドモルトがサンプルに入っておらず、今までは無かった蒸留所構成から全く異なるハイランドモルトがピックアップされているなど、長濱でのブレンドならこの方向で安パイ…という想定は早くも崩壊。新しい挑戦となってしまいました。
また、今回特集しているワインカスクブレンドでは、長濱蒸溜所の赤ワイン樽熟成原酒が思ったよりも色が出ていないドライなタイプであったことも想定外でした。
色合いに関しては、じゃあシェリー系が黒、ワイン系が白、黒と白の太極図、夜と朝の陰陽でまとめようと、すぐにアイディアが浮かんだのですが、問題は味です。
なにせ、今回の条件は「グレーンは使わずブレンデッドモルトで無加水、フルーティーな味わい」。
自分はよくブレンドを”蕎麦”に例えて説明していますが、繋ぎとなる要素があったほうがまとまりやすくバランスよく仕上がることは明白です。その繋ぎとなる要素には、グレーン以外に、シェリー感やワイン感等の色濃い甘さ、ウッディなエキス、加水も該当し、若い原酒が多いブレンドであればあるほどその重要性は増します。
また、ピーテッド原酒を使ってごまかすことが出来ないことも、ハードルを高くしました。大げさに言うわけではありませんが、針の穴を通すようなコントロール、繊細なバランスでこれらの原酒をまとめ切らなければなりませんでした。
そこで、今回は麦芽風味を軸にバランスをとることとしました。
長濱のワイン樽原酒が持つ柔らかい甘さの麦芽風味。
ミドルエイジのハイランドモルトの1つが持つ、牧歌的な雰囲気を持つ麦芽風味。
もう一つ、比較的若いハイランドモルトが持つ、フルーティーで乾いた香味を感じさせる麦芽風味。
これらの麦芽風味を大黒柱として、ワイン樽原酒は白ワイン樽を加えてもらい、色、甘さではなくフルーティーさを後押しする方向で。またピート要素、シェリー樽要素も微かに加え、全体の複雑さを増す。
試作品の最初のイメージでは、田舎街の朝、周囲に漂う草木や田んぼの香り、朝靄の漂う適度な湿度と清々しさ、そこに差し込む朝日のキラキラとした光。これらが長濱蒸溜所周辺の景色と共に、ウイスキーから感じられる各要素と紐づいて感じられました。
このイメージを、シェリーカスクブレンドのものと合わせて外山さんに伝えて原画を描いて頂いたのが、箱とラベルに印刷された作品となります。ここは流石プロですね。どちらもイメージやウイスキーの雰囲気にピッタリ合っており、プロの仕事の凄さを感じられるコラボとなったのです。
※長濱蒸溜所 伊藤社長を挟んで、左:乾杯会 鄭氏。右:莨樽共同オーナー 郭氏。
依頼主にして発起人である鄭氏もワインカスクブレンドのほうが好みであると話されており、頂いたリクエストと期待を裏切らずに済んだと、国内販売完売と合わせて胸をなでおろしました。
以上のように、期せずして新しい挑戦もあった今回のブレンダー協力ですが、計画通りのところもあり、偶然もありで、しかしながらどちらのリリースもコンセプトが明確でラベルとの関連性もあり、手前味噌ですが、良いリリースになったのではないかと感じています。
さて、ここから先は、飲んだ人達の感想を聞きながら、自分の作品を愛でることが出来る、ブレンダーとしての特権、楽しみとなる時間です。ここまでひっくるめて一つの趣味、なんて贅沢で恵まれた時間でしょうか。
改めまして、お声がけ頂いた鄭さん、今回のリリースに協力頂いた関係者各位、そしてこのウイスキーを手に取って下さった方々に感謝申し上げて、記事の結びとします。
ありがとうございました。
コメント