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SABUROMARU 2 
THE HIGH PRIESTESS 
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY 
Cask Strength 
Distilled 2019 
Bottled 2022 
One of 600 bottles 
700ml 61% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:燻した麦芽と樽由来の甘いアロマ、はっきりとスモーキーなトップノート。野焼きの香りと焼けたオレンジのような焦げ感、ピートスモーク、土っぽさ、微かにジンジャー。それらに押し込められたオーキーな要素が厚みとなって柑橘感を後押ししている。

味:ネガティブな要素が少なくクリア。乾いた麦芽と醤油煎餅のような香ばしさ、ほのかな柑橘感、焦がした木材や土っぽさを感じるスモーキーさが力強く広がる。
余韻は高度数らしくジンジンとした刺激が口内にあり、鼻抜けはスモーキー、ビターなピートフレーバーが長く続く。

今はまだ溌剌とした若さ、勢いの強さも目立つ構成であり、人によっては未熟と捉えるかもしれない。しかしその酒質は変に傾いた要素もない無垢なもの。これから熟成を経て複雑さや果実感を纏っていくだろう伸び代、大器を感じさせる。成長の方向性はアードベッグやラガヴーリン。これで“完成”はしていないが、2016年以前からは考えられない進化、洗練された味わいである。
数年後、最初のピークを迎えるだろう「未来」に想いを馳せる楽しみもある。まさに新時代のはじまりの1杯。

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※(リリース比較)本シリーズは毎年カスクストレングスと加水仕様がリリースされている。今年のリリースは雑味が少なくピートと麦芽由来の風味がダイレクトに感じられるが、加水版はその荒々しさが整えられて非常に親しみやすい。人によっては物足りなさを感じるかもしれないが、三郎丸の進化とZEMONの可能性は、どちらを飲んでも感じられる。

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先月リリースされた、三郎丸のタロットシリーズ第3弾。
本ブログの読者であればご存知の方も多いと思いますが、三郎丸蒸留所は2016年から17年にかけての大規模改修工事の後、1年毎に新しい取り組みを実施しています。
そのため、各年の仕込みから3年熟成で構成されている本シリーズは、段階的にその取り組みの効果を確認できる、ただの3年熟成リリース以上の意味を持つシリーズとなっています。

【関連情報】
2017年 大規模改修
2018年 三宅製作所製マッシュタン導入
2019年 鋳造製ポットスチルZEMON開発・導入
2020年 発酵層の1つを木製に(ステンレスで発酵開始→発酵最終段階を木製へ)。アイラピーテッド麦芽の仕込み実施
・・・
※詳細はJWICを参照いただくとより詳しく記載されています。(参照先はこちら

そして今年のリリース、三良丸Ⅱのポイントは、なんと言っても同蒸留所マネージャー(現若鶴酒造CEO)の稲垣貴彦氏が老子製作所と共同開発した、ZEMONで蒸留された原酒が初めてシングルモルトとしてリリースされることにあります。

三郎丸蒸留所は、2018年までは若鶴酒造としてウイスキーを作っていた旧時代のステンレスポットスチルのネック部分から先を銅製に改造した、改造スチル(写真下・左)でウイスキーを仕込んでいます。蒸留所の機能としてはリニューアルを経て向上していたものの、旧世代のウイスキーづくりから脱却したとは言い難いものでした。
この点に関して稲垣さんの想いは非常に強く、本ボトルの裏ラベルに記載されたメッセージでも、これからが始まりであることを強調されています。

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さて、世界初となる鋳造製ポットスチルZEMON(写真上・右)。銅92%、錫8%の合金で作られるスチル。その特徴は様々な媒体で語られているため改めて記載することはしませんが、違いは明確に現れました。
私の記憶が確かならば、今から2年前の2020年に三郎丸0がリリースされた時。その進化を評価しつつも、三郎丸はまだこれからであると。今後間違いなく、さらに良いウイスキーがリリースされてくると。そういうレビューをしていました。
既に2019年、2020年のニューメイクをテイスティングしており、間違いないと確信があったためです。

ただし1つ不安があったとすれば、2020年には改善されたものの、2019年の酒質はニューメイク時点で少しぼやけた印象があり、ピートフレーバーは2018年の方が際立って感じられた点にあります。
ウイスキー造りの心臓部とも言えるポットスチルが全て変わったのですから、カットポイントなどその使い方で苦労があったという話。トライ&エラーがあるのは当たり前でしょう。
分析結果、数値の面でもネガティブな風味に繋がる要素(グラフ上段)で一部2018年の原酒を越えている点があり、これがニューメイク時点での「ぼやけている」という感想に繋がったのだと思います。

saburomaru_2018_2019_2020
saburomaru_newmake_2018_2019

しかし今、目の前にある最低限の熟成を経た三郎丸Ⅱをテイスティングし、改めて三郎丸Ⅰもテイスティングし、熟成による成長の違いを如実に感じています。三郎丸Ⅰはだいぶ暴れてますが、Ⅱの方は素直に、確実に成長している印象を受けます。
今後熟成を経ていく中で、さらに洗練されて、複雑さを増していく、3年間でその下地が出来た状況であるようにも感じます。

これに関して同様のイメージを思い起こし、頷いた方々もいらっしゃるのではないかと思います。
新酒を飲み、成長過程を飲み、そして未来をイメージする。既に完成品したリリースはそれはそれで良いものですが、10年、20年前となると当時何があったか分からない蒸溜所も珍しくありません。変化を知り、今だけでなく、過去や未来の姿との比較も含めて楽しめる。これこそ現在進行形で成長する、新興クラフト蒸溜所の最大の魅力だと感じる瞬間です。

なお、三郎丸のZEMONですが、ポットスチルが全て変わったのは事実ですが、改造スチル時代の良い部分を引き継ぐために一部類似の設計を採用しています。
それはスチルのネックが折れ曲がった先、ラインアームの角度と短さです。角度は兎も角そんな短いか?と思われるかもしれませんが、改造スチルはラインアーム部分約1m先から冷却機となっており、物凄くラインアームが短いのです。
三郎丸の重みと厚みのある原酒はここから産まれると考え、ZEMONも同様にラインアームはかなり短く設計されています。
良いものは使い、そうでないものは変えていく。変えない勇気がある一方で、変える勇気もある。若い稲垣さんだからこそ出来る柔軟さ、チャレンジスピリッツが三郎丸の魅力なんですよね。

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※蒸留所に展示されているZEMON開発の実験機。合金であっても同様の触媒反応があることだけでなく、鋳造の場合表面に細かい凹凸が出来ることで接触面積が増え、さらに高い効果が見込まれる等、様々なメリットが確認されている。

一方で少し気は早いですが来年のリリースはどうなるか。冒頭まとめたように、実は来年も設備面で変化があるだけでなく、それ以上に日本のウイスキー業界にとって前例のない革新的な取り組みの過程が、形になろうとしています。
そう、アイラ島産のピートを使ったモルトウイスキーの仕込みです。
稲垣さんが目指すウイスキーの理想像は、アードベッグの1970年代。アイラらしいフレーバーはピート成分の違いから産まれるのではないかと考え、現地で調達したピート、麦芽を使った仕込みが2020年に行われています。

つまり来年は
・三宅製作所マッシュタン
・木桶発酵槽(最終のみ)【2022NEW】
・鋳造製ポットスチルZEMON
これらの設備で仕込んだ
①内陸ピートを使った従来のピーテッドモルト原酒(52PPM)
②アイラピートを使ったピーテッドモルト原酒(48PPM)
以上2つ。時期はずらすことになるかもしれないが、2種類ともリリースされる予定と聞いています。

ニューメイクの時点で、既に違いがはっきりと出ていましたが、その違いは熟成後どうなったのか。。。
これまで仕込んできた原酒の成長だけでなく、来年のリリースも今から待ちどおしいです。

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