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THE AKKESHI 
"TAISHO" 
Blended Whisky 
A Fusion of the Worldwide Whiskies 
12th season in the 24 Sekki 
Bottled 2022 
700ml 48% 

評価:★★★★★★(6)

香り:土っぽさと焦げ感を含むピート香、燻した麦芽、スモーキーさの中にグレーン由来の穀物系の甘さとスパイシーな刺激。それらに複数の樽に由来するバニラ、ニッキ、ハーブ、柑橘、緑茶葉…様々なアロマが混じり、湧き立つような複雑さがグラスの中で陽炎のように揺らめき立ち上っている。

味:甘く厚みのある麦芽風味、含み香と共に広がるスモーキーなピート香。そこにグレーン原酒の甘さと粘性、柑橘感、スパイス、微かにお香を思わせるミズナラ樽のニュアンスやワイン樽由来のベリー系のアクセント。これらが軽快な刺激を伴って感じられる。
余韻はピーティーでビター、ウッディな苦みと焦げ感からミズナラ樽由来の個性的な甘みとスパイシーさが鼻孔に抜け、どっしりとした余韻が長く続く。

複雑でボリューミーな香味構成。モルトとグレーンの比率は6:4程度と推察。樽はバーボン樽が一番比率として高そうだが、次点はミズナラの新樽で20~30%といったところか。該当するキャラクターが随所にあり、他にはワイン樽の個性もアクセントとして感じる。熟成グレーンのコクと粘性、ミズナラの独特のスパイシーさにハーブや和柑橘感が、ピーティーで多彩なフレーバーを繋いでいる。
なおハイボールにすると複雑さの要因だった樽感、ボリューミーさを支えていたグレーンの甘みが軽くなるためか、スモーキーフレーバーを残し、すっきりとした味わいに変化する。

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「THE AKKESHI BLEND」は、厚岸蒸溜所が自社蒸留したモルト原酒と、グレーンスピリッツで調達後、厚岸蒸溜所で3年以上熟成したグレーン原酒を使いリリースするブレンデッドウイスキー。二十四節気シリーズとしては8作目、ブレンドとモルトが交互にリリースされる同シリーズにおけるブレンデッドとしては4作目となります。

”大暑”は二十四節気では凡そ7月下旬から8月上旬にあたり、読んで字のごとくの時期です。
今年は本当に暑かった…ですが関東では適度に雨も降り、空梅雨なんて言われてましたが、結局そんな心配はなく。その後に続くのは立秋→処暑→白露。昨年リリースしてWWAで受賞した同じ厚岸ブレンドの”処暑”が出てくる。二十四節気シリーズは1年に4リリースされていて、このシリーズが1年を2周して徐々に季節が埋まってきたんだなと、感慨深くもなりました。

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今回のリリースの特徴は、一つは北海道産麦芽(りょうふう)と北海道産ミズナラ樽熟成原酒による柑橘感とスパイスを連想する香り、含み香。そしてもう一つが前述のミズナラ樽原酒やグレーン原酒等、構成原酒の熟成感が増してきたことによる、バランスの取れた複雑さにあると考えています。

レシピの傾向も変わってきていて、確認したところ昨年は3年熟成の原酒をベースとしていたものの、そこから使われている原酒の最低熟成年数が1年増えたとのこと。粗さの強かった原酒の傾向が変わり、ブレンドのレシピ構成では2021年リリースのブレンデッド2作(雨水、処暑)に比べてまとまりのある方向にシフトしています。
ミズナラ熟成原酒の成長もその一つ。以前は目立たなかったオリエンタルな香味に通じる要素が香味の端々にあり、キーモルトたる働きをしています。

また、グレーンに関しては、個人的な経験から厚岸熟成グレーンの事例を紹介すると、昨年春、GLEN MUSCLE No,8 Five Spiritsのレシピ構成に関わらせてもらった際、ブレンドに使える原酒の選択肢に厚岸熟成グレーン(バーボン樽3年)がありました。ブレンドに欠かせないグレーンという1ピース、話題性としては間違いなく厚岸熟成グレーン一択です。
ですが最終的に使ったのは輸入スコッチグレーンの11年。なぜ使わなかったかと言うと、まだ熟成が短く香味がドライであり、グレーンとしての甘み、コクが弱いと感じたためでした。
一方でブレンドとしては前作となる“大寒”のリリースからは、グレーンに期待するフレーバーや特性も増してきたように感じます。たった1~2年の違いですが、日本の熟成環境では大きな違いとなり得るのです。

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ちなみに、前作”大寒”と香味の傾向を比較すると。原酒の成長というよりはブレンドの方向性の違いが大きく、冬から夏、静寂から躍動、表現する季節の違いと変化が楽しめるように思います。
大寒は1:1に近い比率でグレーンが使われていて、ややドライで静かな印象のある仕上がり。例えるなら雪が降った次の日の朝、朝日を浴びて一面白く染まった平野の景色を連想させる味わいに対して、大暑はグラスの中から陽炎のように湧き立つ個性、ボリュームのある味わいが、夏の暑さとリンクして感じられました。

冒頭述べたように、厚岸蒸溜所がリリースする二十四節気シリーズは1年間に4作品。シングルモルトとブレンデッドが2作品ずつリリースされており、来年は12本で折り返しを迎えます。つまり、順調にいけば後4年程でシリーズが完結するわけです。
それだけリリースを重ねる中で、今回のブレンドは蒸溜所としてもリリースとしても、一つ完成度の高さで階段を登った印象を受けました。

厚岸蒸溜所の熟成3年以上の原酒については、おそらくあと3~5年くらいで最初のピークを迎えるでしょう。一方で厚岸蒸溜所ではウイスキー造りにおいて毎年様々なアップデート、取り組みを行っている最中で、今なお蒸溜所そのものが発展途上です。
熟成環境は少し離れた海岸沿いの高台に第3、第4熟成庫が完成し、現在は第5貯蔵庫を建設中。それ以上に、今回使用されている北海道ミズナラ樽と北海道産麦芽りょうふうと組み合わさり、蒸溜所が目指す厚岸オールスターを形作る最後のピースと言える計画も、いよいよ佳境を迎えているところ。

コロナ禍の影響もあって多少遅れはあったようですが、きっと次のリリース前後で大きな発表があるのではないか。そして今回のリリースは、厚岸オールスターという蒸溜所が目指す理想像に組み込まれる、重要な要素、その一部を味わうことが出来る。マイルストーンな1本でもあるのです。

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※厚岸蒸溜所第3、第4、第5熟成庫(建設中)を見下ろすドローン写真。海沿いから内陸に入った場所にある蒸溜所から数キロ離れ、海沿いの高台に熟成庫が建設されている。画像引用:https://www.builder-net.jp/zisseki_kobetsu?id=7539

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※道端に落ちていたら、牛か馬の落とし物に見間違えそうだが、これが極めて重要な、最後の1ピースである。