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SECRET HIGHLAND MALT 
SCOTCH WHISKY (SINGLE MALT)
Aged 30 years old 
Distilled 1990 
GLEN MUSCLE No,7 Episode 3/3
For Whisky Lovers & Drinkers, Blinded by Fear 10th Anniversary
700ml 48% 

香り:ブラウンシリアルのような香ばしいモルティーさとナッツ、乾いた牧草、じわじわと熟成由来の甘くオーキーな樽香、古びた家具。オレンジ果汁やバルサミコ酢のような甘みと重みのある酸も伴う複雑なアロマ。

味:口当たりはオイリーで粘性があり、どっしりとしている。合わせて乾いた紙っぽさとシリアル。樽由来の要素はほのかなシェリー要素と度数落ちの華やかさ、ナッツ、軽くスパイスを伴う。
余韻はカカオ多めのチョコレートを食べた後のようなほろ苦さ、しっとりとした中にピリピリとした舌への刺激を伴って長く続く。

複雑で個性的。近年多く見られるバーボン樽でプレーンな酒質を熟成して華やかキラキラ系に仕上げた、ある種現行品のトレンドとは異なる方向性。2ndフィルあたりのシェリーバットで長期熟成したのか、ほのかなシェリー感、オーキーな熟成香、ビターなウッディネスと複雑な要素が感じられる。
時間経過で香りのほうは華やかさ、樽香優位となり、好ましい要素が強くなってくる。香味とも個性と樽感が濃縮した状況であり、加水するとそれが綺麗に伸びる。好みは分かれるだろうが、短期熟成原酒では出てこない奥行き、スケールが感じられる1杯。

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GLEN MUSCLE No,7 シリーズ3部作の最終リリース。そして最終リリース。
ブランドについての説明は…もう不要でしょう。間に厚岸ブレンデッドのNo,8が入ったため順番が前後していますが、昨年6月に長濱蒸溜所からリリースされたNo,7 Episode1/3 Blended Whisky 3 to 30 yearsの構成原酒の1つであり、表記されている最長熟のモルトウイスキーです。

当時の経緯や狙い等については過去記事を参照いただくとして、このブレンデッドウイスキーNo,7 Episode1/3では
・長濱蒸留所で蒸留、3年熟成を経たピーテッドモルトジャパニーズウイスキー
・スコットランドから調達して20年熟成のグレーンウイスキー
・スコットランド産の10年〜30年熟成のモルトウイスキー
10種類以上の原酒から使用原酒が選定され、レシピが形成されたわけですが、中でも中核的な役割を担う2つのシングルモルトウイスキー(1994年蒸留26年熟成、1990年蒸留30年熟成)が、No,7 Episode 2/3と今回のNo,7 Episode 3/3となります。

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No,7 Episode1/3は、構成原酒の中でも長濱蒸留所のピーテッドモルト原酒3年の個性を屋台骨として、エステリーなフルーティーさ、奥行きや複雑さ、熟成感を付与する方向でブレンドレシピが構成されており、その要素を形成するのが、先に述べた2種の原酒です。

軽やかだが華やかでエステリー、フルーティーなハイランドモルト1994。
モルティーで個性的だが、熟成感を備えたハイランドモルト1990。
両者の属性は、さながら陽と陰。
かつて、サントリーのマスターブレンダー鳥井信治郎氏が「ええ匂いいうもんは、やっぱりウ○コの香りが入ってんとあかんのや」とコメントしたように、香水を作る際には様々なアロマが組み込まれる中でマイナス面の香りが必須とされるように。
複雑で奥行きのある香味には、同じ系統の原酒を混ぜ合わせるだけでなく、異なる属性、異なるベクトルの原酒の組み合わせによって生じる香味の幅の広さが重要であり、そのバランスを如何にとるかがブレンダーの力の見せ所だと考えています。

その意味で、今回のシークレットハイランドモルト30年は、陰陽どちらかと言われたら、陰にあたる個性であり、個人的には主役になるモルトウイスキーではないと感じていました。(少なくとも、近年のトレンドには逆行するものであると)
ただ、グレンマッスルメンバーの1人である倉島氏がこの原酒の可能性を評価し、自信が主催するウイスキーグループ“Blinded by fear”の10周年記念も兼ねてリリースを進めていくこととなります。

結果、こうして3部作が揃ってみると、まず目指したブレンドがあり、ブレンドを構成するキーパーツであり、そのフレーバーの幅の両端を味わえる構成原酒をセットでというのは、純粋に面白い取り組みです。愛好家が面白いと感じてくれるような、GLEN MUSCLE らしいリリースであり、単体としてだけでなく、ブレンドの構成原酒として視点を変えて、3本を飲み比べて頂けたら嬉しいですね。

蛇足ですが、今回のラベルは前作Episode 2/3の華やかで春や南国をイメージするようなデザインに対し、葉も花も落ちた冬の水辺に立つ1本の木に白と黒の文字という、対局にあるデザインで作成してみました。ラベルから伝わる香味の印象もさることながら、このラベルに使われた写真が、構成原酒のヒントになっているのもポイントです。
あまりメジャーな場所ではないようですが、非常に雰囲気のあるスポットです。興味がある方は探してみてください。

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さて、 GLEN MUSCLEは、気がつけば2018年のファーストリリースから約4年、一般にリリースされたもので10本、シークレットも含めると11本というリリースを重ねたブランドとなりましたが、どれも異なる取り組みがあり、コンセプトがあり、愛好家がワクワクするような、面白いと感じるような仕組みを盛り込むことができたのではないかと考えています。

加えて、クラフト蒸留所が持つ原酒でブレンドPBをリリースする(監修する)という、今でこそ珍しくないものの、当時一般的だったPB=シングルカスクのサンプルから選定、とは異なるコンセプトの先駆けの一つとして実施したことも、新しいジャンルの可能性をを発信することが出来たのではと感じています。

なにより私自身このブランドを通じて、ウイスキーをリリースするという事に内部から関わり、ウイスキーのブレンドからラベルの作成、事務手続きまで、ただ飲んでブログを書いていただけではわからない経験をすることができました。例えば造り手の領域での話が小指の先くらいはわかるようになった。これは0と1くらい大きな違いです。
それはメンバー各位同様であり、私がT&T TOYAMAやお酒の美術館等のブレンドPBを担当させて貰ったように、現在はそれぞれが経験を活かし、フリーのブレンダーやカスク選定者としてリリースに関わる等、確実に活動の幅を広げています。

GLEN MUSCLEはこれで活動を休止しますが、メンバーが居なくなるわけではありません。ブロガーくりりんの活動は続きますし、愛好家が面白いと思えるような、美味しいだけでなくワクワクするようなウイスキーは、今後もまたどこかで、違う形でリリースされていくことになります。
ですが一つの節目として。この企画にご理解、ご協力をいただいた造り手の皆様、ウイスキーメーカーの皆様、そして手にとって頂いた愛好家の皆様。
まずはこの場をお借りして、御礼申し上げます。
本当にありがとうございました。
それではまたどこかで、違う形でお会いしましょう。