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THE SUN 
SABUROMARU WHISKY 2022
The symphony of Saburomaru malt and World matured grain
700ml 48%

評価:★★★★★★(6)

香り:香り立ちは焦げたようなピーティーさ、アーモンドの皮を思わせる焦げた木材、仄かにスパイス。三郎丸モルトらしいスモーキーなアロマと合わせて角の取れたウッディネス、複数の樽由来の複雑な甘い香りが立ち上がり、全体をより複雑にしている。

味:オイリーで柔らかく、どっしりとしたコク、厚みのある濃厚な口当たり。三郎丸モルトらしいピーティーなフレーバーに、焦げた木材やグレーン由来の甘み、ほろ苦さ、微かにハーブ。後半から余韻にかけてはママレードジャムのような角の取れた甘酸っぱさ、濃い甘みがあり、余韻のスモーキーさとビターなフレーバーが全体を引き締めている。

富山県産ミズナラ樽熟成の三郎丸蒸留所2018年蒸留モルト原酒を軸に、シェリー樽、バーボン樽等で熟成した同蒸留所のモルト原酒と、12年以上(最長16年)熟成の輸入グレーン原酒をバッティングしたブレンデッドウイスキー。グレーンについては輸入後にワイン樽等で追加熟成を行ったものが使われている。

ブレンデッドというとグレーン主体の無個性な印象が香味の先入観としてあるが、このブレンドはかなりモルティーで、古典的なブレンド比率と予想される。そのため、味わいは三郎丸蒸留所の個性そのもの。それを追加熟成したグレーンと合わせることで、個性を楽しみやすくしつつ、ウイスキーとしては飲みやすく仕上げている。加水の具合もいい塩梅で不足は決して感じない、作り手のセンスを感じる1本。

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先日、三郎丸蒸留所から5320本限定でリリースされた、三郎丸の名を冠するもう一つのウイスキー。
自社モルト原酒と、追加熟成した輸入グレーンとの掛け合わせは、同じクラフトでは厚岸蒸溜所のブレンデッドウイスキーを彷彿とさせるコンセプト。ただ、スピリッツで輸入して全てを国内熟成している厚岸に対して、三郎丸は10年程度熟成の状態で輸入したものを追加熟成し、ブレンドに用いている点に違いがあります。

使われている三郎丸モルトは、三宅製作所製のマッシュタンを導入して、酒質として大幅な改善を果たした2018年蒸留。
これを富山県利賀産ミズナラ樽で熟成した原酒を軸に、三郎丸蒸留所のシェリーやバーボン等さまざまな樽での熟成原酒を用いてレシピを構築。スモーキーな香味に感じられるスパイシーさ、ママレードジャムのような濃厚なオレンジフレーバーがこの原酒由来でしょうか。
余談ですが、ミズナラ樽は熟成3年強で想像以上のエンジェルシェアがあったようで、想定していた以上に樽数を使ったと稲垣マネージャーがボヤいてました。

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(三郎丸蒸留所で熟成中のミズナラ樽。三四郎のロゴが目印。)


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(熟成中の原酒の状態を確認する稲垣マネージャー。スパニッシュオークカスクで2年強という原酒は、早くも色濃い甘さとウッディな香味が。)

そしてこのブレンドを紹介する上でもう一つ重要なパーツが、冒頭部分でも触れた追加熟成グレーンです。
実はこのブレンドに使われたグレーン、自分は一度飲んだことがありました。
それは三郎丸蒸留所とのタイアップでオリジナルブレンドを作ろうという企画を進めていた、2019年の夏のこと。提供いただいたサンプルの中に、追加熟成前のグレーンがあったのです。

結論から言えば、その時のグレーンはドライで甘みが足りず微妙だなあと。自分はブレンドを作る上で、違うものにチェンジしてもらったわけですが。しかし追加熟成を経て今回のブレンドに使われた12〜16年熟成のグレーンは、間違いなく口当たりの柔らかさ、全体のバランスとコクのある甘みに繋がる良い仕事をしています。
グレーンの追加熟成に使われたという焙煎樽も、メローなフレーバーを付与し、全体の1要素として貢献していますね。同じ樽はT&T TOYAMAが調達した原酒の熟成にも使われていて、そういう意味で将来が楽しみになるところでもあります。

今回のリリースはテイスティングで記載したように、三郎丸蒸留所のピーティーで厚みのあるフレーバーの個性を全面に出しつつ、それを複数の樽やグレーンでまとめ、奥行きを出し、一本筋の通った複雑さを形成したブレンドです。
これは荒削りながら響や鶴のような、日本の大手メーカーがリリースするブレンデッドウイスキーにも通じるコンセプトなんですよね。
そのコンセプトを実現するには、様々な樽を用いて熟成した、作り分けた原酒がなければなりません。日本最小規模ながらリニューアル以来コツコツと原酒を作り続けてきた、三郎丸蒸留所がついにこの領域に入ってきたかと。感慨深さも感じる1本でした。

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(THE SUNのハイボール。グレーンによる繋ぎが解けて、逆に多彩な味わいとなる。構成原酒由来のフレーバーを理解する上では、この飲み方が良いかもしれない。)