キリン 富士 シングルブレンデッド ジャパニーズウイスキー 43%

FUJI
KIRIN FUJIGOTENBA DISTILLERY
SINGLE BLENDED JAPANESE WHISKY
700ml 43%
評価:★★★★★(5ー6)
香り:トップノートはややドライ、エステリーな要素とほのかに溶剤系のニュアンス。奥から柔らかく熟した果実を思わせる甘い香りが、モルト由来の香ばしさと合わせて感じられる。穏やかで品の良い香り立ち。
味: 口当たりは柔らかく、穏やかな甘酸っぱさ。グレーン系の甘みとウッディネスから、モルト由来のほろ苦さ、薄めたカラメル、ほのかな酸味。香りに対して味は淡麗寄りで、雑味少なくあっさりとした余韻が感じられる。
基本的にグレーン由来のバニラや穀物感が中心で、ほのかにモルト由来の香味がアクセントになっているという構成。グレーン8にモルト2くらいの比率だろうか。樽もバーボン主体であっさりとしていて飲みやすく、綺麗にまとまった万人向けの構成。その中に富士御殿場らしい個性を備えたブレンデッドでもある。
ストレート以外では、ハイボール、ロック共に冷涼感のある甘い香り立ちから、飲み口はスムーズで軽やか。微かに原酒由来と思しき癖があるが、食事と合わせるとまったく気にならない。

キリン・ディスティラリー社が操業する富士御殿場蒸留所から、2022年6月にリリースされたシングルブレンデッドウイスキー。
以前、ロッホローモンド・シグネチャーブレンドの記事でも記載していますが、シングルブレンデッドとは1つの蒸留所でグレーン、モルト、どちらも蒸留・熟成してブレンドしたウイスキーが名乗れるカテゴリーで、ジャパニーズではこのリリースが初めてではないかと思います。
同社はかねてから「クリーン&エステリー」というコンセプトでウイスキーを作ってきましたが、ブランドとしてはプラウドとか、DNAとか、モルトをPRしていた時もあれば、グレーンメインの時もあり、ブランドイメージは紆余曲折があったところ。富士山麓から富士へとメインブランドを移行した現在は「美しく気品あるビューティフルなウイスキー」を目指すブランドを掲げています。
商品開発にあたっては、シングルブレンドだからこそ表現できる、蒸留所としての個性、テロワール。それを実現するため、同社が作ってきたライト、ミディアム、ヘビータイプのグレーン原酒に、モルト原酒をブレンドし、美しいハーモニーを奏でるようにブレンドしたとのこと。
開発コンセプトの詳細なところは、田中マスターブレンダーと土屋氏の対談記事に詳しくまとめられており、公式リリースを見ても社としてかなり気合の入ったブランドであることが伺えます。(参照:https://drinx.kirin.co.jp/article/other/4/)

さて、当ブログの記事では、そうした開発側のコンセプトを踏まえつつ、1人の飲み手として感じたこと、知っていることなどから、異なる視点でこの「富士シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー」を考察していきます。
まず「クリーン&エステリー」とされる、キリンのウイスキー”らしさ”とは何か。なぜそのらしさは生まれたのか。
それは同社におけるグレーンウイスキーとモルトウイスキーのルーツにあり、話は同蒸留所の立ち上げ(1970年代)まで遡ります。
キリンビールは当時世界のウイスキー産業に大きな影響力を持っていたシーグラムグループとの合弁会社としてキリン・シーグラムを設立し、富士御殿場蒸留所を1972年に建設。翌1973年にはロバートブラウンをリリースしたことは広く知られています。
こうした経緯から、富士御殿場蒸留所はスコッチとバーボン、両方のDNAを持つなんて言われたりもするわけですが、それは製造設備だけではなく、良質な輸入原酒を調達することが出来たということでもあり、実際上述のロバートブラウンは輸入原酒を用いて開発、リリースされていたことが公式に語られています。
一方、当時の日本市場で求められた飲みやすくソフトなウイスキーを作る上で、足りないパーツがグレーンと、スコッチモルトとは異なるクリーンな原酒でした。
例えば現代的なブレンデッドのレシピで、モルト2,グレーン8でブレンドを作る場合、モルトとグレーン、どちらを輸入してどちらを自前で作ったほうが良いかと言われれば、輸送コスト、製造効率からグレーンということになります。
そこで富士御殿場蒸溜所は、シーグラム社のノウハウを活かしグレーンスピリッツを造りつつ、その後はバーボン系のヘビーなものから、カナディアンやスコッチグレーンのライトなもの、その中間点と、日本でも珍しいグレーンの造り分けを可能とする生産拠点として力を入れていくことになります。
また、モルト原酒に関しては、当時のしっかりと骨格のあるモルティーなスコッチタイプの原酒とは異なる(あるいはそれを邪魔しない)、ライトでクリーンなものが作られるようになっていきます。
つまり、シーグラム社と共に、日本市場にウイスキーを展開するにあたって必要だと考えられた原酒を自社で生み出す過程で、富士御殿場蒸留所の方向性は「クリーン&エステリー」となり。
それが現代に至る中で洗練され、今後は国際展開を狙う上で知名度があり、仕込み水や熟成環境で恩恵を受ける富士山の美しく壮大な外観と掛けて「ビューティフルなウイスキー」となっていったのです。

サントリーやニッカに代表される、多くの国内蒸留所でモルトが先に来るところ。キリンのウイスキーは独立した一つの蒸留所としてウイスキーを作り始めたのではなく、グループの一員として、商品開発をする上で必要なモノを補う形でウイスキーを作り始めた、立ち位置の違いがあった蒸溜所創業初期。
しかし2000年代にはウイスキー冬の時代があり、シーグラムグループも影響力を失い、キリン独自のブランド確立が求められて以降、苦労されていた時期もありました。
ですが同社の強み、ルーツであるグレーン原酒の作り分けを活かしつつ、大陸に咲く4本の薔薇関連も活用して富士山麓ブランドでファンを増やし。近年では「富士シングルグレーンウイスキー」に代表されるアメリカ、カナダ、スコッチという各種グレーンウイスキーの良いとこどりとも言える、自社原酒だけでのハウススタイルを確立。
またそれをベースとし、クリーンなモルトと掛け合わせて、「富士シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー」が誕生し、キリン・ディスティラリーはジャパニーズウイスキーメーカーとして大きな一歩を踏み出したのです。
今回のリリースは、富士シングルグレーンと比較すると、熟成感は同等程度ですが原酒はミディアム、ライト系の比率が増えたのか、モルトの分ヘビータイプグレーンの比率が減ったのか、あっさりと、よりクリーンにまとめられており、一見すると面白みのないウイスキーと言えます。
特に開封直後は香味がドライで、広がりが弱いとも感じており、コンセプトの「味わいまで美しい」をこのように解釈されたのか、または一般的に流通の多いブレンデッドというジャンルに引っ張られすぎてないかと疑問にも感じました。
しかしこうして考察してみると、歴史的背景からも、蒸留所の培ってきた技術からも、そして狙う市場とユーザー層からも、これが富士御殿場蒸留所を体現するスタンダードリリースとして、最適解の一つではと思えてくるのです。
以上、中の人に聞いた話も含めてつれつれと書いてきましたが、1本のウイスキーからここまであれこれ考えるのはオタクの所業。しかし間口が広く、奥が深いのは嗜好品として良い商品の証拠でもあります。
キリン・ディスティラリー社は本リリースを軸に、国内のみならず中国、オーストラリアを含めた海外展開を大きく強化する計画であり。これまで今ひとつブームの波に乗れていなかった感のあるキリンが大きな飛躍をとげる。富士シリーズはそのキーアイテムとして、同社のルーツという点から見ても、これ以上ないリリースだと言える。。。
そんなことを酔った頭で考えつつ、キリがないので今日はこの辺で筆をおくことにします。

以下、余談。
富士シングルブレンデッドは、モルトウイスキーとグレーンウイスキーを用いるブレンデッドでありながら、裏ラベルには国内製造(グレーンウイスキー)の表記があり、モルトウイスキーが使われてないのでは?実はグレーンウイスキーなのでは?等、異なる読み方が出来てしまいます。
実はこれ、改正された表示法(ジャパニーズウイスキーの基準ではない)の関係で、一番多いモノだけ表記すれば良いことになっており、モルトウイスキーはブレンドされてますが、表記されていないだけなのです。
ビール含む、酒類全般を見て改正された表示法なので、ウイスキーに全て合致しないことはわかりますが、なんとも紛らわしい。。。


コメント
コメント一覧 (2)
ジャパニーズとは?
日本で蒸溜したウイスキーだけ?
シングルとは?
一つの蒸溜所で蒸溜したウイスキーだけ?
一つだけの蒸溜所で蒸溜した国産ウイスキーだけを使ったブレンデッドウイスキーってことでしょうか?
ご理解の通りですね。
単一蒸留所で、モルトもグレーンも蒸留し、その原酒のみでブレンドしたのがシングルブレンデッドです。
シングルブレンデッドはスコッチでも普通にある表記区分ですが、数がめちゃくちゃ少ないです。おそらく現在の市場にあるのは、富士を除けばロッホローモンドくらいです。
紛らわしいというより、単に馴染みがないだけかなと思います。
ただし、富士の場合は、裏ラベルが紛らわしかったですね。その理由と整理は別途記事にさせていただいた通りです。