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全国にBARチェーンを展開する”お酒の美術館”から、同社初となるプライベートボトル、ブレンデッドウイスキー祥瑞(しょうずい)発刻(はっこく)が、各200本限定でリリースされます。
ウイスキー原酒の提供、製造は長濱蒸溜所。ブレンダーはくりりんが務めさせて頂きました。
※いつものように、趣味の活動の一環としての協力であり、売り上げや監修料といった報酬は一切受け取っておりません。

どちらのウイスキーも、長濱蒸溜所のモルト原酒、同社が輸入したスコッチグレーン、スコッチモルトを用いたブレンデッドウイスキー。
祥瑞は入門向けのブレンドであり、軽やかでフルーティーな、わかりやすさを重視した味わい。
発刻は愛好家向けのレシピであり、どっしりとスモーキーでシェリー樽原酒の効いた濃厚かつ複雑な味わいが、それぞれ特徴となっています。

また、祥瑞は47%に加水調整して飲みやすさを重視し、ウイスキーに馴染みのない方でもロックやハイボールで気軽に楽しんで貰う確信とをイメージして、価格もその分控えめに。
一方で発刻は加水調整をしていない、58%とハイプルーフ仕様のブレンド。シェリー系でヘビーピートという愛好家が好む、ちょっと尖った仕上がりをイメージしてブレンドしました。

ラベルやブランド名についてはお酒の美術館側で作成されており、私は一切タッチしていませんが、ラベルには源氏物語絵巻が用いられ、日本的な雰囲気と共に複数枚で1つとなる構想が。祥瑞は吉兆を、発刻は始まりを意味する単語であり、お酒の美術館のPBシリーズがこれから始まる、その行く先が明るいものであることを期待したネーミングとなっています。

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企画が動き出したのは昨年末。。。そうなんです、動き出してから半年経ってないんです(笑)。自分も大概ですが、この会社のスピード感ヤバいですね。
制作にあたり「1本は入門向けで、1本は愛好家向け、価格は同店の提供価格帯から外れないもの」という指定は受けていました。そして「後はくりりんさんに任せます」とも。
いち愛好家にすぎない自分を信頼頂いた、とても光栄な申し出ではあるのですが、酒美常連として変なものは作れませんし、責任も重大です。

だってコロナ明けで昔のように気軽に夜出歩くようになった時、自分のブレンドがいつまでも減らずに残っていたらと思うと…ぞっとします。
ただ今回、原酒を提供いただくのは長濱蒸溜所です。勝手知ったるとは言いませんが、これまでPBで何度もお世話になっているので、企画の進め方や原酒の個性を掴みやすいのは有り難かったです。(長濱蒸溜所からも、自分の起用を推薦してくださったとも聞いています。)

ということで、連絡を頂いてから速攻で伊藤社長&屋久ブレンダーに連絡をとり、コンセプトに自分のイメージを加えて原酒のピックアップを依頼。
ここも早かったですね、1週間程度でモルト、グレーン、10種類の原酒が揃う長濱蒸溜所のスピード感。入門向けで3種、愛好家向けで3種、計6種のレシピを作成し、屋久ブレンダーとも相談しながら、加水やレシピの微調整を実施。
最終的にどれをリリースするか、そもそも企画を進めるかは、お酒の美術館にお任せしました。

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(今回のブレンドの原酒候補。ここにもう一つ加わって10種類のモルト・グレーンウイスキーからレシピの模索を行った。)

結果、選ばれたレシピのキーモルトとなっていたのが、どちらも写真右側の1本、ラインナップの中で異彩を放つ濃厚なシェリー樽熟成原酒(長濱蒸留モルト)です。
また左側にある色の薄いモルトウイスキーは、リフィル系の樽構成ながらフルーティーでモルティーな味わいが魅力的。ここに20年熟成のグレーンウイスキーを加えて、祥瑞と発刻の主要構成原酒となっています。

この3種の原酒だけなら2つのレシピの香味はそう変わらないところ、ここがブレンドの面白さです。
これらをベースとして、長濱蒸溜所のヘビーピート原酒や、熟成輸入原酒など、他に使用した原酒の比率や個性で、味わい、熟成感、全く違うスタイルにが仕上がったのは記載の通り。軽やかでフルーティーな祥瑞、リッチでピーティーな発刻。是非、飲み比べもしていただけたら嬉しいです。

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THE SHOZUI 
BLENDED WHISKY 
“Sherry & Fruity”
Malt 90 : Grain 10
Blender Kuririn
Bottled by Nagahama Distillery
700ml 47%


乾いた麦芽香にケミカルなフルーツ。洋梨、シトラス、パイン飴。軽やかなフルーティーさが香味の主体で、奥にはホームパイのような香ばしいモルティーな甘さも感じられる。
余韻は軽いスパイシーさとメローな甘み、染み込むようなフィニッシュ。
飲み方はなんでも。個人的にはスターターな1杯。ハイボールで気軽に飲んでほしい。

hakkoku
THE HAKKOKU
BLENDED WHISKY
“Sherry & Peaty” 
Malt 90 : Grain 10
Blender Kuririn
Bottled by Nagahama Distillery
700ml 58%


燻製チップ、ベーコン、BBQソースを思わせる、スモーキーで香ばしく甘いアロマと、ピーティーでリッチなシェリー感を伴う口当たり。ドライプルーンや濃くいれた麦茶、奥にはエステリーな要素もほのかに混じる。
余韻はスパイシーでビター。どっしりとしたスモーキーフレーバーが長く続く。
飲み方はストレートか少量加水で。

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記事のまとめとして、お酒の美術館の近況について。
同BARはリサイクル業等いくつかのビジネスを行っていた、株式会社のぶちゃんマンが運営する事業の一つです。
同社はバブル期や第一次洋酒ブームで輸入されたウイスキー、つまりリユースのオールドボトルを使ったBAR事業に注目し、2017年に京都に1号店(三条烏丸本店)を開店。その後2018年には神田店を、さらには日本各地にフランチャイズ店を展開し、2022年4月1日には銀座店(写真上)も出店されています。

1コインから手軽にウイスキーが飲めるというコンセプトや、駅地下商店街、コンビニ等と提携し、独自の経営システムを構築することで、現在は日本全国で約40店舗と、とてつもないスピードで成長を続けています。
その独自システムの1例がフード提供です。同BARは大半の店舗で「持ち込み自由」であり、中には3月に開店した関内マリナード店のように、近隣飲食店のメニューが置かれて注文が取れる店舗や、「ファミチキ専用ハイボール」なんてメニューがある店舗まで。
下町の個人経営の飲食店とかだとたまに見るシステムですが、全国チェーンでってのは珍しいですよね。

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一方で、急拡大するお酒の美術館には、スタッフのバーマンとしてのスキルが未熟であるとか、オールドボトルの状態良し悪しの見分けがつかないとか、人材的な問題点を指摘する声もあります。
勿論同社として研修は行っているようですが、ただでさえ人材の乏しい業界で、これだけの急拡大。速成教育の弊害というか、既存のオーセンティックBARに比べたら、いわゆる安かろう悪かろうに見えてのことだと思います。

ですが、中にはしっかりとしたスキルを持たれている方も居ます。元神田店の店長で、現在銀座店でカウンターに立つ上野さんはその代表。ウイスキーの状態判断はもちろん、カクテルも銀座にあって恥ずかしくないレベルのものを提供されています。

じゃあその上野さんも神田店開店の3年前はどうだったかというと、同BARの強みであるオールドボトルの知識は走りながら学ばれてきたというのが嘘偽りないところだと思います。現在は銀座店でワインやシャンパンも多く扱うようになったので「勉強しないと…。」と悩まれていましたが、これもすぐに立ち上がるんじゃないでしょうか。
他の店舗でも、20歳ちょっとで入ってきた若手が、1年後には範囲こそ限定的ながらバリバリにオールドブレンドを語れるくらいに成長していたり。同店から別なBARに転職し、その知識を使って看板的な立ち位置を掴んでる人も。
無茶振りってのもある程度までは有効で、環境は人を育てるんだなと感じます。

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お酒の美術館は気軽にお酒を楽しめる分、足りないものはお客が補うくらいでちょうどいいと、私は考えています。
そしてお客がもたらす知識や情報を、現場のスタッフが吸収して、気がつけばお店として独自の空気、スタイル、魅力を身に纏っている。お店としては開店時点でタネが植えられているような状態で、何がどう育つかは環境次第という、そんなイメージがあります。

その意味で、今回リリースされたお酒の美術館初のオリジナルウイスキー「祥瑞」と「発刻」は、経験こそあれどアマチュアであるお客の1人にブレンドを任せるというのが、お酒の美術館らしい企画と言えるのかもしれません。
であれば、私もこのウイスキーのブレンダーとして、皆様からいろいろ意見・感想を伺いたい。そして、お酒の美術館だけでなく、あるかもしれない次の企画に向けて、実績の一つとしたい。
そう、気がつけば今年は既にT&T TOYAMAのTHE LAST PIECEとで、4種類のブレンドに関わっているんですよね。愛好家兼フリーのブレンダー、新しいじゃないですか(笑)。

改めまして、貴重な機会を頂き感謝の念に耐えません。このリリースが、お酒の美術館にとっても、私にとっても、吉兆であり、将来に向けて動き出す後押しとなることを祈念して、本記事の結びとします。