カテゴリ:
hida_distillery_m

2022年3月25日、クラウドファンディングの立ち上げと共に、廃校を活用したウイスキー蒸留計画を本格的に始動させた岐阜県、舩坂酒造・飛騨高山蒸溜所。
クラウドファンディングは1日経たずに目標金額を達成し、約1週間で2000万円以上を集めなお支援が集まり続けている状況。そんな中、蒸留所予定地である旧高根小学校で、蒸留所のロゴの発表とプロジェクトチームメンバーによる記者会見が行われ、更に話題となっています。

※記者会見の様子はこちら(Youtube Live配信のアーカイブ)
https://www.youtube.com/watch?v=_Geu9vUb4SM

記者会見にはプロジェクトメンバーに加え、高山市長、旧高根小学校の校長先生ら学校関係者も参加されており、特に校長先生の気持ちがこもったお話は、LIVEで聞いていて思わず込み上げてくるものがありました。
会見の様子は上記URL先でアーカイブを視聴することが出来ますので、本記事で興味を持たれた方は是非ご参照ください。




■蒸留所のロゴについて
蒸留所のロゴは、東京オリンピック・パラリンピック2020のロゴを作成した野老朝雄氏が手掛け、注目を集めました。
ロゴデザインは、飛騨の”飛”をベースに、地元や世界との繋がりをイメージされたとのこと。また、将棋の駒である飛車としての意味もあり、縦横に動く駒による”繋がり”、勢いのある様や、将来的には竜と成って世界に羽ばたいてほしい、そんな意味も込められているそうです。

蒸留所のロゴはまさに蒸留所の顔です。
しっかりとコンセプトを込めて作る必要があるのはわかりますが、それにしてもすごい人に依頼したなと思ったのは私だけではないと思います。
有巣社長曰く、「たまたま知り合いだった」とのことですが、後述するプロジェクトメンバーにしても、はいよろしくと組める人達ではありません。それだけ、このプロジェクトが時間をかけて組成され、綿密な計画の元で動いていることがわかります。

hidatakayama_logo_tokoro
hida_distillery_logo2


■飛騨高山蒸溜所プロジェクトメンバー


・プロジェクト実行者:有巣弘城(舩坂酒造)

・ロゴデザイン担当:野老朝雄

・製造顧問:鬼頭英明(元富士御殿場蒸留所チーフブレンダー、現五島つばき蒸溜所)

・総合アドバイザー:稲垣貴彦(若鶴酒造、三郎丸蒸留所)

・海外及びデジタル戦略(EC):中山雄介(元Amazon、楽天、現合同会社オープンゲートCEO)

・蒸溜所設計兼クリエイティブディレクター:平本知樹(株式会社woo 代表、空間デザイン専門家)

・販売兼マーケティングアドバイザー:下野孔明(T&T TOYAMA、モルトヤマ)

・蒸溜器製造:老子祥平(老子製作所)

※製造スタッフは、有巣さんを中心とした舩坂酒造のメンバーが担当します。

hidatakayama_member


いやぁ、どうですかこれ。
経験者や人材の限られたウイスキー業界において、ここまでスペシャリストを集めた立ち上げは前例がないと思います。
また、ここに記載されていない協力者も複数あります。地元の繋がりで言えば、例えばクラウドファンディングで木桶発酵槽のネーミングライツを購入した某地元企業など、更に広がります。その期待は、クラファンのリターンで実績のある三郎丸原酒のカスクオーナーより、まだ設備もない飛騨高山蒸溜所のほうに応募が集まったことからも明らかです。

ウイスキーは製造にかかるノウハウがある程度公開されており、外注した設備の導入が行われれば原酒を造ることは出来る状況にあります(勿論その出来の良し悪しはありますが)。しかし問題はそこから先で、それを管理し、ブレンドし、製品として国内外に販売していかなければなりません。

おそらく今後、多くのクラフト蒸留所で製造→販売→消費に至るまでの間にある”死の谷”を越えられるかが課題になってくるわけですが、それは現時点で事業化計画としてどれだけ明確なプランを打ち出せているか。具体的な体制が作れているかが重要になります。
その点、飛騨高山蒸溜所の体制は他のクラフトに比べて強力過ぎて、記者会見を見なければ現実味が無いとも思えてしまうほどです。改めて、有巣社長の人脈というか、繋がりの強さを感じた記者会見となりました。

arisu_distillery_m

記者会見中は関連する質問が無く、どのようなウイスキーを目指すのかという点が深堀りされませんでした。個人的に伺ったところ、ZEMONの特徴を活かした、ふくよかでフルーティーなウイスキーを造っていきたいとのこと。
また、自分自身の力だけでなく、地元やプロジェクトメンバーの力を合わせて、飛騨高山から世界へ発信していけるようなウイスキーを造れればと、語られていたのが印象的でした。

飛騨高山蒸溜所は、その強力な体制に反して将来的に目指すウイスキーのビジョンが、他のクラフト蒸留所に比べると控えめなのかもしれません。例えば、三郎丸蒸留所のようにアードベッグ1974を目指すとか、厚岸蒸溜所のアイラモルト、あるいは嘉之助蒸留所の焼酎樽を用いた独自の個性とかですね。

ですが蒸留所予定地となっている旧高根小学校周辺の緑豊かな土地と、豊富で綺麗な水、秘境という言葉がしっくりくる場所は、熟成環境としても適しているように感じます。
何より、舩坂酒造の醸造に関する技術に加え、製造、ブレンド、販売において実績のある方々が加わったこの蒸留所が造るウイスキーは、間違いないだろうと確信すら覚えます。
じっくり焦らず、ウイスキーが熟成するのを待つように、この蒸留所が稼働し、原酒が生み出され、それと共にブランドが育っていくのも一つの形なのかなと思えてきます。

takane_school

hida_takane_school
※飛騨高山蒸溜所のクラウドファンディングが発表された3月25日は、15年前に旧高根小学校が閉校した翌日だった。止まっていた時間が動き出す、その一助となれたことがとても誇らしい。


■クラウドファンディングのネクストゴール
以上のように、蒸留所としての体制を発表した飛騨高山蒸溜所ですが、合わせてクラウドファンディングにおけるネクストゴール(3500万円で達成)を発表されています。
それが、同校庭(蒸溜所敷地内)に、桜並木を復活させるというものです。

※飛騨高山蒸溜所 クラウドファンディングページ
https://www.makuake.com/project/whisky-hida/

蒸留所となる旧高根小学校敷地内にはかつては多くの桜が植えられており、春になると満開の桜が子供たちを迎えていたそうです。現在その桜は学校前にかかる橋の建て替え工事に伴って無くなってしまっており、資料として写真が残されているのみ。これをもう一度復活させたいという、なんともクラファンらしい取り組みが計画されています。

takane_school_sakura

そんなのウイスキーと関係ないやん、と思われるかもしれませんが、飛騨高山蒸溜所ではウイスキーの蒸留だけでなく、校庭を活用したキャンプやアウトドア等、蒸留所そのものを体験型として、ウイスキーだけでなく飛騨高山の環境を楽しむことをコンセプトに設定しています。
流石にキャンプをする夏に桜の花はありませんが、同地域で桜が咲く5月頃に、花と新緑を愛でながら蒸溜所で熟成したウイスキーを1杯なんて最高ですよね。

なにより、同蒸留所のウイスキー事業は地域に活力を与えること、地域のプライドとなるブランドを創出することを目標としています。であるならば、その第一歩として、失われた桜の木が再びこの地に復活するというのは、心情的にも後押しとなる取り組みだと感じます。

現在の支援額は約3100万円(当記事公開時)。その主たるリターンの1つとして当初予定していた一口カスクオーナー制度は、応募が殺到したことで追加に追加を重ね、第3弾にまでなりました。
有巣社長に伺ったところ、もうこれ以上の追加はないそうです。
地元の期待を背にして、愛好家の期待にも後押しされ、動き出す飛騨高山蒸溜所のウイスキー事業。一応援者として、そしてクラウドファンディングの支援者として、その想いが形になる日が待ち遠しいです。


distillery_school
※蒸留所となる旧高根小学校に残されている、当時の生徒たちによるお別れの落書き。これらは改修工事においては保護し、蒸留所となった後も残していくとのこと。

hida_distillery_water
※蒸留所の裏手、山から流れ出ている伏流水。高山市内を流れる清流も美しく、この豊かな水を使ってウイスキー造りは行われる。

takayama_river
IMG_7073
funasaka
※高山の街並みと飛騨高山蒸溜所を創業する舩坂酒造。こちらは高山市内にあり、アクセスも良い。歴史を感じさせる外観、有巣社長の手により様々な商品開発や見学設備が整えられており、蒸留所見学と合わせて訪れたい。

IMG_7254
※ 舩坂酒造の代表的な銘柄である大吟醸 四ツ星
綺麗で洗練された品の良い香り。白色系果実の華やかさ、穏やかな酸。軽く程よい粘性が舌にからみ、雑味の無い旨みを感じるすっきりとした余韻。造り手自信の一本という評価も納得。

IMG_7169
※舩坂酒造、飛騨高山蒸溜所を操業するアリスグループは、高山市内に2軒の旅館を経営している。本陣平野屋花兆庵、本陣平野屋別館。どちらも気持ちのこもったおもてなしが素晴らしいと評判。蒸溜所見学の際は合わせて利用してみては。