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SABUROMARU Ⅰ 
THE MAGICAN 
Aged 3 years 
Distilled 2018 
Bottled 2021 
Cask type Bourbon Barrel 
One of 3000 bottles 
700ml 48% 

評価:★★★★★★(6)

香り:穏やかだがどっしりとして存在感のあるスモーキーさ。乾草、野焼き、焚火の後のような、どこか田舎的でなつかしさを感じる燻した麦芽のピートスモーク。奥には柑橘、微かに青菜の漬物を思わせる酸もある。

味:程よくオイリーでピーティー、しっかりとスモーキーフレーバーが広がる。香ばしい麦芽風味、微かな土っぽさ。バーボン樽由来の甘みや柑橘を思わせる甘酸っぱさがアクセントになっている。
余韻はピーティーでビター、湧き立つスモークが鼻腔に抜けていく。

香味とも少々水っぽさがあり、複雑さのある仕上がりではないが、元々の重みのある酒質と若い原酒であることが由来して一つ一つのフレーバーに輪郭があり、鼻腔、口内に長く滞留する。カスクストレングスリリースのものと比べると、奔放さも荒々しさもなりをひそめて穏やかに仕上がっており、こちらは万人向けの仕上がり。新世代の三郎丸蒸留所の個性を知る上では入門編と言える1本。

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(三郎丸 THE MAGICIANのカスクストレングス(CS)エディション。稲垣マネージャーが初号機は暴走していますと、リリースに当たり意味深なコメントをしていましたが、このCS仕様は確かにパワフルで三郎丸らしさが暴走気味。将来性を見るなら削りしろが残ったCSを。現時点での味わいを楽しむなら加水のほうがバランスがとれている。)

そう言えばレビューしていなかったシングルモルト三郎丸I。
昨年11月にリリースされて今更感凄いですが、このまま放置したらⅡが出ちゃいそうなので、このタイミングでネタにしちゃいましょう。2018年蒸留原酒をベースにしたTHE SUNも先日レビューしたところですし、2022年の仕込みはなにやら新しい動きもあるようなので。

さて、まずこのリリースですが、既に多くの方がご存じの通り、2018年の三郎丸蒸留所はマッシュタンを自家製のものから三宅製作所製に変更。粉砕比率を4.5:4.5:1から2:7:1に変更すると共に、旧世代の設備からの脱却として大きな一歩を踏み出した年にあたります。
その効果、酒質の変化は劇的で、当時の驚きと将来への確信は、今から約4年前のブログ記事では「素晴らしい可能性を秘めた原酒が産まれており、一部の愛好家が持っていたであろう若鶴酒造への評価を、改める時が来たと言っても過言ではありません。」としてまとめています。

当時記事:若鶴酒造 三郎丸蒸留所 ニューポット 2018 CF結果追跡その2
https://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1073202772.html

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その当時の原酒がどのように変化してきたか、こうしてリアルタイムで進化を見ることが出来るのは今を生きる我々の特権であり、クラフトウイスキーを追う楽しみでもあります。
自分の息子の成長を見るような、推しのローカルアイドルがメジャーになっていく過程を見るような。。。ちょうど小さい子供が居るというのもあるのでしょうか、そんな心境で見ている自分が居たり。

で、実際飲んだ印象は、まずニューメイクにあった三郎丸のらしさと言えるピートフレーバー、柑橘系の甘酸っぱさ等は良い感じでバーボン樽由来のフレーバーと馴染んできてますね。
通常の熟成環境は比較的温暖というのもあって樽感は強めで、これだと5〜7年くらいでピークに当たりそうな感じですが、未熟感が目立つ酒質ではないので問題無さそう。
また、2020年に完成した第二熟成庫は屋根散水での温度管理を、2022年完成のT&T TOYAMA 井波熟成庫はCLTや断熱シャッターを用いるなどしてさらに優れた温度、湿度の特性があり、今後はさらなる長期熟成も可能になっています。

一方で、2017と2018の原酒の違いは、オフフレーバーの量が少なくなっていることと、ピートがしっかりと主張するようになっていることが挙げられます。
勿論、ポットスチルを入れ替えた2019年以降に比べたら、まだこの時代はオフフレーバーが多く、特に2018年の最初の仕込みのほうは仕込みの関係で2017年の余留液を引き継いでいることから、旧世代の残滓が強めに残ってもいます。その辺りの原酒は、このリリースにも使われているのでしょう。針葉樹のような青菜の漬物のような、オイリーさの中に独特な個性が感じられます。

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(T&T TOYAMA THE LAST PIECEのリリースで使用した、2018年原酒2種。片方は仕込み前半、片方は後半。前半は癖が強くオイリーで、後半はドライ寄りでピートが強く主張する。明らかに酒質が異なっている。)

それでも2017に比べたら格段に酒質が向上しており、中でも今まではぼやけていたピートフレーバーに芯が通り、骨格のはっきりとした主張をするようになったことが傾向として挙げられます。

それは熟成を経た後も変わらず、樽香の乗りが良く、三郎丸らしいヘビーな酒質はそのままに、どっしりとスモーキーで個性の強い味わいを形成しているだけでなく、2018年蒸留のほうが骨格の強い酒質になっていることもあって、さらなる熟成の余地を感じさせる点もポイントです。3年熟成リリースはあくまで始まりであって、今後にも期待できる。
ああ、これはきっと、某バスケットボール漫画の安西先生の心境なのかもしれません。見ているかラ○…お前を越える逸材が富山に居るのだ…。


余談ですが、そんな逸材三郎丸は、設備のアップデート、ポットスチルの開発、木桶の導入、アイラピートの調達やスーパーヘビーピート原酒の仕込みと、毎年毎年、何かしら新しい取り組みを行なってきました。
毎年夏に行われる三郎丸の仕込み。2022年は一体どんな取り組みが行われているかというと…、世界的な物流の混乱からピーテッド麦芽の輸入が前期の仕込みに間に合わず。国産麦芽を使った仕込みで、蒸留を開始したのだそうです。

国産麦芽で勘の良い人はピンとくるかもしれませんが、そうこれはノンピートなのです。三郎丸及び若鶴酒造の歴史において、公式には初めてノンピート麦芽による仕込みが行われている、アブノーマルな状況(稲垣マネージャー曰く)が、きせずしてこの2022年の取り組みとなっています。
なんとも言い難い話ではありますが、個人的にはノンピートの三郎丸は非常に興味があります。3年後のリリースだけでなく、それこそノンピートの飛騨高山とのブレンド、飲み比べも面白そう。
取り急ぎ、ニューメイクを飲むのも今から楽しみです。