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kiyosato_field_ballet_32nd

Ichiro's Malt 
(Chihibu Distillery) 
Single Mlalt Japanese Whisky 
Kiyosato Field Ballet 
32nd Anniversary 
700ml 58% 

評価:★★★★★★(6)

香り:黒砂糖やオランジェットの甘い香り、紹興酒を思わせる香ばしさ。奥には赤系のドライフルーツ、微かに針葉樹のようなハーバルなニュアンスも伴う。徐々にベリーやオレンジ、ドライフルーツのアロマが強く感じられる、多彩な樽香が複雑に絡む重厚的なアロマ。

味:リッチでボリューミー。シェリー樽やワイン樽を思わせる色濃い甘さが、奥からオーキーな華やかさを伴って広がる。続いてビターなウッディネス、微かに椎茸やアーモンド、酒精強化ワインの要素。余韻は口内のパチパチとした刺激を伴い、長く綺麗に纏まっている。

第32回フィールドバレエの演目であった「眠れる森の美女」をテーマとして、秩父蒸溜所のモルト原酒をブレンドしたシングルモルトウイスキー。女性的な要素を表現するためにポートワイン樽の原酒が使われ、バーボン樽原酒のフルーティーさ、華やかさをベースに、香味の随所で特徴的な要素が感じられる。
引き出しの多いウイスキーで、初見では香味の認識や表現を難しく感じてしまうかもしれない。大きめのグラスで空間を使って開かせると複雑で芳醇に。少量加水でベリー系の果実感が眠りから目覚め、好ましい要素を引き出すことが出来る。

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毎年夏に開催される、バレエの野外公演“清里フィールドバレエ”。
2014年の定常公演25周年からリリースが続く、清里フィールドバレエ記念ボトルの最新作。基本的には萌木の村のBAR Perchで提供されていますが、3/1に一般向けにも発売されて、即完売となったようです。
Twitterのほうで昨年12月にレビューを投稿しておりましたが、発売を受けてブログの方でも詳しくまとめていきたいと思います。

リリースの系譜は、
25thが白州メインのピュアモルト。
26th〜29thが羽生と川崎メインのブレンデッド。
30thが白州シングルモルト30年。
31thと32ndは秩父のシングルモルト。
イチローズモルトとサントリーからそれぞれ記念ボトルがリリースされてきましたが、長期熟成原酒で構成されてきた30周年までのリリースと異なり、31thからは秩父蒸留所の原酒がメインとなって、リリースの傾向が変わった印象を受けます。

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それは単にシングルカスクでリリースするのではなく、複数樽バッティングのシングルモルトとして31th、32ndともそれぞれ軸になる原酒があり、演目のストーリーに合わせて香味を作るブレンダーの狙いを紐解いていく面白さもあります。
例えば第31回の演目は白鳥の湖。同演目のテーマは光と闇。これは7年熟成の秩父モルトのバッティング。光をイメージするオーキーでフルーティーな原酒に、闇のパートは色濃くピーティーに仕上がったチビ樽原酒を用いて表現されていました。

そして2021年の夏に公演された第32回清里フィールドバレエの演目は「眠れる森の美女」。
前作に続いて、難しいオーダーです。ブレンドに使われた原酒は7樽から、バーボン、シェリー、ワイン…様々な香味要素がある中で、酒質は前作とは異なりノンピートがメインで、うち女性的な香味をポートワイン樽で表現されているのだと思います。ただ、これは狙って造られたのか、自分の考えすぎかはわかりませんが、このウイスキーはテイスティングで触れたように紐解くのに時間と工夫が要る、ちょっと難しさを感じるものです。

それはトップノートにある重く霞がかかったような、シェリーや紹興酒を思わせるアロマ。果実味、華やかさ、ウッディな要素、好ましいと感じる香味要素の上に”それ”があることで、少し近づきがたい印象を受けてしまいます。
もちろん、そのままテイスティングしてマズいとか、そういう類のものではないのですが…。演目に倣って表現するなら、王女を眠りから覚ますには、王子様の口づけが必要なのだと。

ここで王子の口づけに該当するのが、少量の加水、そして大ぶりなグラスです。
色々試しましたが、この組み合わせが一番全ての要素を引き立ててくれました。グラスに注ぎ、スワリングすることで、城を覆う暗い木々と茨の森とも言える上述の重たい霞が晴れていき、奥から好ましい要素が湧き上がってきます。
そして少量加水。100年の呪いが解ける変化と言うには大げさですが、先に触れたシェリーや紹興酒を思わせるアロマが逆転し、グラスの中で芳醇で複雑なアロマを形成していくのです。

勿論この演目は様々なストーリーパターンがあるように、今回の自分のレビュー(解釈)がすべて正しいわけではありません。
ただ、良いウイスキーであればこそ、一つの視点で見るのではなく、時間をかけて、あれこれ考察しながら様々な飲み方を試してみる。これぞ嗜好品の楽しみ方です。
今回も萌木の村の舩木村長からテイスティングの機会を頂きましたが、じっくりテイスティングさせて頂いたことで、贅沢な時間を過ごすことが出来ました。

素敵なプレゼントをありがとうございました。
一昨年、昨年と伺えておりませんが、今年こそ清里に伺いたいですね。
改めまして、御礼申し上げます。


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余談:大ぶりなグラスについて
今回のテイスティングでは、いつもの木村硝子のテイスティンググラス以外に、ガブリエルグラスを使っています。
「すべての酒類の魅力をこのグラス1つで引き出せる」というのがこのグラスのウリ。ホンマかいなと、赤、白、日本酒、ウイスキー、ブランデーと色々使ってみましたが、確かにそれぞれの香りの構成要素をしっかり引き出して、鼻孔に届けてくれる気がします。口当たりも良いですね。

ただ、構成要素を引き出すのはそうなんですが、良いところも悪いところも誤魔化さずに引き出してくるので、例えば若い原酒主体で繋がりの粗いブレンドとかだと、思いっきりばらけてしまいます。
先日、とある企画で試作したレシピの1つは見事に空中分解しました(笑)。
今回のようにテイスティングツールの1つとして、ウイスキーの良さを違う角度から引き出すだけでなく。例えばブレンドの試作をした後、その仕上がりを確認する際にも活用できそうです。