カテゴリ:
dalwhinnie_tasting

DALWHINNIE 
Highland Single Malt 
Aged 15 years 
700ml 43% 

評価:★★★★★★(6)

香り:華やかなオーク香と蜂蜜のアロマ。合わせて麦芽の白い部分、籾殻、すりおろした林檎を思わせる品の良いフルーティーさが柑橘系のアクセントと共に感じられる。

味:口当たりは柔らかくオイリーで厚みのある味わい。香り同様にオーキーな含み香と麦芽風味、蜂蜜を思わせる甘みが主体となって広がる。余韻は微かにピーティーでウッディなほろ苦さ。軽い刺激を伴いつつ、ジワリと染み込むように長く続く。

軽やかなオーク香とワクシーな麦芽風味が主体。飲み方はハイボールでも悪くないが、ワイングラスに氷を入れてステアする、フレグランススタイルで飲むことで個性が一層引き立つ。まさにハイランドモルトの代表的キャラクターの一つ。
また、オールドボトルと比較して樽感の華やかさは現行寄りと言えるが、香味のベクトルに大きな変化が見られない点も、ダルウィニー蒸溜所の特徴であり、ハウススタイルであると言える。

dalwhinnie_lock

個人的に、現在販売されているシングルモルトの中で、ハイランドモルトらしい個性を知りたいと問われたらお勧めするのがこの1本。
愛好家御用達の隠れた〜〜なんて表現をするなら、間違いなくダルウィニー15年を候補に挙げます。
昨年更新した酒育の会 Liqulの記事でも、同様のテーマでダルウィニーを紹介したところです。

Re-オフィシャルスタンダードテイスティング Vol,14 ダルウィニー15年
https://liqul.com/entry/5853


蒸溜所については上記Liqulの記事で紹介したため、ここでは別な視点からダルウィニーの個性を紹介していきます。
スコッチモルトにおいては、ハイランド、スペイサイド、ローランド、アイラと、地域毎に産地が括られ、その地域による個性も度々話題にもなります。
実際、各蒸留所のシングルモルトを飲むと、そうした違いが見えてくることは間違いなく、特にアイラモルトはアイラ島産のピートがもたらす強烈な個性が、その立ち位置を明確なものとしています。

一方でハイランドやスペイサイドのように広大で、漠然とした地域の違いはというと、これは解釈が分かれますが、地域の違いというよりも蒸溜所毎のハウススタイルの偏りという点で、認識されているケースが多いと感じています。
そして、地域毎の個性の違いに繋がる要因は何かというと、一つは熟成に影響を与える気候、もう一つはピートや麦芽、水質など、その地域から産出する原料にあったのではないかと考えています。

“あったのではないか”と過去形なのは、現在は麦芽もピートも地産地消の時代ではないこと。物流網の発達と効率化の観点から、様々な地域のものが集約され、一部は海外から輸入され、特別指定しない限りはモルトスターから統一的に供給されていること。
熟成環境も、大手ブランドのものは効率化の観点から蒸溜所とは異なる地域にある集中熟成庫で熟成されることが多く。
結果、地域毎の違いに繋がっていたであろう要素が、特に現在のハイランド&スペイサイドウイスキーからは姿を消しつつあるためです。

dalwhinnie_old_1980
(左はダルウィニーのオフィシャルボトルファーストリリース。1980年第初頭にリリースされた。原酒には、蒸溜所改修前、フロアモルティングで仕込まれた時代の麦芽が用いられている。現行品とは麦芽風味の厚みや癖の濃淡はあるが、香味の傾向は同じ方向にある。)

ではダルウィニーは地産地消なのかというと、ここも原料は1960年代の改修工事以降モルトスターから提供。熟成庫も、現在は多くの原酒が集中熟成である可能性が非常に高いです。(公式には集中熟成庫での熟成の話はオープンになっていないため、可能性が高い、とします。)
そうなると冒頭のダルウィニーを指して「ハイランドモルトらしい個性を知りたいなら・・・」という表現は、矛盾するように感じるかもしれません。
これは変わらない製法、そして何よりもブレンダーが目指す味の方向性が昔も今も大きく違わないため、多少個性はライトになっているものの、かつてのハイランドモルトらしさが残されているのです。

ここで言うハイランドらしさは、自分の解釈では牧歌的な麦芽風味です。糖化前の原料状態の麦芽を齧ると味わえる、芯の白い部分の甘み。我々に馴染みのあるものに例えると、お粥ですね。白く、優しく、どこか垢抜けない田舎っぽい甘さ。
オールドボトルだとグレンモーレンジ、オーバン、マクダフ…スペイサイドモルトにも同様の個性が見られましたが、近年の蒸留所の多くは線が細くライトで華やかな傾向にシフトした印象を受けます。

どの時代をもって個性とする、らしさとするかはまさに飲み手の解釈次第です。一部のモルトのような手に入らないものを惜しむより、今に目を向けることも大切です。
ただ昔があって今があるという時間の流れの中で、変わらないものを愛でるのもまた、嗜好品の楽しみ方であると思います。
ダルウィニーはいつまでも古くからの愛好家の隠れ家、宿木であってほしいです。