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SABUROMARU 
HAND FILLED 
Single Malt Japanese Whisky 
Aged 3 years 
Distilled 2017 
Bottled 2021 
Cask type Bourbon Barrel #275 
700ml 63% 

評価:★★★★★★(6)

香り:メンソールのように爽やかな刺激のあるアルコールのトップノート。合わせてスモーキーで、徐々に麦芽由来の甘みとバーボンオークのバニラ、グレープフルーツとオレンジ、粘性をイメージする質感の中にハーブ香のアクセント。時間経過で消毒液のようなアロマも混じる。

味:オイリーでコクのあるどっしりとした口当たり。香りに反して度数ほどの強さは感じず、野焼きや焚火の後のスモーキーさを連想させる含み香に、合わせて香り同様の柑橘感とほろ苦さ、バーボンオークのアクセント。余韻はピーティーでビター、ここでアルコールの高さが口内に広がり、ジンジンとした刺激を伴いつつ、長く続く。

蒸留所のハウススタイルの良い部分が強調されつつも、若さゆえ粗削りな面もある。まさに原石のウイスキー。少量加水するとアルコール感がやわらぎ、スモーキーさ、麦芽由来の甘みが感じやすくなる。ヨード系のフレーバーは無いが、もとより”偉大な巨人”を彷彿とさせる質感があったところ。このカスクはバーボン樽由来のフレーバーとオイリーな酒質の組み合わせが、ボウモアを彷彿とさせるキャラクターとしても感じられる。果たしてこの原石は磨かれていくことでどのような輝きを放つだろうか。

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三郎丸蒸留所で、来場者向けに販売されていた限定品。2017年の仕込みの原酒の中で、一番の出来と言われている1樽です。
ハンドフィルは別名バリンチとも言われ、来場者がビジターセンターで樽からボトルに直詰めして購入するシステムが最大の魅力ですが、日本では酒税法の関係から、そのシステムを導入している蒸留所はほとんどありません。
このリリースも既にボトリングされた状態で販売されているため、日によって熟成が進んで味が違う、と言うものではありませんが、基本的には蒸留所に行かなければ購入できない、まさに三郎丸蒸留所ファンのためのアイテムとなっています。※一部は同社酒販サイトALCで限定販売されていました。

蒸留所のマネージャーである稲垣さんは、地元とファン(愛好家)との繋がりを大事にしていきたいと常々語られており、イベントの開催等厳しい状況下であっても、ファンのために出来ることを考えて、実行に移しています。
このハンドフィルボトルについても、自身だけでなく某有名ブレンダーから2017年のベストだと評価された原酒を使用したことに、その姿勢が表れていると感じます。

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リリースの前置きというか原酒の位置づけ紹介はこのくらいにして、中身について。どの点が素晴らしい樽だったのかと言うと、2017年の仕込みの原酒にあるネガティブなフレーバーの少なさに加え、三郎丸らしいコクと厚み、ややオイリーさのある味わいが、バーボン樽由来のフルーティーさを伴ってはっきりと感じられるところだと考えています。

2017年仕込みの三郎丸は、マッシュタン等旧時代の設備を引き継いでいるため、酒質にぼやけたところがあり、それがオイリーな質感となって2018年以降に比べて強く感じられる特徴があります。
また、旧時代の設備の影響から、先にリリースされた三郎丸0等では、その質感の中に青っぽさというか、硫黄系のニューポッティーなフレーバーが混じり、良い部分と悪い部分が混ざり合っているのが特徴でもありました。

該当するオフフレーバーは仕込みの調整と、設備の更なるリニューアルによって2018年にはほぼ消えていくことになるのですが、カスクナンバーから推察するに、#275はおそらく2017年の仕込みの最後のほうのロットだったのでしょう。若く、はつらつとした香味構成は3年少々という熟成期間からすれば当たり前で、粗削りな部分は否めないものの、三郎丸の2017年と2018年の間を繋ぐキャラクターとも言える、次の年への期待が高まる1本だと言えます。

なお、個人的に同リリースにはもう一つ惹かれる要素があり、それは昨年リリースさせて頂いたGLEN MUSCLE No,3とNo,5に使われたキーモルト、#274の隣樽でもあったことです。
#274は2.5年でボトリングしたため、一層パワフルな個性に仕上がっていましたが、飲み比べると共通する要素があり、良い原酒を使わせてもらえたんだなと、改めて稲垣さんの心意気に感謝した次第です。
リリースから少し時間が経っており、飲めるところはBAR等飲食店に限られるため、現在の状況では中々飲みに行くのも難しいかもしれませんが、三郎丸ファンは是非テイスティングしてみてください。

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さて、話は次のテーマへ。先日同蒸留所が毎年販売している、1口カスクオーナー制度のオーナー向けの蒸留所見学会が開催されたところ。その場で三郎丸0 "THE FOOL"に続くシングルモルトリリース、三郎丸Ⅰ "THE MAGICIAN"が発表されました。(当方は参加しておりませんが、情報を頂きました。)

三郎丸Ⅰは、2018年仕込みの1st fillバーボン樽熟成原酒のみを使った3年熟成のウイスキー。
スペックとしては、昨年リリースされた三郎丸0と蒸溜年以外は同じということになりますが、三郎丸蒸留所は2017年から2018年にかけて、マッシュタンを三宅製作所にオーダーしたものと交換したことで、酒質にも変化が生じています。
具体的には、旧世代の残滓と言えるオフフレーバーが減り、麦芽風味でぼやけていた部分の骨格がはっきりと、特に柑橘系を思わせる要素とピートフレーバーが際立つようになるなど、その香味に衝撃を受けたのが2018年のニューメイクです。※当ブログレビュー記事はこちら

ゼロからイチへ。ラベルに書かれたカード「MAGICIAN(正位置)」は、新しい一歩を示す意味があるそうです。あえて昨年のリリースと同じスペックにしているのは、蒸留所の進化を感じてほしいから、という狙いが見えてきます。
リリース単体に対して昨年以上の完成度の期待もさることながら、いよいよここから三郎丸蒸留所の新しい世代が始まるのだと、初号機の起動(リリース)が今から楽しみです。
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