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GEGEGE NO KITARO
ORKNEY SINGLE MALT & BLENDED MALT WILLIAMSON 


先日、ウイスキー繋がりの知人Sさんから、このウイスキーを飲んで感想を教えてほしいとリクエストがありました。なんならブログ掲載用にボトルごと貸すからと。コロナもあって最近BARに行けてないので、これは本当にありがたい。二つ返事で了承し、ボトルをお借りしました。

モノは、東映アニメーション音楽出版さんが信濃屋さんの協力でリリースしたウイスキー2本。どちらも蒸留所表記がありませんが、オークニーモルトはハイランドパーク、ウィリアムソンはラフロイグのティースプーンモルトと思われます。
自分は同漫画の作者である、水木しげる氏が長く住まれた東京都調布市に所縁があり、何かと目にする機会も多かったところ。今回のリリースについても情報は知っていましたが、こうしてテイスティングできる機会を頂けるのは、これも縁というヤツかもしれません。

今回、Sさんからは
・蒸留所について、ハウススタイルから見てこのボトルはどう感じるか。
・熟成樽は何か(どちらもHogshead 表記だが、フレーバーが大きく異なる)
・ウィリアムソンの”澱”

この3点について、感想を頂きたいとのリクエストを頂いています。
特に”澱”はモノを見るのが一番だと、ボトルごと送って下さったようです。蒸留所については先に触れた通りですが、頂いた質問への回答を踏まえつつ、まずはこれらのリリースをテイスティングしていきます。

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KITARO 
Distilled on Orkney 
”HIGHLAND PARK” 
Aged 15 years 
Ditilled 2004 
Bottled 2020 
Cask type Hogshead "Refill Sherry"
700ml 63% 

香り:淡くシェリー樽由来の香ばしい甘さを伴う、微かにサルファリーな香り立ち。焙煎した麦やコーヒーを思わせる要素、奥に蜂蜜のような甘みと腐葉土の香りがあり、時間経過で馴染んでいく。

味:口当たりはパワフルで樽由来の甘さ、麦芽の香ばしさをしっかりと感じる。香り同様に乾煎りした麦芽、シリアル、シェリー樽に由来するドライオレンジやメープルシロップ、そして徐々にピーティーなフレーバーが存在感を出してくる。余韻はビターでピーティー、微かに樽由来のえぐみ。度数に由来して力強いフィニッシュが長く続く。

借りてきた直後はサルファリーな要素が若干トップノートに出てきていたが、徐々に馴染んで香ばしい甘さへと変わってきている。使われた樽はリフィルシェリーホグスヘッドと思われ、樽に残っているエキスが受け継がれ、濃厚ではないがバランス寄りのシェリー感。ストレートではやや気難しいく、ウッディなえぐみもあるが、加水すると樽由来の甘み、フルーティーさ、そしてピート香が開いてバランスが良くなる。これはストレートではなく加水しながら楽しむべき。
ハイランドパーク蒸留所のハウススタイルは、ピートとシェリー樽の融合。それを構成する原酒の1ピースとして違和感のない1樽。

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NEZUMIOTOKO 
WILLIAMSON "LAPHROAIG" 
Blended Malt Scotch Whisky 
Aged 5 years 
Ditilled 2011 
Botteld 2017 
Cask type Hogshead "Bourbon"
700ml 52.5% 

香り:しっかりとスモーキーで、淡くシトラスやレモングラスのような爽やかな柑橘香に、アイラモルトらしい潮気、海辺を連想させる要素も伴う。

味:短い熟成期間を感じさせない口当たりの柔らかさ、オイリーなコク。ピートフレーバーには乾燥させた魚介を思わせる要素に、バニラや淡くオーキーなフルーティーさ樽由来のオーキーなフレーバーも感じられる。余韻はスモーキーでほろ苦い、ソルティーなフィニッシュが長く続く。

BLENDED MALT表記だが、所謂ティースプーンなので実質的にラフロイグと言える。蒸留所のハウススタイルと、ポテンシャルの高さを感じる1本。若いは若いのだが、若さの中で良い部分がピックアップされており、未熟要素は少なく素直な美味しさがある。加水すると香りはより爽やかに、ラフロイグらしい柑橘感を後押しする淡いオークフレーバーと、薬品を思わせる含み香が開く。ストレート、加水、ハイボール、好きな飲み方で楽しみたい夏向きの酒。

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以上のように鬼太郎はハイランドパークで、樽はシェリーホグスヘッド(恐らくリフィル)。
ねずみ男はラフロイグで、樽はバーボンホグスヘッド。通常、ホグスヘッド表記だとバーボンのほうを指すことが一般的なので、鬼太郎ボトルは珍しい仕様と言えます。

続いて質問事項の一つだった、ねずみ男の”澱”ですが、写真の通り、確かにすごい量が入ってますね。
ウイスキーの澱と言われるものは大きく2種類あり、1つはボトリングをする際、樽の内側が崩れて黒い粉として入り込むケース。通常はフィルタリングするため除外されますが、リリースによってはわざと入れているのではないかというくらい、シェリー樽だろうがバーボン樽だろうが、一定の量が必ず入っているものもあります。

もう1つは、保存環境の寒暖差からウイスキーの成分が固形化したり、樽から溶け出た成分が分離して生じるものです。先の”黒い粉”よりも粒が細かく、ふわふわと舞い上がる埃のような感じになり、例えるならクリームシチューを作っていて分離してしまった乳成分のようなモノ。
今回のリリースは、加水していないのに度数が52%まで下がっています。熟成を経て度数は変動するものですが、一般的なバレルエントリーは約64%で、そこから5年で10%以上低下しているのはかなり早い。樽の内部で何か特殊な変化があったことが予想できます。
また、ボトリング時期が2017年で、2020年のリリースまで約3年間ボトリングされた状態で保管されていたことを考えると、その間に何らかの変化があったとも考えられられます。

飲んだ印象としては、これらの合わせ技によって発生した澱であるように感じますが、灰を被ったようなこの特殊な仕様は、今回のラベルである”ねずみ男”とマッチしている点が興味深いですね。
香味についても、Williamson=ラフロイグと言える個性はもとより、若い原酒ながらフィルタリングをしていないことによる厚みと複雑さ、そしてボトリング後の時間経過によって熟成年数らしからぬ落ち着いた感じもあり、なかなか面白い1本に仕上がっていると思います。

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一方で、鬼太郎のハイランドパークは、先に触れたように珍しいラベルの表記なのですが、仕様としても珍しいと言えます。
それは近年のハイランドパーク蒸溜所はオフィシャルリリースにはシェリー樽を、ボトラーズリリースにはバーボン樽を融通する傾向があると言われているため。バーボン樽熟成のボトラーズリリースはいくつか市場に見られますが、シェリー樽のほうは貴重なのです。(それでいて、63%という樽詰め度数からほとんど下がってない高度数設定も、ボトラーズだからこそと言える珍しい仕様です。)

熟成のベースは、比較的ピート香が強い原酒が用いられたようで、樽由来の甘くビターな香味が強くある中でもしっかり主張してきます。
ハイランドパーク蒸溜所では、オークニー島で採れる麦芽やピート以外に、スコットランド本土のもの、あるいは試験的にですが古代品種の麦芽やアイラ島で採れるピートを使った仕込みも行われているなど、様々なタイプの原酒を仕込んでいる蒸留所です。中でもシェリー樽の甘みとピート由来のスモーキーさは、ハイランドパーク蒸溜所の”らしさ”、ハウススタイルを形成する重要な要素です。

今回のリリースに使われたのはリフィルシェリー・ホグスヘッド樽であると考えられるため、濃厚なシェリー感ではありませんが、近年のオフィシャルリリースに見られる味わいと同様の要素があり、以前何度か飲んだシングルカスクのプライベートボトル(以下、画像参照)に通じる一本だと感じました。

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話は少しそれますが、かつてボトラーズリリースは、オフィシャルリリースと同等の完成度、あるいはそれ以上の美味しさを併せ持つ個性的なウイスキーを、当たり前のようにリリースしていました。
一方、昨今は長期熟成の原酒が枯渇。合わせてシングルモルトがブームになり、オフィシャル各社がブランドを拡充すると、ボトラーズメーカーへ提供する原酒の量が減少し、今まで当たり前だったものが当たり前にリリースされることはなくなりました。
現代のウイスキー市場では、オフィシャルリリースは総合的な完成度と無難な美味しさを、ボトラーズリリースは原酒の個性と面白さを、そこには必ずしも美味しさは両立しないという住み分けになっており、ステージが完全に切り替わっています。

そうした中、ボトラーズ各社や酒販メーカーが今までと異なる視点、価値を持たせたリリースを企画するようになり、今回のような一見するとウイスキーとは関係ない、異なる文化との融合もその一つです。
かつてイタリアのMoon Import社がリリースしていた”美術品シリーズ”に共通点を見出せる発想とも言えますが、今回のボトルは漫画とのコラボという異文化融合ラベルでありながら、バックバーにあっても違和感のないデザインを心がけたとのこと※。確かに、他社からリリースされているコラボ品に比べて、落ち着いた配色、シンプルなデザインとなっています。
※参照:ip-spirits(ウイスキー販売) |

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長々と書いてしまったので、最後にまとめと言うか雑感を。
私をはじめとして愛好家視点では、ゲゲゲの鬼太郎とウイスキー?なんで?と、そういう疑問が先立つところがあるんじゃないかと思います。
鬼太郎達が住んでいる場所が、上の写真のオークニー諸島やアイラ島のような、牧歌的で、それでいて不毛の大地にあるかと言うとちょっと違う気もしますが、スコットランドの蒸留所にはケルピーなどの精霊やゴーストの伝承は数多くあります。
そういう”伝承”など現地のエピソードを絡める発信があると、リリースそのものにも違和感がなくなってくるのかもしれません。あるいは国産蒸留所とのコラボとかですね。付喪神、八百万の神、百鬼夜行、日本ではその手の話題に事欠きませんから。

一方で、中身は先にまとめたように、
ハイランドパークは王道というか、ハウススタイルの1ピースを切り取ったような味わい。
Williamson(ラフロイグ)は蒸溜所のポテンシャルと、ボトラーズリリースらしい面白さ。
ボトルをお借りしたということで、1か月間くらいかけてテイスティングしましたが、ハイランドパークはその間も刻々と瓶内での変化があり、ラフロイグは最初から最後まで安定していました。

ゲゲゲの鬼太郎は漫画として長い歴史を持ち、今なお親しまれる漫画ジャンルのベストセラー。来年は水木しげる氏生誕100周年にあたり、映画も制作中のようで、今回のリリース含めて今後話題になっていきそうです。一方、両蒸留所もまたスコッチモルトの中で長い歴史を持ち、高い人気があるものです。その点を繋がりと考えれば、蒸溜所のチョイスも繋がりが見えてくる…か。
個人的にアニメラベル=色物のような第一印象があったことは否定できませんが、カスクチョイスは信濃屋さんということで、ボトラーズリリース受難の中にあっても、面白いカスクを持ってくるなと、楽しんでテイスティングさせて頂きました。
貴重な機会を頂き、ありがとうございました。ボトルは今度オマケをつけてお返ししますね!

※本記事に使用した「Photo by K67」表記のある写真は、ウイスキー仲間のK67さんが撮影されたものを提供頂きました。サイトはこちら