グレンリベット 12年 イリシットスティル 48% オリジナルストーリーズ

THE GLENLIVET
THE ORICINAL STORIES
"ILLICIT STILL"
12 YEARS OLD
700ml 48%
評価:★★★★★★(5-6)
香り:トップノートはドライでやや硬さのあるオーク香。林檎を思わせる酸、微かに蜂蜜、オークの焦げたニュアンスとウッディさが、モンブランのような甘みとほろ苦さを連想させる。
味:しっかりとコクのある口当たりだが、序盤はウッディで香りに感じた硬さ、若さに通じる酸味。中間から焦げ感の混じるオークフレーバー。余韻にかけて焼き林檎の甘み、ドライでひりつくようなアルコールの刺激、スパイシーなフィニッシュへと続く。
近年のスペイサイドらしい軽やかさに、オークフレーバーに由来する華やかさ、焦げたようなウッディさも残っている。ベースの若さがあって、多少硬くドライに感じる部分はあるが、少量加水すると丸みを帯びてバニラやすりおろし林檎を思わせるような甘みも開いてくる。通常のグレンリベット12年と比較しても、香味成分は明らかに多く、そして強いため飲み応えがありながら48%仕様でバランスも良好。試せてはいないが、この手の硬さのあるモルトは、ハイボールにしても悪くなさそうだ。

ペルノリカールから今年2月にリリースされた”グレンリベット・オリジナルストーリーズ”の第一弾。蒸留所の系譜を紐解くこのシリーズは、同蒸留所にまつわる何かしらのエピソードをテーマとし、それを採用したリリースを行っていくことが計画されているものです。
以前テイクアウトで調達していたサンプルで、家飲みするつもりが時期をはずして今さら的な記事になってしまいましたが、通常の12年との比較テイスティングを交えながらまとめていきます。
今回は、ブランドの原点と言われるスコッチウイスキーの”密造時代”をテーマとしたもの(なぜグレンリベット=密造時代なのかは、あまりにも有名な話すぎるため割愛します)。当時の製法は、現代と比較すると手作りと全自動、厳密にいえば全てにおいて異なっているものですが・・・。工程で見ると冷却濾過(チルフィルタリング)を行っていなかったことから、通常の12年と同じ原酒構成ながらノンチルフィルターかつ48%という高度数で仕上げたものが、”イリシット・スティル”となります。
ただ、ノンチルフィルター仕様は近年のウイスキー市場ではそう珍しいものではありません。グレンリベットのオフィシャル銘柄でも、一部そうした仕様のボトルがないわけではなく、率直に言えばノンチルだけで密造時代をテーマとするのは些か強引と言うか、もう1手”密造時代”に結び付く何かが欲しい気もします。
まあかつて「創業者が理想としたレシピを再現した」と、ホントか?というエピソードで”ファウンダーズリザーブ”をリリースしたグレンリベットからすれば、まだ納得できる仕様かもしれませんが・・・。
とは言え、今回のリリースは純粋にウイスキーの経験としては見るところ、面白さがあります。
ノンチルフィルター仕様でリリースされるウイスキーは、「香味成分が多く残る」、「何かの拍子に濁ったりする」ということが知られている反面、どれくらい違いがあるか明確に実感できる機会はあまりなかったように思います。何せ、シングルカスクでもブレンドでも、同じ原酒構成のリリースでフィルタリングの有無を比較しないと、違いははっきりとわからなかったわけです。
その点で、今回のリリースは現行品の12年と比較することで、違いを理解しやすい点がポイントだと思います。
トップにある香味の傾向は通常のグレンリベット12年と大きく違わないものの、加水によって同じ度数に調整しても、口に含んだ後のオークフレーバーの広がり、中間から余韻にかけての麦感の厚みや香り立ちは明らかに違っているのです。
これは、グレンリベットだけでなく他のシングルモルトブランドのスタンダード品にも見られる特徴で、大量に生産する中でどうしても出てしまう樽毎の品質の違いを補正するための加水やフィルタリングによる影響であり、なるほどこういうことかと体感することが出来るのです。

※同じ種類の樽、熟成年数の原酒を使っても、ロット毎に生じてしまう差を、加水とフィルタリングを経て補正するイメージ図。香味の弱いロットを強くするのではなく、低い基準で合わせる形になってしまう。大手の量産品に見られる傾向で、有名どころではマッカランなどが代表例である。
以上の通り、量産品の仕様との違いを学ぶ上での教材としては面白く。加えて味も悪くない。ボトルデザインも昔のリリースに似せて雰囲気があることから、通常価格なら良いリリースだと思うのですが、調べてみると現在はちょっとプレミアがついて販売されているようです。
このリリースに8000~1万円出すかというと、冷静になっていいかなと思うところ。
グレンリベットは他のオフィシャルスコッチモルトと比較しても、エイジング表記有りのボトルが手ごろな価格で市場に流通しています。それこそ、現在のグレンリベットやスペイサイドモルトの特徴たるフルーティーさの良い部分は、熟成年数が上のほうがわかりやすく。。。例えば、ワンランク上の15年が個人的にオススメです。(同じ12年で選びたい場合は、12年ファーストフィルも候補と言えます)
今回のリリースをきっかけにグレンリベットに興味を持たれた方は、次の1本に如何でしょうか。

コメント
コメント一覧 (2)
GWも健やかにお過ごし頂き、無理なく更新お願いします。
自分が記事を読む理由の1つは、
限られたお金の中で、どのお酒を購入するか?その参考にする為です。(居住地はbarが近所にないので、家のみです。)
今回の記事にあるように、勉強目的として捉えたときに、すぐにでも飲んだほうがが良いのか、ひと呼吸置いてから飲んでも良いのかを知れれば、とても助かります。
限られた時間とお金、そして胃腸も大切にしていく為に、ちょこっとだけでも記事にヒントを入れて頂けますと、長いウイスキーライフとても助かります。(くりりんさんとは、同年代かと想像しております。)
>pinkさん
コメントありがとうございます。
おかげさまで健康的な生活をしております。ただ夜の街に出ていないのに、逆に酒量が増えたようにも。。。私のような人間だと、家飲みはいつでも寝れる状態で飲むので、ついつい飲みすぎてしまいます(汗)
>今回の記事にあるように、勉強目的として捉えたときに、すぐにでも飲んだほうがが良いのか、ひと呼吸置いてから飲んでも良いのかを知れれば、とても助かります。
なるほど、個性を捉えるにはどのタイミングが良いか、あるいはいいと思われるか、という話ですね。
瓶内変化もありますし、確かにそういう視点は書いたり書いてなかったりしますから、意識して考察を盛り込むようにしたいと思います。
ただ、ウイスキーはワインなどの醸造酒と違って、そこまで加速的な変化はありませんから、あまりそれは意識せず、飲みたいと思った時が吉日で良いんじゃないかなとも。
>限られた時間とお金、そして胃腸
仰る通りです。同年代とすると、きっとウイスキーのようなハードリカーはあと5年かそこらがピークで、徐々に飲みにくくなっていくのかなとも感じています。
体に気を付けて、ケアもしながら、計画的に体とお金の資源を使って楽しんでいきたいですね。私もそういう指針になる情報発信ができるよう、発信内容を精査していきます。
今後ともよろしくお願いします。