サントリー ローヤル 43% 2021年流通品

SUNTORY
ROYAL
BLENDED WHISKY
660ml 43%
評価:★★★★★★(5-6)
※ロックでの評価、★6
香り:多少ツンとしたドライな刺激を伴う甘やかなウッディさ。すもも、干し柿、ドライアプリコット。いくつかの果実の穏やかな甘酸っぱさに、シェリーオークのカルメ焼きを思わせる甘くビターなアクセント。じわじわとホワイトオークやミズナラ系の華やかさ、オリエンタルと言われる和的な要素も混じってくる。開封直後は鼻腔への刺激が強い印象だが、時間経過での開きは良好。
味:緩くマイルドな口当たり。香り同様に複層的なウッディネスが含み香で広がり、柑橘やすもものキャンディ、蒸かした穀物、それらを引き締めるウッディな渋みと変化する。余韻は少しピリピリとした刺激から、舌の上に残る適度な重さのあるシェリー樽由来の甘みと、ミズナラ要素を含むオーク香が口内に揺蕩うように残る。
プレーンな原酒でキーモルトの香味を引き延ばす”引き算”ではなく、樽香の”足し算”で造られている多層的な香味構成。最も、比率として多いのは6~8年程度の若い原酒と思われ、10~15年熟成の原酒の要素がトップノートにありつつも、開封直後は樽香に硬さや、多少の刺激も目立つ。しかし時間をかけるとじわじわと硬さがほぐれ、使われた原酒由来の甘やかさ、多彩な樽香のレイヤーを、一つ一つ紐解くことが出来る。
以上のようにストレートでは少し気難しいところがあるため、日常的な飲み方としてはオンザロックをオススメしたい。ピントが合い辛かったウッディさが解け、特にミズナラ系の香味がわかりやすい。冷たく心地よい口当たりから、温度が上がることで一つ一つの個性が穏やかに口内から鼻腔に立ち上っていく変化は、上位ブランドにも通じるところがある。
ジャパニーズウイスキーの魅力とは何か、その答えの1つを味わうことが出来るブレンデッド。休売となった響17年ほどの香味の広がり、重厚さはないが、レプリカとしてなら完成度は充分すぎる。誉め言葉として”プアマンズ響”という言葉を贈りたい。

ここ最近紹介している、デイリー・ジャパニーズウイスキー御三家。1000円台のオールド、2000円台のリザーブ、そして最後は3000円台のローヤルです。
過去2つのレビューでも触れましたが、オールドやリザーブは”安ウイスキー”として見ていた部分があり、ちゃんと飲んでみて、日本人の好みに合わせて計算された美味しさ、真摯な造り、何より価格設定にも唸らされたところです。
一方でローヤルについては、元々美味しいというか、造りの良さは認識しており、侮っていたわけではありませんでした。ただ、改めて現行品を飲んでみると、先の2本とはそもそも作り方というかブレンドの方向性が異なっていることや、ローヤルの魅力・特徴を理解するきっかけともなりました。
味もさることながら、現在の市場価格3000円程度でこれだけのブレンドを量産できるって、日本の他社には真似できないですよ、いやホントに。

(デイリー・ジャパニーズウイスキー御三家。リザーブからはストレートでもイケるが、オールドは濃いめの水割り、リザーブはハイボール、ローヤルはロックがオススメ。)
オールドが山崎のシェリー樽原酒を、リザーブが白州のバーボン樽原酒をそれぞれ軸にして、多少モルトの香味が足されつつも、最終的には若いグレーン原酒で引き算したような香味構成であるのに対し、ローヤルは様々な樽由来の香味を重ねて混ぜ合わせていくような、足し算のブレンデッドであること。そして、軸となる香味の一つには、ジャパニーズウイスキー発のフレーバー”ミズナラ香”が感じられる点が、ローヤルの特徴です。
これは最近休売や生産調整などもあって入手困難となってしまった、響の17年、21年、30年とも共通するコンセプトだと言えます。
酒に限らず、メーカー品にはフラグシップの思想をそのまま活かした廉価版が存在することが度々ありますが、ローヤル現行品はまさにそれ。バーボン樽由来の華やかさ、バニラ香。シェリー樽やワイン樽由来のコクのある甘みとほろ苦さ、和のニュアンスを思わせるミズナラの独特のアロマ・・・。熟成に用いた樽由来のフレーバーが、例えるなら着物の重ね着のように一つの形となっている。サントリーのブレンドであり、ジャパニーズウイスキーの魅力とは何かという問いに対する答えを見ることも出来ます。

(ブレンデッドウイスキー響は、オーケストラをイメージして作られたと言われている。それは様々な音色(原酒)の足し合わせであり、特に17年以上のグレードは熟成した原酒の厚み、多彩さからそれを体現するような構成。先の着物のイメージで言えば、十二単をイメージする艶やかな多層感である。)
一方で、量産品故にコストや原酒貯蔵量との兼ね合いもあるのでしょう。上位グレードほどの香味の広がりがあるわけではありませんし、一部使われている若い原酒の硬さ、刺激が、熟成した原酒の柔らかく甘いウッディさを突き抜けて主張してくる点が、価格なりな部分にあります。
日本は温暖な気候故に、短期間で樽香を原酒に付与することが出来ます。例えば温度の上がりやすい環境として、山崎蒸留所の見学コースにあるような熟成スペースを使うとか。あるいはグレーン原酒を各樽の1st fillとして貯蔵し、長期熟成には使い辛い一番強く出る香味部分をブレンドに活かすとか。。。
ただ、短期間で付与した原酒はどうしてもベースの粗さが取り切れていないため、加水してもピリピリとした香味が残ってしまうし、重厚さも劣ってしまう。ローヤルのトップノートには、そうした要素が感じられるのも事実です。
とはいえ、これらは低価格で美味しいウイスキーを生み出し、安定して供給するための創意工夫でもあります。限られた条件下で可能な限り上等なクオリティを生み出す。まるで料理人が安価な材料でも仕込みと技で優れた逸品を作り出すような、まさにプロの技であると。
レビュー上でもオススメしていますが、現行品ローヤルの引っ掛かりは、時間をかけるか、あるいは日本人に一般的な飲み方であるロックにして飲むと問題なく消えます。それでいて熟成して重厚な味わいとなった原酒とは異なる、いい意味で適度な樽感、くどくない程度に広がる甘やかで多層的な含み香は、日常的に楽しめて飽きの来ない味わいでもあります。

(1989年以前のローヤル。1960年代から70年代のころ(右側)は、モルトの香味をプレーンなアルコールで引き算したような構成になっているが、(左側)の80年代は原酒が確保されたか、ブレンドの方向性が定まったか、現代に通じる多層感、ミズナラ系の香味も感じることが出来る。)
サントリー・ローヤルは、初代マスターブレンダー「鳥居信次郎」が、ブレンダーとして最後に手掛けた、文字通り集大成として位置付けられているウイスキーです。
同氏のブレンドのコンセプトとなっているのが、日本人が美味しいと感じる味わい、現代で言う「ブレンドの黄金比」です。ただおそらく、当時の黄金比と今の黄金比は違うものと考えられます。半世紀以上の時を経て、我々日本人の味覚や趣向は変化しているわけですが、それは当時と現代のウイスキーとで、造りの違いを見ても明らかです。
現行品はわれわれの味覚、飲み方に合わせて、原酒の許す範囲で調整されているのでしょう。より華やかで、多彩で、それでいて繊細さも失わない・・・ですが、コンセプトは変わっていない。ローヤルをはじめ、これまで紹介してきた”御三家”は、その点がちょうどいいのです。
文字通り肩ひじ張らず、晩酌で、ちょっとした飲み会の席で、その場に合わせた自然な酔いを提供してくれる美味しさ。多くのウイスキーを飲み、モルトウイスキーに慣れた愛好家にとっても、逆に「そうそう、こういうので良いんだよ」と自然体で楽しめる味わい。創業者の想いが時代を超えて息づいているようにも感じられるのです。
コメント
コメント一覧 (18)
NAローヤルは空港のラウンジでしか飲んだことありませんね…。2017年頃は原酒不足のあおりを受けて香り、味ともにマズかった記憶があります。1年後には香りは多少マシになりましたが味はまだまだでした。
なので購入選択肢からは100%外れていたのですがコロナ渦で飛行機に乗ることが出来ないしで試しに購入もありでしょうか?
そういえば昔、660mlのトールボトルは度数が40%だったような記憶がありますがUPされた写真は43%です。いつの間に変わった??
>荻窪彰さん
コメントありがとうございます。
ここ数年はちょっとドライだったかなと思いますが、久々に飲んでびっくりしました。こうなると響も変わっているかどうか気になりますが、今やNASも高嶺の花になってしまい、なかなか試せません(笑)。
おっしゃる通り、ローヤルは昔スリムボトルと酉ボトルで度数と味が違っていましたが、いつからかはわかりませんが最近はどちらも43%で同じものに統一されています。
なお、うちの近所のカクヤスにはスリムしか売ってないので、自分が買うのは必然的にスリムになります。価格はほとんど変わらず、スリムのほうがスクリューキャップで響と同じものが使われているので、使いやすさもスリムのほうが上だったりします。
参考になります。
>虎さん
ありがとうございます!
今後もそういって頂けるように、頑張っていきます!
昨今ではSNSやフリマアプリその他さまざまな要因で、生活の傍らにあるウイスキーから、趣向品ないしは投機的な匂い、我先にというような雰囲気が漂うようになっています。高くても4、5千円未満で自宅でほっときがるに飲めるウイスキーの存在は大切であり、その価格と品質を維持するために努力するメーカーだって十分「クラフト」だと思う今日この頃です。
>M.Oさん
ありがとうございます。おっしゃる通り、昨今はジャパニーズ=ウイスキーというよりも、何か違うものに見えている方々も増えてきたのではないかと感じています。
それは決して悪いことばかりではないのですが、そうして殺伐とした雰囲気は、時代が変わってしまったというか、これがブームかなというか。。。
そんな中でもこうしてちゃんとジャパニーズらしさを感じられて、競争にならず購入できる銘柄は貴重ですね。また、こうしたリリース安定のための準備をブーム前からしっかりと進めてきたサントリーを、改めてすごいと感じました。
>ウイスキー初心者さん
コメントありがとうございます。
私の父も体を壊しているので今は飲めませんが、自慢の父というほど立派であったかはさておき、父と一緒にお酒を飲む時間は特別なものだったと感じています。
ローヤルは飲みやすいだけでなく、ウイスキーを学んだ後に飲んでも気づきのある奥深さまで備える、実に良い酒だと思います。こういうお酒も含めて、長く楽しんでいきたいですね!
たしかに、以前より美味くなってるわ。廉価版響12年みたいな印象。
以前のなら買わんけど、これなら中々美味いもんやね。ロックで薄まったちょうどいい時に、すももの甘やかな味わいを瑞々しさとともに感じられる。
>松本さん
賛同コメント、ありがとうございます!そう言って頂けて私も嬉しいですが、何よりもすごいのはこのブレンドを作っているサントリーさんですね。
正直、原酒の量でいえば昔のほうが潤沢で、1990年代~2000年代のローヤルも美味しいのですが、全体のバランスは現行品のほうが取れているように感じています。ブレンドに関する職人の技を感じますね。
おっしゃるように、ロックで飲んでいると瑞々しいフルーティーさがあって、すいすい飲めて消費量がヤバイです(笑)
買って10日で1本空きました。
私は、響ブレンダーズチョイスは美味しいと思いますが、響ジャパニーズハーモニーは美味しいとは、どうしても思えません。複雑さがなく、平坦。加水すると崩れてネガティブな部分が顔を出す。その点、ブレンダーズチョイスは何をやっても美味しいです。ただし、響17年と較べると霞んでしまいますが。
くりりんさんの記事は情報量は然ること乍ら、読んでいて居心地がよくホッとするものがあります。
これからも更新楽しみにしていますm(_ _)m
(余談:コルクのジョニウォカスウィングはちゃんとホットタオルで湿らせてから開けないとダメデスヨネ
>黒にんにく信者さん
ご無沙汰しています。こちらこそいつもありがとうございます。
いやほんと、JHがアレなもんで、その1ランク下となるローヤルも、リザーブも、もっとアレなんじゃないかって思ってたんですが、改めて飲んでみてびっくりしました。
こうなると最新ロットのJHも気になってますが、値上がりがすごいのなんのって・・・。
日比谷BARとか行くと適正価格で飲めるんですが、あそこはたばこの香りが充満していることが多いので、テイスティングにあまり向かないんですよね(汗)。機会が巡ってくるのを待ちたいと思います。
>余談
その通りですw
あえてたくさんコメントのあるこちらに。
全てを読めているわけではないですが、
以前のブログよりずっと読ませて頂いてます。
家族で60年以上飲食店を経営しており、
洋酒に深く関わる立場にいるため、
貴方さまの記事をとても楽しみにしております。
いくつものこういったブログやSNSを
時間がある時に拝見しておりますが、
浮気しても(失礼!w)結局
くりりんさんのブログに戻ってくるわけです笑。
プロ顔負けの情報量と正確さ(←ここ大事)に加え、
上手に私感を交えながら
メーカーさんなどを決して貶めない(←超大事!)
愛に溢れた記事の構成、
いつも本当に感心しております。
最近ではYouTubeで
ながーく頑張られておられる
洋酒がお得意な配信者さまでも
メーカーさんや同業者なんかに対しても
少々批判めいたことや、
過ぎた本音をポロッと言われちゃうお姿を見て
(大手の配信者になると変わっちゃうのかな)、
とてもガックリ来ているので。。。
こう言ってはなんですが、
くりりんさんにはこれからも変わらず
この和む雰囲気と愛溢れるスタンスで
ブログを無理なく続けて頂けると嬉しいです。
まずは新型ウイルスが落ち着くことを願って。
どうか引き続きご自愛下さいませ。
>あおいさん
いつも、そして長きにわたり当方の配信をご愛顧頂き、本当にありがとうございます!
昔のブログ記事は結構攻撃的というか、まだ何も見えていない中で好き勝手配信していたところもあるので、ある程度目をつぶって頂ければと思いますが・・・(汗)。
自分の話で申し訳ありませんが、現在のブログを書くにあたっては
・好みと良い悪いの判断とは分けて考える。好みでない=悪とは決めつけない。
・ どうしても言いたいことがあれば行間に含ませて書く、ダイレクトには言わない(笑)。
・メーカーPR文面のコピペは行わない(必ずしも正しいとは限らない)。疑問に思う点は可能な限り調べ、考察する。私感を適度に交えることこそ、ブログ記事の面白さを生み出す。
ということを考えて活動しています。なので、コメント頂いたように感じ取って頂けて本当に嬉しいですね。
youtubeはほとんど見ないので配信者さんの状況はわからないのですが、情報的にあまり得るものが無かったり、メーカーや安酒貶し系の配信を行っている方が目に付いたりで、自分とは違うジャンルだなと感じています。
例えるなら、自分は新聞や専門誌のライターで、彼らはTVのワイドショーやエンタメ番組と言う感じ。コンテンツとしてはどちらも社会から求められていて、どちらが正しいとは思いませんが・・・両者は相容れないものと思ってます。
60年以上続く家族経営の飲食店・・・きっと地元の方々に愛されるような老舗なんでしょうね。実家が料理屋だったので、自分の経験から雰囲気をイメージしてしまいます。
ですが、このコロナ禍にあっては私以上に苦労されていることと思います。
そんな中でコメントを頂き、本当にありがとうございました。自分は今後も無理せず更新を続けていきますので、あおいさんも無事コロナ禍を乗り越えられて、平穏な時間が戻ってくることを祈っております!
こちらこそ
ご丁寧にありがとうございます!
家族の想いが背中に乗っているので笑、
またお客さまと戯れられる日を夢見て
歯ァ食いしばりたいと思います。
その例えは痛快ですね…
YouTubeで、
業界内でも行き届きにくい貴重な情報が
無料で得られるスゴい時代になりました。
これがまたエンタメなのに、
しっかり正しい情報は提供されており、
その中にファンの方が
誤解して解釈してしまいそうな
あいまいな私見が、
アーカイブで残らない生放送中に
混じるのが何ともタチが悪いのです…。
万を超えるファンがおられる
配信者さまには
自身が発信する影響力について
今一度考えて頂きたいものです…。
くりりんさんのテイスティングは
非常に参考になります。
今オフィシャルもマイナーチェンジが
多発しておりますので、
(最近だとベンリアックも良さげ)
是非また色々レビューして頂きたいです!
厚かましいお願いで恐縮ですが、
引き続き宜しくお願い致しますm(_ _)m
次は「サントリーリザーブ10年」のノーマルの評価をして頂きたいです。
お願いします。
素敵なレビューをありがとうございました、読んでて飲みたくなってきます