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SABUROMARU DISITILLERY 
ZEMON NEW POT 2020
Heavily Peated 52PPM 
Islay Peated 45PPM 
200ml 60% 

評価:無し(3年熟成未満のため)

ヘビリーピーテッド(52PPM):ボトル左
香り立ちはクリア。ニューポット香はあるが嫌味に感じるレベルではなく穏やか。甘みを帯びた麦芽香、微かに柑橘や皮つきパイナップル。ピート香は穏やかなスモーキーさから、徐々に焦げたようなニュアンスが開き、強く感じられる。
一方で、香りであまり目立たなかったピートフレーバーは、味わいでは序盤から広がる。コクと厚みのある麦芽風味と乳酸系の酸味。余韻はスモーキーで焚火の後の焦げた木材、土っぽさ。ほろ苦いピートフレーバーが長く続く。

アイラピーテッド(45PPM):ボトル右
はっきりと柑橘系の要素を伴うフレッシュな香り立ち。クリアでフルーティーな麦芽香に、微かな未熟要素。奥には強く主張しないが存在感のあるピートが香りの層を作っている。
味わいも同様に序盤は甘酸っぱくコクのある口当たりから、じわじわとほろ苦く香ばしい麦芽風味、ピートフレーバーが広がってくる。全体的に繋がりのある味わいで、余韻にかけてはピーティーでスモーキーだが焦げ感は控えめ、穏やかな塩気が舌の上に残る。

どちらの銘柄も未熟香は少なく、味わいも柔らかくコクがある。度数も60%を感じさせず、目をつぶって飲んだら若いモルトとは思うだろうが、ニューポットとは確信をもって答えられないかもしれない。それくらい新酒が本来持つだろう未熟要素、オフフレーバーが少なく、一方で原料や仕込み由来のフレーバーが双方ともしっかりと備わっている。

飲み比べると、内陸ピートで仕込まれたヘビリーピーテッドは、麦芽風味とピートがそれぞれ主張し合う構成。アイラピーテッドは、はっきりと柑橘系の要素にピートフレーバーが溶け込み、全体を繋ぐような一体感のある構成となっている。また、ピートフレーバーの違いも、前者には木材が焦げたようなスモーキーさが強く感じられるが、後者は焦げ感よりも煙的な要素が主体となって塩気も伴う。仕込みの時期の差もあるだろうが、香味の違いが興味深い。
2016年以前の姿を知っている人が飲めば、あの三郎丸の原酒なのかと驚愕することだろう。これらの原酒が熟成した姿、特にバーボン樽での数年後が楽しみで仕方ない。

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富山県、若鶴酒造の操業する三郎丸蒸留所が2020年の仕込みで造った、2種類のニューポット。
三郎丸蒸留所の酒質が2017年のリニューアルから大幅に改善し、特にマッシュタンを入れ替えた2018年からの伸びは、この蒸留所の過去を知っている愛好家は認識を改める時がきたと、以前ブログ記事にもさせて頂いたところです。

その後、以下の画像のように2019年にはポットスチルを入れ替え、世界発の鋳造ポットスチルであるZEMONが稼働。2020年には発酵槽の一つに木桶を導入。2019年の仕込みは、ポットスチルをはじめ蒸留設備の変更ということで調整に苦労されたようですが、2020年はそのノウハウを活かし、木桶による乳酸発酵と合わさって一層クリアでフルーティーさのあるニューメイクが生み出されています。

三郎丸蒸留所アップデート2018ー2020
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※1:2018年に導入された三宅製作所製のマッシュタン。従来に比べ、ピート香がさらに引き立つようになった。
※2:2019年に開発・導入された、鋳造製ポットスチルZEMON。従来のスチルに比べて様々に良い効果が期待できる。
※3:2020年に導入された木桶発酵槽。複数のタンクで発酵されたものを、最終的にこの木桶で乳酸発酵する。
※4:2020年から使用することとなった、アイラ島のピート。現在、国内でアイラピートを使った仕込みは他に例がない。


また、同じく2020年にはアイラ島で産出するピートで仕込んだ麦芽の使用を開始したことが、三郎丸蒸留所における大きな転換点ともなりました。
現在、日本に輸入されるピーテッド麦芽に使われているピートは、全てスコットランド内陸産のものであり、アイラ島で産出するピートを使った仕込みは行わせていません。背景には大手スコッチメーカーがアイラ島産出のピートをほぼ全て押さえてしまっていることがあり、アイラモルトブームでありながら、アイラピートを使った仕込みが出来ないというジレンマが日本のウイスキーメーカーにありました。

ピートフレーバーは、使われたピートの産地によって微妙に異なることが、近年愛好家間でも知られてきています。植物の根などが多く混じる内陸系のピート、海藻などが海の要素が多く混じるアイラ島のピート。前者は燻製のような、あるいは焦げたようなスモーキーさ、後者はアイラモルト特有とも言われるヨードや薬品的な要素、また海辺を連想させる塩気や磯っぽさをウイスキーに付与すると考えられます。

三郎丸蒸留所は、年間の仕込みの量が大手に比べて遥かに少ないことから、アイラピート麦芽を必要分確保することが出来たのだそうです。今後、2021年以降は全ての仕込みがアイラピート麦芽に切り替わり、原酒を蒸留していくと計画されていることから、まさに蒸留所の転換点となったのがこの2020年の仕込みであり、ニューポットであるのです。

ご参考:三郎丸蒸留所における各年度の取り組みについては、以下Liqulの対談記事に詳しくまとめられています。


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昨年11月、三郎丸蒸留所からは3年熟成のシングルモルト”THE FOOL”がリリースされ、50PPMという強いピーティーさ、リニューアル前の酒質からの大きな変化、厚みのあるヘビーな味わいに、驚かされ将来に期待を抱いた愛好家も少なくなかったのではないかと思います。
しかし、歴代のニューメイクを飲んでいくと、その驚きは序章でしかないと感じるはずです。上記画像※1~※4にあるとおり、設備や材料のアップデートとノウハウの蓄積により、それぞれの年に2017年の蒸留を上回る原酒が誕生しているのです。

特にリニューアル後の集大成とも言える、2020年仕込みのニューメイクが成長した姿は確信をもって間違いないと言えるものです。
綺麗なニューメイクを作る蒸留所は多くありますが、これだけ麦芽由来のコクや厚みがあり、現時点から未熟要素の少ないニューメイクなら、日本の熟成環境で強く付与される樽感を受けとめて短期で仕上がるでしょうし。また、空調を効かせた冷温貯蔵庫もあることで、20年を超える長期間の熟成という選択肢もあります。

大手蒸留所は、その生産規模から小規模な仕込み、試験的な蒸留は行い辛いものがあります。例えば、不定期に少量しか手に入らないボデガ産のシェリーの古樽よりも、シーズニングで安定して大量に供給される疑似シェリー樽のほうが需要があるという話からも、その傾向が見えてくると思います。

故に、小回りの利くクラフトでは三郎丸蒸留所のような独自の個性をもった蒸留所や原酒が生まれてくる楽しみがあり。2020年仕込みで新たに登場したアイラピーテッドもその一つです。
日本初となるこの原酒がどのように成長していくか。リアルタイムで見ていくことが出来る幸運を噛みしめつつ、本レビューの結びとします。

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※以下、余談:ジャパニーズウイスキーの基準に対する三郎丸蒸留所からのメッセージについて
先日、日本洋酒酒造組合からジャパニーズウイスキーの基準となる、表示に関する自主基準が発表されました。
当ブログでも前回の記事で基準を紹介し、期待できる効果と懸念事項を解説させて頂いたところです。また、同基準に対していくつかのウイスキーメーカーからは賛同の声明が発表され、あるいはWEBサイトの商品説明が切り替わる等、業界としても動きが見られます。

その中で、大きな注目を集めたのが、若鶴酒造・三郎丸蒸留所が発表した声明「ジャパニーズウイスキーの基準に対する三郎丸蒸留所の方針と提案」です。同社の発表は愛好家を中心にシェア・リツイートされ、今後基準を運用していく上での重要な示唆であるとする意見が多く寄せられています。



内容をざっくりまとめると、
・若鶴酒造、三郎丸蒸留所は同基準を遵守する。
・しかし今後日本のウイスキー産業には、国産モルト原酒の多様性と、グレーン原酒の確保という課題が生じる。
・国産グレーン原酒を国内のウイスキーメーカーに提供する仕組みの確立を後押ししていただきたい。
・国産モルト原酒の多様性については、三郎丸蒸留所は他の蒸留所との原酒交換に応じる準備があり、今後積極的に推進していきたい。
と言うものです。

自分の記事とも概ね同じ意見ですが、実際のウイスキー製造現場サイドからの声として、エピソードを交えて説明されたそれは、より説得力のあるものであったと感じます。
また、原酒の多様性確保に関し、国産グレーン原酒の懸念はクラフト1社だけではどうにもならないことですが、逆にクラフト側からの提案として「原酒の交換」が発表されたのは、重要な意思表明だと感じています。

日本のクラフト蒸留所は、小規模ながら大手とは異なる様々な個性の原酒が存在します。
三郎丸蒸留所については本記事でも紹介しているので割愛しますが、
厚岸蒸留所の、精緻な仕込みに北海道産麦芽がもたらすフルーティーな原酒。
安積蒸留所の、スコッチモルトを彷彿とさせるようなピーテッド原酒。
静岡蒸溜所の、軽井沢スチルと薪加熱方式というこれまでにない取り組みが生み出す原酒。
長濱蒸溜所の、麦芽の甘みと香ばしさが活かされた柔らかい味わいの原酒。
嘉之助蒸留所の、クリアで早期に仕上がる南国環境を彷彿とさせる原酒・・・。
個人的にぱっと思い浮かべるだけで、これだけ個性的なモルトがあります。

また、今や第二蒸留所まで稼働し世界規模のブランドととなった秩父は勿論。スペイサイド的な酒質を彷彿とさせるスタイルでリリースが楽しみな遊佐、樽や熟成環境に様々な工夫を凝らす信州、津貫。古参ながら苦戦していた江井ヶ島も設備をリニューアルして酒質が向上したという話も聞きます。1つ1つ紹介していくとキリがありません。
これらの原酒が交わり、ジャパニーズブレンデッドとしてリリースされる。まさに日本だからこそ実現できるブランドであり、夢のある、美味しさだけでなくワクワクするプランだと思います。


とはいえ、この手の話は”言うは易し”というヤツで、法律的な面も絡むことが懸念事項です。
なんだって前例のないことをするのはパワーがいるものですが、荒唐無稽な提案ではありません。例えば相互に等価設定で同量の原酒を樽で取引しあうような対応なら・・・。原酒交換が1件でも行われ、ノウハウが開示されれば後に続く蒸留所も増えてくるのではないかと思います。
また、今までは交換した原酒をどのように使われるのか等の不安もあり得たところ。整備された基準が、様々な意味で後押しになるのではないかとも感じます。

今回、声明を発表された若鶴酒造の稲垣マネージャーは、33歳と若いクラフトマンです。ですが蒸留所を見ても、本記事で説明したとおり老朽化した蒸留所を改修し、新しい技術を導入し、素晴らしい原酒を生み出すまで導いた行動力があります。
ならば、この提案もきっと早期に実現されるのではないかと思います。今後、三郎丸蒸留所から生み出される原酒だけでなく、発表された提案の実現に向けた動きについても、注目していきたいです。