アードモア 10年 2009-2019 アニマルコレクション EXラフロイグカスク 56.7%

ARDMORE
Animal Collection
For BAR LEMON HEART
Aged 10 years
Distilled 2009
Bottled 2019
Cask type Bourbon Barrel
Ex-Laphroaig Cask Finish
700ml 56.7%
グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:不明
場所:自宅@サンプル
評価:★★★★★★(6)
香り:焦げた木材や乾燥した植物、そして甘いヨードと消毒香が混じる、パワフルでスモーキーなアロマ。序盤はラフロイグカスク由来のアイラ要素、燻したような麦芽香があるが、時間経過でツンとした刺激、ドライな要素も目立つ。
味:オイリーでとろりとした口当たり。パチパチと舌の上をハイプルーフと若い原酒由来の刺激があり、ピーティーなフレーバーが支配的に広がる。基本的には焦げた木材、焚き木のようなスモーキーさ、ナッツや麦芽ビスケットの香ばしさ。そこに香り同様薬品香、磯の香りが混じる。余韻はほろ苦くピーティーで、若干の根菜っぽさ。ひりつくような刺激を残して長く残る。
やや粗い口当たりではあるが、バーボン樽由来の甘み、そして内陸系のピーティーなフレーバーとフィニッシュに使われたラフロイグカスクの影響による若干のアイラ要素が前面にあり、若さは気にならない。特にトップノートではアイラモルト(特にカリラのような)と一瞬見まごうが、注意深く探っていくと、完全に交じり合っていないフレーバーの乖離もある。さながら海辺の焚火といったところか。加水すると全体が馴染むような変化があるので、ハイボール等も期待できる。

BARレモンハートで知られる、ファミリー企画がリリースするプライベートボトルの1つ。アニマルシリーズ。
アードモアはスコットランド内陸蒸留所では数少ない、ピーティーな原酒を軸に仕込む蒸溜所。オフィシャルを飲んだことがない、と言う方は、アードモアがキーモルトとして使われている、1000円ウイスキーのティーチャーズを手に取っていただけると、そのスモーキーさを体感できると思います。
アードモアのスモーキーフレーバーの特徴は、内陸産のピートを炊いていることに関連します。
アイラモルト=ピートの印象から、ピートとヨードはセットというイメージが先行しがちですが、ピートの種類によってウイスキーが持つ香味は異なります。
アードモアは、焦げ感、焚き火、干し草、土っぽさといった、内陸のピート香由来のスモーキーさが主体。消毒薬っぽい要素は若干混じる程度であり、ボトラーズリリース等でアイラモルトの代用品として使われることがしばしばありつつも、なにか違う、という差分はここに影響しています。
一方で、一般的に人気が(知名度が)あるのは、アイラピートのスモーキーさです。
じゃあアードモアに限らず、アイラピートも仕込めば良いじゃないかと考えてしまうわけですが、以前聞いた話では、アイラ島のピート産出地は大手メーカーが押さえており、ピーテッドモルトが手に入らない、という状況もあるのだとか。(もちろん、ブレンドとして要求されるフレーバーが内陸ピート仕様である、という関係もあるでしょう。)
この点に関連してか、昨今需要が高まっているのがアイラカスクです。樽に染み込んだピート香で、原酒を味付けしてしまおうというわけですね。
特にラフロイグ蒸留所のクォーターカスクはボトラーズ、クラフト蒸留所含めて人気で、蒸留所側もそれを意識しているのか、この樽を使っている某蒸留所のスタッフによると、「昔はそこまでピーティーな香りはしなかったけど、最近入ってくるクォーターカスクは、むせかえるほどピート香がする」のだとか。
原酒の払い出し後、洗ってから出荷していたけど洗わなくなったか、輸送時の樽の保湿用(という建前で)にラフロイグ原酒を少量残しているとか、変化があるのかもしれません。

(アイラ島で採掘されているピート。日本では三郎丸蒸溜所が2020年度の仕込みから少量活用している。)

(アイラ島蒸溜所のクオーターカスク。バーボンバレルよりも細い形状をしている。)
何れにせよ、樽に染み込んでいるピート香の正体はラフロイグであるわけですから、今回のリリースは正確にはアードモアとラフロイグのブレンデッドモルトとも言えます。
実際、テイスティングのとおり、香味にはラフロイグを思わせる要素が混じり、アードモアの原酒には感じられないアイラピートの要素、とろりとした甘さ・・・遠目に見た感じはアイラモルトと見違える味わい。注意深く飲んでいくと、若いアードモアのアタックの強さや、焦げたようなピート香があり、それらの個性が若干解離するようにも感じられますが、可能性を感じるリリースですね。
同様の原酒に対して、フィニッシュ期間を長くするか。。。あるいは加水すると一体感が出るので、例えば樽内で熟成しながら段階的に加水するコニャックの手法を採用するのも面白そう。少量リリースだからこそ実現する、ボトラーズモルトらしさのある1本だと思います。

以下、雑談。
3日前の晩飯も思い出せない自分としては、1か月以上前の出来事がはるか昔のように思える今日この頃。あれは確か10月頃のこと、BARレモンハートのRさんからサンプルを送らせて頂きましたとメッセージがありました。
テイスターとしてのお仕事!なんてものではなく、ファミリー企画さんが4月の緊急事態宣言の際に実施した、BARへの料金前払いチケットサービス(10月末で受付終了)。自分が購入していたチケットの有効期限が切れてしまうので、その分を還元してくださる、ということのようでした。
料金前払いサービスだけでも、手間のかかる取り組みだったと思いますが、この心遣い。ホンマ徳の高いお方やで・・・
妻子持ちの自分は、コロナ禍で中々夜の街に脚を運べず、緊急事態宣言以降一度も顔を出せていないお店は多数あります。レモンハートもその一つとなっていました。
一方で、市場には数多くのリリースがあり、BARに行けない、飲めない、元々近年のリリースラッシュに置いてきぼりだったところが、ますますついていけなくなるの悪循環・・・。
ああ、BARが身近にない環境っていうのは、こういうことなのかと。コメントなどで見られる地方在住の愛好家の苦悩を、身に染みて感じました。
故に、この心遣いは本当にありがたかったですね。
オフィシャルリリースで充分、なんてコメントをしてしまいがちですが、デイリーウイスキーをさらに美味しくするのは、こういう非日常のPBリリースがもたらす、味の変化だと思うのです。
BARで飲んだつもりで、気が向いたときにサンプルを頂きながらレビューをまとめていきたいと思います。
お心遣い、ありがとうございました!!
コメント
コメント一覧 (7)
最初はあっさりした印象でしたが、徐々に香り・味とも甘くフルーティになり、素人でもわかるくらいの変化で驚きました。
度数が高いウイスキーは変わりやすいのでしょうか。
ビッグピートのカスクストレングスも同時期に開けたのですが、最初苦味が目立ってたのが、どんどん甘くまろやかになり、こんなに変わるものかしらと、ちょっと感動しました。
ただ、このようなカスクストレングスばかり買えないため、安価だけど日常で飲んでホッとするようなウイスキーないかしら?と探してます。
くりりんさんのおすすめなどあれば教えていただきたいです。
実は、グレンドロナック12年(2019年2月ロット)が実質3500円だったので二本買ってしまい…
自分にしてはボトル開けすぎなため、バレンタインまで待とうと温存中ですが、マッカランの記事が頭をよぎり…
グレンドロナックもそうなのでは?と飲んだこともないクセに、気弱になってます。
くりりんさんは、加水のOBはあまり飲まれないかもしれませんが、最近のグレンドロナック12年はどのような印象お持ちでしょうか?
エドラダワー10年が一回り値上がりしてて、躊躇してしまったのが悔やまれます。コスパばかり意識してはダメですね…
コメントありがとうございます。(遅レスで大変申し訳ございません。)
・グレンギリ―スモールバッチ
これはまた今となっては珍しいボトルですね。
仰る通り、ウイスキーは開封後変化するものですが、度数が高いものは良い変化をするものが多いように思います。度数が高いものほど香味成分が良く溶け込む一方で、経年でアルコールが落ち着く中で、香味の抜け方は同じ速度ではないかかもしれません。逆に度数が低い40%の加水品等は抜けてペラペラになってしまうことが多いようにも感じます。
こうした変化を楽しむのも、ボトルを所有する楽しさでもありますね。
>安価で日常使いに出来るボトル
ホッとするようなウイスキー。というと、自分の好みは43~46%くらいの加水で、麦系の甘みがある柔らかい味わいのものかなと。
そうなると、一押しはノッカンドゥです。
15年でも良いですが、熟成感と柔らかさのバランスが取れているのは18年です。だいたい6000円くらいで購入できると思います。
後は5k以内だと、アランやグレンフィディックのスタンダードが侮れません。華やかさに特化するならグレングラント12年も良いですね。
一方、グレンドロナックを気にされているように、この価格帯だとシェリー系は厳しいですね。12年の変化ですが、シェリー系銘柄全般に共通するところで、シェリー感は薄くなってきています。ただその中でもドロナック12年は頑張っているほうだと思います。3500円で購入できたのなら安いですね。
>コスパばかり意識・・・・
私もよくやります。500円、1000円を惜しんで違う銘柄を購入して、納得できずに未練を残す。あるいはこの2本分で自分の好みな上位グレードが1本買えたのにと、後から感じる後悔にも似たあの感覚。
かといって、その感覚を無視し続けると金銭感覚は崩壊し続けるので、踏みとどめることが出来たとプラスに考えていきましょう!
最近はブログ途絶えても、また復活されるので、うれしいです!
シェリー系ウイスキーを安価で購入するのは難しいのですね…
以前教えてくださったグレンドロナック18年、またはオススメのアラン18年は、価格で躊躇してしまい…まだまだ雲の上という感じです。
もう少し低価格なら…ということで、去年から日本に入ってきてる、シグナトリーエドラダワーのカスクストレングスが気になっています。
くりりんさんは飲まれましたでしょうか?
ノッカンドゥは、くりりんさんブログで21年を知り、18年はどうなのかしら?と気になってました。美味しいのですね!教えてくださり、ありがとうございます…
アランシリーズはくりりんさんのリカルの記事でも気になっていて…また悩みます。
最近は「ウイスキーマガジン ティーリング 2005/2017 ブランデーカスク 」
を見つけました。7400円くらいでした。
くりりんさんの6(!)は現行品ではなかなか無いし、おお!となりました。
ブログ読み返すと、有名でなくても、隠れた美味しいウイスキーあるんだと勉強になります。(グレンギリーも味わい深かったです)
ノッカンドゥも含めて、悩む楽しみが増えました。
またブログアップ楽しみにしています。ゆっくりと…
こちらこそ、ご無沙汰しております。
コメントありがとうございます。
コロナで生活のリズムが変わったり、何かと忙しかったり、趣味の時間を家庭に回すようにしたりと色々やっていたので・・・。
エドラダワーのシェリーカスクは安定感のある濃厚シェリーですね。ほんと、どれ買っても金太郎飴かってくらい同じような系統に仕上がってますw
系統としてはドロナック18年のシェリーとは違う、チョコレートや黒蜜を思わせるような濃厚な甘みとクリーミーな味わい、色合いの通りウッディな仕上がりです。
ノッカンドゥ18年は実は今まさに飲んでいるのですが、これはシェリーカスク熟成ですがエドラやドロナックのような色濃い甘みがあるタイプではなく、カドの取れた麦の甘みに古い樽由来のナッティな香味が混じったタイプです。リフィル系の樽がメインなのだと思います。
私も懐が潤沢なわけではないので、手ごろなところで面白い銘柄を中心に紹介していきたいです。
ノッカンドゥ18年については近日レビューしますので、参考にしていただけたら嬉しいです!
くりりんさん、お忙しいなかコメントくださり、ありがとうございます。
シェリー系って高価だし難しいなと思っていましたが…金太郎飴なら、逆に、素人には安心感あります!
エドラダワーなら、あまりあれこれ迷わず、購入してみようかと思えてきます。
ノッカンドゥ18年は、聞いてるだけで、本当に、しみじみ美味しそうな…
最近、ジャパニーズウイスキーについて、大きな変化があったのですね。ブログで初めて知りました。
呑気な質問ばかりしてしまい、すみません…
でも、ノッカンドゥのレビュー楽しみにしています!
いつも遅レスで申し訳ないです(汗)
そうですね、エドラダワーの濃厚シェリーが好みということでしたら、市場には結構ありますから、当面は困ることはないかもしれません。色が薄いものがたまにありますが、濃いものならホントどれも似たり寄ったりです。
ジャパニーズはいよいよ一石が投じられて、これから業界としてどうするかというところですね。大手は事前に通達されている(むしろ大手側主導で決めた)内容で既に動きがありますが、特にクラフト側の対応がこれから1年くらいであるのではないかなと。
ただ関係ない人には関係ない話ですし、愛好家が必ずしもジャパニーズを必要とするわけでもないので、いいんじゃないでしょうかw
ぶっちゃけ、無理にジャパニーズ飲まなくても、スコッチモルトで手頃で美味しいのはいっぱいありますから。ノッカンドゥも是非、ですね(笑)
今後ともよろしくお願いします。
ジャパニーズは自分には高価なイメージがあり、検討したことが無く…
しかし、飲めなくても、何でも興味津々です。とにかく知らないことばかりで。
またブログのアップ待っています!