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KIRIN
SINGLE GRAIN WHISKEY 
FUJI 
The gift from Mt. Fuji 
700ml 46% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封後半年程度
評価:★★★★★★(6)

香り:ややドライだが、エステリーでオレンジ系のアロマ、モンブランや渋皮煮を思わせるクリーミーな甘さと程よくビターなウッディネス。ほのかにえぐみもあるが、バランスよくまとまっている。

味:グレーンのメローなフレーバー、軽い穀物感を伴うスムーズながら重みのある口当たり。キャラメルソース、オレンジママレードや果実のペースト。フィナンシェや香り同様に栗の洋菓子を思わせるフレーバー。余韻は染み込むようなウッディさ、キャラメルソースを思わせる苦みがじんわりと染み込むように残る。

あくまでもグレーンウイスキーであるが、スコッチグレーンとバーボンの中間にあるようなフレーバーを持つ、複雑でリッチな構成。口内で広がる甘くビターな樽香、熟成によるフルーティーさ、グレーン由来の甘み、そして微かな植物感。独特の美味しさと個性を楽しめる。ストレート、またはお湯割りがオススメ。

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今年3月にキリンからリリースされた、グレーンタイプウイスキー2銘柄のうちの1つ。
低価格帯の「陸」は酒販のみならず、その辺のスーパーやコンビニでも見かける流通量でしたが、「富士」のほうはプレ値を除くと、発売当初は中々店頭で見かけませんでした。
そんなわけで、まずは試しに陸をテイスティング・・・すると、思った以上に良かった、というか面白かった。これはますます富士も試してみたいなと。後日、Amazon酒販で普通に売っていることに気が付き、ちょうどポイントもあったのでポチってみました。

結論から言えば、この富士も良かったです。
富士御殿場蒸留所では、ライト、ミディアム、ヘビーの3タイプのグレーン原酒を作り分けていることで知られていますが、富士はこの3種のグレーンをブレンドして造られています。
香味からは、重みのある穀物香を伴うフレーバーから、特にヘビータイプグレーンの味わいが真っ先に思い浮かぶ構成。ただし、熟成に使われた樽がバーボンバレル、つまり新樽から数えるとリフィル樽に当たることや、ライト、ミディアムタイプのクリーンで、エステリーな仕上がりの原酒も合わさって、バーボンに見られる強いウッディさやセメダイン系のニュアンスを控えめに、バランスよく仕上がっているのです。

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(今回のリリースを飲んで、まず思い浮かべたのはこの1樽。富士御殿場のヘビータイプグレーンと言えば、各ウイスキーイベントのキリンブースで、樽から直出しで提供されていた試飲サンプルを連想する愛好家も多いのではないだろうか。)

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(富士と陸の違いは、海外原酒を使っているかどうかに加えて、原酒の熟成感も大きい。陸が手を入れて飲むことを前提としているのに対して、富士はストレートで飲むことを前提としているようにも感じられる。また、同メーカーからリリースされている、富士山麓シグネチャーブレンドとの共通項もある。)

個人的に、グレーンウイスキーの味は嫌いではないのですが、時折ボトラーズからリリースされるスコッチタイプのものは、香味が単調であまり飲み進みません。
若いものは奥行きがなく薄っぺらい、熟成したものはソフトな口当たりから、コクとメローな甘さがあるものの単調さが否めない。グレーンはグレーンでもバーボンは香味にメリハリのあるものが多く、好んで飲みますが、スコッチタイプは途中で飲み飽きてしまうのです。
ホント、たまにハーフショットくらいで良いかなぁって。

ところが、この富士は違和感無く飲み進められます。
バーボンにも通じる穀物由来の風味の重さだけでなく、香味も多層的で、それでいて特徴でもあるメローな味わいもしっかり。グレーンウイスキーの中でも、バーボン、カナディアン、スコッチタイプの中間点、あるいは良いとこ取りと言えるような構成。シーグラム社の影響を強く受けたキリンらしさというか、同社のグレーン原酒の作り分けが生み出したオリジナル、文字通り”キリンシングルグレーン”だと感じる仕上がりなのです。



また、陸と富士、安価で良質なグレーンが手に入りやすくなったことで、ウイスキーライフに新たな選択肢が生まれたとも感じています。
先日公開された、Liqulの記事”Re-オフィシャルスタンダードテイスティングVol.9”でもまとめさせていただきましたが、その一つが「自分でブレンドを作る」ことです。

2020年のオフィシャルリリースを通じて、富士と陸に「これは面白い」と感じた理由でもあります。
ブレンドにおいてグレーンの存在を整理すると、陸はどちらかと言えば引き算寄りのグレーンですが、富士は足し算のグレーンです。
陸を多く入れるとまとまりやすい一方で、モルトの個性が薄まりドライな香味になっていきます。一方で、富士は少量ならモルトと調和しますが、多く入れるとモルトの風味と喧嘩してごちゃごちゃした味わいになってしまいます。

今回の2銘柄がターゲットとしているのは、ウイスキー初心者というよりも、ある程度ウイスキーに親しみ、自宅でウイスキーを複数本所有して楽しんでいるような消費者層です。
つまり趣味としてウイスキーを楽しんでいる愛好家であるわけですが、そうした方々は間違いなくシングルモルト、シングルカスクのウイスキーを持っているはずで、そこにキリンからのニューリリース2銘柄が加わることで、ブレンドの面白さ、奥深さ、そして難しさも楽しめるようになるのではないかと感じています。それこそ、先に触れたグレーンの使い分けでバランスが取れたときの味わいは、単に飲みやすいだけではない、異なる個性のウイスキーとなるほどです。

モルトに比べ、そこまで高額なリリースでもないので、是非色々な使い方でウイスキーを楽しんでほしいですね。