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THE AKKESHI 
Single Malt Whisky 
"KANRO" 
17th. Season in the 24"Sekki" 
Bottled 2020 
700ml 55% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
場所:自宅
時期:開封後1週間以内
評価:★★★★★(5-6)

香り:焦げたようなスモーキーさに、原酒の若さに由来する酸は、熟していない果実を連想する。スワリングしていると焚き木の香りの奥にエステリーな要素、ニッキ、バタービスケットのような甘いアロマ、微かに酵母っぽい要素もあり、複雑。

味:口当たりはねっとりとした甘みとウッディな含み香、徐々に香り同様若い原酒由来の酸味、焦げたようにほろ苦いピートフレーバーが適度に広がる。後半は籾殻や乾いたウッディネス、微かにタイムのようなハーブ香。余韻は軽くスパイシーでスモーキーだが、序盤に感じられた甘みが口内に張り付くように長く残っている。

若さや粗さは多少あるが、度数ほどの口当たりの強さは感じない。樽由来の要素とバッティングで上手くまとめられている。豊富な樽由来の要素の中に酒質由来の要素もしっかり残っており、各要素ははつらつと、あるいは混然としてリッチで複雑な味わいが広がる。
加水すると樽由来のフレーバーが落ち着き、ややクリアでエステリー寄りの香味構成、酸味が前に出てニューポッティーな面も感じられる。3年間の熟成と考えると、その成長曲線は実に興味深く、更なる熟成を経て馴染んだ先にある可能性に、想いを馳せることが出来る仕上がり。

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2016年10月に創業した厚岸蒸留所からリリースされた、シングルモルトの700mlフルボトルの第一弾。過去、ニューボーンとして4種リリースされたファウンデーションリザーブや、3年熟成のサロルンカムイでの経験を活かし、バーボン、シェリー、ワイン、ミズナラの各樽で熟成されていたノンピート原酒、ピーテッド原酒をバッティングしたものです。

銘柄の由来は、1年間を24節気に分類すると、リリースの準備が完了した10月上中旬は17節気で”寒露”に当たることから。この24節気で有名なのは立春、夏至、大寒がありますね。今後同様の整理で1年間に3~4銘柄、シングルモルトとブレンデッドウイスキーをリリースしていく予定とのことで、それぞれの節気にどのような方向性のウイスキーが造られるのか、作り手の狙い含めて楽しみです。

さて今回のシングルモルト、熟成年数は3年以上となりますから、逆算すると仕込みの時期は2016年の創業初期から、翌年2017年の初夏あたりまでの原酒でしょうか。
厚岸蒸留所のピーテッドモルトは1年間の仕込みのプロセスの中で後半、蒸留所のオーバーホール前に仕込んでいるので、ノンピート原酒は2016年、2017年のものが、ピーテッド原酒は2016年のものが使われていると推察。ウイスキー造りの経験のなかった蒸留所オーナーの堅展実業にあって、蒸留器メーカーから技術者を呼ぶなどして、どのように原酒に厚みを出すのか、求める酒質を作るのか、苦労していた時期だったと記憶しています。

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(ウイスキーガロア誌10月号に掲載されていた、厚岸蒸留所の特集、および樋田氏のインタビュー記事。リリースの経緯やウイスキー造りの苦労等、充実した構成で、本リリースを飲みながら読むと、さらに味わいに深みが増すような気がする。)

今回のリリースは、上記ウイスキーガロア誌の記事では「厚岸の酒質はこれと明確に感じられるもの」と、樋田社長から語られています。
自分の理解で”厚岸のキャラクター”を整理すると、まずは香味のレイヤーの豊富さが特徴だと思います。複数種類の樽をバッティングしていることから、勿論香味の幅は増えますが、そうであっても3年熟成ながらしっかりとした樽香と、樽に負けないコクと甘みのある味わい、そして果実を思わせる酸味のクリアな広がりが、素性の良さとして分類できます。

それぞれの特徴について考察していくと、過去にカスクサンプルを頂いた際の記憶では、2016年蒸留に比べて2017年蒸留のほうが酒質が向上しており、ボディに厚みが出ていました。例えば2017年仕込みの原酒の比率が増えた結果、今回のリリースに感じられるコクのある味わいに繋がったのではないかと。
素性の良さについては、蒸留所の特徴として度々語られる見学も制限するこだわりの仕込み、衛生面の管理や発酵のノウハウが良い方向に作用しているのではないか。

また今回のリリースは、2月にリリースされたサロルンカムイに比べてシェリーやワイン樽等に由来する甘み、ミズナラ樽由来の焦げ感やニッキ等のスパイスといった、樽由来の香味も濃くなっており、その分ピート香も穏やかに感じられます。特にワイン系の樽の影響が強いでしょうか。レシピの違いもあると思いますが、熟成期間として夏を超えた(あるいは夏にかかった)ことによる影響が、厚岸という土地が持つ特徴として香味の中に表れているように感じます。

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(厚岸蒸留所が2018年からリリースしてきた、200mlシリーズ。それぞれ異なる原酒で構成され、厚岸蒸留所の目指す姿のピースを一つずつ知ることが出来た。当ブログでのレビューはこちら。)

最近、創業開始から3年が経過し、他のクラフトディスティラリーからのシングルモルトリリースも増えてきています。
これらのリリースは、総じて仕上がりの粗さを内包しており、必ずしも完成度の高いものばかりではありません。ただ、ウイスキーにおいて3年熟成は旅の始まりのようなものです。例えば、子供の音楽の演奏会に行って、その技術にダメ出しする人は少ないでしょう。むしろ奏でる旋律の中にこれまでの努力を、その姿に将来への可能性を見ているのではないでしょうか。

20年、30年操業している蒸留所がリリースする3年モノと、操業期間5年未満の蒸留所がリリースする3年では位置づけが違います。では、この”寒露”を飲んで将来への可能性が見えたかと言えば、それはテイスティングの通りです。
蒸留所としては、オール厚岸産を目指して麦芽の生産、ピートの採掘、製麦プロセスの新設・・・様々な取り組みを行っています。原酒についても今はまだ各要素が強く主張し合っている部分はありますが、熟成を経て馴染んでいくことで、混然ではなく渾然一体となった味わいに仕上がっていくことでしょう。その蒸留所と原酒の成長過程を、今後のリリースを通じて楽しんでいければと思います。

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(厚岸シングルモルト、寒露(左)とサロルンカムイ(右)。色合いにほとんど違いは無いが、寒露のほうが濃く複雑な味わいに仕上がっている。)


以下、雑談。
皆様、ご無沙汰しております。
4か月間もブログを更新していませんでした。ブログを5年以上やってきて、1週間ほど更新がないときは何度かあったと思いますが、これほどの長期間は初めてです。
長い夏休みになりましたが、そろそろ再開します。

休止の理由はいくつかあるのですが、生活スタイルを見直すために一度ブログを完全に切り離してみたというところですね。
今このコロナ禍という状況において、自分にとって優先するべきは何だろうかと。また子供が小学校に上がり、行動範囲や遊びの内容も広がって、子供との時間を最も楽しめるだろう時期に入ったことも、時間の使い方を見直すきっかけになりました。
自分は不器用な人間で、やるなら徹底してやらないとスイッチが切り替わらないので、一度完全にブログ活動をOFFにしてみたわけです。

ウイスキー繋がりの知人のところには、コロナに感染したんじゃ、何か問題を抱えたんじゃ、あるいはウイスキーに愛想を尽かしてワインに行ったんじゃないかとか、色々と噂や安否確認の質問もあったようですが、自分は至って健康ですし、仕事もまあ残業が尽きない程度には順調ですし、可能な範囲でウイスキーも楽しんでいます。
ただ、今後これまでと同様の頻度で活動を再開するかと言うとそうではなく。更新は不定期で、記事も短くなると思います。

この5年間は、自分なりに全力で、かつ真摯にウイスキーを探求したつもりです。
得るものは多く、様々な繋がりも出来ました。蒸留所の方と直接やり取りをしたり、オリジナルウイスキーリリースにも関われたり、何の後ろ盾もない愛好家でもこういう風に世界が広がるんだなと。
一方で周囲には、自分以外にもウイスキーの発信をする愛好家が増えてきました。是非他の方の発信もご覧いただき、そのうえでたまに自分のブログやLiqulの記事も見て頂けたら嬉しいですね。
今後とも、くりりんのウイスキー置場をよろしくお願いします。