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YAMAZAKURA 
JAPANESE SINGLE MALT WHISKY 
ASAKA "The First"
Aged 3 years 
Distilled 2016
Bottled 2019
700ml 50%

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封直後
場所:自宅
評価:★★★★(4-5)

香り:レモンタルトを思わせる酸と軽やかに香ばしい麦芽香主体。微かに酵母香、焦げたオークのアクセント。あまり複雑さはないがフレッシュで嫌味の少ないアロマ。

味: 若々しく、レモングラスや微かに乳酸っぽさも伴うニューポッティーな含み香。口当たりはとろりとした甘みから柑橘類を皮ごとかじったような酸味と渋み、麦芽由来のほろ苦さがある。
余韻はアメリカンオークのバニラ、微かな焦げ感。序盤に感じた酸味と共にざらざらとした粗さが若干ある。オーキーな華やかさは今後熟成を経て開いていくことが期待される。

樽感はほどほどで、ところどころ粗さを残した酒質。まだ完成品とは言い難い、スタートラインのモルト。それ故現時点での評価は本ブログの基準点の範囲となるが、これをもって将来を悲観するような出来ではないことは明記したい。
この蒸留所の特徴とも言える、酸味に類するフレーバーやコクのある味わいは健在で、オフフレーバーも目立たない。今後の成長を安心して見ていける、素性の良い原酒である。なお加水するとオーク香が多少開くだけでなく、粗さが落ち着いてぐっと飲みやすくなる点も、将来が期待できる要素である。

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2016年、試験蒸留期間を経て稼働した福島県郡山市の安積蒸留所。スコッチの基準でウイスキーを名乗れる、3年熟成の条件を満たしたシングルモルトがいよいよリリースされました。
蒸留所を操業するのは、かつて羽生蒸留所の原酒の引き取り先として、資金を肩代わりし熟成庫を提供した笹の川酒造。その安積蒸留所のウイスキー作り開始にあたっては、イチローズモルトが逆にスタッフの研修先となったり、肥土さんがアドバイスをされるなど、両社の繋がりが創ったウイスキーでもあります。

安積蒸留所の原酒は、ミディアムボディというか、そこまで癖の強いタイプではなく、初期からオフフレーバーも少ない仕上がりでした。
ただし基準(3年熟成)を満たしたといっても、スコッチタイプの原酒が3年でピークに仕上がる訳がなく。。。安積蒸留所の熟成環境なら最低でも5年、最初のピークとしては7~8年は見たいという印象。とはいえウイスキーを名乗れる基準を満たしてのリリースであるため、他のリリースと同様の整理のもと、当ブログの評価分類に加えることとします。

樽構成はラベルに記載がありませんが、ファーストフィルのバーボン樽を軸に据えに、リフィル(ウイスキーカスク含む)や新樽等を加えたような、いずれにせよアメリカンオークの樽がほとんどを締めると思われるバッティング。シェリーは使われていないか、使われていても1樽とかリフィルとか、全体に対して少量ではという感じですね。

アメリカンオークがメインとなると、華やかで黄色いフルーツやバニラっぽさのあるオークフレーバーを連想しますが、さすがに熟成期間からそこまで強く効いておらず、まだ蕾というか種から芽吹いたレベル。該当するフレーバーの兆しがないわけではなく、オーキーな要素が所々に溶け込んでいて、今後の熟成を経て開いていくという感じです。
それこそ7~8年熟成させれば、温暖な日本での熟成らしいリッチなウッディさとオークフレーバー、アプリコット系の甘酸っぱさが混じるような味わいになるのではと期待しています。

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(安積蒸留所のポットスチルとニューメイク。同蒸留所の原酒や環境等については、2年目時点での比較記事を参照頂きたい。なお、2019年までの仕込みに用いたマッシュタンはステンレスだが、2020年に向けて木桶を導入して更なる進化を目指す模様。)

一方、ここで違和感を覚えたのが、ファーストリリースの樽の強さです。
安積蒸留所は、東北の盆地の中心部分という、夏暑く冬寒い、寒暖差の激しい地域にあります。
そのため、これまで複数リリースされた1年熟成程度のニューボーンには、新樽やシェリー樽のものなど今回のリリースより樽感の強いものが普通にありました。 そうした原酒を活かしたバッティングも、恐らくできたはずです。
ですが、裏ラベルにも書かれている「安積蒸留所の風味の傾向」を主とするため、一部そうした樽は使いつつも、あえてそう仕上げなかったのではないかと感じました。

では風味の傾向とは何か。今回、原酒の成長を確認する意味も兼ねて、ファーストリリースのコメントと、ほぼ同じ時期のニューポットのコメントを比較して、残っているフレーバーとなくなったフレーバを整理してみました。同時に比較をしたわけではありませんが、「安積蒸留所の風味の傾向」を形成する、熟成によって変化した、酒質由来と樽由来の要素を可視化する整理ができたのではないかと思います。

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※2016年蒸留原酒、ニューポット時点でのテイスティングコメント
香り:酸味が強く、ドライなアルコール感と微かに発酵臭を伴うアロマ。加水すると乾燥させた麦芽、おかき、無糖のシリアルを思わせる香ばしさを感じる。  

味:軽くスパイシーな口当たり、最初はニューポットらしい乳酸系で微かに発酵したような酸味、口の中で転がすとオイリーで香ばしい麦芽風味が主体的に。 余韻は麦芽系のフレーバーが後を引きつつあっさりとしているボディはミドル程度、加水するとバランスがとれて口当たりは柔らかくまろやかに。 

また、過去のコメントではフルーティーなタイプというより、田舎料理のような素朴さがあるというコメントも。
今回のボトルのテイスティングをするにあたり、あえて過去の記事は見直していません。ファーストをテイスティングをした後で改めて両コメントを見直して、強く共通する部分は太字で、あまり感じられなくなった部分を取り消し線で表記。
未熟成によるネガな要素が熟成によって軽減されたことは勿論、酒質部分は「酸、香ばしさ、コク(オイリーというよりはとろみ)のある麦芽由来の風味」この点が共通項として残る要素となります。

つまりこれが、安積蒸留所の風味の傾向なのではないかと思うのです。
あくまで自分の個人的な整理、考察でしかないため後日機会があれば蒸留所関係者に話は聞いてみたい。とはいえ、もしこれから飲まれる方は、ベースにある要素を意識しつつ飲んで貰えると、その傾向が分かりやすいのではないかと思います。
なお当時から加水でのバランスも評価していますが、見直すまですっかり忘れてました(汗)。


さて、今回リリースされた安積蒸留所の3年熟成品を筆頭に、新たに開業したクラフト蒸留所のシングルモルトウイスキー・リリースラッシュがこれから始まります。
その際、香味を「若い」と感じることは間違いなくあると思いますがこの場合の「若い」は、それ以上の原酒が蒸留所に存在しえないのだから当然であって、無い袖は振れないもの。だから悪いという話ではありません。

まず大事なのは”ちゃんとウイスキーである”ということ。理想的には”その蒸留所の個性を認識できる”こと。この辺は人間も同じですよね。
3年熟成時点で、明確にピークを見据えていけるスタートラインにある、というのがこの時点のリリースで認識されるべき一つのポイントだと思います。
当たり前のように思えるかもしれませんが、そうではないモノも当然あるのです。
そして成長を楽しみながら、次を思い描く。その点で、安積The Firstは十分に条件を満たしたリリースだと感じています。

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(ウイスキーフェスティバル2019会場、笹の川酒造ブースにて。出荷前の安積ファーストと山口社長。)
こうして"安積"の名を冠するウイスキーが目の前にあるということ、元郡山市民としては感慨深いものがあります。
3年前の夏、初めて蒸留所を見学させて貰った日から今日まではあっという間でしたが、先日の台風災害対応を始め、蒸留所としては様々な苦労があったことと思います。
改めて蒸留所の皆様、ファーストリリース、おめでとうございます!