オールドクロウ 1912年蒸留 100プルーフ 禁酒法前
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- ★9
- アメリカンウイスキー(バーボンなど)

OLD CROW
BOURBON WHISKY
BOTTLED IN BOND
Distilled 1912
Bottled About 1919
1Quart 100Proof
(948ml 50%)
グラス:ロックグラス&木村硝子
時期:開封直後
評価:★★★★★★★★★(9)
香り:艶やかでスパイシー、ボリュームのあるアロマ。カステラを思わせる洋菓子の甘さとほのかな焦げ感、カラメルソース、オレンジママレード、チェリーシロップと駄菓子のヨーグルトクリームのような人工的な甘さと酸。微かにハーブリキュールのような薬品香も混じる。
味:経年によって角のとれた柔らかい飲み口。メープルシロップ、チョコチップクッキー、そして穏やかな酸味が、徐々にスパイシーさとウッディな渋味と共に存在感を増し、歯茎と舌を刺激する。
余韻は粘性のある柑橘系の甘酸っぱさに加えて、ジンジンとした刺激がゆっくりと収斂し、穏やかに消えていく。
グラスのなかで長い眠りから目覚め、刻々と変化する香味、ボリューミーで艶のあるテクスチャーは陶酔感も伴う。ライ比率が高いのか、しっかりとしたボディに加えて、澱みやヒネのない状態の良さが純粋に素晴らしい。
ボトリング直後はもっとウッディでスパイシーだったと思われるが、1世紀を越える経年がもたらす、負担のない飲み口と角のとれた香味、舌触り、そして時を飲むロマン。長期熟成したワインを思わせる、瓶熟の真髄を見るようなボトルでもある。
最初の1杯は、当時の飲み方を再現してロックグラスでストレート。。。
今回の一本は超弩級。歴史的価値も満載で、ラベル酔いせざるを得ない禁酒法施行前のオールドクロウ。とてつもなく貴重なボトルを、開封作業から経験させていただきました。オールドボトルの開封はいつも緊張しますが、今回のそれは今までの比じゃなかく、オープナーを持つ手が震えましたね。
このボトルをレビューするにあたっては、まず関連情報として禁酒法と、その当時の消費者の動向について簡単に紹介していきます。
アメリカでは1920年から1933年まで禁酒法が施行され、0.5%以上のアルコールを含有する、”酔いをもたらす飲料”が規制対象となりました。
この法律は酒を飲むことを禁止しておらず、販売することを禁止したものであったわけですが、結果法律施行前に大量の買い込みが行われただけでなく、施行期間中は精神薬の区分で販売されたり、闇ルートでカナディアンウイスキーの販売が横行したり、施行前より消費量が増えたり。。。といった、多くの有名なエピソードが生まれることとなります。

(禁酒法の期間中、医師の許可をもらうことで例外的に酒類を購入することが可能だった。同法の影響で多くの蒸留所が操業を休止せざるを得なかったが、薬という抜け道から一部は生産を継続することができたという。上はその認定証。)
この手のウイスキーは、古ければ古いほど数が少なくなっていく傾向があります。
ましてまともに販売されてなかった13年間の、谷間の時期があるのですから、普通ならその前のウイスキーは消費しつくされているはず。。。ただ、ことバーボンにあっては禁酒法期間中だけでなく、その前の時代のものも一定数出物があるのだそうです。
というのも当時、酒が買えなくなる可能性が高いことを知った富裕層が、駆け込み需要でウイスキーを買い集めて倉庫に保管(盗難を恐れ、隠し倉庫に置かれるケースが多かった模様)。その後当人が何らかの理由で飲めなくなり、時が流れて発掘されるということが度々あるのだとか。今回のオールドクロウも、時期的にそうして保管されていたボトルの一つだったと考えられます。
日本では特級時代の末期が洋酒ブームの終演とバブル崩壊に重なり、多くのウイスキーが在庫となった結果、近年のオールドボトル市場を賑わしていますが、それに近い現象とも言えますね。
さて、いよいよ本題。オールドクロウは、スコットランドからの移民だった創始者が1830年に製造を開始。1856年に作り手が亡くなった後、今回のラベルにも書かれているW.A.Gaines社が製造を継ぐこととなります。
当時のオールドクロウは、アメリカンウイスキーを代表する銘柄と言えるほどの人気があり。同社はオリジナルのレシピを受け継いで製造を行ったとされていますが、蒸留器や生産ラインが変わったからか、あるいは心情的な問題か、昔のほうが出来が良かったなどのネガティブな意見が見られ、逆に創始者の残した原酒には伝説的な価値がついたというエピソードが残されています。
1920年、W. A. Gaines社は禁酒法を受けてウイスキー事業から撤退。オールドクロウはオールドグランダッド等で知られるNational Distillery社へと移っていくことになるわけですが。。。ND社時代になると、創業者の時代とは蒸留所だけでなくレシピも異なっていたようで(禁酒法期間中で操業が制限されていたことも要因の一つと考えられる)、オリジナルのレシピを色濃く受け継いでいるのは、今回の流通時期まで。
現在のオールドクロウは、ジムビーム傘下となり、コーン77%、ライ13%、モルト10%のジムビームと同じマッシュビルで製造されていると言われていますが、当然オリジナルのレシピは全く異なるもの。正確にはわかりませんが、今回テイスティングで感じた印象としてはかなりライ比率が高い作りだったのではと思われます。
それはバーボンでありながらバーボンでないとういか、過去経験にない要素を持つ味わい。ボディに厚みがあり、スパイシーで酸味も伴う穀物ベースの香味構成はライの比率の高さを感じさせる部分ですが、経年によってウッディネスと口当たりが丸みを帯びて、存在感はハイプルーフバーボン相応にありつつ決して荒々しくない。(度数は90プルーフ台には下がっていると思われるが。)
オールドバーボンらしい艶やかさ、鼻孔に抜けていく馥郁とした甘いオーク香を堪能していると、自然に余韻が消えていき、口内が正常な状態に戻る。
力強さと優しさ、何杯でも飲めてしまいそうな印象を持つ仕上がりは、現行は勿論、60年代、70年代のどのオールドクロウとも異なるものです。
(右は1969年蒸留、ND社時代のオールドクロウ100proof。コーン比率が高くなったのか、バーボンらしいバーボンという味わい。このリリースが行われた当時、W.A.Gaines社はウイスキー事業から撤退しているが、版権の関係か、あるいは広く馴染んだ作り手の社名だったことからか、ND社は表記を継続して使っていたという。なおこの後、ND社は製法を誤り粗悪な原酒を作った結果、オールドクロウの凋落を招くこととなる。)
勿論、今回のテイスティングで感じた味わいは当時のままではなく、100年間を越える経年がもたらした変化が加わったもの。元々はもっとバッチバチで、余韻が穏やかなんて言えないような、荒々しいものであったと推察します。
モルトウイスキーやブレンデッドスコッチでは、こういう形にはならない、アメリカンウイスキーだからこその仕上がりです。
今回のボトルはコルク直打ち。それを蒸留年と瓶詰め年、そして度数が書かれた紙シールで封印してある仕様で、スクリューキャップでないことも時代を感じさせる要素。液面低下は肩のONE QUARTの上あたりで、経年を考えれば妥当なところでした。コルクの状態を見ても、フェイクである可能性はまずないと思います。
一方紙封印の瓶詰め年の記載部分が破れてしまっており、何年熟成か正確なところはわかりませんでしたが、禁酒法時代のバーボンは一部輸出品を除いて500mlサイズで販売されていたため、1クオート仕様であることから6年または7年熟成あたりで1919年の流通ではないかと。それこそ、当時の駆け込み需要にあわせて出荷されたのではないかと考えられるのです。
純粋な美味しさもさることながら、それを作り出した当時のレシピと、それを仕上げた時間の流れ、そして様々な偶然の積み重ね。それを頂いた機会に感謝を込めて、堪能させていただきました。
以下、補足。
コメント
コメント一覧 (7)
これはすごいボトルですね!!自分も15年以上前同様のボトルを90を超える曽祖父に飲ませてもらったことを思い出しました。
当時よく飲んでいたオールドクロウとの違いに衝撃を受けたのを鮮明に覚えています。
製法や素材の質もさることながら、経年の恩恵は計り知れないですね。
ありがとうございます。
間違いなく自分の酒歴に刻まれるボトルでした。
コメントありがとうございます。
同じボトルの経験アリですか!それも身内からというのが、また良いですね。自分も将来息子に何を飲ませてあげられるかな?とか考えてしまいます。
そして今回の1本、バーボンであることは間違いないのですが、おっしゃるように本当に違う飲み物で衝撃を受けました。
スコッチだと度数が低く、長期間の保存で抜けたような味わい担ってしまうこともままありますが、バーボンは50%仕様のものがあるので、経年にも耐える。その恩恵がこういう形で出てくると、様々な発見があったテイスティングでした。
文中、ボトリングを1919年とされていますが、通常ボンド使用のストリップは上に蒸留年、下にボトリング年が表示されるので、これは素直に1912年のボトリングではないでしょうか? 容量も750mlではなく1クォート(946ml)ですね。なお、禁酒法時代は確かにパイントボトルが多いですがクォートボトルも存在しています。
コメントありがとうございます!
本当に素晴らしい機会をいただけました。開封するというメッセージをもらった時は、思わず「まじか」と叫びそうになってしまったほどです。
ついついいつもの癖で750mlと書いてしまった、クオートの換算間違いについては見逃していただくとして・・・
ボトリングについては改めて確認しましたが、禁酒法前は上がボトリング、下が蒸留年とう記載が多いそうです。
ほぼ同じ時期のものと思われるボトルのTAXシールを参考資料として記事中に掲載します。
また、禁酒法時代のクオートボトルは、おっしゃるようにカナダ等への輸出向けで少量あったことも確認しました。今では通常の禁酒法時代のボトルよりもレアであるとのことで・・・その旨記事中に追記しました。
いつも的確な指摘、ありがとうございます!