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LAPHROAIG 
SIGNATORY VINTAGE 
Aged 31 years 
Distilled 1966 
Bottled 1997 
Cask no, 1093 
700ml 50.3% 

グラス:グレンケアン
時期:不明
評価:★★★★★★★★(7ー8)

香り:スモーキーかつフルーティー。麦芽の厚みを伴う香り立ち。微かな薬品香があるが、ヨードは全体に溶け込むようで、エステリーな要素と土っぽいピート、グレープフルーツとパッションフルーツを感じる。

味:柔らかく角のとれた口当たり。香り同様に土っぽさとじわじわとグレープフルーツの綿、黄色系果実を思わせるフルーティーさ。合わせて麦芽風味の厚みとコク。余韻はほろ苦くビター、染み込むようなピートスモークが長く続く。

ボトルラストということで少し樽のニュアンスが抜けてしまったか、本来であればもう少しフルーティーさとピートが強く、香味の骨格もあったのではないかと思うが、長期熟成らしい熟成感と落ち着きのある構成で、実に美味なアイラモルトである。じっくりとストレートで。


ボトルに残った最後の1杯分に立ち会うのは、いつだって特別な気持ちになります。
それは、ああ終わってしまったと言う寂しい気持ちもあれば、やっと終わったという苦行から解放された時の心情にも似た場合もあり。。。そして今回のように、スコッチにおいて神格化されつつある1960年代というだけでなく、蒸留所にとって特別な時代のボトルの最後の1杯ともなれば、その感情はひとしおです。

ラフロイグがアイラを代表するブランドのひとつとなる、その立役者として知られているのがウイスキー史上初の女性蒸留所所長ベッシー・ウィリアムソン氏です。近年はボトラーズリリースでウィリアムソン名義のラフロイグ(らしいもの)がリリースされていることから、単語として聞いたことがある、という飲み手も多いと思います。

彼女についてのエピソードは・・・長くなるのである程度まとめさせていただくと、前オーナーの秘書や助手として従事し、そのオーナーから引き継ぐ形で蒸留所所長に就任したのが1954年。退任は1972年とされ、今回の原酒の蒸留時期はまさにその真っ只中のものです。
また、所長引退が1972年といっても、1962年には長期間安定して蒸留所を存続させるため、ブレンデッドウイスキーのロングジョンを製造販売していた米国企業Schenley Industries社に売却しており、徐々に第一線から身を引いていたところ。1967年からは蒸留プロセスも石炭直火ではないスチーム加熱方式が導入されるなど、蒸留所の規模が段階的に拡張されただけでなく、現在まで続くラフロイグとバーボン樽の組み合わせが確立したのもこの頃です

それが彼女が作りたかったウイスキーの味だったのか、知る術はありません。(どこからどこまでが、彼女自信の方針かはわからないのです。)
ただ彼女の手腕はウイスキー製造というよりは、ビジネスやマネジメントという形で発揮されていたようです。実際、所長就任直後から製造に関することは別な人物に任せていたという話もあり。これは彼女が生粋のアイラ島民ではなかったことや、ウイスキーの製造現場が今以上に男性社会かつ閉鎖的だったとされる当時を考えれば、「蒸留所をアイラ島の産業として長期間存続させる」ということが、彼女なりの周囲への配慮だったのかもしれません。

(1964年のラフロイグ蒸留所・・・もといベッシー所長の紹介動画。今よりも小規模な蒸留所全景、フロアモルティングや蒸留風景など、当時の様子を見ることができる。)

今回の原酒は、上述の1967年の拡張工事が行われる前のもの。時期的には古代種の麦芽、フロアモルティング、そして石炭直火に樽はリフィルのシェリーホグスヘッドというオールドスタイルな組み合わせで作られた、貴重なボトルであると言えます。
また、そこにベッシーウィリアムソン所長時代という役も乗っかって、かなり重厚な情報量です。

味もやはりこの時代らしく麦感が厚く、そこにボウモアほどではないですがトロピカルなフルーティーさが備わっているのもポイント。この時代のアイラは、ピートフレーバーが今ほどオラオラと主張せず、土っぽい香味を伴いながらじんわりと広がり、それが麦感や樽由来の要素と合わさって、先のトロピカルなフルーティーさを引き立てている。各フレーバーがいい感じに相互補完関係にあるような構成なんです。
本ボトルにおける最後の1杯、しっかりと堪能させてもらいました。


余談:ベッシー・ウィリアムソン氏は生涯独身であったという紹介をされているサイトがいくつかありますが、海外サイトを見ると1961年に結婚していることが書かれています。独身を貫きウイスキー事業に見も心も捧げた、という方が職人的なイメージが強くなりそうですが、これはどちらが正しいのか。
自分は同氏がウイスキーの職人というよりは、一人の経営者という認識なので、そこまでストイックな人物像でなくても良いんじゃないかなぁと考えています。