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SINGLE CASK KOMAGATAKE 
AGED 6 YEARS 
Distilled 2012.3 
Bottled 2018.9 
Cask type Bourbon Barrel #1493 
700ml 60% 

グラス:テイスティンググラス
時期:不明
場所:BAR 新宿ウイスキーサロン
暫定評価:★★★★★★(6)

香り:スモーキーでアーシー、干し藁、ママレード等の柑橘類のニュアンス。強く鋭角なアタックを伴う香り立ちで、スワリングしていると焦げた木材と薄めた蜂蜜、微かに魚介だしのようなアロマも伴う。

味:パワフルな口当たり。土っぽさとともに尖ったような質感のピーティーさ。乾いた麦芽、根菜、徐々にはちみつを思わせる樽材由来の甘味と粘性が舌の上で感じられる。余韻にかけてはスパイシーで焦げたウッディネス、強くフレッシュなスモーキーさが鼻孔に抜け、ほろ苦くドライで舌の水分が奪われるような感覚を伴う長いフィニッシュ。

ラガヴーリンとラフロイグの会わせ技のようなフレーバー。ピート由来のインパクトが強く、分かりやすい味わい。ストレートでは未熟感はあまりなく、多少荒さはあるが樽感も酒質ベースの構成ならほどよい程度。一方で加水するとそれらが乖離しアンバランスに。奥行きがなくなり溶剤のようなネガが顔を出す。

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マルスウイスキーから定期的にリリースされている、信州蒸留所のシングルモルト。
昨年は創業休止前の原酒を使った長熟2本、再稼働後の短熟4本、計6銘柄がリリースされており、その中の2012年蒸留、ヘビーピーテッド仕様の1本が今回のテイスティングアイテムです。
そしてこのボトルは3月に開催された、日本ではじめての洋酒品評会、東京ウイスキー&スピリッツコンペティションで、全527商品の中から13銘柄選出された最高金賞と、ジャパニーズウイスキー区分でも特別賞としてベストジャパニーズ(シングルカスク)の評価を受けた1本でもあります。

このボトルに興味をもった経緯を紹介するには、受賞以外にコンペの審査方法について触れる必要があるのですが、前置きが長くなってしまうので、後回しにして概要だけ紹介します。
同コンペの審査は、日本の酒業界関係者や愛好家を中心としたメンバーによるブラインドテイスティングで行われており、集計方法も公平性を担保した形式でした。
その審査で選ばれた最高金賞のウイスキー銘柄の中でも、6年という若い原酒は異彩を放つ存在。どれほど光る要素があったのか、是非テイスティングしたいと感じたのです。


飲んだ印象は、短熟だが整った美味しいピーテッドモルト。若さをピートがうまくマスクして、バーボン樽由来の風味もほどよく付与されている、短熟としての飲み頃にある原酒です。
一方で、これをノーヒントでブラインドをした場合、マルスだとわかる人はそう多くないように思います。
ラガヴーリンとラフロイグを足して2で割ったようなキャラクターはインパクトが強く、普通に考えて若いアイラ。経験を積まれてる方だと樽感や熟成感にある若干の違和感でジャパニーズにはたどり着くかもしれませんが、仮にジャパニーズだと限定しても、知名度から秩父のピーテッドに繋がってしまうかもしれません。

しかしその香味には粘性というかコクがあり、例の秩父味もないため、余韻にかけて素直にピーティーさと樽由来の要素が広がってきます。
短熟ゆえ荒さは多少残っていて、樽由来の香味と酒質の結び付きにはまだ解離があります。ストレートではピートがカバーしていますが、加水すると樽感やピートが弱まることで、ばらつきも出てしまう部分はあります。

ただそれらは同時に後5~10年程度の熟成を許容できる伸び代でもあると言えます。
最近再稼働後のマルスのリリースは飲んでいませんでしたが、いい原酒が育ってきているんですね。数年後が楽しみになる味わいでした。


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東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2019

さて、以下は本文中で省略した同コンペティションの審査の流れについてです。
審査は
・180名の審査委員を6名30チームに振り分ける。
・出品されている酒類527本を各チームで分担。
・カテゴリー毎にブラインドテイスティングで評価(100点満点)し、集計。
で行われました。
つまりチーム毎に同じボトルが出ているのではなく、異なる場合のほうが多く。例えばチームAにブラインドで出されているのは山崎12年で、チームBに出されているのは余市NASという流れで、180名全員が同じ銘柄を一斉に飲んでいるわけではありません。
1人あたりにすると、約20本程度を担当する形だったそうです。

得られた評価結果については、チームの内で最高得点と最低点をカットする、フィギュアスケート等でもお馴染みの集計方法がとられたそうで、先入観による影響の少ない評価に加え、この銘柄だからというような”大人の事情”が作用しづらい仕組みになっているのが特徴。
海外コンペとかではブラインド審査といっても、持ち回りのような怪しい結果に見えるケースもありますが。実際に日本国内で審査委員が一同に介して行われ、ボランティアスタッフも含めて多くの愛好家が関わっている本コンペにあっては、一定の公平性が担保されていたように感じます。

それ以上に、"ウイスキーに限定した審査"としては、日本の愛好家(なかでもコアな部類に入る方々)が、一斉にブラインドテイスティングで評価を行ったことで、これまでにないデータが得られたと言えるのではないでしょうか。
一般販売されているアイテムが中心であることから、マニアックなものはあまりありませんが、最高金賞や金賞あたりのリストを眺めても「そうそう、これ無名だけどレベル高いんだよ」とか、「有名で一般的すぎて、逆に飲まれてないけどやっぱ旨いよね」とか、"愛好家によるスタンダードリリースの格付け"として興味深く、個人的には頷くところも多い結果だったように思います。

ウイスキー以外の審査方法や、対象スピリッツ類のジャンルわけなど、初回ということでまだまだ改善すべき点もあると思いますが、この手の話はまず実現することが大事で、そこから如何にして規模を広げ、質を高めていくかというフェーズに入るべきものです。

同コンペを主催するウイスキー文化研究所では、6月の表彰式に向けて最高金賞のウイスキーの中から、更にナンバーワンを決めるプロセスに入っているとのこと。
どの銘柄がベストオブベストに選ばれるのかを、自分なりに予想もしながら楽しみにしています。