シングルモルト 松井 倉吉蒸留所 48% 2018年リリース 3種
今から約3年前、ある3本のウイスキーがリリースされ、ジャパニーズウイスキーブームを追い風にして良くも悪くも注目を集めました。
銘柄は「倉吉」。鳥取県の倉吉市にある松井酒造合名会社(以下、松井酒造)がリリースしたピュアモルトウイスキーは、
・輸入原酒を使って作られていたこと。
・同社は当時自社蒸留をしていなかったこと。
・PRやデザインが紛らわしかったこと。
・価格が微妙に高かったこと。
・消費者からの問い合わせに対する回答等が火に油であったこと。
など、様々な要因が重なり合い、"おそらく"という前置きを使う必要がないほど、多くの愛好家から嫌悪され、あるいは嘲笑の対象となったことに異論の余地はありませんでした。
ピュアモルトウイスキー倉吉の存在を前向きに捉えるとすれば、酒税法とジャパニーズウイスキーの定義を見直すきっかけとして、業界全体を巻き込んだ動きに繋がったことは、ある意味評価出来るかもしれません。
しかしGoogle評価で★1.8(2019年1月時点)という、ウイスキーメーカーとして異例の低さにあるように。浸透したマイナスイメージによって、何を書いても「あの松井が」とネガティヴに取られる土壌が出来上がってしまったことは、逃れようも無い事実でした。
そんな彼らが「いずれは鳥取の地に蒸留所を作りたい(そこに観光客を招きたい、地域を活性化したい)」とする言葉を発信したとき、それを信じた人は少数だったのではないかと思います。
しかし昨年ポットスチルが導入され、一部国産麦芽を使う蒸留計画と共に蒸留所が一般公開を開始。その過程で、実は1000リットル程度の小規模なアランビックタイプのスチルが手元にあり、2017年ごろからウイスキー蒸留が行われていたことも明らかとなりました。
結果論でしかありませんが、彼らの計画は本当だったのです。
(創業した倉吉蒸留所外観と2018年後半に導入された、ポットスチル。中国製だがラインアームの角度が調整可能というユニークな機能を持つ。同社公式Twitter より引用。)
(松井酒造が2017年頃から使っていたというアランビックタイプのスチル。長濱蒸留所に類似の形状だが、同社との関係はないとのこと。同社WEBサイトより引用。)
これら蒸留設備の公開とほぼ同時期に発表されたのが、今回レビューする松井シングルモルト、サクラカスク、ミズナラカスク、ピーテッドモルトの3種です。
これら蒸留設備の公開とほぼ同時期に発表されたのが、今回レビューする松井シングルモルト、サクラカスク、ミズナラカスク、ピーテッドモルトの3種です。
使われている原酒は、新設されたポットスチルではなく、上記写真のアランビックタイプのスチルで蒸留され、1年半程度熟成されたもの。他社のリリースで言えば、ニューボーンですね。
松井酒造の今後を測る原酒とは言い切れませんが、少なくとも日本で仕込み、蒸留された原酒となります。
その酒質は、モノによって良し悪しハッキリと言いますか。。。
ノンピートであるサクラとミズナラは、未熟感の少ないクリアで品のいい甘さや酸を感じる麦芽風味主体の酒質。多くの愛好家が抱いているであろうネガティヴイメージは払拭しないまでも、日本のクラフトの中でそう悪い部類ではなく、むしろ初年度の蒸留としては好感を持てる要素もある。樽次第では4〜5年程度でそれなりに仕上がりそうです。
また、リリースは48%まで加水されており、加水と仕込みには兼ねてより松井酒造が"最も重要"とプッシュしてきた大山の伏流水を使用。影響がどの程度かはわかりませんが、ニューメイクであることの荒さを差し引いて、確かにマイルドで柔らかさが感じられます。
一方、悪い方がピーテッド。これは蒸留で何かミスしたのか、あるいは樽の処理か・・・焼けたゴムや溶剤のような不快なニュアンスが感じられ、ただただ閉口モノでした。
使われている樽はピーテッドが古樽のバーボンバレル。サクラ、ミズナラは同じくリフィルのバーボンバレルの鏡板のみを変更したもの。
サクラやミズナラはそれ単体で使うと非常に個性の強い木材であり、過去に該当する樽で熟成させた別蒸留所の原酒は飲んだことがありましたが、新樽なら1〜2年も貯蔵すれば前者は桜餅のような、後者はニッキのようなニュアンスが強く出てきます。
今回はアメリカンホワイトオークとの2コイチ樽。熟成期間が短いことも作用して、樽感という点では酒質を殺さない程度のアクセントで、それぞれうまく作ってあるように感じました。
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY
SAKURA CASK
SAKURA CASK
700ml 48%
品のいいオーク香、微かに乳酸、乾いた麦芽。
とろみと共にスパイシーな刺激のある口当たり、比較的クリアで嫌味は少なく、柔らかい麦芽風味主体。ほろ苦く長い。
あまりサクラっぽさはない。
加水すると少し感じられ、微かに桜餅っぽさ、ハーブのような植物感と酸味が混じるようになってくる。
微かにスパイシー、ニッキ、荒さを伴うウッディな香り立ち。スワリングしているとおしろいっぽい麦芽。
やや水っぽいが麦芽風味と淡くウッディで微かに乳酸を感じる口当たり。余韻はビターでドライ。ひりつくような刺激を伴うフィニッシュ。
加水は比較的麦系が伸びる。酸のある嫌味の少ない麦芽香だ。
スパイシーで焦げたゴムと粘土、発酵した醤油、奥には未熟原酒の硫黄系のニュアンス。口当たりはマイルドだが焦げたゴム感やプラスチックのような溶剤系の要素、粘性がありビターな余韻 。
かつてリリースされていたモンデ酒造の笛吹峡を彷彿とさせる。個人的に非常に不快であるが、これが好ましいという方もいるらしい。(特に海外)
今回のテイスティングは、日本酒を中心に扱うIMADEYA銀座で開催された角打ちイベントにて行いました。
現場に居た営業の方からは、どのように作られているのか、あるいは売る側としての心境などもお聞きしましたが、やはり上述のネガティヴイメージもあって、国内販売ではだいぶ苦労しているそうです。(結果、海外や免税店に販路を求めたり、今回のように日本酒等他のユーザーを開拓に動くわけですが、それもウイスキー側からポジティブに取られない悪循環。。。)
今後は誤解のないように、このイメージを払拭するようにしていきたいとする販売員の方。
ただ今回のリリースに限っても、新しいスチルで蒸留していないのに、勘違いさせてしまうような説明ぶりになっていたり。ウイスキーとしてはまだ未熟な域を出ない熟成年数でありながら、それを表記せず"極上の一滴"やら盛り感拭えないPRがされていたりと、「そういうとこやぞ!(笑)」と思わず突っ込みたくなるような要素は未だ健在です。
同社の体制については定かじゃありませんが、察するに「とにかくぶちあげたれ」的な方針の決定権を持った人が居るのかもしれません。
大手企業の製品が市場の大半を締める中では、そうした考えや危機感もあるのでしょう。ですがその姿勢が反感を招くことに繋がり、どんなに良いものが出来てもこの会社の製品は飲みたくない、という残念な状況が変わることはない、むしろアンチの増加に繋がる可能性も考えられます。
自分はウイスキーは味が一番重要なファクターだと思っていますが、嗜好品である以上、作り手の想いや姿勢、歴史など付随する様々な情報を無視していいわけではありません。逆にそうした面を重視する愛好家もいます。
今回のリリースを飲んでの心境は「3歩進んで2歩下がる」。松井酒造が愛好家の信頼を得ていくには、まさにウイスキーが熟成する期間になぞらえ、荒さが穏やかになるよう真摯に誠実に製造・販売をして、長い時間をかけて信頼を回復していく必要があるのだと思います。
確かな一歩は感じることが出来ましたが、まだまだ時間がかかりそうですね。
コメント
コメント一覧 (9)
倉吉を置いているのを見ると
誰か反対する人はいなかったのか?
伊勢丹も正直落ちぶれたなと思います。
勘違いして買われていく
海外の方にも申し訳なく思います。
市の名称―倉吉
県の名称―鳥取
社 名―松井
と名前を付けてきて、自社で蒸留した原酒のみで商品化するときに何て名付けるのかなぁ?
上古川?
倉吉Z?
真倉吉?
現行品の名前そのまま継承させたりして(笑)
バタピーで例えるなら、落花生(中国産)塩とバター(国産)の国内加工と表示すべきところを鳥取県産バターピーナッツと表示しているのに等しく、個人的には産地偽装のフェイクボトル同等と思っています。まあ、スコッチウイスキーと名乗れない未完成のニューポットや3年未満のニューメイクのバルクを購入して日本国内で3年以上熟成させたのなら、国産ウイスキー(ジャパニーズではない)の表示はokだとは思いますが…。
少なくとも海外で日本のクラフトメーカー全体が悪いレッテルを張られないことを祈っております。
余談:原酒不足が叫ばれている昨今ですが出荷量は出荷ピーク時の3割強だそうです。残り7割弱は言わずもがなですがこれが原因でウイスキー冬の時代が到来したと考えると自分の首を絞めるようなことは避けた方が無難かと。
おまけ:スコッチウイスキーを海外で3年以上熟成させた場合はアウトランド(越境)ウイスキーと表記しているようです。
この原産の問題ずっと気になっています。
ちょうど良い機会なので、経済連携協定での原産地の定義を例に輸入原酒を使用した場合の例を書きます。
日ASEANでは、輸入変性アルコール(80度以上)からの製造は日本原産にはみなされない。それ以外で4桁でHSコードの変化が必要。
ただし、(計算式は省きますが)販売価格に非原産品のコストを除いて、40%以上の付加価値が付いていれば原産となります。
乱暴に言えば、輸入原酒コストに比べて販売価格を高くすれば、クリアできることになります。(そう言えば、あれは値段高いですね。)
一方TPPは異なる条件で、HSコードでの変化は問わないが、「非原産原料に含まれる総アルコール量が産品の総アルコール量の10%を越えないこと。」となっています。
アルコール換算で一割以上の海外原酒は混ぜられないことになっています。
二つ以上のFTAがあれば、条件が選べるのは難点ですが、お土産は別として、商業的な輸出ではかようなルールがあることはメーカーは知っているはず。
すなわち外国産原酒をある割合以上使用すると、TPPしか使用できない国には日本産とはできません。
日EUについては、リンク切れだったので、また見ておきます。
日EUも調べてみました。
日EUでは2307及び2308以外からで4桁ベースの変更が必要なので、輸入ニューポットや輸入ウイスキーからの製造では原産は認められないようです。(輸入麦芽からの製造は制限無い。)
ワインやブドウ蒸留酒の原料のブドウやブドウジュースも完全原産と言っているので結構厳しいですね。
日本はウイスキーの関税がありませんが、EUは日本のウイスキー 15%の関税があるようです。何年かかけてか、即時撤廃かまで読めていませんが、いずれにせよEU向けの拡販が予想され、ジャパニーズは増設分も輸出の伸びで消化されそうです。
以上、端折りましたので分かり難かったらすみません。
サクラカスク、ミズナラカスクと特徴、香りの違いを堪能できました。
鳥取県人として、良さを宣伝して参ります。
よりかおり
サクラカスク、ミズナラカスクと特徴、香りの違いを堪能できました。
鳥取県人として、良さを宣伝して参ります。