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今更書くまでもないと思いますが、自分はテイスティングスキル向上のため、率先してブラインドテイスティングを行うようにしています。

ブラインドテイスティングは、通常のテイスティングと何か異なる観点を持つわけではありません。ただしラベルからの情報がないので、このブランドならこれがあるという事前の予測と補正が出来ません。
結果、素の感想が出るのは、言い換えれば感じることが出来た要素と出来ない要素が確認できる、テイスティングのブレや穴を認識することが出来る機会とも言えるわけです。


ブラインド推進派を公言しているのもあって、ウイスキー仲間やブログ読者の皆様から"挑戦状"をぶっこまれたり、個人開催のブラインドテイスティング会に誘ってもらったりと、様々な機会を頂いています。
その結果か、最近は正答率も上がり、やらかす機会も減ってきました。

同時に「テイスティングで何を意識しているか」、「ブラインドテイスティングのポイントは何か」ということも度々話題になります。 
そこで今回の記事では、そのテイスティングイメージを、ブラインドテイスティングの流れに合わせる形で記事にまとめてみます。
こうしたアプローチは個人個々、様々な考え方があるものと思いますので、これが正解と言うつもりはありません。
ただ、説明することで考えがまとまりますし、新しい考え方も取り入れてもっともっと上達していきたいなと。。。
皆様におかれましても、テイスティングに関する考え方のご意見を頂ければ幸いです。 


①テイスティングのポイント
ブラインドではいきなり銘柄や蒸留所を絞り込むようなことはせず、香味構成や、そこから得られるイメージから、以下の項目をそれぞれ個別に絞り込むところからスタートします。
これはオープンテイスティングでも共通する要素であり、地域に見合ったキャラクターはあるか、樽の構成はどうかなどを考えるのは、好みかそうでないか以外に少なからず意識するポイントだと思います。

・地域※
・熟成年数
・蒸留時期
・樽構成
・度数
・その他(加水の有無、特徴的な個性など)
※ブレンデッドと判断される場合は、使われている原酒のどの地域特性が一番強いか。
   
その際、ノージングで香味構成の全体像はおおよそ判断出来ますが、グラスの形状に加え、空間の"匂い"や"気温"などの影響も受けるため、実際に飲んで味わいと含み香から各情報を補正する必要があります。
一部、香りだけで判断できる蒸留所もいくつかあります。ですが、それはかなり狭義なもので、青リンゴとかピートとか、広義な要素から安易に絞り込むのは事故の元。そうやって決め付けて、時に邪推しながら他の項目を予想すると、大概やらかします(笑) 


②得られる情報の整理と捉え方
飲んだ際に得られる情報には、そのまま理解出来るものと、いくつかの要素を踏まえて予測したほうが精度が高まるものがあります。 
前者は"ざっくりとした樽構成"、"度数"、"加水の有無"、そして"酒質の整い具合"です。

樽構成の認識は、まずはシングルカスクで該当する樽構成のウイスキーを飲み、それぞれの樽の個性の傾向を理解しておくことが必要です。
その上で、バレルなのかホグスヘッドなのか、ファーストフィルなのかセカンド以降なのか、複数種類が使われているのかなどの詳細な分析は、後述する熟成の考え方をもとに深掘りすることになります。

度数の捉え方は、ウイスキーの粘性で見るとか、香味のアタックの強さで推定するとか、スタイルは様々あるようですが、自分は"飲み込んだときの喉や口奥のヒリつき具合"で判断しています。
ボトルによっては、度数が低くてもアタックの強さがあるボトルがあったりしますが、不思議と飲み込んだ後に感じる刺激は、度数と比較して一番ブレ幅が少ない印象です。

そして加水の有無については、例えば同じ度数でも度数落ちの43%と加水の43%では、香味の広がり方を始めキャラクターが異なるため、香味の中間での開き具合、口当たりで感じられる質感といった点で推定しています。


例えば、上はシングルカスクで度数落ちのウイスキー(青線)と、加水調整済みのウイスキー(赤線)の、香味の広がり方をイメージした図になります。
度数落ちは口当たりがシャープで、パッと香味が開くのですが、余韻にかけては長続きしない傾向があります。これは熟成によって酒質のボディが削られ、所謂線の細いタイプに仕上がっていることが多いためです。

一方で加水調整した場合は、口当たりの角が取れ、余韻の香味も残りやすくなりますが、効きすぎると中間の変化が消えてしまい、あまり香味が広がりません。
こののっぺりとしたような質感は、強制的に整地されたようにも感じるため、度数落ち=獣道、加水=整地・舗装した道路を、それぞれ歩くようなイメージを持っています。

こうしたイメージを整理することは、熟成に伴う酒質の整い具合を判断する基準にもなります。
加水で無理やり整えたのか、熟成を経てバランスよく整ったのか。。。あるいはまだ若く元気いっぱいなのか(下図)。
近年ではカヴァランのように最初からクセの少ないクリアなニューメイクを作り、早熟でリリースするスタイルが増えている印象があります。
ですが長期間の熟成を経ないと得られない要素、質感はあり、次章ではそうしたウイスキーの熟成由来に関する項目を深掘りします。


③熟成がウイスキーに与える影響
さて、残る項目である"地域"と"熟成年数"
そして前章から引き継ぐ"樽構成の詳細なの推定"は、ブラインドテイスティングにおいて最も経験値が必要な領域であり、ウイスキーの熟成に関する知識が問われる、いわば応用問題です。

熟成年数を予想する際、ありがちな間違いとして「色が濃いから熟成も長い」という考えがあります。 
確かに、カラメル添加やウッドチップなどのイレギュラーを除けば、熟成しないと色はつかないため、目安の一つにはなります。
ですが、精度をあげるにはそこからもう一歩踏み込む必要があります。


上の図、C-①からC-③は、異なる地域に置かれた樽から原酒に溶け出る樽のエキスの量を、熟成年数を横軸にまとめたものです。 

例えば、C-①を台湾、C-②は日本、C-③はスコットランドとします。それぞれ気候が異なる中で、明確に違うのは気温です。
日本は最高気温で30度をゆうに越えますが、スコットランドは20度に届かない。台湾はもっと温暖ですね。
樽材は温度が高いと膨張してエキスを多く出すため、樽の出方は地域によって差が出ることになり。。。これは同じ日本やスコットランド国内でも、鹿児島と北海道で気候が違うように、南ハイランドと北ハイランド・オークニーでは同様に樽の出方が違う傾向があります。

この図で言えば、C-①で10年程度で到達する樽感は、C-③の環境では40年必要ということになり30年も差が出ます。 その時間差は基準とする環境次第ですが、実際そうした原酒が普通にあることは、説明は不要でしょう。 
この熟成期間との関係は樽の種類によっても異なり、例えばファーストフィル(茶線)とセカンドフィル(黄線)では以下のような違いとなって、原酒に現れる傾向があります。

(同じ熟成年数のスコッチモルトでも、樽の種類によって色合いは全く異なる。)


では熟成地域と年数を正しく判断する上で、もう一歩踏み込むとはどういうことか。それは"樽のエキス"に加え、"溶け出た樽材の量"を香味から判断することが一つ目のポイントになります。

先程からグラフに赤い点線がありますが、これが"溶け出る樽材の量"の熟成年数での変化とします。
樽が溶けるとはどういうことか。それを説明するには熟成の概要についても触れておく必要がある訳ですが、ウイスキーを熟成する際の樽を通じた影響は、ざっくり以下の図のように分類出来ます。

(ウイスキーを入れた樽の断面図。左が熟成開始時、右が熟成後)

①樽の呼吸を通じて原酒の一部成分が外に放出される。
②樽材が原酒の一部成分を吸収する。
③樽の呼吸を通じて外部の空気が取り込まれる。
④樽材からエキスが出る、樽材そのものが溶ける。

ここでのポイントは④です。
熟成によって得られる樽感は、樽の材質が持つ成分と、ワインやシェリーなど染み込んでいた成分(エキス)が原酒に溶け込むだけでなく、樽材そのものが溶け出て"樽由来の香味"を構成しているのです。
この樽材そのものが多く溶け出ることで、味わいのドライさ、ざらつきなどが変化してきます。

樽材が溶ける量は、樽詰め度数や地域差などで多少違いはあっても、エキスほど大きな差はないと感じています。
そのため、この2点に注目してウイスキーを整理すると、飲んでいるウイスキーがC-①から③のどれに該当するのかが見えてくることになります。
また、小さい樽であればあるほど貯蔵量に対する接触面積が増えることから樽材が溶ける量は多くなるため、バーボンバレルとホグスヘッドの違いなど、同一分類のカスクサイズの判断材料にもなります。(本編とはあまり関係がないですが、ミニ樽による長期熟成が難しい理由の一つでもあります。)

もう一つ、熟成を判断する材料となるのが酒質の変化です。
樽熟成による影響を通じて、ウイスキーは樽感を得る一方で、持って生まれた要素は良いも悪いも含めて徐々に失っていく。つまり、熟成は"何も足さない何も引かない"ではなく、"足し算と引き算の同時進行"であると言えます。

図中のB-1は元々酒質が強かったもの、B-2は酒質がそこまで強くないもの。例えばラガヴーリンとブナハーブンとすれば、伝わるでしょうか。
ブラインドテイスティングの場合、飲んだ際の口当たりの滑らかさや、香味の広がり方、ボディの強弱などから熟成年数を逆算してイメージする必要があるため、ウイスキーそのものの経験値がより強く求められることになります。

熟成による足し算と引き算の図をまとめると、上記のようにウイスキーによって様々な条件があることがわかります。

それを認識する為には、日頃から若いウイスキーも長期熟成も幅広く飲み、ウイスキーの香味分類以外に、このウイスキーはどういう素性や位置付けのものなのか、らしさはあるのかという点を意識しておくことが上達の近道なのかなと思うのです。


④シングルカスク以外のウイスキーのイメージ
シングルカスクに限定するなら前章までで話は終わりですが、ウイスキーはそれだけじゃ無いですし、もうちょっとだけ続くんじゃ、ということで。

ブレンデッドやシングルモルトウイスキーの場合、樽や原酒が複数種類使われることになるため、シングルカスクのものよりも個性が掴みづらくなる傾向があります。
バーボンバレルとバーボンホグスヘッドなど、近い種類の樽が複数混じって加水されていたりする単一系統タイプはまだマシですが。。。多数の樽が混じって味もそっけも無いグレーンまで大量に加わっているようなブレンデッドの場合、樽構成に関する難易度は一気に上がります。

酒質がちょっとブレるというか、異なる盛り上がり方をする箇所があるというのが同一系統複数樽のイメージ。

赤線は多種多様な原酒が使われたミドルエイジのブレンデッドスコッチ。青線はグレーン増し増しでベースもよくわからない安価なブレンデッドウイスキーのイメージ。

こうしたウイスキーで混ざり合った原酒を一つ一つ分解して分析するなど、今の自分では困難です。
なのでオフィシャルスタンダードのブレンデッドとかを、条件無しのブラインドで出されるほうが、加水も効きまくってるし樽も取りづらいで、正直辛いですね(汗)。

ただ、前章までにまとめた観点から見ると、アタリをつけて行くことは出来るため、後はどこまで深掘り出来るかということになります。
おそらく、ブラインドテイスティング推進派にとっては、課題の一つになることは間違いない領域です。


⑤テイスティングスキル向上のために
さて、上述のように、各項目を個別に考えて整理しろと言っても、取っ掛かりがなければナンノコッチャという話。
その最初のステップになるのが、樽由来の香味の理解です。
それがあると、酒質由来の香味が整理できるようになり、熟成感が。。。と繋がるわけですが、そのポイントになるのがシングルカスクのウイスキーを数多く飲むことだと考えています。 

例えるならオーケストラ。複数の樽や原酒を使ったシングルモルトやブレンデッドは、多くの個性があるため、何がどれ由来なのか紐解くことが困難です。オーケストラを初めて聴いた人が、後で「あの楽器の演奏良かったよね?」と言われても、話についていけないのと同様で、しかしソロパートに限れば話は別です。

日本では各メーカーやインポーターの努力で、様々なボトラーズリリースが流通していて、素性の明確なシングルカスクの調達には事欠きません。また、近年では単一種類の樽で構成されたオフィシャルシングルモルトも増えてきました。

まずはバーボン樽の傾向、シェリー樽の傾向、それと熟成年数をセットという感じで、それぞれの項目ごとに自分の基準をつくることがテイスティングスキル向上に繋がると考えます。
他には、自分でもブレンデッドを作ってみるとか。最近流通が増えてきているウッドスティックを使って樽の成分やそのものがどう溶け出るのかを経験してみるなど、理解を深めるツールは我々の周囲に数多くあると思います。
まだまだ自分も試行錯誤しながら、色々試していきたいですね。


⑥最後に
長々と書いてしまいました。ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。
考えてる内容は一通り網羅したつもりですが、わかりにくい表現などは、今後何度も読み直して微修正を加えていくつもりです。

また、今回まとめたような考え方を全飲み手に強制するものではありません。
大事なのは自分に合うか合わないかという直感的なものであって、美味しく楽しく飲めればいいじゃないか、難しく考える必要ないという意見も当然あると思います。
かくいう自分も年中神経を尖らせてテイスティングをしているわけではないですし、お酒を主役にせず、ロックで飲みながら映画を見たり、潤滑油がわりに場の雰囲気まで楽しむような飲み方をするのも大好きです。

ただ、あくまで自分の目指すところとして、ウイスキーが個性を楽しむ酒であり、その個性がウイスキーの魅力であるならば、それを理解したいし余すところなく味わいたい。
そうすると、やはり精度の高いテイスティングスキルはあったほうがいい。レビューブログもやってますしね(笑)。
今日ここに書かせていただいた記事は、そんな自分の考え方のまとめにして、マイルストーンの一つなのです。


追記:本記事を書いていたところ、ブログ読者のWさんから、ブラインドテイスティングサンプルを頂きました。
タイミング良すぎでしょ(笑)
こんな記事書いて、「マイルストーンなのです(キリッ」で締めた直後に、いきなりやらかせない・・・。
いやいや、プレッシャーは最高。こういう時こそ、一層集中できるというもの。順次トライさせて頂きます!