深野酒造 深野ウイスキー12年 41.5% Cask No,277
FUKANO WHISKY
FUKANO SHUZO
12 years old
Cask No,277
Number of Bottles Produced 457
750ml 41.5%
FUKANO SHUZO
12 years old
Cask No,277
Number of Bottles Produced 457
750ml 41.5%
グラス:木村硝子テイスティンググラス
場所:自宅セミナールーム
時期:開封直後
暫定評価:★★★★★★(6)
香り:ややえぐみを伴うチャーオーク系のウッディネス。新築家屋のようなツンとした刺激のある木香だが、スワリングすると蜜っぽい甘み、メープルシロップ、キャラメリゼのような若干の焦げ感を伴う。
味:口当たりはスパイシーでウッディ、序盤はドライというか少々刺々しいが、メープルシロップを思わせる甘みと、後半は柔らかい膨らみを感じる味わい。余韻は蜜っぽい甘さが舌に残る。
樽の影響が強くもはやバーボン。チャーした樽由来のウッディーな甘みとタンニンが主体的で、余韻に掛けて膨らみ、丸みがあり、下手なバーボンより良い仕上がりを感じる。カスクナンバーとボトリング本数から考えると、シングルカスクだろうか。
アメリカで販売されている日本製のウイスキー・・・まさか飲めるとは思いませんでした。
正直なところ、これを「ウイスキー」でカテゴライズすることは悩ましくもあるのですが、前向きに言えば今アメリカ市場の中で芽吹きつつある新しい可能性であり、"毒にも薬にもなる"、そんな表現が当てはまるのが、今回のボトルです。
このウイスキー、原料は米です。
一見すると、また新手のクラフトディスティラリーが創業して、米を原料にウイスキーを造ったかのようにも見えるのですが、これはライスウイスキーではなく元々米焼酎として造られたものです。
製造者は熊本県にある深野酒造。この酒造のメインは焼酎で、樫樽で熟成させた麦焼酎などをウリにしている模様。そして最も重要なことは深野酒造が「ウイスキー製造免許を取得していない」ということにあります。
ウイスキー製造免許無く、なぜウイスキーが造られて販売されているのか。
製造者は熊本県にある深野酒造。この酒造のメインは焼酎で、樫樽で熟成させた麦焼酎などをウリにしている模様。そして最も重要なことは深野酒造が「ウイスキー製造免許を取得していない」ということにあります。
ウイスキー製造免許無く、なぜウイスキーが造られて販売されているのか。
これを大雑把に説明すると、日本の酒税法下では「焼酎として作られたもの」、あるいは「焼酎として本来販売できない特定条件を満たしてしまった蒸留酒」が、アメリカの酒税法下では、米や麦などの穀物を主原料としたウイスキーに該当するため、ということになります。
(イギリスではスピリッツであるニューポットが、熟成年数の定義を定めていない日本で「ウイスキー表記」となるのと同様。)
今回の深野ウイスキー以外には、大石やkikoriなど「日本では焼酎、輸出した先のアメリカではウイスキー」、そんな法律の違いを利用したブランドが、世界的なジャパニーズウイスキーブームの影響を受けて増えているのです。
話を聞く限り、方法を考えたのは酒造側ではなく商品企画を行う商社側のようです。
酒造側は、あくまで自分たちは焼酎を作っているだけというスタンス。ここに上述の、"毒にも薬にもなる"という話が関わってきます。
以前、有明産業さんの取り組み「樽スキー(Tarusky)」を紹介した際にも触れていますが、日本の焼酎蔵には樽による長期貯蔵によって色濃くまろやかに仕上がった焼酎が数多くあるそうです。
それらは日本の酒税法下では光量規制の関係などから焼酎として販売できないため、別なものを混ぜてリキュール区分にしたり、若い焼酎と混ぜて色を薄めたり、あるいはフィルタを強烈にかけたりして焼酎として販売できるように調整しているのだそうです。
勿論、そのほとんどが本来樽出しで持っているはずのポテンシャルから遠のく仕上がりになることは否めません。
そうした熟成焼酎が、そのままの形で陽の目を見ることができる機会。その意味では、この話は焼酎業界のとって「薬」ですし、新しい可能性だと思います。
他方で、法的には問題ないとしても、ウイスキーとして作られていないものをウイスキーとして販売する行為には疑問が残ります。
焼酎として販売できない熟成酒を販売するための手段として、あるいは現地酒税法上の整理としてウイスキー区分になることは100歩譲って仕方ないと理解しても、ろくに熟成していない普通の焼酎でもこの解釈を適用できてしまうことが、ウイスキー業界にとって「毒」にもなり得る話なのです。
今回、ウイスキー仲間Aさんのご厚意で、現地に流通する大石、深野酒造の"ウイスキー"を逆輸入し、テイスティングさせていただいたわけですが。ただの焼酎ベースでジャパニーズウイスキーの名を語るだけの閉口モノな銘柄もあれば、この深野ウイスキーのように「ブラインドで出されたらバーボンと変わらない、っていうか普通にうまい」と感じるものもあるということがわかりました。
究極的には「美味けりゃいいのだ」で、片付くのかもしれません。
実際、コーンほど軽くもなく、麦ほど主張が強くない、独特な丸みと柔らかさを持ったこの味わい。自分は焼酎をあまり好きではないのですが、新しい可能性に目からウロコです。
深野ウイスキー12年、仕込まれた時期はウイスキーブーム冬の時代、狙って作ったものではないことも事実でしょう。
だからこそ、ウイスキーをメインに語ることなく、堂々と焼酎表記もした上で味で勝負してほしくもあるわけですが、世の中良いものが必ずしも手に取られるわけではないことも事実。長々と書いてしまった今日の記事そのままに、すっきりしない心が自分の中に残りました。
この件については、後日もう少し詳しくまとめたいと思います。
コメント
コメント一覧 (8)
一つのお酒としてみた場合、日本において、このお酒をどうあれそのまま
(フィルタや何かを添加するなどせず)
商品に出来ないというのであれば、おっしゃるように苦肉の策とはいえ間違いなく、薬、
良いことのように思います。
日本では商品に出来ないけれど、アメリカでは出来る。
その場合のアメリカにおいての区分がウイスキー以外に適切な呼称がないのであれば、
それは必然ではないでしょうか。
ただ、おっしゃるように、法の網をかいくぐる行為にも等しいので、悪用も出来る・・・というのも
事実だと思います。
せめて、日本で焼酎として販売できるものは焼酎として輸出していただきたいところです。
そうでなければ焼酎という文化の否定につながりそうで、ウイスキー、焼酎双方にとって
良い事だとは思えないからです。
決まりごとがなければ粗悪品が氾濫してしまう・・・その決まりごとが枷にもなってしまう・・・
難しい問題ですね
多分この方が書いてる事は事実なんでしょうがくりりんさんも書いてるように自分としては「ウイスキーとして作られていないものをウイスキーとして販売する行為」にはかなり疑問を覚えます。と言うか、海外では「ジャパニーズウイスキー」として売られているものが日本ではウイスキーとしては売れないってのはどう考えてもおかしい気がするんですよねぇ…まぁ、これも定義とかが明確に決まってないからではあるんですが。
焼酎と言えば九州ですが、高千穂零は焼酎としての味を洗練させたもので中々良いものでした。これがすっきり系の次世代の焼酎とすると古典的な甘味系の焼酎には諸塚村の園の露だったか何だったか、30度くらいのものがあります。高千穂町では樽に入れて熟成させる焼酎もある様ですが、あくまで焼酎でありまして、豆腐の味噌漬けとウズラの炙りとコケモモの実で飲むのが一番旨いような酒なのです。豆腐の味噌漬けがチーズに近くなると言っても、樽熟成でウイスキーの香味が得られると言っても、両者は別のものです。日本酒はよくワインと比べられますが、江田島の同期の櫻のいいもので20度くらいあるものはシェリーかポートかという位の濃厚な香りと甘味がありましたがそれでも日本酒に違いはなく、蔵元も当然ながらそう分類して売っています。
レントシーキングではなくて、真面目に熟成の期間や味や用途を使い分けて経営を安定させながらもしっかりした品質のものを作るか、ごく狭い顧客に昔ながらの上質なものを売るか、そういう会社が、今後色々ある後には残って行くと個人的には考えてます。
麦焼酎などは原料は同じですから、樽熟の可能性は大いにあると思っています。
問題は国内だとそのままリリースができないってことなんですよね・・・。
おっしゃる通りです。
当時の経緯はわかりませんが、ウイスキーと焼酎を色ではなく、蒸留方法等で整理しなかった結果が、焼酎メーカーのみならず、昨今のクラフトウイスキーシーンでの混乱をも招く一因となっているとも思います。