カテゴリ:
IMG_5550
SASANOKAWA
ASAKA Peated Malt
No Aged (New Pot)
Mashing 2017.7.11
Distilled 2017.7.16
Bottled 2017.7.28
Phenol 50ppm
250ml 63.4%

【テイスティング】
柔らかい酸味と穀物を思わせる軽い香ばしさ、ほのかな甘み。奥から重みのあるピート香と、時間経過でニューポッティーな乳酸系と発酵香も漂う。
口当たりはシャープな刺激があり、そこから程よくコクのある甘み。香りではスモーキーな主張はあまり強くないが、味ではピートフレーバーが余韻にかけて焦げたようなニュアンスも伴って広がる。


安積蒸留所がリリースした、初仕込みのピーテッドモルトです。
操業から1年と少々、ついにピーテッド原酒の仕込みが本格的にスタートしました。
元々安積蒸留所の計画段階では、ピーテッドスタイルを中心に蒸留するという案も聞いていましたが、ご存知の通り、まずはピーテッドではない原酒作りからスタートしていました。 

この背景には、ノンピート(あるいは数PPM程度の超ライトピート)のほうが、原酒のベース部分の出来を確認しやすいという品質管理の面がひとつ。そしてもう一つが、普段ノンピート原酒を作り、1年のうちのメンテナンス期間前にピーテッドを作るというスタイルはありえても、ピーテッド原酒を作っていてノンピートに切り替えることは、蒸留設備への影響を考えると困難であるという、製造面の要素があるようです。

大手メーカーなら設備を切り替えるなど、同時平行で原酒を作ることも出来るのでしょうが、設備を一式しか持たないことが多いクラフトディスティラリーはそうはいきません。
実際、厚岸蒸留所など、2種類の原酒を作るクラフトは、このスタイルで操業されているようですね。

IMG_5552

さて、今回の初仕込みピーテッド原酒。安積蒸留所はノンピート原酒では素直で素朴なキャラクターのニューポットを作ることが出来ていましたが、ピーテッドモルトはまた違う難しさがあると聞きます。
そんなわけで「お手並み拝見といきますか」なんて若干尊大な気持ちでテイスティングしてみると、これが中々悪くない。ベースとしてはノンピート原酒同様酸味が強めながら、口当たりはシャープな刺激、嫌味の少ないプレーンなニューポッティーさに、ピートフレーバーが馴染んでいて、後はここからの成長次第というスタートラインに立っている原酒だと感じます。

スコッチに例えるなら、カリラ7:ラガヴーリン3くらいの比率で混ぜたようなキャラクター。
シャープな刺激もある香味はカリラのようであり、余韻にかけてしっかりと広がるピートフレーバーはラガヴーリンを思わせる要素に通じる。後は後述する植物的なニュアンスで、レダイグ的な要素も少し混じっている感じもあります。
近年、入手する麦芽の種類からか、ラフロイグを思わせる味わいのピーテッドモルトが一部クラフトからリリースされていますが、それらとは異なる仕上がりが期待できます。

ネガティヴ要素をしいて言うなら、酸味の奥に植物感、発酵した漬物というか、野菜のようなニュアンスが混じっているので、これが強くなりすぎると嫌味になるのですが、気になったのはその点くらい。 
そもそもニューポットは、産まれたばかりの今この瞬間より、その後の影響の方が将来の製品化においてウェートが大きく、一定のレベルがあって、"スタートラインに立てているかどうか"がポイントだと考えます。
そして我々消費者としては、今もさることながら、今後どう育つかという先も見据えて楽しむものかなと。

その先については、安積蒸留所が所有する樽で考えると、リフィルのシェリーバットやウイスキーカスクで10年熟成を目指すか、ファーストフィルバーボンなら3年くらいの短熟で出しても、ベースが素直なので短熟ピーテッドとして面白いかなという印象。逆に5年以上の熟成では、安積蒸留所の環境だと樽感が強くでるので、ピーティーさとチャーオーク系のフレーバーがこってりでた、濃厚なタイプに仕上がりそうです。
いずれにせよ、ここから数年先のリリースが楽しみです。



話は少し変わりますが、先日発売された雑誌Pen(11月15日号)に"ウイスキー最新案内"という特集が組まれています。
主要なクラフトディスティラリーの動向から、大手メーカーの最新リリース傾向、オールドボトルの特集など、非常に充実した内容で、自分の周囲のウイスキー愛好家からの反応は上々。
通常この手の特集は、どうしても大手メーカーの関与を邪推されがちですが、それよりも書き手の愛というか、現場の空気感がしっかり伝わる特集だったことが、評価される要素にあったようです。

この特集の中には安積蒸留所の取材記事もあり、今回のニューポットのテイスティングとしてもジャストタイミングでした。
まだお会いしたことはないのですが、安積蒸留所のクラフトマンは私と同世代。記事中から、日々悩み、考え、工夫しながらウイスキーづくりにあたられている姿と、今回のニューポットを重ね、その真摯な努力が実を結びつつあるのだなと、合わせて楽しむことが出来ました。
今後も引き続き地元に愛され、世界に評価されるようなウイスキーを目指し、頑張って欲しいです。