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KOMAGATAKE
Mars Whisky
Aged 30 Years
Distilled 1986
Bottled 2016
Cask type American White Oak
700ml 61%

グラス:木村硝子テイスティンググラス
量:計30ml程度
場所:BAR飲み+自宅
時期:開封後2ヶ月程度
暫定評価:★★★★★★★(6ー7)

香り:華やかで濃縮したようなウッディネス、ややドライな香り立ち。強い木香はまるで檜風呂、あるいはバンガローの中にいるよう。胡桃やカシューナッツなどのナッティーさ、ハーブ、徐々にアプリコット、ドライパイナップルの甘酸っぱさに加え、微かに燻したような薫香も混じる。

味:とろりとした口当たりから強くウッディー、松ヤニや無骨な木のフレーバーにドライパイナップルや林檎の果実感、ほのかに蜂蜜、徐々に土っぽさを伴う。ボディはしっかりとしており、樽香は強いが綱渡りのようなバランスを保っている。
余韻はドライで乾いたウッディネス。ピート香が木香の奥からじわじわと立ち上ってきて長く続く。

とにかく木の香味である。加水するとえぐみが多少出るものの、味わいはパイナップルやピートなどのストレートで感じた要素がそのまま伸びてくる。樽由来のフレーバーを濃縮したような香味は確実に好みを分けるが、ジャパニーズウイスキーらしさを突き詰めた形の一つであると感じる。 


昨年、本坊酒造ことマルスウイスキーが発売した、シングルモルト駒ケ岳の最長熟成品となる1本。
1986年に蒸留され、アメリカンホワイトオーク樽で熟成されてきた原酒4樽をバッティングした、同蒸留所の歴史が詰まったリリースです。
というのも、信州蒸留所は1985年に竣工、操業を開始しており、今回リリースされた原酒はほぼ創業当時から貯蔵され続けてきた原酒が使われているという事になります。
その間、1992年には信州蒸留所が操業を休止し、2011年に再び蒸留を再開、そしてウイスキーブームの到来・・・紆余曲折を経ているわけですが、そのあたりはまた別な機会にまとめるとして、肝心の香味のほうに触れていくとします。

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(2011年2月、蒸留を再開した当時の信州蒸留所の蒸留器。現在は新しい蒸留器に交換されており、この蒸留器は屋外に展示されている。どこか余市のそれに近い形状で、今回テイスティングした駒ケ岳は、この蒸留器の初期の原酒に当たる。)

テイスティング中にも書いたとおり、基本的には熟成に使われたアメリカンホワイトオーク樽由来のフレーバーが非常に濃く、樽材を舐めているような印象すら受けます。
スコッチモルトではあまり見られないこの熟成感は、使われた樽もさることながら、やはり熟成環境の気温、湿度の違いだろうなと感じるところ。余市、宮城峡、羽生、いくつかの国内蒸留所にも同様の傾向が見られ、この熟成感がジャパニーズウイスキーらしさの一つと言えます。

その濃いフレーバーをなんとか受け止め、ギリギリ形にしている駒ケ岳の酒質は、癖は少ないが厚みのあるタイプ。度数が高いこともプラスに作用し、この30年はギリギリのところでバランスを保っています。
また、複数樽バッティングであることが複雑さ、味わいの奥行きに貢献しているように感じます。
樽香の強さゆえ、多くの量を一度に飲もうとすると鼻も口もすぐに飲み疲れてしまいますが、少量を口に含んでゆっくり転がすと奥から果実味が開き、ピートフレーバーと合わさって味わい深い構成。 1分1年、信州の森の中に佇む蒸留所の姿を思い浮かべ、30分くらいかけてゆっくり飲んで良い、そんなウイスキーだと思います。


かつて本坊酒造は、竹鶴政孝の実習ノートを元に、鹿児島、山梨の蒸留所でピーティーでヘビータイプのウイスキーを製造。この信州でウイスキー事業を行うにあたっては、日本人向けのライトな味覚に合わせたスタイルのウイスキーを作るつもりだったそうですが、出来上がっていたのはこれまでリリースされた様々なボトルの通り、中長期熟成向けの原酒だったようです。 

蒸留に関するノウハウも確立していなかった時代だけに、手探りで行うことも多かったのでしょう。
確かに鹿児島時代に比べて癖は少なく洗練されていますが、ライトスタイルを目指しながらピーテッド麦芽が使われているのも、蒸留所の系譜と、同タイプの麦芽の方がノンピートより安かった、この2つの側面に時代を感じます。


このボトル、最初は日本橋のIANさんでテイスティングしたものの、日本で30年という予想通りあまりの樽の強さに閉口気味。その後ウイスキー仲間のIさんから小瓶を頂き、改めてゆっくり家飲みしたところ、熟成年数が織りなす味わい深さ、上述の様々な要素を感じ取ることが出来ました。ありがとうございます!