ジャパニーズウイスキーに今後必要だと思うこと
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- ジャパニーズウイスキーの基準
松井酒造のピュアモルトウイスキー倉吉に関する話題を皮切りに、そこに潜むジャパニーズウイスキーの現状や課題をまとめてきました。
今回はそれらを背景として、ジャパニーズウイスキーに今後どうなってほしいのかという自分の意見をまとめ、一連の記事の締めとします。
第1回:松井酒造 ピュアモルト倉吉に見るジャパニーズウイスキーの課題
http://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1060015284.html
第2回:ジャパニーズウイスキーの現状とバルクウイスキー
http://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1060053301.html
まず、自分の考えの大枠から述べていきます。
バルクウイスキーの一件については、これまでもブログ上の記事で述べてきたように、高品質なものであればどんどん使って、日本だから作れる「ウイスキーとしての美味しさと魅力があるウイスキー」を安定して提供し続けることが第一だと考えています。
そして真に淘汰すべきは「その場しのぎで作るような低品質なウイスキー」であり、これらを実現する仕組みこそ、今この瞬間日本のウイスキー業界に必要なことであると思います。
もちろん、これはジャパニーズウイスキーの基準を作るという動きを否定するものではありません。
そして真に淘汰すべきは「その場しのぎで作るような低品質なウイスキー」であり、これらを実現する仕組みこそ、今この瞬間日本のウイスキー業界に必要なことであると思います。
もちろん、これはジャパニーズウイスキーの基準を作るという動きを否定するものではありません。
海外から買い付けた原酒を使って作ったブレンドが、ジャパニーズウイスキー名称を使えるかという疑問はそのとおりで、「日本で3年以上の熟成を経ている(スポーツ選手でいう帰化している感覚)」とか「海外原酒の割合を全体の半分以下とする」とか、あとはバルクの使用に関するラベル表記などの基準はあって良いと思います。
ただ、ブレンデッドウイスキー(モルト含む)については、飲みやすさやその完成度を優先する傾向があり、まったく無関係な歴史上の人物や建造物などの名前がつけられているものも多く、きちんとした整理の中であれば、海外原酒を完全に否定する必要も無いと感じます。
ただ、ブレンデッドウイスキー(モルト含む)については、飲みやすさやその完成度を優先する傾向があり、まったく無関係な歴史上の人物や建造物などの名前がつけられているものも多く、きちんとした整理の中であれば、海外原酒を完全に否定する必要も無いと感じます。
(実際、そうした商品もリリースされています。)
それがバルクとして日本に入ってきた際、"バルクシングルモルトで擬似国産シングルモルト"など、更なる混乱に繋がるようなリリースが行われる可能性も否定できません。
2020年にかけてはビックビジネスチャンスがありますし、上述のブレンデッドと合わせて既存の基準は脆弱すぎます。
こうした混乱を未然に防ぐため「ジャパニーズシングルモルト並びにそれを意図する表記をするには、日本で蒸留、熟成を経たものに限る」などの基準を明確にして、現状の規制以上に将来に向けてブランドイメージを守る予防線を張る必要もあるのかなと考えます。
ただし基準を作る場合、それを作ることよりも徹底してもらうことのほうが難しい場合があります。
仕事上そうした調整に関わる事は少なくないのですが、今回の場合は今まで無いところに基準を作るわけですから、どうしても規制や制約に近い内容となり、どうやってそれを全メーカーに徹底させるのか、これが一番大きなハードルであると言えます。
ただし基準を作る場合、それを作ることよりも徹底してもらうことのほうが難しい場合があります。
仕事上そうした調整に関わる事は少なくないのですが、今回の場合は今まで無いところに基準を作るわけですから、どうしても規制や制約に近い内容となり、どうやってそれを全メーカーに徹底させるのか、これが一番大きなハードルであると言えます。
極端な話、完全に徹底させるには「法律を変える(または補足事項を付与する)」しかありませんが、非常に大きな話となります。
現実的なところでは、どこかの団体や企業が声を上げて、対外的には実績として認知されるも、実際守っているかどうかは不透明という形になるか、あるいは賛同する企業との覚書や共同宣言か。しかしそうなると基準に賛同しないメーカーも出てきてしまい、あらたな混乱と火種になる可能性もあります。
記事を書きながらずっと考えていましたが、一筋縄ではいかないことは明白で、多くの議論が必要であると感じます。
仮に法律を変えていけるとすれば、ジャパニーズウイスキーの基準に加え、酒税法第3条15項ウイスキーにおける(ハ)も改定する内容であってほしいと考えています。
【酒税法第3条15項ウイスキー(ハ)】
「イ又はロに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(イ又はロに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコール、スピリッツ又は香味料を加えた後の酒類のアルコール分の総量の百分の十以上のものに限る。)」
※イはモルトウイスキー、ロはグレーンウイスキーについてざっくりと書かれています。
ご存知の方も多い内容だと思いますが、 一例を挙げると、"アルコール度数50%のウイスキーを作る際、度数50%の原酒が10%、度数50%のブレンド用アルコールが90%の構成でもウイスキーと呼べてしまう"という、原酒比率を定めていた旧酒税法時代の名残です。
つまりこの項目が残ったままでは、仮にジャパニーズウイスキーの基準を作っても、90%がブレンド用アルコールでジャパニーズウイスキーというおかしな構図になってしまうのです。
かつて、日本のウイスキー業界の黎明期だった時期は、そうした基準でなければウイスキーを作れなかった背景や、日本人の味覚の問題もあったものと思います。
しかしいまや日本はウイスキー生産国の五指に数えられるようにもなり、世界的にも認められる状況になりました。
今こそ、旧酒税法からの完全な脱却が必要なのではないかと考えます。
しかしいまや日本はウイスキー生産国の五指に数えられるようにもなり、世界的にも認められる状況になりました。
今こそ、旧酒税法からの完全な脱却が必要なのではないかと考えます。
これは日本のウイスキー業界というよりも日本という国の問題でもあります。
さて、ずいぶん長くなってしまいましたので、最後にウイスキー業界がこうあってほしいという形を書いて、この特集の締めとします。
現在、日本のウイスキー業界はクラフトウイスキーメーカーの新設ラッシュ。 続々と新しい蒸留所が稼働していますが、それでもスコットランドの約10分の1程度であり、しかもほとんどが独立している形です。
さて、ずいぶん長くなってしまいましたので、最後にウイスキー業界がこうあってほしいという形を書いて、この特集の締めとします。
現在、日本のウイスキー業界はクラフトウイスキーメーカーの新設ラッシュ。 続々と新しい蒸留所が稼働していますが、それでもスコットランドの約10分の1程度であり、しかもほとんどが独立している形です。
今はブームが後押ししていますが、将来を見据えれば栄枯必衰で必ず「冬の時代」は来ます。
そうした時代に備え、お互いに原酒を融通しあって味に幅を持たせたり、海外への流通販路を確保する手助けをしたり、蒸留やブレンド技術、あるいは新製品の評価だったり・・・様々なモノを共有しあう、オープンな繋がりを今から構築しておく必要があると思うのです。
それこそ、やや安易ではありますが、クラフトウイスキー組合のような形を作り、冒頭述べたような「ウイスキーとしての美味しさ、魅力のあるウイスキー」を安定して提供し続ける仕組みに繋げて欲しいなと。
聞くところでは、イチローズモルトの肥土伊知郎氏は、新しく稼動するクラフトウイスキー蒸留所を尋ね、自身の経験に基づくアドバイスをされているそうです。
自社で全てを賄えてしまう大手企業には魅力を感じないかもしれませんが、これから続々と増えていくクラフトウイスキーメーカーは、こうした仕組みが必要なのではないかと考えます。
それこそ、やや安易ではありますが、クラフトウイスキー組合のような形を作り、冒頭述べたような「ウイスキーとしての美味しさ、魅力のあるウイスキー」を安定して提供し続ける仕組みに繋げて欲しいなと。
聞くところでは、イチローズモルトの肥土伊知郎氏は、新しく稼動するクラフトウイスキー蒸留所を尋ね、自身の経験に基づくアドバイスをされているそうです。
自社で全てを賄えてしまう大手企業には魅力を感じないかもしれませんが、これから続々と増えていくクラフトウイスキーメーカーは、こうした仕組みが必要なのではないかと考えます。
それこそ全企業が協力し合うジャパニーズウイスキー協会的なものがあっても。。。
何れにせよ長く日本のウイスキー業界が成長し続けられる流れになればと、いち愛好者として祈るばかりです。
今回、日本のウイスキー業界の現状と課題をまとめる記事を書いたわけですが、すでに多くのコメントを頂いているところ。この記事をきっかけに多くの議論が生まれ、様々な可能性の中から日本のウイスキー業界の将来を考えていく、その呼び水の一滴にでもなれれば幸いです。
今回、日本のウイスキー業界の現状と課題をまとめる記事を書いたわけですが、すでに多くのコメントを頂いているところ。この記事をきっかけに多くの議論が生まれ、様々な可能性の中から日本のウイスキー業界の将来を考えていく、その呼び水の一滴にでもなれれば幸いです。
【追伸】
前略、松井酒造合名会社様。
ウイスキー業界の現状としてここまで書いた上で、私も本音で一言申し上げます。
御社の書かれた思想、意見は賛同できる部分もございます。
しかしそうした理想を掲げるのであれば、周囲を納得させる味で示してください。
御社の姿勢が認められるか、ただの金儲けや言い訳だと非難されるかは味次第です。
現状が何方かはお分かりのことと思います。今後の商品が、我々をいい意味で驚かせる内容であることを期待しております。
コメント
コメント一覧 (11)
呑み手として、それに便乗するようなやからが出てくるのは許せません。
がんばって本物のジャパニーズウィスキーを作っている人達。全てのウィスキーラバーのためにも、粗悪品や紛らわしいネーミングの品物が出回らないよう、法規制は必要なのかもしれませんね。
くりりんさんの気持ち、良く伝わってきました。
メーカーが出した、ウイスキーについてといいう文章。
僕は正直、このようなメーカーに、ウイスキーについて語って欲しくないと思ってしまいました。ウイスキーが泣いていますよね……
本当に分かっているなら、倉吉蒸留所などと表記するはずがありませんから。
スコッチに失礼。本気で日本のウイスキーを作ってきた先人たちに失礼。
スコッチもジャパニーズウイスキーも互いに侮辱されているようで、かわいそうでなりませんでした。
お酒を本当に愛するなら、お酒に対して敬意をはらって、お酒の気持ちを考えて、自分たちがお酒に助けられていることを感じて、お酒を扱っていただきたいと思いました。
これからはどうか、嘘偽りのない、身も心も美しい、美味しいウイスキーたちだけが、日本を盛り上げてくれることを祈ります。
しかし私はそういう世界ではなく、玉石混淆でよりカオスななかを逍遙する事を好みます。昨今の投機狙いで購入した人は少し痛い目をみたことでしょう。過去には某大手メーカー製ブレンデッドの甘味果実酒添加、さらには糖分添加疑惑などがありますが、今となっては歴史的な興味深い出来事になっています。外国で育まれ育ったお酒なので、原酒がだめならモルトは、樽材は、ポットスティルは、酵母は…と止めどないですね。何せ国から規制をかけるのは好みません、勿論民間でとやかくいったり認定したりするのは大賛成です。
グレンリベットなんかは有名な話ですよね
(そもそもウイスキーは密造酒でしたし…)
そういった経緯を経て、今のスコッチのブランドが確立された歴史がありますから、
そういった意味では日本はまだまだウイスキー途上国なのかもしれません
今回の件は、ジャパニーズウイスキーというブランドを再考する良い機会かもしれません
ジャパニーズウイスキーブームはそうして海外の状況も同時に合わさったため、さらに加熱した感じがありますよね。
スコットランドでもカーデューピュアモルト事件など様々な問題があって、それを解決しながら成長してきましたから、日本もこれからそうした段階を経ていく必要があるのかもしれません。
ただ、法規制をするにしてもウイスキー業界全体に影響が及んでしまうため、落としどころはしっかり見極める必要がありますね。
業界の動きが良い方向に進むことを願っています。
コメントありがとうございます!
そこなんですよね。
プライドがあるかのように書いていながら、そうとは感じられない要素を端々に捉えているラベル、売り方が、少なからず消費者の反感を買っているわけですが、ブームと言う背景で我先にと売れてしまっているので、お墨付きを貰っているかのように感じているんでしょうね。
これが業界全体の動きを縛ることとなり、結果ブームの終焉、冬の時代到来とならないことを切に願います。
コメントいただきましてありがとうございます!
たしかにそうした考え方も出来ますね。
実際消費者も学ばないわけではないですから、一部のジャパニーズウイスキーは相応な価格までしか市場価値も上がらず、投機目的で購入された方で苦い思いをされた方は少なからず居ると思います。
他方で、こうした銘柄の問題から国内外で日本のウイスキーの消費が縮小し、評価されるべき銘柄まで過小評価されてしまうことが懸念事項です。
法的な整備にしても、もちろん丸々スコットランドと同じルールにしろとかそのようなことは考えておらず(そんなことをしたら一部の銘柄が発売できなくなるどころか、ウイスキーの価格が高騰します。)、自由にすべき競争分野はしっかり残し、最低限の整備だけは見直すべきというのが自分の考えですが、何れにせよメーカー側の動きを見ていきたいと思います。
おっしゃるとおりですね。
スコッチウイスキーもオールドボトルを見ると相当いい加減で、曖昧な部分が多かったように思います。
そうしてトライアンドエラーというか、メーカー間競争で自然淘汰される中で、こりゃさすがにいかんよなという問題については国が関与して、長い歴史の中でルールが整備されたように思います。
日本はまさにそうした時期に来たということかもしれませんね。
1990年代から2000年代前半までのウイスキー冬の時代を知るウイスキーファンとして、昨今のウイスキーブームは嬉しい反面、
浮かれすぎてやや軽薄な商売に走って、冬の時代に培った国産蒸留所の高い品質に対する名声を失いはしないかと、大変危惧しています。
ここは政治力もある大手2社が協力して、ジャパニーズウイスキーを定義する法制度の整備を政府に働きかけて欲しいと思っています。
マスコミにはそういう問題提起を発信して欲しいと思っています。
とりわけ、朝ドラのマッサンで空前のウイスキーブームを引き起こしたNHKには、ブーム後の責任もあると思います。
国産ウイスキーとはなにか?ジャパニーズウイスキーブームを喜んでいるだけで良いのか?将来に向けて何が問題なのか?
そういう問題意識を持って、世間に問題提起をして欲しいと思います。
コメントありがとうございます。
おっしゃるとおりですね、ただ現状が売れてしまっているので、そこで自分たちの首を絞めることになる基準作りにどこまで前向きになってくれるかは疑問もあります。
マスコミは・・・先日8月31日にウイスキー文化研究所がジャパニーズウイスキーの基準作り等に関するプレス発表を行ったということですが、記事になっていないようですから、まだまだ問題意識の波及が足りないのかもしれませんね。
当ブログでもタイミングを見てもう少し書いてみたいと思いますが、何れにせよ整理は必要な話だと思います。
そうすることで、消費者側のウイスキーに対する関心、知識も高まると思いますし、売上アップにつながる実績が出来てくれば説明のフォーマットも洗練、確立されてくるのではないでしょうか。
世界的に評価されているメーカーがリードしてくれないですかね。