ウイスキー特級時代とその魅力について(上)
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本ブログでもたびたび登場する「ウイスキー特級」として総称されるものは、言うまでもなく日本独自の制度です。
1989年4月以前、日本におけるウイスキー販売の現場では、2つの酒税が課せられていました。
1つは使われた原酒の量によって税金を定める従量税。もうひとつは価格によって税金を定める従価税。
「酒税負担の公平性」を掲げての制度でしたが、言ってしまえば2重課税であり、当時のウイスキー価格が今よりも高かった原因のひとつでした。
ウイスキーに限らず多くの酒類は、その国の酒税関連の法律の影響を色濃く受けます。当時の日本にはスコッチに限らずバーボン、カナディアンなどのウイスキーが輸入されており、それらは例外なくこの酒税法の影響を受けました。1989年の改正から26年が経った今日でも、当時の遺産に出会うことがあります。
今回は10月18日のオールドブレンデットテイスティング会に先立ち、会で取り上げるスコッチウイスキーを中心に、この制度についてもブログ記事にまとめます。
※本当はこれら全てテイスティング会までにまとめたかったのですが・・・。
仕事やなんやと色々あり、まとめきることが出来ませんでした。
1.従量税と従価税
当時の従量税では、ウイスキーを原酒含有率で3つの等級に分けて、それぞれの等級に応じた税金を徴収していました。この等級は、1943年から始まり、当時は第3級から第1級となっていましたが、2度の変更の末、1953年に2級、1級、特級へと変更されます。これが、皆様ご存知の"ウイスキー特級"です。
各等級で定める原酒(モルト、グレーン)の含有率は時代によって微妙に異なりますが、1962年の酒税法改定後は以下のように定義されています。
【各級別の原酒含有率】
2級:10%未満
1級:10%以上20%未満
特級:20%以上
特級であればあるほど原酒が多く使われており、一概に旨いとはいえませんが、質の良いウイスキーであるということになります。1962年以前は上から30%以上、30%未満5%以上、5%未満となっており、"3級5%未満"の響きは、マッサンを見られた方は耳に残っているかもしれません。
従価税については諸外国から厳しい批判の目で見られていたため、上述の従量税以上に多くの変更が行われています。そのためここでその税率の遍歴について語ると大変長くなるため、代表的な事例を紹介いたします。
1980年代中ごろの事例では、従価税は価格に対して150%、220%の2本立てでした。
【従価税の事例】
3000~4000円クラスの普及価格帯のウイスキー(ジョニ赤、カティサークなど)は、税率150%で徴収。
高級価格帯に該当するウイスキー(ジョニ黒、バランタイン17年等)ついては220%で徴収。
価格は外貨レートによって決まる部分もあるため、円安に振れると全てが220%になってしまうこともあり、輸入業者が通関を止めることもしばしばあったとか・・・。
これら従量税と従価税は諸外国から日本市場開放のための圧力を受けながら、多くの調整をもって続けられ、1989年4月1日の酒税法改正により、現在のアルコール度数によって税金を定める形式に変更されます。
2.ウイスキー特級の意義
1.で述べた内容は、ほぼ日本のウイスキーのための制度であったと言っても過言ではありません。
そもそもスコッチウイスキーは現地法律の下、3年以上の貯蔵年数、スピリッツカラメルと加水以外の混ぜ物不可という厳しいルールで製造されていました。2級、1級という区分は本来スコッチウイスキーには不要、今よりも輸送コストがかかる関係から従価税でもハンデがあったと言えます。
(一部なんの手違いが「1級表記」で輸入されたモノもありましたが、基本的には特級に該当します。)
ウイスキー製造の黎明期にあった当時のジャパニーズは、仮にモルト原酒やブレンド技術はスコッチと同等であったとしても、グレーン原酒は大きなハンデがありました。
日本で初めて本格的にグレーンが用いられるようになったのは、ニッカウイスキーのカフェスチル(1963年~)で、サントリーにいたっては知多の1972年稼動後です。当然そこから熟成が必要となり、量もすぐには揃いません。経験論ですが、日本の各社が真っ当なブレンデットを量産できるようになったのは、グレーンの質(熟成)と量が揃う、1980年代後半から1990年代に入ってからだと感じます。
それまではというと、荒々しいモルト原酒をブレンド用アルコールで割って香味を薄める、本場スコッチとは大きく異なる製法が取られていました。当時のブレンデットウイスキーを飲み比べると、個人の好みはさておき、同じ特級であっても風味の点、味の広がりなどでスコッチウイスキーより劣るものがほとんどです。原酒100%ウイスキーに対して、20%がモルトで80%がブレンド用アルコールと水のウイスキーってお察しくださいレベルです(もちろんふんだんに原酒を使って作られていたモノもありますが、一部高級品に限られます)。原酒含有率のさらに低い、1級、2級については比べるまでもありません。
また、1989年以前、特に1970年代、1980年代初頭は熟成年数から逆算するとほぼ1960年代蒸留となり、スコッチモルトウイスキーにとって黄金時代であったことも、ウイスキーの質に大きく影響しています。
3.スコッチにおける特級
ではウイスキー特級がスコッチウイスキーに対してなんら意味を成さないかと言うと、それは現代において大きな意味を持ちます。
上述のとおりウイスキー特級を位置づける従量税(及び従価税)は1989年までの制度であり、この表記があるボトルは1989年以前の流通であると言うことは、もはや説明するまでもありませんが、それ以外にも度重なる酒税変更がもたらした変更点が、ラベル遍歴を追わずとも、各銘柄の流通年代推定を容易にしています。
ここではそうした変更点のうち、大きなものをまとめて紹介します。
(1)ウイスキー特級(~1989)
上述のとおり、"ウイスキー特級"は1989年4月1日をもって廃止されるため、特級表記があれば同時期以前の流通となります。また、日本市場向けとして1980年代以降にラベルに直接ウイスキー特級表記が印字されるボトルが多く出てきます。
それまでは現地向けボトル等に紙で特級表記を貼り付けるのが一般的でした。
(2)通関コード(仮称) (~1987あたり)
Y○○○○、などアルファベット1~2文字と数字1~5桁、または漢字1~2文字と数字の組み合わせが級別表記とあわせて記載されています。正式な名称がわからないため、ここでは通関コードと呼んでいます。
アルファベットと漢字は税関の略称で、OK:沖縄、K:神戸、NY:名古屋、Y:横浜、T:東京となります。
漢字の場合、東:東京、大:大阪、沼津:沼津がそれぞれあったように思います。
これは税関作業を管理する際に、企業と品目を簡易表記するために割り当てられていたものですが、先着順で割り当てられたため、数字が若ければ輸入元とボトルの歴史が長いということになります。
ただし、ホワイトホースなどは昔から企業とボトルの組み合わせが変わらないため、1980年代のボトルでも数字が3桁と若い記載になる例があるなど、必ずしも古いボトルとはなりません。
なお、1987~1988年ごろからこの記載が省略されます。
同時期にバーコードが普及していたことなどを見ると、税関の管理システムに変更があったと考えられます。
(3)従価表記について(物によっては ~1980頃)
従価税を納めた証としてラベルに記載されていますが、1980年代に入ると記載されたラベルと記載されていないラベルが出てきます。
1979年には国税庁に洋酒輸入協会が従価税表記の記載の省略を求めています。
以下は同じ時期、コールドベック時代初期の流通のジョニ赤とジョニ黒ですが、従価表記の有り無しが見られます。
この後、色々なボトルを見ていくと、概ね高級価格帯のものは1980年代に入っても記載が続きます。
推測ですが、上述の高級価格帯の税率を納めたものは記載されて、普及価格帯の税率のものは記載を省略したのではないかと考えています。
時代判定材料としては弱いですが、記載があれば高級価格帯であったか、1980年代以前の古いボトルであるということになります。
(4)容量の推移について(760ml 1980年ごろ)
スコッチが採用するヤードポンド法と、日本が採用するメートル法の関係で、代表的なウイスキーの容量(4/5QUART)がリットル換算すると約760mlであったことから、日本では流通したボトルは概ね760ml表記となります。
1980年代に入り、メートル法の普及で容量が750mlに統一されると、日本でも750ml表記の裏ラベルとなります。またこの頃流通していたリッタークラスやガロンボトルも容量に変更が見られます。
しかしこれはモノによっては1970年代でも750ml流通のものも存在するため、そのほかの要素とあわせて判断することになります。
(5)JAPAN TAX(1953~1974)
(1)のウイスキー特級と並んで決定的な判定材料になる要素のひとつです。
酒税法上は酒税証紙制度と呼ばれるもので、1953年に制定され、洋酒輸入自由化で輸入量が増えたことを背景に1974年にその役目を終えました。
(2)通関コード(仮称) (~1987あたり)
Y○○○○、などアルファベット1~2文字と数字1~5桁、または漢字1~2文字と数字の組み合わせが級別表記とあわせて記載されています。正式な名称がわからないため、ここでは通関コードと呼んでいます。
アルファベットと漢字は税関の略称で、OK:沖縄、K:神戸、NY:名古屋、Y:横浜、T:東京となります。
漢字の場合、東:東京、大:大阪、沼津:沼津がそれぞれあったように思います。
これは税関作業を管理する際に、企業と品目を簡易表記するために割り当てられていたものですが、先着順で割り当てられたため、数字が若ければ輸入元とボトルの歴史が長いということになります。
ただし、ホワイトホースなどは昔から企業とボトルの組み合わせが変わらないため、1980年代のボトルでも数字が3桁と若い記載になる例があるなど、必ずしも古いボトルとはなりません。
なお、1987~1988年ごろからこの記載が省略されます。
同時期にバーコードが普及していたことなどを見ると、税関の管理システムに変更があったと考えられます。
(3)従価表記について(物によっては ~1980頃)
従価税を納めた証としてラベルに記載されていますが、1980年代に入ると記載されたラベルと記載されていないラベルが出てきます。
1979年には国税庁に洋酒輸入協会が従価税表記の記載の省略を求めています。
以下は同じ時期、コールドベック時代初期の流通のジョニ赤とジョニ黒ですが、従価表記の有り無しが見られます。
この後、色々なボトルを見ていくと、概ね高級価格帯のものは1980年代に入っても記載が続きます。
推測ですが、上述の高級価格帯の税率を納めたものは記載されて、普及価格帯の税率のものは記載を省略したのではないかと考えています。
時代判定材料としては弱いですが、記載があれば高級価格帯であったか、1980年代以前の古いボトルであるということになります。
(4)容量の推移について(760ml 1980年ごろ)
スコッチが採用するヤードポンド法と、日本が採用するメートル法の関係で、代表的なウイスキーの容量(4/5QUART)がリットル換算すると約760mlであったことから、日本では流通したボトルは概ね760ml表記となります。
1980年代に入り、メートル法の普及で容量が750mlに統一されると、日本でも750ml表記の裏ラベルとなります。またこの頃流通していたリッタークラスやガロンボトルも容量に変更が見られます。
しかしこれはモノによっては1970年代でも750ml流通のものも存在するため、そのほかの要素とあわせて判断することになります。
(5)JAPAN TAX(1953~1974)
(1)のウイスキー特級と並んで決定的な判定材料になる要素のひとつです。
酒税法上は酒税証紙制度と呼ばれるもので、1953年に制定され、洋酒輸入自由化で輸入量が増えたことを背景に1974年にその役目を終えました。
ウイスキー特級時代とその魅力について(下)はこちら。
コメント
コメント一覧 (7)
すごく為になる内容の記事で、真剣に読ませてもらいました!
スコッチをはじめバーボン以外はまだまだ勉強を始めたばかりなので
そちらに関しても僕にとって、教材のようなブログです^^
これからもコッソリ読ませていただきますので
マイペースで書き続けて下さいね!
コメント&応援のお言葉、ありがとうございます!
教材のようなブログ、と言って頂けて大変光栄です。
今飲んでいる方はもちろん、これから飲み始める方にも「参考になる」と言って貰えるのが一番ですので、これからもそういう情報発信が出来ればなと考えています。
今後ともよろしくお願いします!
先日、父がお世話になった方から譲り受けた、
ジョニ黒を、飲んでよいと言われ開けたのですが、
ふと、思い立ち調べてみることに。
そして、こちらへお邪魔したら、画像のジョニ黒と同じラベルでした。
ページを読むにつれ、怖くなってしまったのですが、
どの程度の価値が有ったのでしょう?
保存状態などは、宜しくないと思うのですが。
突然の不躾な質問、失礼いたしました。
はじめまして!コメントありがとうございます。
記事中のジョニ黒ですと1970年代後半頃の流通、今から約40年前のものですね。
そして今の心境としては「実は希少価値の高いものを何気なく開けてしまったのではないか」というところだと思います。
まず、この手の半ば骨董品ともいえるようなものは、現代の人の嗜好と流通量のバランスから価格が上下している状況にあります。
現在の流通価格から解答しますと、ヤフオクなどのネットオークションでは、送料手数料込み4000円くらいで取引されています。現在も買えるジョニ黒を定価2500円プラス送料と考えると、実はあまり変わらないという状況です。
これは中身が悪いとか評価が低いという事ではなく、流通量が多かった関係で様々なところに物が残っており、まだ出品されるからこれ以上は出さなくても良いという心理で、値段が上がらないという背景があります。実際ウイスキー愛好家からは相当評価されている銘柄です。
では当時このジョニ黒がいくらで売られていたかというと、7000円くらいという記録があります。
当時の貨幣価値は、一概に言えないもののだいたい2倍くらい差があるようですので、14000円くらいの商品だったという事になります。中々高級なウイスキーですね。
当時日本人の主な飲酒はサントリーのオールドで、舶来スコッチは高嶺の花。海外出張者に免税店でお土産をお願いして、手に入れば大事飲むというのが良く見られた光景のようです。
元の持ち主となる「お世話になった方」がどのような経路で入手されたかは存じませんが、当時買われたとすれば相当な感謝の気持ちか、何かしらお父様への配慮があってのプレゼントだと思います。
そういう背景があれば、例えばお父さんと一緒に楽しまれるなど、相手の気持ちを楽しむ時間を作ってみても良いのではないでしょうか。ぜひ楽しんでください!
長いこと蒸留酒が苦手だったのですが半年ほど前から突然ウイスキーがおいしく飲めるようになり、こちらで予習復習しながら楽しんでいます。もともとがワインの古酒が好きだったものでウイスキーの古酒にも大変興味があります。しかし如何せん右も左も分からない初心者でどこで買ったらよいのか、オークションでは何に気をつけたらよいのか分からず途方に暮れています。
もし機会がありましたらこちらで「古酒入門講座(ショップ紹介やオークション対策などを含めた)」などをしていただけますと大変有り難いです。
こちらのブログはウイスキーを理解するために本当に参考になります、ありがとうございます。
はじめまして!コメントありがとうございます。
自分はお酒そのものが苦手だったのですが、ウイスキーなら香りを楽しみながらマイペースに飲めるところがツボにはまり、今ではこんな感じで。。。
ワインの古酒も良いですね、実は最近そちらに惹かれ気味です(笑)
ご希望いただいた講座については、確かに需要はかなりあると思う一方、果たしてどこまで書いて良いのか。。。と感じる部分はあります。
また、それは文字にしづらい微妙なニュアンスも含みますので、例えば当方の記事から興味を持っていただき、その後直接お会いした方の質問の中で、伝えていくスタイルのほうが良いかなと感じています。
あるいは、どうしても気になる点については、個別にメッセージやコメント頂いても結構です。引き続きよろしくお願いします!
色々と情報が間違ってますね
【各等級で定める原酒(モルト、グレーン)の含有率】
⇒"原酒" というのはモルトウイスキーのことです
【日本で初めて本格的にグレーンが用いられるようになったのは、ニッカウイスキーのカフェスチル(1963年~)で、サントリーにいたっては知多の1972年稼動後です】
⇒サントリーは大分県の臼杵工場で1947年からグレーンウイスキーを製造しています
【それまではというと、荒々しいモルト原酒をブレンド用アルコールで割って香味を薄める、本場スコッチとは大きく異なる製法が取られていました】
⇒この【ブレンド用アルコール】と誤解されているのが、グレーンウイスキー (大麦麦芽以外の穀物から造るアルコール) です/少なくともサントリーやニッカウイスキーの製法は一貫してスコッチウイスキーの製法と同じです
プロの方の様ですので、他人様のビジネスに余計な御世話とは存じますが、情報のアップデートが必要かと愚考します