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先日ジャパニーズウイスキーに関するすさまじいニュースが飛び込んできました。
海外オークションで1960年蒸留の軽井沢が1本約1100万円の値段を付けたというもの。
これはオークションでの日本のウイスキーの落札価格としては史上最高額となるそうです。

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日本のウイスキーがオークションで1100万円余(8/29 NHK)
 
本件に限らず、ジャパニーズウイスキーの注目度は急上昇しており、海外からの引き合いが多くなった事で特定銘柄の市場価格が急騰しています。軽井沢、羽生、余市や山崎などの限定品は、オークションで10万を越える落札価格が付くことも珍しくありません。 
円安であることも手伝って、国内オークションでも海外勢はかなり強気です。海外勢はオークション代行のBuyeeなどを使ってますので、IDでだいたいわかります。これが入札してくると壮絶な殴り合いになることも珍しくなく…。
海外ではウイスキーファンドも立ち上げられており、こうした動きは今後益々活発になるものと思われます。
 
こうなるとワイン同様に投機目的、小遣い稼ぎ的な目的でウイスキーを購入する方々が増えてきます。ある程度知識がある人にとっては、確実に上がるとわかっている株のようなものですからね。
個人が購入したものをどうするかは個人の自由ですし、転売するのもまた自由です。
しかしこうした転売行為は、手軽さと裏腹にいくつかのリスクもはらんでいることは理解しておくべきです。
中でも手軽に利用できるネットオークションは、利益全てを持って行かれるどころか赤字転落レベルのリスクがあります。

丁度良い機会ですし、一般人の酒類投資(酒類転売)に関するリスクを自分なりに調べてみました。なかなかボリューミーで前編後編に分けて投稿しますが、興味があります方はお付き合いください。
なお、当方は法律や税理の専門家でもなく、関連学部を出た訳でも無いただの会社員です。
ネットで調べられる範囲のことを調べた程度ですので、細部にわたっては誤認もあるかと思います。本記事に記載の有無に限らず自己責任で対応ください。
また、間違いがあればご指摘いただけますと幸いです。
 
 
1.転売の手段(換金方法)
そもそもお酒を"投機"の手段と見る場合、ファンドを活用するにはある程度まとまったお金が必要になります。
一方で、個人で諸々行うなら手軽にスタートできますが、換金する方法を考えなければなりません。ファンド企業は換金先となる業者との繋がりがあるでしょうけれど、一般人がそうした繋がりを持っているケースは稀です。
 
換金する手段は大きく分けて以下の3ケースが考えられます。
・知人間や何らかの交流ツールを用いて他者と直接取引を行う。
・国内のネットオークションに出品する。
・質屋や業者に引き取って貰う。
(その他、フリーマーケットなどで販売する手段もありますが、高額ボトルが売れるケースは考えにくいため除外します。)
 
知人間や交流ツールを用いての取引は自ずと限界があります。よほどの人脈がない限りは多くを捌けません。また匿名性も皆無です。転売を気にしない人も居ますが、飲み手や酒販側としては受け付けない人も多数います。高値を付けて流通させようならハブられるというリスクが伴います。
質屋や酒類買取業者への販売は、公開されている引き取り価格リストを見ると、モノによりけりとはいえ買値を割り込むことが多く、利益はあまり見込めません。とすると匿名で出品でき、手数料の支払い程度で大きな利益が得られるネットオークションが転売ツールに選ばれるのは自然な流れです。
(匿名とはいえ、最近様々なところで情報収集がされて、出品者が特定されるケースも多いですが・・・。)

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(直近ではヤフオクで山崎50年が約400万円の落札価格をつけた。山崎50年の小売価格は100万円。)
 

2.国内ネットオークションのリスク
ヤフオクやメルカリに代表されるネットオークションのリスクは、上述3方法の中で最も大きなものがあります。
まず一つが「税金」。
そしてもう一つが「酒税法違反」です。
ネットオークションは資格不要で酒類の売買が出来て、税金がかからないんじゃ無いのなんて認識をもたれている方、残念ながらその認識には誤解があります。
 
会社勤め等で別途収入を得ている場合、オークションでの売り上げは、販売したモノにもよりますが利益として1年間(1月1日から12月31日)で20万円を超えると「雑所得」として課税対象となります。(他に収入が無い方は38万円がリミットになります。)
 
これらは「利益」ですので売り上げではありません。
例えば1万円で新発売となったボトルを購入即出品したところ、10万円で売れた場合利益は9万円です。
利益の計算では購入価格が証明出来るもの、一般には領収書が必要ですが、無い場合は税務署とご相談になるようです。免除されるなんてことはありません。
この20万円は一度で発生しても、利益の積み重ねでも、課税対象となります。

 
利益の計算は売り上げから元値を引くだけでなく、出品等にかかった経費をマイナスすることが出来ます。
が、多くの方はオークションを専業としているわけではないので、純粋にその行為にかかった経費の証明は困難です。
経費として認定できるものは、例えば電気代などの公共料金、パソコン購入費用、交通費等ですが、オークションのためだけにそれらを払っているなんていうことはまずありませんので、経費として計上出来るのはせいぜいオークションの利用料・手数料程度と考えたほうが無難でしょう。
また、あまりにも専用とするものが多い場合や高頻度に出品している場合、副業ではなく専業、個人事業の域ではないかと言われ、違う方向に話が進んでしまいます。
これは個人事業主であっても同様で、酒販行為を行っているとみなされる可能性があるわけです。
必要な資格(酒販免許)を取得していない場合は、酒税法違反となり処罰の対象となる恐れもあります。
 
どの程度出品していたら資格が必要となるかについては、税務署のさじ加減です。
国税庁のQ&Aでは、「継続して酒類を出品し販売を行う場合には酒類の販売業に該当」となっており、継続の判断は国側にあります。
酒税法違反となった場合、販売関連での違反は"1年以下の懲役または50万円以下の罰金"です。
 
ご参考:オークション所得も確定申告・税金が必要?
 
 
3.想定される税金の種類について
オークションで出品される酒類は大きく以下の2パターンに分けられますが、この2つでは計上する費目が異なります。
 
①発売されたものをすぐ出品する。
②昔購入したり貰ったモノで、家に保管してあったものを出品する。
 
どれくらいの期間で①が②になるかは明示されておらず、これもまた税務署のさじ加減のようです。
ただ、とある弁護士事務所で公開されている類似の事例には、5年程度の期間を見るようだとありました。
これが何に関係するかというと、①は転売目的で購入して転売したとみられて「雑所得」扱いになり。
②は生活における不要品を販売したということで「譲渡所得」扱いになります。
最終的に対象となる税金はどちらも所得税と住民税ですが、それぞれ条件が異なるためこれらを把握しておく必要があります。
 
●雑所得について
「2.国内ネットオークションのリスク」に記載した費目です。雑所得は利益がトータルで20万円を越えると容赦無く税金がかかります。
個人事業主であれば申告方法を「青色」にすることである程度の減額は出来るようですが、多くの方は「白色」です。特段減額の措置はありません。
(まぁ青色は青色で、手続き大変らしいですけどね・・・)
 
よって発売後即転売するようなケースはまず間違いなく雑所得扱いです。
「飲用目的で購入しましたが体調不良で飲めなくなったので出品します」とか書いて即日出品しているアカウントを見た記憶がありますが、税務署さんは捜査権がありますので黒と見たら我々のプライベートにガチで踏み込んできます。ウソはばれると考えた方が良いでしょう。
 
●譲渡所得について
譲渡所得の場合、一度に30万円を越える利益を得なければ課税されないという非課税枠があります。
これは累計ではなく一度にというところがポイントです。(10万が4回とかだとかかりません。)
不要品の売買に税金がかからないという理解が生まれているのは、恐らくこれによるところかなと思います。
 
 
以上、転売を行う際の利益計算は①と②のケースでそれぞれ分けて考える必要があります。
また課税される金額は、その人の収入によっても変わってきます。現在は復興特別所得税として所得税額×2.1%の追加徴収もあります。
 
所得税の計算を行う場合、国税庁のページの条件からざっくり計算すると、おおよその金額はわかります。
 
例えば、給与500万円を貰っている方が、50万円の利益をあげたとします。実際は控除とか色々あるのですが、通常給与とオークションのみの550万円で計算します。
550万円での税率は20%ですので、500万の時との差額、10万2100円が所得税として利益分にかかる税金となります。

続いて住民税です。住民税は一律10%なので50万円の利益にかかる住民税は5万円。
従って税金のアタリ付けとしては、合計15万2100円程度の税金が、50万円の利益に対してかかることが想定されます。
 
なお非課税の範囲であっても、酒類を販売し続けると酒販免許が必要と判断される恐れがあります。
この場合は上述のように1年以下の懲役または50万円の罰金です。
仮に50万円利益のケースで税金に罰金がついてきたら・・・利益がトビますね(笑)。


ここまでに書いた話は、会社勤めでもFXや投資等で利益を得ている方、あるいは別ジャンルでオークションを活用して稼いでいる方だと、特に税金の話なんかは普通に認識のある事かもしれません。

しかし冒頭にも書いたように、「ネットオークションは資格不要で酒類の売買が出来て、税金がかからないんじゃ無いの」という認識でやられている方も結構いらっしゃるようです。
あるいは税金がかかる事は分かっていても、どうせこんな少額請求されないよと思っているケースとか。
後編ではそんな方々に降りかかる、追徴課税についてまとめます。

~4.とても怖い追徴課税 に続く ~