カテゴリ:
IMG_20191229_142309
BEN NEVIS 
Mr,TAKETSURU'S SINGLE CASK 
Aged 25 years 
Distilled 1990 
Bottled 2015 
Cask type Remade Hogshead #1 of 1990 
Bottle No, 44/235 
700ml 61.3% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
時期:開封直後
場所:ー
暫定評価:★★★★★★(6ー7)

香り:焦がした木材、松の樹皮を思わせるウッディネス、ローストアーモンドやキャラメルを思わせるほろ苦さと甘さ。じわじわとオレンジやパイナップルキャンディの人工的なフルーティーさを伴うアロマ。微かに溶剤的な刺激も感じる。

味:とろりとした口当たりから、ウッディでビター、軽いスパイシーさを感じる。新樽系のウッディさに続き、ケミカルなシロップを思わせる甘味とフルーティーさ。それらは風邪薬シロップのミックスフルーツ味ようである。
余韻はビターなウッディネスに加え、舌の上でひりつくようなアタックがケミカルシロップの残滓と合わさって長く続く。

樽由来の要素のなかに、ベンネヴィスらしい特徴的なフルーティーさを感じるボトル。リメードホグスヘッド樽(鏡板が新樽)で熟成されているため、新樽香がアクセントとなって、ニッカらしいビター武骨な要素を伴う。度数もあってストレートではウッディな苦味と堅さ、アタックの強さもあるが、少量加水すると薬品シロップのようなフルーティーさが全面に広がり、好ましい変化がある。

IMG_20191229_142414

2014年12月に90歳で天寿を全うされた、竹鶴政孝氏の甥にして、後に養子となる竹鶴威氏。同氏のベンネヴィス蒸留所との繋がりから、2015年に235本のみボトリングされたのが今回の1本です。

裏ラベルを読むと、ニッカウイスキーが1989年に傘下としたベンネヴィス蒸留所における、竹鶴威氏の業績(1986年から休止中だったベンネヴィス蒸留所の再稼働にあたり、マッシュタンの交換やビジターセンターの新設を行ったこと等)に加え、この樽が蒸留所が再稼働した1990年の1樽であり、当時ニッカの副会長かつベンネヴィス蒸留所の会長でもあった竹鶴威氏が所有していた1樽であることが書かれています。

カスクナンバーである1 of 1990については、"1番目"と"1990年のうちの1つ"のどちらの意味でも読めますが、類似のリリースとして同時期蒸留で2014年にボトリングされたThe President Cask は No,2 of 1990 となっていることから、前者の意味と考えて間違いないと思われます。
つまりベンネヴィス再稼働の日は蒸留所買収から約1年後の1990年9月、蒸留器から流れ出た最初のスピリッツを樽詰した蒸留所にとっても記念の1本であるわけです。

IMG_20191229_142459

さて今回のボトルで特徴的なのは、ニッカでは定番ながらスコットランドでは珍しいリメードホグスヘッド樽(鏡板をアメリカンオークの新樽とした、バーボンホグスヘッド樽)で熟成されているということ。そし現在の90年代蒸留ベンネヴィスの個性として知られているケミカルなフルーティーさが、蒸留所を再稼働した最初の蒸留からしっかりと出ているということです。

新樽は強めに樽感が付与されてる傾向があるのは、余市等その他のリリースでもレビューの通りですが、それが鏡板のみであっても流石に25年の熟成。熟成感に加えニッカらしいウッディネスがしっかりと備わって、ちょっと樽が強くビターな味わいは、開くのに時間がかかるような印象も。。。
ただ、このニッカらしい樽感と個性的なフルーティーさが合わさった構成故、同時にテイスティングしたメンバーからは、ピュアモルト竹鶴そのものという声もあったほどでした。

実際のところ竹鶴17や21年には、余市の新樽や宮城峡のリメード樽など、熟成したモルトの異なる傾向のフルーティーさもあるため、必ずしもベンネヴィスがそれを形成しているわけでは無いと思いますが。そうした邪推はさておき、ラベルは竹鶴威氏の肖像で非常に雰囲気があり、ニッカファンなら間違いなく高まってしまう、垂涎の1本。
同蒸留所再開後の最初の一樽としてだけでなく、ニッカウイスキーとベンネヴィス、両社の発展に貢献した竹鶴威氏に捧げる一樽として、これ以上ない構成となっています。

惜しむらくは日本での販売がなかったため、このボトルそのものの存在が知られていないということ。時期的にはマッサン放送直後なのだから、故人の話とは言えバブル的な注目を受けるようなリリースだったはず。。。
まあ、現親会社であるアサヒビールはベンネヴィスブランドを重要視しておらず、蒸留所と不仲であるという話もあり、なんとなく複合的な要員が背景にありそうだなぁと推察しています。実際、リニューアルしているオフィシャル10年が未だに日本には入りませんし。ベンネヴィス名義のブレンデッドをPRせず、結婚式やパーティー会場での飲み放題要員としてあてがっている点が、ベンネヴィス側には不評という話も聞いたことがあります。

いずれにせよ、現在の関係はともかく、竹鶴威氏が現地の発展に貢献した偉人として評価されたからこそのリリースです。それをレビュー出来たのはブロガー冥利に尽きる機会でした。
なお、テイスティングは年末に開催された持ち寄り会で機会を頂きましたが、その場で開封という瞬間にも立ち会わせてもらい、持ち主の男気に感謝しかありません。貴重なボトルをありがとうございました。