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映画 駒田蒸留所へようこそ オリジナルウイスキー&KOMA復活プロジェクト

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11月10日公開の映画「駒田蒸留所へようこそ」。もうご覧になられたでしょうか。
先行試写会参加組としては、早くみんなとあそこはあの蒸留所だとか、あの人が写っていたとか、あるいはあのウイスキーは…とか、あれこれ語り合いたくてムズムズしており、やっとそれが出来る・・・。
近々、ストーリー考察スペースとかもやりたいですね。

一方で前回、先行試写会後に更新した紹介記事では、追って紹介としたのが、映画とコラボしたオリジナルウイスキーリリースに関してと、当時はオープンにできなかった企画、KOMA(独楽)復活プロジェクトです。
オリジナルウイスキーは言わずもがな、映画公開当日にオープンとなったKOMA復活プロジェクトのクラウドファンディングは、既に目標を達成するなど多くの注目を集めています。
今回の記事はKOMAとはどんなウイスキーだと考えられるのか、そしてコラボレーションリリースを実施する各蒸留所と本映画との関連やリリースの傾向等を紹介していきます。

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・KOMA復活プロジェクト(T&T TOYAMA クラウドファンディング)
URL:https://camp-fire.jp/projects/view/651044

・駒田蒸留所へようこそ コラボ企画 オリジナルウイスキーリリース
URL:
https://gaga.ne.jp/welcome-komada/campaign/


◾️KOMA復活プロジェクト
11月10日の映画公開と合わせ、本映画のウイスキー監修・稲垣貴彦氏が代表を務めるT&T TOYAMAが公開したのが、劇中に登場する幻のウイスキーKOMA(独楽) を復活させる、映画さながらのプロジェクトです。

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ネタバレを最小限に、ウイスキーKOMAについて解説すると。。。このウイスキーは、駒田蒸留所を操業する御代田酒造が、かつて発売していたシングルモルトウイスキーです。

多くのファンがいたようですが、劇中では災害によって御代田酒造の蒸留設備が失われたことをきっかけに製造を中止しており、残っていた原酒も御代田酒造がウイスキー事業を再開するタイミングで「わかば」をリリースする際に使っていたことから、原酒ストックがない状況となります。
劇中では、このウイスキーを復活させることをテーマの一つにストーリーが進みます。色々な情報が合わさっていますが、御代田=軽井沢周辺の地名であること等から、位置付けとしてはそういうことなのでしょう。

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ただし、その中身は単に軽井沢モチーフというわけではないようです。
先日、稲垣さんとXのスペース配信中に考察したところでは、以下のような地ウイスキー寄りのシングルモルトではないかとのこと。
  • 表記上の熟成年数は12年。
  • 原酒は、当時ウイスキー用のノンピート麦芽より、関税の安かったピーテッド麦芽から仕込んだもの。
  • ミズナラ樽等の古樽(3回、4回熟成に用いた後のもの)で熟成。
劇中では、駒田蒸留所で蒸留した原酒の熟成を待つのではなく、シングルモルトKOMAをブレンドで再現しようと、日本各地の蒸留所から原酒を集める取り組みが行われます。

さて、話を現実世界に戻すと。
この幻のウイスキーKOMAを、現実でも復活(再現)しようという取り組みが、T&T TOYAMAがクラウドファンディングで進めるプロジェクトとなります。日本初のジャパニーズボトラーズであるT&T TOYAMAならではの取り組みでもありますね。

同プロジェクトでは、劇中同様に日本各地の蒸留所から原酒を集め、ブレンデッドモルトジャパニーズウイスキーとして”KOMA“と、ブレンデッドモルトウイスキーとして”わかば“を、稲垣さんがブレンダーとなって再現します。
そしてKOMAに関しては、劇中では“ある樽”が復活の鍵を担うのですが…。調査員が向かった三郎丸蒸留所の蒸留棟の奥に、見慣れない樽が…おや、これはひょっとしてs…うわまてやめろなにお(

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すいません、取り乱しました。
先に触れたように、公開されたクラウドファンディングはわずか3時間で目標金額の1000万を達成。支援総額は、本記事公開時点で既に2000万円を超えており、その注目の高さが伺えます。

こうした映画やドラマに登場した架空のウイスキーは、ファンとしては一度は飲んでみたいものです。ましてそれが同映画の監修者によるものとあればなおさらです。
T&T TOYAMAとは度々リリースにも関わらせてもらっていますが、今回私はブレンドに関わることはありません。引き続き、情報収集&発信をしていきたいと思います。


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※クラウドファンディングではウイスキー以外にオリジナルグッズが付属するリターンとなる。また、お酒が飲めないものの本企画を応援したいというファンのために、Tシャツやジャケット等のリターンも用意されている。
クラファンURL:https://camp-fire.jp/projects/view/651044


◾️駒田蒸留所へようこそ コラボリリース
さて、前回の記事でも紹介したように、今回の映画公開にあたっては、第一弾として公開前のチケット購入で応募できる記念ボトルに加え、第二弾として映画公開後に映画を見た人が応募できるコラボリリースの2つの企画が用意されていました。

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【第一弾】
 三郎丸蒸留所:2020年蒸留、バーボンバレルで3年熟成のアイラピーテッド原酒。

【第二弾】
劇中に登場する蒸留所から、
・三郎丸蒸留所:2020年蒸留、アメリカンオーク新樽で3年熟成のアイラピーテッド原酒。
・秩父蒸溜所:イチローズモルト&グレーン アンバサダーズチョイス。
・長浜蒸溜所:2020年蒸留 アイラクオーターカスクで3年熟成のノンピート原酒。
・マルス信州蒸溜所:2018年蒸留、バーボンバレルで5年熟成のライトリーピーテッド原酒。
・八郷蒸溜所:2018年~2020年蒸留、シェリー樽、チェリーブランデー樽、さくら樽のトリプルカスク。

既に映画をご覧になった方はもうご存知かと思いますが、これら5蒸留所は、劇中においてモチーフとなり何かしらの役割をもって登場し、主人公たちが訪問している蒸留所となります。
ここでは冒頭紹介したように、映画を見ただけという人にも伝わるように、登場シーンと繋がる画像と合わせて、各リリースの方向性について紹介させていただきます。
なお、余談ですが本リリースの調整は、信濃屋のスピリッツバイヤー秋本氏が担当しており、本記事執筆にあたって同氏から色々お話しも伺いました。その点についても紹介していきたいと思います。

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【三郎丸蒸留所】
もうご存知の通り、駒田蒸留所の”各設備”に関してモデルになったのは、富山県にある三郎丸蒸留所です。
そのため、ここ!という「駒田蒸留所スポット」は、以下の写真以外に多数出てきます。紹介する写真も一番多くなりましたが、まあ仕方ないですよねw
映画を見に行く前に三郎丸蒸留所に行ったことがある人たちは、非常に多くの既視感を覚えるでしょうし、見てから行く人は“スポット”探しも楽しめるかと思います。

一方でモデルになったのは”各設備に関して“であり、劇中の駒田蒸留所(御代田酒造)は長野県にありますし、ストーリーとの関連としては三郎丸の歴史をそのままなぞったものでもありません。
これは映画を作成したPAワークス社が同じ富山県にあり、映画作成にあたって三郎丸蒸留所を訪問して参考資料の撮影等をしたからと考えられます。

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三郎丸蒸留所の特徴は、国内屈指のピーティーなウイスキーです。
2016年にクラウドファンディングを使って資金を調達し、蒸留設備をリニューアル。名前の無かった蒸留棟を三郎丸蒸留所として新たなスタートを切ります。
2020年の仕込みからは、スコットランド・アイラ島のピートで乾燥させた麦芽を用いたウイスキーを作っており、今回のオリジナルウイスキーはまさにその原酒を用いたものとなります。

秋本氏曰く、ここのカスクは迷わなかった。
本映画のウイスキー監修担当にして、蒸留所マネージャーでもある稲垣貴彦氏曰く、秋本さんが迷わず良いカスクを持って行った…と。
新樽熟成のウイスキーは、焦がしたオーク樽由来いのキャラメルやナッツ、バニラ、濃くいれた紅茶のようなタンニンが特徴です。そこにスモーキーな原酒が合わさることで、まず間違いないリリースだと思います。
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【イチローズモルト・秩父蒸溜所】
皆様ご存知、日本においてはクラフトウイスキーの先駆けであり、今やメガクラフトと言える規模に成長した、埼玉県は秩父蒸溜所。劇中では主人公の心境において、ちょっとしたターニングポイントを迎えた際に訪問した場所として描かれています。

樽工場については手持ちの写真がありませんでしたが、以下の3枚で「あ!」と思っていただけるのではないでしょうか。この蒸留所のポイントの一つがミズナラです。ミズナラ材を用いた発酵槽がウイスキーの味に少なからず影響していると思いますが、劇中もその点を意識した描かれ方をしてるのです。
見学は一般見学を受け付けていないので中々難しいかもしれませんが、繋がりのあるBARが見学ツアーを企画したりしていますので、工夫して訪問してみてください。

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そのオリジナルウイスキーは、劇中でも登場していると思しき吉川ブランドアドバイザーがブレンドに関わったシングルカスクブレンデッドのアンバサダーズチョイスです。
このシングルカスクブレンドは、秩父蒸溜所の原酒に、世界中から集めた原酒をブレンドし、樽に詰めて数年単位で追加熟成させたものです。

ウイスキーの製造過程では、ブレンドした原酒を樽に詰めてなじませる“マリッジ”という行程があり、それと何が違うのかというと。マリッジの期間は大概1年未満です。
イチローズモルトのシングルカスクブレンドは、1つの樽に1つのレシピで、それを数年、モノによっては5年、7年という長い期間追加熟成させた後に払い出してリリースするウイスキーです。

秩父蒸溜所では様々なタイプのシングルカスクブレンドが熟成されていますが、今回カスクチョイスに関わった秋本氏に伺うと、吉川ブランドアンバサダーの意向もあってフルーティーで華やかなタイプが選ばれている。少し前のON THE WAYに似ている。というコメントで、これは秩父蒸溜所のウイスキーが好きな方に刺さりそうなリリースが期待できます。
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【長濱蒸溜所】
長濱浪漫ビールが操業する日本最小規模の蒸留所…が、滋賀県・長濱蒸溜所です。
何か歯に挟まったような説明ですね?はい、蒸留設備の規模は、設備の一部が地ビールの製造設備と共用だったりで、確かに最小規模なのですが…ここは輸入原酒の活用含めて、熟成環境やリリースの展開を含めると、国内屈指と言える規模。
社長とブレンダーらスタッフが働きすぎだと心配するまでが、長濱蒸溜所ファンの通過儀礼であり、お約束でもあります。

また、2020年からは三郎丸蒸留所と合わせて、原酒の交換を各蒸留所と行うなど、各種コラボリリースに意欲的であることでも知られています。
劇中において、蒸留所の訪問はNVJ社の企画「クラフトウイスキー特集」のために行われていきますが、長濱蒸溜所だけはちょっと違うのです。あまり書きすぎるとネタバレになるので控えますが、この世界線でも長濱蒸溜所は各社と積極的な交流をされていたようです。
予告編の1シーンでも登場する所長?と思しき青年はひょっとして…

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長濱蒸溜所のリリースは、アイラクォーターカスク、つまり某L蒸留所で熟成に使っていたクォーターで熟成したノンピートモルト原酒です。
ノンピートなのですが、樽に染み付いたアイラモルトのフレーバーが原酒に溶け込み、スモーキーさやアイラモルトを思わせるヨード香など、独特のフレーバーを楽しむことができます。

また長濱の原酒は麦感豊富で雑味が少なく、若いうちから楽しむことができることで知られており、クオリティは問題なし。本当はピーテッドをと思ったが、三郎丸がアイラピート、信州が内陸ピーテッドなので、樽由来で異なるピートフレーバーを感じさせるノンピート原酒をチョイスしたと、秋本スピリッツバイヤー。
そうなんです、今回のオリジナルウイスキーは後述するKOMAの件もあってか、ピーテッドが多いんです。ただし一口にピートといっても、その種類によって全く味が異なるもの。本リリースに限らず、飲み比べも楽しんでほしいですね。
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【マルス信州蒸留所】
同蒸留所のルーツは、日本のウイスキーの黎明期、1949年からウイスキー製造を行っていた本坊酒造にあり、長い歴史を持つものの、事業としては稼働と休止を繰り返していたマルスウイスキー。
実はこれまで、マルスがウイスキー蒸留を休止するとブームが到来するという、不名誉なジンクスもあったのですが。。。この信州蒸留所は2011年に稼働を再開、近年のウイスキーブームを追い風に羽ばたき、国内有数のウイスキー事業者となっています。

映画では、特に2020年の大規模リニューアル以降に信州蒸留所の見学に行ったことがある人なら、「お?」と思うシーンや人物がスタートから出てきます。
ブランド名である駒ヶ岳が「駒田」と似ていることから、この蒸留所が舞台なんじゃないかという話も企画公開当初は見られましたが、予告映像があまりにも…だったので、即雲散霧消。ですが、そこは長野県の蒸留所。ちゃんと劇中では主人公らの訪問先の一つに登場するわけです。

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今回のオリジナルウイスキーは、信州蒸留所での蒸留が安定してきた直近5年以内のもの。
2011年の再稼働直後から数年は、少々酒質が暴れているというか、粗さが残っている印象がありましたが、2014年のポットスチルの交換以降は特にバランスが取れてきた印象があり、フレッシュで爽やかな麦芽風味に軽やかなスパイシーさ、樽感との馴染みも良いと感じています。
また、2020年の大規模改修後はマッシュタン等の設備の更新、見直しもあり、さらに酒質が向上しているのですが…それはまた別のリリースで。

ライトリーピーテッド原酒はほぼアクセント程度のピートフレーバーとなりますが、若い原酒が持つネガティブなフレーバーを抑え、逆に麦芽風味やバーボン樽由来のフレーバーを引き立てる傾向があると感じています。
麦感には香ばしさを、バーボン樽由来の黄色系のフルーティーさやバニラ香、華やかさには、ほろ苦さを加えてそれぞれの香味に立体感を、といった具合。
下手にヘビーピートにするとピートが浮ついてしまうため、信州の酒質を知ってもらうにはちょうどいいチョイスではないでしょうか。

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【八郷蒸溜所】
最後になるのが、日の丸ウイスキーや、常陸野ネストビールで知られる茨城県・木内酒造が操業する八郷蒸溜所です。
正直、この蒸留所については、立地やPRの少なさもあってか、他のクラフトに比べると話題になることが少ない気がしますが(少なくとも自分の周囲では)、実は新興クラフトの中では屈指の規模を持つ、今後大きく発展することが予想される蒸留所だったりします。

劇中では、主人公らがNVJの企画を兼ねて訪問する2つ目の蒸留所として描かれています。先に触れたように、知られていないことから「あれ?ここどこ?」となる人も多いかもしれません。また、設備の見学以外に、ここでは「原酒のテイスティングノート」が登場するのですが、このテイスティングノートを書いたのが…の…だったり。
私が訪問したのは少々前なので写真も今の姿とは違うところがありますが、非常に機能的で、設備も新しいしっかりとしたものが揃っています。

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さて、この八郷蒸溜所のオリジナルウイスキーは、3種類の樽(原酒)をブレンドして造る、日の丸トリプルカスクウイスキーです。
酒質については、麦感が厚く、古典的なハイランドモルトを思わせる風味が感じられるのが八郷の特徴。一方で、シェリー樽はともかく、チェリーブランデー樽やさくら樽という、これまでのウイスキーではあまり見られなかった樽が使われているため、今回のオリジナルウイスキーラインナップの中で一番イメージが出来ないリリースではないでしょうか。

さくら樽は今複数のクラフト蒸留所でも使われており、端的に言えば「桜餅」のような風味がウイスキーに付与される特徴があります。
そこに、チェリーブランデーやシェリー樽の濃厚な甘さ、色濃いウッディさが加わり、今回のウイスキーはリッチで複雑、どこか懐かしい、ウイスキーを飲んだことが無い人でも知っているような味に仕上がっているそうです。
八郷側でブレンドをするにあたり、そのバランスには苦労したそうですが、秋本氏からもアドバイスがあり、ちょうどいいバランスにまとまっているとのことです。

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【最後に】
改めてこの映画を振り返ってみて、あのジャパニーズウイスキーがアニメーション映画になるとは…と、かれこれ15年以上ウイスキーを趣味としている一人として、感慨深いものがあります。
2012年に映画「天使のわけまえ」が公開された際も、ここまで話題になることはありませんでしたし、それ以前はハイボールブームが徐々に起こっていたとはいえ、ウイスキー=マイナーな酒という位置づけでしたから。
本映画は日本だけでなく、それこそウイスキーの本場イギリスや、台湾等海外でも上映されるとのことで、どんな反響があるのか今から非常に楽しみです。

なお、本映画とのコラボ企画としては、国内の蒸留所に「●●蒸留所へようこそ」というオリジナルポスターを展示するというものがあり、該当する全蒸留所のロゴがエンドロールで一斉に流れるその絵は壮観です。(また、ウイスキー愛好家としては聖地とも言える場所と、ある人物が登場するのも、遊び心があってGOODです。)
映画を見て、クラフトウイスキーが飲みたくなったらぜひ蒸留所へ。成長と発展を続けるジャパニーズウイスキーが、さらに盛り上がっていくことを記念して、本記事の結びとします。


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映画「駒田蒸留所へようこそ」試写会感想&タイアップ企画紹介 11/10ロードショー

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2023年11月10日(金)から全国ロードショーとなる、世界初のアニメーション・ウイスキー映画「駒田蒸留所へようこそ」。
先日、その先行試写会に参加させて頂き、一足早く映画を楽しませて頂きました。

公式URL:https://gaga.ne.jp/welcome-komada/
予告編動画:https://youtu.be/KSAJIox--2g?si=4q0CtJ0YDMhtz7yq

映画公開前から本編ネタバレになるような記事はよろしくないと思うので、ネタバレにならない程度のざっくりとした感想でまとめると。。。内容はしっかりウイスキーの映画です。それでいて、普段ハイボールくらいしか飲まない「ウイスキーって?」という人や声優目的で見る方々から、推しの銘柄や蒸留所があるガチ勢まで、広く楽しめるストーリー構成になっていると思います。

勿論ツッコミどころがないわけではないですが、それをいちいち言うのは野暮ってもの。表面的には、蒸留所とウイスキーを復活させようという家族の物語ですが、見る人が見れば数分に1度のペースでニヤリとさせられる描写、情報、登場人物がストーリーに絡んでいる。
特に、本映画とタイアップが発表されている、三郎丸、信州、秩父、長濱、八郷が好きという方は必見の映画ではないかと思います。(有楽町の某BARに行ったことがある方も、最後まで見ておくと良いかも・・・。)

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(予告編に一瞬写った劇中のワンカット。モデルとなった蒸留所に行ったことがある方なら、どこの蒸留所で、誰が描かれているかもわかってニヤリとしてしまう。)

言い換えると、関連知識があればあるだけ楽しめる映画なんです。
そこで本ブログでは公開前に知っておくと一層楽しめる予備知識、そしてタイアップ企画やオリジナルウイスキーについて公開情報をベースに、ネタバレにならない範囲でまとめていきます。

■映画の舞台と予備知識について

「崖っぷちの蒸留所の再起に奮闘する若き女社長と、夢もやる気もない新米編集者が家族の絆をつなぐ”幻のウイスキー”の復活を目指す。」
本映画に関する舞台設定ですが、SNS等では若鶴酒造の三郎丸蒸留所が舞台で、2016年の三郎丸蒸留所再建がストーリーベースになっているのではないか。という予想が散見されました。

確かに若鶴酒造・三郎丸蒸留所の敷地、社屋が駒田蒸留所のデザインになっているのは間違いありません。このアニメーション制作を手掛けたP.A.WORKSは富山県にあり、監督の吉田正行氏も取材されていることもあって、予告編を通しても三郎丸蒸留所をモデルとしたシーンが多数出てきます。
以下画像はその一部。映画を見る前、あるいは見た後でも、三郎丸蒸留所の見学に行くと、脳内でシナプス結合が多数発生することは間違いありません。

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さらに本映画のウイスキー監修は、三郎丸蒸留所の稲垣マネージャーが関わっており、若手社長が蒸留所の再起を目指すというストーリーも、稲垣マネージャーの取り組みとリンクするところです。

しかしここであえてネタバレに踏み込むと、劇中で語られるエピソードは、日本の様々な蒸留所にあった出来事と思しきもので、時間軸もそれぞれ異なる並行世界のような構成。決して三郎丸蒸留所の再建劇ではありませんでした。
例えば、経営困難となった駒田蒸留所において、原酒の破棄を迫られるシーンが出てきますが…これはもはや補足説明不要なエピソードですね。

また駒田蒸留所を操業しているのは、仮想の酒類メーカー御代田酒造。つまり長野県軽井沢の「御代田」が舞台として設定されています。若鶴酒造があるのは富山県です。軽井沢であることがそんなに重要か?と思うかもしれませんが、実はその意識があるだけで違います。なにより、軽井沢でウイスキーと言ったら…ここは予備知識として覚えておくと、ストーリー設定がすっきり飲みこみやすいと思います。

果たして幻のウイスキーは復活するのか、そして駒田蒸留所の未来は如何に…。

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(駒田蒸留所外観、御代田酒造の表記。劇中では「長野県」を連想させる場所が度々登場する。)

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(劇中で幻のウイスキーと言われた、”ウイスキーKOMA”。軽井沢で失われたウイスキーと言えばモデルは…。ただし、製法に関しての関連性はなく、あくまで位置づけとして。製法の伏線、ヒントはラベル。是非映画を見て頂きたい。)

■タイアップ企画について
本映画のストーリー進行は、御代田酒造・駒田蒸留所の社長である「駒田琉生(こまだるい)」と、News Value Japan(NVJ)社の新人記者である「高橋光太郎(たかはしこうたろう)」が、クラフトジャパニーズウイスキーを特集するための取材という目的で、国内の蒸留所を訪問するシーン。そして幻のウイスキーKOMAを復活させることを目指すシーン、主人公二人のそれぞれの”仕事”を舞台に構成されています。

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このウイスキー特集企画。劇中だけでなくリアル世界でのタイアップ企画が既に公開されており、現在オープンになっているのが以下の2つ。
・NVJの企画とWEBサイトを模した、ジャパニーズウイスキー特集。
・映画本編に登場した5蒸留所(三郎丸、信州、秩父、長濱、八郷)のオリジナルウイスキーリリース

聞くところによれば、今後更なる企画も予定されているとのことですが、本記事ではまずこれらの企画について紹介していきます。

・NVJの企画とWEBサイトを模した、ジャパニーズウイスキー特集。
映画を配信するGAGA社の公式サイトでは、9月末に映画本編を模したサイトがオープンし、蒸留所に関する情報発信が始まっています。
これは劇中では主人公:光太郎が書いている記事とリンクするような構成で…、最も内容は現時点では映画公開前なので非常にライト、編集長に「もっとウイスキーファンが読んで面白い原稿にしないとだめ。」と言われちゃいそう(笑)

ですがここで劇中に見られたような「〜〜の基準」とか、マニアックな話は逆に浮いちゃう気もするので。例えば劇中に出てきたシーンと実際の蒸留所の比較や、登場された方とのコメントとかまとめてくれるだけでも、聖地巡礼のきっかけになりそうで面白そうだと思うんですよね。
これから記事が増えていくと考えたら、楽しみなサイトです。

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URL:https://gaga.ne.jp/welcome-komada/special/

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(本記事に引用したアニメシーン画像とリンクする2箇所。秩父蒸溜所と長濱蒸溜所の例。ウイスキー特集と合わせてこうした情報発信があれば。)

・映画本編とタイアップした5蒸留所のオリジナルウイスキーリリース
8月に横浜で開催されたウイスキーフェスティバル等を皮切りに、本映画とクラフトウイスキー蒸留所のタイアップ企画として、オリジナルウイスキーのリリースが発表されています。

この企画は2段階に分かれており、
・第一弾:ムビチケ前売り券を購入された方が応募できるもの(11月9日まで)
・第二弾:映画館を見て頂いた方が応募できる企画(11月10日~12月7日まで)※
※前売り券を購入された方は、第一弾、第二弾どちらも応募可能。
リリースの調整は信濃屋が担当。当選したら購入できる、抽選販売となります。

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【第一弾】
三郎丸蒸留所:2020年蒸留、バーボンバレルで3年熟成のアイラピーテッド原酒。

【第二弾】
劇中に登場する蒸留所から、
・三郎丸蒸留所:2020年蒸留、アメリカンオーク新樽で3年熟成のアイラピーテッド原酒。
・秩父蒸溜所:イチローズモルト&グレーン アンバサダーズチョイス。
・長浜蒸溜所:2020年蒸留 アイラクオーターカスクで3年熟成のノンピート原酒。
・マルス信州蒸溜所:2018年蒸留、バーボンバレルで5年熟成のピーテッド原酒。
・八郷蒸溜所:2018年~2020年蒸留、シェリー樽、チェリーブランデー樽、さくら樽のトリプルカスク。
以上5点が発表され、第二弾はこの中から購入希望の蒸留所を選ぶ形式となります。

日本国内のウイスキーシーンは、2014年のドラマ:マッサンで注目度が高まり、世界的な需要増の後押しもあって大きなブームに繋がりました。そして今回の舞台はそのマッサン以降、大きく芽吹いたクラフトウイスキー。その旗振り役たる秩父蒸留所をはじめ、再稼働した蒸溜所、新興蒸溜所、新しい世代のウイスキーを楽しみにしたいです。

なおこれらのリリースについて、現物をテイスティングすることは出来ていませんが、選定を担当した信濃屋スピリッツバイヤーの秋本さんに電話一本、そのイメージ等を伺っています。折角なので、各蒸留所の紹介と合わせて後編記事として後日別途まとめたいと思います。

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■映画の公開に向けて
「ウイスキー」を主題とした映画は、アニメとしては世界初なのは言うまでもないですが、もう一歩踏み込んで「ウイスキー作り」を主題とした映画として見た場合、本作は実写映画“天使の分け前”に次いだ作品…となります。あるいはウイスキー作りの比率で言えば、ヒューマンドラマ色の強い“天使の分け前”に対し、あくまでウイスキー作りが軸にある本作が、世界初のクラフトウイスキー映画と言えるかもしれません。

それは本映画がP.A.WORKSの「お仕事シリーズ」に位置付けられ、働くことをテーマに登場人物の奮闘を描く物語であることから。
ただそのウイスキー作りは、本編では精麦、発酵、糖化、蒸留という行程はあまり触れられず、熟成、ブレンドをメインに展開していきます。
この辺はちょっと残念ではありますが、ウイスキーが熟成(リリースまでに)に3年以上、あるいは5年、10年という年月が必要であるため、経営難の蒸留所の幻のウイスキー復活に、蒸留から何年も待ち続けるストーリー展開は設定上も厳しかったのでしょう。

ではKOMA復活に向けて原酒はどうしたのか、どんな出来事があったのか、それはぜひ本編を見て頂きたいと思います。
個人的には、ウイスキーライターの端くれとして、臨時とは言えブレンダーを務める身として、若い両主人公の働く姿に、むず痒くもエネルギーを貰うような感覚のある映画だと感じました。
世界中から注目を集めるジャパニーズウイスキー、これまでは過去の蓄積が評価につながってきましたが、今後は原酒も造り手も新しい世代が試される時代です。

「いいんじゃないの?必死にやった結果、俺はこの道に出会えたんだから」
本映画が直接的にも間接的にも、ジャパニーズウイスキーの造り手の背中を押してくれる一助となることを期待しています。

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追記:映画主題歌の「Dear my future」が良曲で、エンディングの余韻をしっかり膨らませてくれました。早見さん歌めちゃ上手いですね。

イチローズモルト 清里フィールドバレエ 33rd 53% シングルモルトジャパニーズウイスキー

カテゴリ:
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KIYOSATO FIELD BALLET 
33RD Anniversary 
Ichiro’s Malt 
Chichibu Distillery 
Single Malt Japanese Whisky 
700ml 53% 

評価:★★★★★★★(7)

香り:メローでスパイシーなトップノート。松の樹皮、キャラメルコーティングした胡桃やアーモンド、艶やかさのあるリッチなウッディネス。奥にはアプリコットやアップルタルトを思わせるフルーティーさ、微かなスモーキーフレーバーがあり複雑なアロマを一層引き立てている。

味:口当たりはウッディで濃厚、ナッツを思わせる軽い香ばしさ、微かに杏シロップのような酸味と甘み。徐々に濃縮されたフレーバーが紐解かれ、チャーリング由来のキャラメルの甘さ、オーク由来の華やかさ、そしてケミカル系のフルーティーさが広がる。
余韻はスパイシーでほろ苦く、そして華やか。ハイトーンな刺激の中で、じんわりとフルーツシロップのような甘さとほのかなピートを感じる長い余韻。

香味全体において主役となっているのが、ウッディで新樽要素を含むメローでスパイシーな樽感。これは中心に使われているというミズナラヘッドのチビ樽によるものと考えられる。
また、アプリコットなどのフルーティーさやコクのある甘さにシェリー樽原酒の個性が、さらには秩父の中でもたまに見られるアイリッシュ系のフルーティーさを持った原酒の個性がヒロインのごとく現れる。その他にも、スパイシーさ、ピーティーさ、香味の中から登場人物のようにそれぞれの秩父原酒の個性が交わり、複雑で重厚な1本に仕上がっている。原酒の熟成は平均10年程度、高い完成度と技量を感じる。

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昨年8月に公演された、第33回清里フィールドバレエ「ドン・キホーテ」。その記念となるウイスキーが2023年5月15日に発表されました。
毎年、清里フィールドバレエのリリースにあたっては、その発起人である萌木の村の舩木上次氏が知人関係者にサンプルを配布されていて、今年もご厚意で先行テイスティングをさせていただいています。いつも本当にありがとうございます。

清里フィールドバレエの記念ウイスキーは、そのストーリーやフィールドバレエそのものをウイスキーのブレンドに反映して、25期の公開からサントリーとイチローズモルトで毎年作られてきました。
2020年までは、サントリーでは輿水氏、福璵氏が白州原酒を用いて。イチローズモルトでは肥土氏がブレンダーとして、羽生原酒と川崎グレーン原酒を用いて。
2021年からはイチローズモルトの吉川氏がブレンダーとなって、秩父蒸留所の原酒を使って、まさに夢の饗宴と言うべきリリースが行われています。

あまりに歴史があり、これだけで冊子が作れてしまう(実はすでに作られている)ので、本記事では直近数年、秩父のシングルモルトリリースとなった2021年以降に触れていくと、バーボン樽原酒とチビ樽のピーテッド原酒で白と黒の世界を表現した「白鳥の湖」。
ポートワイン樽原酒を用いて女性的かつミステリアスな要素が加わった「眠れる森の美女」。
それぞれのリリースがフィールドバレエの演目を元にしたレシピとなっており、グラスの中のもう一つの舞台として、更に贅沢な時間を楽しむことができます。

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※清里フィールドバレエが開催されている山梨県・萌木の村は、2021年に開業50周年を迎えた。その記念としてアニバーサリーシングルモルトが、秩父蒸留所のシングルモルトを用いてリリースされている。今作とは異なり華やかさが強調された造りで、こちらも完成度は高い。

一方、今回の記念リリースは舞台ドン・キホーテをイメージしてブレンドされているわけですが、正直見て楽しい演目である一方で、ウイスキーとして表現しろと言われたら…、これは難しかったのではないでしょうか。
造り手が相当苦労したという裏話も聞いているところ、個人的にも香味からのイメージで、老騎士(自称)の勘違い冒険劇たる喜劇ドン・キホーテを結びつけるのは正直難しくありました。

今回のリリースのキーモルトとなっているのは
・ミズナラヘッドのチビ樽(クオーターカスク)原酒
そこに、
・11年熟成のオロロソシェリー樽原酒
・8年熟成のヘビリーピーテッド原酒
という3つのパーツが情報公開されています。
これらの情報と、テイスティングした感想から、私の勝手な考察を紹介させていただくと。
通常と少し異なる形状のチビ樽原酒、つまりウイスキーにおける王道的な樽となるバーボンやシェリーではなく、個性的で一風変わった原酒を主軸に置くこと。これが舞台における主人公、ドン・キホーテとして位置付けられているのかなと。

そして、このチビ樽原酒に由来する濃厚なウッディさと、幾つもの樽、原酒の個性が重厚なフレーバーを紡ぐ点が、登場人物がさまざまに出てくる劇中をイメージさせてくれます。
特に中間以降にフルーティーで艶やかな、女性的なフレーバーも感じられる点は、まさに劇中におけるヒロイン、キトリ登場という感じ。
しかも余韻が樽感ではなく、ほのかなスモーキーさで引き立てられる点が、キトリと結婚することになるバジルの存在…、といったキャスティングなのだろうかと。口内に残るハイトーンでじんじんとした刺激は、さながら終幕時の万雷の拍手のようにも感じられます。

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※清里フィールドバレエ「ドン・キホーテ」
画像引用:https://spice.eplus.jp/articles/301927/amp

ただ、このリリースをフィールドバレエというよりウイスキー単体で捉えた場合、純粋に美味しく、そして高い完成度の1本だと思います。
造り手がベストを尽くした、一流の仕事。萌木の村に関連するリリースに共通する清里の精神が、確かに息づいている。秩父蒸留所の原酒の成長、引き出しの多さ、そして造り手の技量が感じられますね。

実は自分は秩父の若い原酒に見られるスパイシーさ、和生姜やハッカのようなニュアンス、あるいは妙なえぐみが得意ではなく、これまで秩父モルトで高い評価をすることはほとんどなかったように思います。
ただ10年熟成を超えたあたりの原酒のフルーティーさや、近年の若い原酒でも定番品のリーフシリーズ・ダブルディスティラリーの味が明らかに変わっている中で感じられる要素、そしてブレンド技術やニューメイクの作り込みと、流石に凄いなと思うこと多々あり、既に昔の認識のままでもありません。

良いものは良い、過去秩父蒸留所のモルトを使った清里フィールドバレエ3作の中では、今回の1本が一番好みです。
発表は5月15日、一般向けの抽選発売は5月20日からとのこと。萌木の村のBAR Perchをはじめ、国内のBARでももちろん提供されるはずですので、その際は、当ブログの記事が複雑で重厚な香味を紐解くきっかけの一つとなってくれたら幸いです。

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イチローズモルト 神田バーテンダーズチョイス 2023 60% #7163

カテゴリ:
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ICHIRO’s MALT 
KANDA BARTENDER’S CHOICE 2023 
Single Cask World Blended Whisky 
Cask No, 7163 (2nd fill Bourbon Barrel) 
Selected by Kanda Bar Society 
700ml 60% 

評価:★★★★★★(6)

香り:キャラメルナッツを思わせる甘さと軽い香ばしさ、古い家具、微かにオレンジのような果実香が混ざる。

味:口当たりはメローでボリューミー、オレンジカラメルソースやチョコウェハースからスパイシーなフレーバー。微かにフルーティー。入りはグレーンの個性から徐々にモルトの個性に切り替わっていく。
余韻はスパイシーでウッディ、紅茶を思わせる淡い甘さとタンニンがあり、長く続く。

第一印象はグレーンというよりも、バーボン系のウッディさ。ヘビータイプグレーンを思わせる色濃い甘さとウッディさがあり、その個性をモルトが引き算しつつ、スパイシーさとフルーティーさが足し算されている。モルトとグレーンの比率は4:6程度と予想。全体的に若い印象はなく、トータル10年程度は熟成されているようだ。
時間をかけてマリッジした複数の原酒の、異なる2つの個性が足し引きされ、融合したような味わいが面白い。

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2年に一度、神田祭りの開催と合わせてリリースされる記念ボトル第6弾。
2013年に第一弾の羽生がリリースされてから10年、その間、神田の飲食店はウイスキーブーム、インバウンド増からの感染症と、まさに急転直下。その苦労は各位計り知れないものだったと思われますが、こうしてリリースが続いたこと、またこのボトルを飲むとができたことを、一人の愛好家として嬉しく思います。

今作は秩父蒸留所のモルト原酒と、輸入モルトウイスキー、輸入グレーンウイスキーを1樽分ブレンドし、2nd fill バーボンバレルで約7年間マリッジしたという1本です。
ブレンドした時点で秩父のモルト原酒は3年程度の熟成だったそうで、7年強のマリッジ期間を合わせると使われている秩父はトータル10年程度の熟成品。最初のリリースから10年という節目のボトルにぴったりなリリースとも感じます。

ブレンド比率は香味からの予想で、だいたいモルト4:グレーン6。
グレーンの中でもしっかり色の付いたバーボン系のヘビータイプグレーンが使われている印象で、ブレンド比率は秩父モルト2、輸入モルト2、輸入グレーン(英国)2、輸入グレーン(カナダ)4あたりでしょうか。
これらがセカンドフィルで主張の穏やかなバーボンバレルの中で混ざり合い、追加熟成を経た結果、例えば新樽後熟でつくような後付けで個性を圧殺する強い樽感ではなく、元からあった樽感が混ざり、こなれたような熟成感に繋がっています。

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※神田祭り記念ボトル、2021(右)と2023(左)。どちらもシングルカスクブレンド。2021の方が色が淡く、若いバナナや柑橘類を思わせる酸味とプレーン寄りの甘さが感じられる。メローでスパイシーな2023とは構成が大きく異なり、好みも分かれそう。自分は2023のほうが好み。

一方で、今回のリリースで非常にわかりにくかったのが改正表示法に基づく裏ラベルの表記です。
原料原産地名:英国製造、カナダ製造(グレーンウイスキー)
見ての通り国内製造表記がなく。あれ、ひょっとして輸入原酒だけで作られているのか?と、ラベル画像を二度見三度見。。。
結論は、先に書いてある通り秩父原酒がちゃんと使われているわけですが。これは英国製造には2つないし3つの意味があったということです。

英国製造は
・英国で製造(製麦)したモルトを原料として秩父蒸留所で蒸留、熟成したモルトウイスキー。
・英国で製造(蒸留、熟成、ブレンド)されたバルクモルトウイスキー。
・英国で製造されたバルクグレーンウイスキー。
つまり、原料としての英国製造と、輸入原酒としての英国製造が重なった表記だったのです。
そしてそこに、カナダで製造されたバルクグレーンウイスキーが合わさって、全体で最も多く使われているのがグレーンウイスキーであるため(グレーンウイスキー)として表記される。

…いや、わっかんねーよこれ。
表示法の改正は、国民が原料等使われているものを理解しやすくするためって趣旨があったはずなのに、余計混乱を生じさせる記載になっています。
まあ他の酒類だとあまりこういうことはなく、ウイスキーが特別なんですが、個別に捕捉の情報を発信していかないと、いらぬ誤解を生じさせてしまいそうだなと危惧します。ベンチャーウイスキーさんもそこまで個別のボトルの情報を発信しませんしね。
その補足に私のブログが役立てば幸いですが…。

なんだか話が変わってしまいましたが、メローでスパイシーで、個人的には結構好みなボトルでした。ぜひ神田のBARでお楽しみください。

安積蒸留所 山桜 ブレンデッドモルトジャパニーズウイスキー 50% シェリーウッドリザーブ

カテゴリ:
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ASAKA DISTILLERY 
YAMAZAKURA 
BLENDED  MALT JAPANESE WHISKY 
SHERRY WOOD RESERVE 
700ml 50% 

評価:★★★★★★(6ー7)

香り:ウッディで甘くフルーティーな香り立ち。麦芽や胡桃の乾いた要素に、アプリコットジャムや林檎のカラメル煮を思わせるしっとりと甘いアロマ。微かにスパイシーな要素が混じり、さながら洋菓子にトッピングされたシナモンやマサラを連想する。

味:リッチでコクのある口当たり。林檎ジャムや洋梨の果肉の甘み、栗の渋皮煮、紅茶を思わせるタンニン。微かに乾いた麦芽のようなアクセント。樽由来の要素がしっかりあり、それが果実の果肉を思わせるフルーティーさと、程よい渋みとなって口の中に広がる。
余韻はオーキーで華やか、スパイシーな刺激。黄色系のフルーティーさが戻り香となって長く続いていく。

まるで熟成庫の中にいるような木香と、しっとりとして熟成感のある甘いアロマが特徴的。追熟に使われたシェリーカスクは2〜3回使われたものか、全体を馴染ませている反面、シェリー感としては控えめで基本はバーボン樽由来の濃いオークフレーバーが主体。
構成原酒はおそらく2種類。一つは「かねてより弊社が貯蔵熟成しておりました原酒(背面ラベル記載)」で、10年程度の熟成を思わせるフルーティーさ。もう一つが4〜5年熟成と思しき安積蒸溜所のスパイシーで骨格のはっきりとした原酒。これらが混ざり合い、複層的な仕上がりを感じさせる。個人的にかなり好みな味わい。

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安積蒸留所を操業する笹の川酒造が、第二熟成庫の建設を記念してリリースした1本。440本限定。
本製品は安積名義ですがブレンデッドジャパニーズの区分であり、安積蒸留所の原酒に加え、背面ラベルに記載の通り「同社が貯蔵してきた原酒(国産)」がブレンドされ、シェリーカスクで18カ月のマリッジを経ているのが特徴となります。

本リリースについてはこれ以上明確な情報がなく、同社山口代表の言葉をそのまま伝えれば「シークレットリリースについて公式に情報を発信できませんが、そこも含めて予想しながら楽しんで頂きたい。」と。
また「愛好家がそれぞれの視点から予想を発信することは止めない」とのことなので、当方もいち愛好家として、本リリースの構成原酒等に関する予想を、以下にまとめていきます。

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予想の結論から言えば、構成原酒は
・安積蒸留所ノンピートモルト バーボン樽 4年程度熟成原酒
・秩父蒸留所ノンピートモルト(安積蒸溜所熟成) バーボン樽 10年程度熟成原酒
この2種類を1:1程度か秩父側多めの比率でバッティングして、リフィルシェリー樽でマリッジ。シェリー感は明示的にこれという色濃いものは出ていませんが、繋ぎとなるような品の良い甘さが付与された上で、50%に加水調整したものではないかと。

フレーバーとしては、秩父蒸溜所が昨年リリースした秩父 THE FIRST TENに似た、熟成を経たことで得られるフルーティーさと濃いオーキーさがあり。そこにほのかな酸味、骨格のはっきりしたスパイシーさと麦芽風味…これは安積蒸溜所のノンピート原酒でリリースされた、安積 THE FIRSTの延長線上にある個性。
既存のリリースからも感じることが出来る個性が、混ざり合ったブレンデッドモルトであると考えています。

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また、今回のリリースの特徴であり、そのヒントではないかと思うのが、シングルモルトではないのに安積(#あずみじゃないよあさかだよ)名義となっていることです。
笹の川酒造のウイスキー貯蔵庫には、蒸溜所の操業前から秩父蒸留所の原酒が10樽ほど保管されており、私の記憶が確かなら、該当原酒は蒸溜所を見学した2018年時点で8年熟成だったはずです。

その時点で今回のリリースに通じるフルーティーさが既にあったわけですが、2021年までマリッジ期間の18か月を含め3年強の熟成を経たとすれば、今回のリリースの構成原酒として違和感はなく。
何より蒸溜所は異なるとしても、ウイスキーの熟成で重要なファクターである”熟成環境”が、ほとんどの期間を安積蒸留所の環境下にある原酒なら、安積名義としてリリースするブレンデッドモルトウイスキーであっても同様に違和感のない構成であると言えます。

以上のようにいくつかの状況材料と、こうだったら良いなと言う願望が混ざった予想となっていますが、少なくともブレンドされている原酒の片方は10年前後の熟成期間を彷彿とさせるものであることは違いなく。そうなると、国内蒸留所でそれだけの原酒があって、しかも笹の川酒造が”かねてから熟成させていた”となる蒸溜所は、おのずと限られているわけです。

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(建設中の安積蒸留所の第二熟成庫。画像引用:笹の川酒造安積蒸留所公式Twitter

さて、ここからは仮定の話の上で、自分の願望というか、笹の川酒造とイチローズモルトの繋がりについて紹介します。

今や世界的なブランドとなったイチローズモルト。その設立前、肥土伊知郎氏が東亜酒造・羽生蒸留所の原酒を引き取った際、笹の川酒造がその保管場所を提供したという話は有名です。
ただしこれは微妙に事実と異なっており、日本の酒税法の関係から原酒を買い取ったのは笹の川酒造であり、イチローズモルト(ベンチャーウイスキー)の体制が整うまでは、笹の川酒造がイチローズモルトのリリースを代行していたのです。

ウイスキーブームの昨今なら、こうしたビジネスも受け入れられるでしょうが、当時は2000年代前半、ウイスキー冬の時代真っ只中。ほぼ同時期、余市蒸留所ですら1年間創業を休止した時期があったほどで、日本のウイスキー産業は明日もわからぬ状況でした。
そんな中大量の原酒を買い取り、血縁があるわけでもない1人の人間のチャレンジに協力する。なんて男気のある話だろうかと、思い返すたびに感じます。

さらに、笹の川酒造に保管されていた秩父蒸留所の原酒10樽。これは確か2010年頃に蒸留されたもので、ブームの到来はまだ先であり、蒸留所として製品がリリースされる前の頃のもの。
原酒を購入した経緯もまた、両者の繋がりの強さ、冬の時代を共に超えていこうという助けの手であるように感じます。

一方で、笹の川酒造が安積蒸留所として2016年にウイスキー事業を再開するにあたっては、秩父蒸留所と伊知郎さんが協力したのは言うまでもありません。
今回のリリースの構成原酒を秩父と安積とすれば、それは単なるブレンデッドとは言えない、熟成期間以上に、長く強い繋がりが産んだウイスキーであると言えます。個人的には待望の1本ですね。
単純に日本のブレンデッドモルトとして飲んでも美味しい1本ですが、是非そのバックストーリー含めて考察し、楽しんで貰えたらと思います。

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