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シークレットアイラ (ラガヴーリン) 2013-2022 ポートカスク #4105 for BAR 莨樽

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SECRET ISLAY DISTILLERY (LAGAVULIN) 
Aged 8 years 
Distilled 2013 
Bottled 2022 
Matured Port Wine Cask #4105 
For Bar Rotaru 3rd Annviersary 
Supported by Shinanoya 
700ml 53.8%

評価:★★★★★★(6)

香り:甘くスモーキーなトップノート。フレーバーティーのような甘さと支配的なピートで、野焼きや根菜を思わせる土系の要素、微かに漬物、蜂蜜梅干しを思わせる酸、鼻腔へのほのかな刺激を伴う。

味:口当たりは甘く張り付くような粘性がありつつ、はっきりとピーティー。乾煎りした麦芽のような香ばしさ、焦げた木材や根菜の風味と合わせてドライベリーやチェリー、フルーツシロップのような甘酸っぱさ。
余韻はヨードを伴うピーティーでねっとりとした甘さから、スパイシーな刺激も感じられ、長く続く。

若いアイラモルトの良さである、熟成によってこなれていないはつらつとしたピートフレーバーや、蒸留所の個性は適度に残りつつも、若さゆえの口当たりの粗さ、ネガティブなフレーバーをポートワイン樽由来の粘性のある甘さがコーティングし、複雑さに通じている面白い仕上がり。
ポートワイン樽由来の要素には、硫黄香などの悪い要素はなく、ポート酒を思わせる深みある甘さ、角の取れた酸味、穏やかなウッディネスが付与されている。
女性的なポートの包容力と、力強く男性的なアイラの共演は、さながら美女と巨人…。スペック表記から想像される以上のクオリティを感じられる1本。

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六本木のウイスキー&カクテルBAR 莨樽(ろうたる)のオープン3周年を記念したプライベートリリース。BARの周年記念日となる8月18日に発売予定の、美女と巨人なアイラモルトです。信濃屋と同BARの繋がりで実現した1本であり、リリースに当たっては私も少しお手伝いさせて頂きました。

いや、信濃屋はともかく、くりりんは何の繋がりがあったんだ、と言う疑問から触れていくと、BAR莨樽はオーナーとしてウイスキー愛好家の郭 良 (かく りょう)さんが、共同オーナーとして乾杯会の鄭 冲(てい ちゅう)さんが立ち上げたお店。
お二人とは、私がブレンダー&調整役として関わらせてもらった乾杯会のプライベートリリース:Dream of Craft Distilleryを通じての繋がりがあり、今回の周年記念リリースに当たっても、サンプル確認やラベル作成等でお手伝いさせて頂いたという流れになります。
勿論、売り上げや協力料を頂く話ではありません。いつも通り趣味として、友人としての関わりです。

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※本リリースは、信濃屋のスピリッツバイヤー秋本さんが調達した原酒からチョイスされており、一部信濃屋でも販売される。予約は8月7日から。

前置きはこれくらいとして、本リリースの中身を改めて解説していきます。
正直なことを言えば、私自身が何の前情報も繋がりもなく、シークレットアイラでポートカスクで短熟リリースを飲むか…と言われたら、多分率先しては飲まなかったろうなと思います。サンプル確認の段階でも「ウーン、今時のスペックだなぁ…シークレットだし…」と、そんなことを考えながら、サンプルをグラスに注いだ記憶があります。

ただ、それをノージングして、一口飲んで、あれ?これいいじゃん、今の市場の状況なら全然アリだよね、となるのです。
キーポイントはポートカスクです。今回のリリースの熟成は最初の1年強がバーボン樽で、その後がポートワイン樽という変則スペック。本来、この熟成年数で若いアイラモルト、特にラガヴーリンのようにパワフルで個性が強いものは、ピートも麦芽風味も力強くわかりやすいのが特徴である一方で、バーボン樽だけだとドライで荒々しい仕上がりになりがちです。
本リリースはそれをポートカスク由来の甘さがうまくコーティングしている。例えるなら一定量の雪が積もった日の景色は、一面の細かい凹凸は隠されているものの、大きなオブジェや地形はその姿を認識出来る。みたいな感じです。

さて、本記事ではあくまで当方個人の予想として、中身がラガヴーリンであると明記しています。
昔、ラガヴーリンのオフィシャル16年は、シェリー樽とは明記されてないものの、シェリー樽熟成原酒が使われているのか?と、専門家や愛好家間で議論になるほど色濃く甘みを感じる構成でした。昨今のものは多少比率が変わったのかチャーリングしたオークとバーボン樽系のフレーバーが分かり易い構成になっており、あれはシェリーではなくカラメルとリチャーオークだったのかなと思うところですが。
こうして甘口でピーティー、パワフルなラガヴーリンを飲むと、現代的なセンスでまとめられたリリースと感じつつも、同時に昔のイメージが思い出されるようでもあります。

ちなみにラガヴーリンは、郭さんがシングルモルトにハマったきっかけの銘柄であり、その後自身のこだわりを形にする中でBAR莨樽開店へと繋がります。
また、表ラベルについては信濃屋からいくつか案が出される中で、選ばれたのは打ち上げ花火を背景にした女性…。これは単に萌えを意識したのではなく、裏ラベルに書かれたように「郭さんの最も大切な人」を彷彿とさせるイラストだったことから。BARの節目を祝う、特別なリリースに相応しいものとなりました。
改めて、3周年と記念ボトルのリリースおめでとうございます。

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【WHISKY BAR & GARELLRY 莨樽について】
2020年に六本木にオープン。莨樽の「莨」は煙草、「樽」はウイスキーの意味であり、大人の嗜好品を嗜む空間として使って頂きたいという郭氏の想い、こだわりのもと、特別な空間、特別なウイスキーを揃え、日々進化を続けている。そのウイスキーのラインナップは1500本以上。造り手の情熱やその国々の文化と共に、一期一会のウイスキーを提供することをテーマに、ウイスキー初心者から、経験豊富なベテラン愛好家まで納得のラインナップを揃える。また、カクテルも旬のフルーツカクテルを中心に準備されている。

WHISKY BAR & GARELLRY 莨樽
住所:東京都港区六本木7-16-5 六本木戸田ビル1F
営業時間:18:00~26:00
定休日:日曜日

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T&T TOYAMA ザ・バルク Vol.1 46% リリースとスペース配信告知

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T&T TOYAMA 
THE BULK Vol.1
BLENDED WHISKY 
Speyside Malt Whisky 12yo & Blended Scotch Whisky 5yo
Selected by T&T with kuririn
One of 1000 Bottles
500ml 46% 

評価:★★★★★★(5ー6)

香り:スパニッシュオークの色濃いウッディネス。ドライブルーンやシロップ漬けチェリー、アーモンドヌガーを思わせる甘さ。奥にはウッドチップ、微かにハーブのアクセント。

味:口当たりはまろやかで、チョコレートやドライフルーツの甘酸っぱさ、紅茶を思わせる含み香。フレーバーは骨格がしっかりとしており、余韻も長い。果実味の残滓からややビターなウッディネス、干し草、じんじんと軽やかな刺激が口内を引き締める。

香味ともシェリー樽由来の要素がしっかりと感じられる。突き抜けたウイスキーではないが、蒸留所の個性に加え、酒質と機感、全体のバランスが良いシングルモルト・・ではなく、ブレンデッドウイスキーである。ストレートやロック、またはオリジナルブレンドのベース としてなど、自由に楽しんで欲しい。
ラベルモチーフは、バルクパーツと掛けてPCパーツのCPU。え、どこかで見たことがある?…勘のいい読者は嫌いだよ…。

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先日のグラスに次いで、今度はT&T TOYAMAさんとのコラボリリースとなる1本。7月20日から、ALC、モルトヤマ、そして関連酒販店さんで発売予定。価格は4980円+税です。
裏ラベルにも記載の通り、本リリースにかかるウイスキーの選定者の一人として、協力させて貰っています。(勿論、いつものように売上や協力料等の報酬は受け取っておりません。)

THE BULKのコンセプトを端的に紹介すると、ブレンド用に調達してきた輸入ウイスキー(バルクウイスキー)の中から、そのままリリースして全く問題ないクオリティのものを一般向けにリリースすることで、ウイスキーの価格高騰の中でも、手軽に良質なウイスキーを楽しんでもらおうというものです。Vol.1とあるように、シリーズものであり、今後も継続したリリースを予定がされています。

また、副次的な狙いとしては、バルクウイスキー=粗悪なウイスキーという誤った認識に対して、実際のところどうなのかを示していく狙いもあります。
日本に限らず、世界のウイスキー産業を支えているのがバルクウイスキーです。日本においては、ウイスキー産業の黎明期から現代に至るまで、原酒の幅を補って、品質の向上にも寄与してきたことは暗黙の了解的に知られていますが、それは他のウイスキー大国であっても同様であり、メーカー間で盛んにブレンド用原酒がやりとりされ、縁の下の力持ち的に多くの銘柄に用いられてきたのです。

しかし現代の日本においては、安価なバルクウイスキーを使ってあたかも高価なジャパニーズウイスキーのように販売する、ロンダリング的な使われ方をした経緯から、人によってはその品質を疑問視する声もあります。
またバルクウイスキーなので素性が明かせない、あるいは素性不明なものがほとんどで、なんだかわからないものを買うのはちょっと…という不安もあるかと思います。そこでその品質は、本リリースに選定者として関わる、ウイスキーの造り手、ウイスキーの売り手、そしてウイスキーの愛好家、それぞれの視点で問題なしと担保したもののみをリリースしていきます。

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第一弾は、販促情報にある通り、スコットランドはスペイサイドの、シェリー樽熟成で有名な某蒸留所Mの12年熟成シングルモルトウイスキーに、ほんの少しブレンデッドウイスキーが混入してしまったもの。混入したブレンドは“とても有名なモノ”だとのことですが、香味からはそのブレンドやグレーンの特徴を感じることは…まず不可能です。

基本的にはスパニッシュオークのオロロソシェリーカスク由来の香味が主体にあり、ボディも適度に感じられる。某シングルモルト12年シェリーオークを濃くした味わいですね(加水比率が少なく、フィルタリングが最低限であるためと予想)。自分の感覚では98%、あるいは99%はモルトウイスキーではないかと予想しています。

突き抜けて素晴らしいウイスキーではないですが、標準以上のクオリティは間違いなくあるウイスキーです。価格的にも悪くない、いやむしろ手頃(金銭感覚崩壊)。
最近はシェリー系原酒が貴重ですし、下手するとこの事故エピソードを隠して某Mベースのブレンドとするか、何か美談的な(古くは某アイラモルトや某バーボンにもあった)エピソードを付け加えて、リリースされててもおかしくないと思います。

昨年、あるブレンドを企画中にこのバルクに出会い、え、これそのままリリースしたらいいんじゃとなって、今回の企画が動き出します。どうせならVol.2、Vol.3の見通しを立ててからリリースしようとT&Tの方で調整した結果、第一弾のリリースが夏場にずれ込んでしまいましたが。
クーラーの効いた部屋で、食後に軽く冷やしたシェリー系シングルモルトもオツなものです。またキャンプに持ち込んで、夜の空気と共に楽しまれるなんてのも良いですね。あるいはブレンドに使ってみるのも一案。自由に楽しんで貰えたらと思います。

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※ラベルはバルクウイスキーとバルクパーツをかけて、バルクCPUっぽいものに。ここはT&Tの二人の拘りで、QRコードからはブランドページにリンクします。ただ、なんだか狙いとは別に見た目が某社の某リリースっぽくなったような…フロム ザ バル…(おや、誰だこんな時間に

※スペース配信 告知※
日時:7月15日(土) 22:00〜
URL:https://twitter.com/i/spaces/1OdJrzzlMoVJX

本リリースをはじめ、最近何かと話題の多いT&T TOYAMAおよび三郎丸蒸留所。ゲストも交えて今回のリリースや今後の予定をトークします。
また、最近様々な商品が投入され、熱気を帯びるテイスティンググラス市場。今後発売されるオーツカ氏開発のテイスティンググラス第3弾(スティルグラス)や、静谷氏開発の咲グラス(蕾グラス)も使い勝手を先行レビューします!

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カリラ 14年 2008-2022 バーボンバレル for Wu Dram Clan 52.4%

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CAOL ILA 
Wu Dram Clan 
Aged 14 years 
Distilled 2008/03 
Bottled 2022/03 
Cask type Bourbon Barrel #304738 
700ml 52.4% 

評価:★★★★★★(6)

トップノートはややドライ、バーボン樽由来のオーキーな黄色系果実、合わせてスモーキーで、焦げ感を伴うピート香。ヨードや塩気を伴い、シャープで力強い。
味わいも同様で、アイラ要素を強く感じさせる構成。熟成を経たことによる樽由来のフルーティーさに対して、ピートフレーバーや麦芽風味など、全体的に多少粗さが残っており、それが風強く波立つ海を連想させ、海の要素を際立てている。
余韻はウッディな華やかさもややエッジが立って、スパイシーでほろ苦いフィニッシュ。

クリアでスモーキーで、ほのかな甘さと共にシャープで適度な粗さがある。オフィシャル路線から外れておらず、むしろシングルカスクとしてのバーボン樽の個性と、カリラらしさのしっかりある、ボトラーズリリースらしい1本、
飲み頃という意味では、最初のピーク。まだまだ熟成の余地も残されているが、これ以上熟成し、20年、30年となると、1990年代以降のカリラは樽感が強くなり異なるキャラクターとなるため、個性も楽しめる美味しさとしては10~15年程度が適齢なのかもしれない。

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80年代、90年代、2000年代、傾向の違いはあれど、いつの世代の原酒も流通があり、大外ししたリリースも少なく大概は美味い、まさに安定のカリラ。
ラフロイグ、ボウモア、アードベッグ、ラガヴーリンと、オフィシャルからの原酒提供が止まってボトラーズリリースがほとんどなくなり。時期によっては流通がなく、あってもシークレットアイラ名義という昨今の市場において、変わらない存在感は行きつけの店で頼む「いつもの」のような安心感すらあります。

というか最近のアイラモルトの市場、新規発売された10年以上熟成の蒸留所名表記のボトラーズリリースって、本当にカリラくらいしかないんですよね。
最近だと、30年オーバーの熟成がCoDカリラの32年や、 BARカスクストレングスの20周年記念ボトルでリリースされているところ。ただ、この2種は味わいというより価格的になかなか手が出ないボトル。一方で、10年熟成程度なら現実的だし、面白いモノもいくつかあります。

例えば、以下のワットウイスキーのカリラは、熟成を経て角がとれた酒質からアイラ要素をメインに楽しめるボトルですし、その逆としてフルーティーさが欲しい場合は、今回のボトルを筆頭に、バーボンバレル熟成のものを狙ってみると良いと思います。

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カリラ 32年 1990-2022 51.5% for Wu DRAM Clan
今年WDCがリリースした、MHDオフィシャル扱いのカリラ・シングルカスク。このオフィシャル相当のボトルが国内に流通するということだけでも十分凄いが…現在の市場のオフィシャル30年オーバーというだけあって、勿論価格も凄い。

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カリラ 11年 ワットウイスキー 2011−2022 ホグスヘッド 58.4% 

わかりやすいフルーティーさではなく、樽感は淡く、その分ヨードとピートからなる”アイラらしさ“を味わえる点がポイント。ハイボール向き。
いやいや、そんなことしなくても、カリラはオフィシャル12年が充分美味しいじゃないか。という意見も聞こえてきそうですが、ことピートに関しては加水じゃダメなんです。確かにバランスや飲みやすさとしては、オフィシャル現行のカリラや、その他アイラモルトも悪く無いクオリティがありますし、個人的にも普段はそれで十分です。
カリラ以外だと、キルホーマンのマキヤーベイの最新ロットとか飲んでみてください。凄いレベル上がってます。

ですが、加水やフィルタリング、あるいは複数樽バッティングでエッジの丸まったピートや麦感じゃなくて、カスクストレングスでバチっと効いたボトルが飲みたくなる時もあるのです。
そんなシングルカスク/カスクストレングスリリースにいつまでも居てくれるカリラの偉大さに感謝しつつ、今日の記事の結びとします。
ほんと、このまま安定してリリースされ続けて欲しいものです。

グレンロセス 36年 1986-2022 Wu Dram Clan 45.6% #2125

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GLENROTHES 
Wu Dram Clan 
Aged 36 years 
Distilled 1986/03 
Bottled 2022/11 
Cas type Bourbon Hogshead #2125 
700ml 45.6% 

評価:★★★★★★★(7)

トップノートははっきりとした華やかさ、アップルタルトや熟した黄桃から、ナッツ、かすかに干し草を思わせる枯れたウッディネスへと移る。
口当たりは軽やかだが、徐々にねっとりとした黄色系の果実、濃縮したオークフレーバーが麦芽風味の残滓を伴って広がる。余韻は華やか、黄色系果実を思わせる甘酸っぱさ、かすかに古典的内陸モルトを思わせる麦芽風味を伴い、染みこむように長く続く。

アメリカンホワイトオーク・ホグスヘッド樽で熟成した、長熟グレンロセスの真骨頂とも言える溢れんばかりの華やかさ、フルーティーさ、そして枯れたようなニュアンスが特徴の1本。度数は45%台まで落ちているが、枯れ感が強くならず、華やかさとフルーティーさを強調したような味わいは、この時代の酒質が麦芽風味が厚かったことと、樽から良い形で影響を受けた結果だろう。
香味の傾向としては、ボトラーズのブランドは違うが、Old&Rareのプラチナシリーズあたりに有りそうなクオリティ。選定者のこだわりを感じる1本である。

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1980〜90年代蒸留で、30年オーバーの熟成。という当たり前の事実を、年齢的な理由から認めたくない昨今。
そんなオッサンちっくな、時間の流れに取り残された心情だけなら良いのですが、もう一つ認めたくないのがボトラーズの原酒事情。
80年代は多くの蒸留所が閉鎖したように、スコッチ業界全体で生産量を調整していた時期にあたり、そこに現在の世界的なウイスキー需要増がダブルパンチとなって、原酒自体の入手が困難で価格も青天井状態…と、難儀な状況となっています。

しかし言うても冬の時代、谷間の世代の80年代。だったらオールドを買えば良いのではないか、という意見もあります。
確かに、1980年代のスコッチモルトは、黄金時代とされた60年代、71、72、76と当たり銘柄で話題になる70年代からすれば、閉鎖蒸留年以外であまり話題にならない世代です。(あるのはクライヌリッシュの82くらい。アイラはボウモア以外安定していますが…。)

個人的な感覚で言えば、80年代の内陸モルトは生産調整があったからか、出回った樽や麦芽品種の問題か、何か一つ原因というわけではないのでしょうが、麦感は出ているのですが果実味や華やかさ等に乏しく、特徴に欠ける原酒が多い、あまり勢いのない世代という印象でした。
また、グレンロセスに限れば、オフィシャルから蒸留年毎のリリースがあったこともあり、80年代のビンテージで10〜20年熟成品が珍しくありません。
味も当時は70年代に比べたら平凡だった結果、86年ビンテージなんて・・・といったら失礼ですが、少なくともブーム前からウイスキーを飲んでいたコアな愛好家にとっては、オールド買えばという意見も理解できてしまいます。

ですが今回のグレンロセスに限らず、80年代蒸留の30年熟成オーバーがここ数年ちらほら出て来ており、飲んでみると結構良いじゃん、みんな好きな味になってるじゃんと、あまり刺さらなかった10年前と比較して、その仕上がりの良さに驚かされます。
やはり長期熟成は偉大…というか、下地の酒質、麦芽風味があってこその熟成ですね。
今回のロセスも、ともすれば線が細く枯れ感が強くなりがちなところ、麦芽風味が残っていることで強い樽由来の要素を支え、勢いがなかったことが逆に染み込むような余韻に繋がった、この世代だからこその味わい。力強さはないがしみじみ美味い。

人間で言えば、トレンドを押さえた都会的なファッションに身を包んでいるが、中身は落ち着きのあるカッコ良いミドルエイジ。。。
同じ世代の生まれなだけに、思い入れもある80年代モルト。こんなところでダラダラ続いちゃいそうですが、書き出しはおじさん構文で始まったレビューですから、締めも同様に。
ではまた次のレビューで。

キャパドニック 22年 2000-2022 Wu Dram Clan 3rd Anniversary Collection 55.2%

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CAPERDONICH
Wu Dram Clan 3rd Anniversary Collection
Aged 22 years
Distilled 2000
Bottled 2022
Cask type Hogshead #29490 
700ml 55.2%

評価:★★★★★★(6)

香り立ちははっきりとした樽香、バニラや乾いた木材、新築家屋のようなアロマ。言い換えればバーボン的なニュアンスが感じられ、それがキャパドニックのソフトなモルティーさと混じり、スワリングしていると濃厚なフルーツ香へと変化する。

口に含むとバナナを思わせるクリーミーな甘さから、スライスアーモンド、焼き小麦菓子、ウッディなニュアンス。柔らかい麦芽風味を思わせるモルティーさを下地に、香り同様にはっきりとした樽由来の要素、エキスが口内に広がる。
余韻にかけては黄色系果実のほのかな酸味とウッディネス。華やかで甘いオーク香が鼻腔に抜け、ドライで長く続く。

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キャパドニックは基本的に線が細く、あるいはぼんやりとしている印象があり、特に2000年代のものはその傾向が強いと感じていました。
そこにホグスヘッド樽での熟成となると、まぁ軽やかな感じで後は華やかなオークフレーバー、ウッディな感じ・・・と予想していたのですが、このボトルは樽の系統が異なるのか、かなりはっきりと樽由来の要素が主張し、リッチな味わいを形成しています。

樽由来の要素を分解して考えると、バーボンの新樽系フレーバーと、オーソドックスなバーボン樽、つまりアメリカンオーク由来の黄色系フルーツ、オーキーな華やかさがそれぞれ混ざったと言える構成です。
濃厚さに繋がっているのは、前者のバーボン系フレーバー、新樽要素の存在。そこまで色が濃く出ているわけではないので、チャーリングしたものではないでしょう。 バーボンバレルをホグスヘッドへと組み替える際に、エキス分を多く残した樽材が使われたか、あるいはちょうどいいサイズの樽材が無かったとかで、樽材の一部が新樽に置き換わった樽なのではないかなと予想します。

こうした樽は頻繁に見られる訳ではありませんが、ボトラーズで内陸系原酒を飲んでいると、たまにこういうフレーバーのあるリリースに当たります。
中には、これほぼバーボンじゃんってレベルのものもありますが。今回はその新樽要素が、フルーティーさを後押しするように混ざり合う。注ぎたてはトップノートでバーボン系のフレーバーを強く拾いましたが、グラスの残り香からは、熟成したコニャックにも通じる甘さ、華やかさを感じる。濃厚な樽感が好みな方には、たまらない1本に仕上がっていると思います。

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なお、WDC3周年記念の3種リリースでは、飲む前はキャパドニックとグレンバーギーが同じような感じなのでは・・・と予想していましたが、飲んでみると全く異なる方向性でした。
カスクチョイスの意図を探るべく、ラベルのセンターに描かれたWDCのセバスチャン氏にフォーカスすると、
「our Man from the Black Forest, in front of the public, always in the front row and creating the buzz. Seb is our food hunter for liquid pleasure - no spot on earth remains undiscovered.」と紹介されているのですが・・・これはどんな意味が込められているんでしょう(笑)。

面識がないので想像でしかありませんが、WDCはスコッチウイスキー以外に、アメリカンウイスキー、ラムやコニャックなども扱われていて、それらかは並々ならぬこだわりが感じられます。
それらにあるWDCのメンバーが求めていると思われる共通した要素が、このキャパドニックにも備わっています。
バーボンのようであり、モルトであり、コニャックのようでもある。WDCの品質第一主義の水準を満たした1杯を楽しんでみてください。

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