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厚岸 ブレンデッドウイスキー 小雪 48% 二十四節気シリーズ

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THE AKKESHI 
BLENDED WHISKY 
SYOUSETSU 
20th. Season in the 24 Sekki 
700ml 48% 

評価:★★★★★★(5-6)

香り:トップノートはプレーンな甘さの後で、焼き芋のような香ばしさ、微かな焦げ感と土のアロマ。じわじわとスモーキーで、奥にはオレンジやカスタード、オークフレーバーが潜んでいる。

味:口当たりはスムーズで瑞々しい。グレーンや樽由来の甘みの後から、柑橘、シェリー樽のヒント、麦芽風味とピート香がバランス良く広がる。余韻にかけて軽やかなスパイシーさとミネラル、ほろ苦く穏やかにスモーキーなフィニッシュ。

ピート、麦芽、グレーン、樽、それぞれが過度に主張せず、バランスの良い印象を受けるブレンデッドウイスキー。熟成感が増してきた結果がはっきりと出ており、ストレート、ロック、ハイボール、様々な飲み方でも楽しめる。特にハイボールがオススメ!
ストレートでは少しボディが軽い印象を持ったが、これは使用している厚岸熟成グレーンの質によるところか。この時期の降っても積もらない小ぶりな雪の如く…。

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二十四節気シリーズ、折り返しの第13弾。
飲んだ最初の一言は「まとまってきたなぁ」と。第一印象でそう感じるほど、今回のリリースもまたそれぞれの原酒の個性、樽感がバランス良くまとまっており、それぞれの原酒の成長が感じられる仕上がりです。
樽構成はバーボン樽メインに、モルトはミズナラ樽や繋ぎのシェリー樽がそれぞれ1〜2割か。微かに赤みがかった色合いにも見えるので、ワイン樽も少量使われているかもしれません。

原酒構成はモルト6:グレーン4、あるいは5:5といった、比較的グレーン原酒が全体を慣らしている印象。ピートフレーバーもその分穏やかで、ノンピートモルトも一部使われてる感じですね。
以前リリースされたブレンデッド大寒もそうでしたが、最近の冬のブレンデッドリリースはあえてグレーンの比率を上げているのか、加水によって全体がさらに慣らされてまとまりが良く、一方で少し軽いというかしんとしているというか、ボリューミーな傾向にある春から夏にかけてのブレンドの対極にあるように感じます。

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(2023年5月にリリースされた、ブレンデッドウイスキーとしては前作となる厚岸“小満”。原酒が熟成を増してバランスの良さを感じるのは今作と同じだが、ブレンド比率と構成原酒の違いで小満の方が躍動感を感じる。)

こうしたタイプのウイスキーは、味のインパクトが少ない分、面白みがないという印象を受けるかもしれません。
ただ、真逆に強すぎる個性、強すぎる主張のものは、毎日付き合うのが疲れるモノです。ウイスキーの完成系は一つではなく、毎日飲んでも飽きがないくらいの、ちょっと地味なくらいの味わいも完成系の一つだと言えます。
ブレンデッドウイスキーの場合、特に大手製品のスタンダードグレードはまさにそんな感じですね。

じゃあ厚岸の限定リリースにそれを求めるか?というと、それもまた好み次第ですが。。。こういうブレンドを自前の原酒だけで作れるようになってきた、というのが蒸留所としても成長の証。
1ショットで途中加水も試しながら、あるいは別途ハイボールも飲んでも飲み疲れない。むしろグレーンがよく伸びて、ストレートとはまた違う印象もあるくらいです。
厚岸蒸溜所のウイスキーとして、入門の1本にしてみても良いと思います。

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(厚岸蒸溜所の裏手。早い秋の終わり、忍び寄る冬の気配…)

T&T TOYAMA ザ・バルク Vol.2 オーバークロック 45%

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T&T TOYAMA
THE BULK Vol.2 
BLENDED WHISKY OVER CLOCK 
Speyside Malt Whisky 12yo & Blended Scotch Whisky 5yo
Oloroso Spanish Oak Cask Finish
Selected by T&T with kuririn
One of 900 Bottles
500ml 45%

評価:★★★★★★(6)

香り:複雑でウッディなトップノート。複数のダークフルーツやカカオチョコレートを思わせる豊かなアロマ。色濃く濃厚な甘さの奥には焼き栗や焦げた木材、微かに樹液の要素が混じる。

味わい:まろやかで濃厚な口当たり。香り同様にダークフルーツ、ドライプルーンやブルーベリージャムを思わせる甘さと角の取れた酸味から、徐々にどっしりとしたウッディネス。ビターで煮だした紅茶、微かな刺激を伴う長いフィニッシュへと繋がる。

ベースとなるウイスキー、THE BULK Vol.1が持っていた熟成感とシェリー樽由来の要素に、後熟したスパニッシュオークのフレーバー、シーズニングのシェリー感が加わって一層濃厚で甘酸っぱく、複雑な香味へと仕上がっている。
後熟期間も合わせてほぼ13年熟成シングルモルトと言えるブレンデッドウイスキーだが、この樽感を受け止められる酒質のキャパは流石というところか。開封直後は後熟に用いた樽感が若干浮ついて感じられるかもしれないが、時間経過で馴染み、某M蒸留所のリリースに求めたいリッチな味わいを楽しませてくれる。

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当方が関わらせてもらっている、T&T TOYAMAのTHE BULKシリーズから、第2弾となるVol.2 オーバークロックが2023年12月5日より発売されます。
本リリースは、メーカー間で主にブレンド用の原酒として取引されているバルクウイスキーの中でも、高品質なもの、面白い個性やメッセージ性のあるもの、そして手頃な価格で楽しめるものを個人向けにバラ売りする。いわばパソコン部品のバルク品から着想を得たリリースです。

前作Vol.1は、ほぼ●ッカランとされるバルクブレンデッドスコッチウイスキー。
スペイサイド地域のシェリー樽熟成で有名な某M蒸留所の、シェリー樽で12年間熟成されたシングルモルトウイスキーに、なんらかの事情によって5年熟成表記相当のブレンデッドウイスキーがごく僅かに混入してしまったもの。
表記上はブレンデッドウイスキーとなりますが、その香味はバランスの良いシェリー樽由来の要素と、シングルモルトとしか思えないほどはっきりとした個性があり、まずはそのままボトリングしました。※Vol.1の記事はこちら

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THE BULK Vol.1は、エピソードの面白さや、近年高騰を続けるシェリー樽熟成ウイスキーを手軽に楽しめるという位置付けもあって、愛好家の皆様からは想像以上の好評を頂いたところ。
THE BULK Vol.2 オーバークロックは、Vol.1でリリースしたバルクウイスキーを、スパニッシュオークのオロロソシーズニングカスクに詰めて、三郎丸蒸留所の熟成庫で約1年間後熟した、濃厚仕様のリリースです。

1年間の追熟とはいえ、明らかに濃く、やや赤みがかった色合いの変化から、外観の情報だけでも違いを感じて頂けると思います。
度数は1%落ちましたが、香味は濃厚なものとなっており、Vol.1で感じた以上のダークフルーツやカカオチョコレート、煮出した紅茶、ほのかに焦げた木材。。。といった、スパニッシュオーク由来のフレーバーがマシマシです。
ですが濃厚さと引き換えに多少ウッディさも強くなり、Vol.1と比較してアンバランスであるのも本リリースの特徴となっています。

これは本リリースのサブタイトルが“オーバークロック(Over Clock)”とあるように、ラベルデザインにもなっているパソコン部品のCPUで、安定性を犠牲にする可能性があるものの、本来の定格以上の性能を引き出す手法と掛けて表現しています。
Vol.1を企画した際、これはこれで美味しいのだけれど、ボトラーズリリースとしてはバランス寄りで、シェリー樽熟成には更なる濃厚さを求めるニーズもあるのではと感じており。全体のバランスを多少犠牲にしても、面白さや個性を強化したものをと、昨年から並行して仕込んでいたのがVol.2なのです。

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通常、フィニッシュで樽感を後付けしたウイスキーは、香味に多少のズレや違和感が生じることとなります。
今回のフィニッシュ用いた樽は、Vol.1の大多数を占めるわっからんなシングルモルトの熟成に用いられた樽と近い特性を持っていると思われるものを選んでいますが、熟成が途中でリセットされることで濃厚さに加えてウッディネス、渋みといった要素も新たに足されることとなり、リリースとして上手くまとまるかはチャレンジでもありました。

本品開封直後は多少その香味のズレが感じられるかもしれませんが、時間経過でまとまり、複雑さや良い部分が増していく印象。
実はカスクサンプル時点では「あれ?」と思う要素が強かったのですが、ボトリングしてみたら甘みと果実味が強くなって想像以上にいい具合。8月くらいにリリースしようかと話していましたが、引っ張って正解だったかもしれません。
やっと寒さの増してきた2023年年末。家でゆったり飲む1本にちょうどいいリリースだと思いますし、Vol.1が手元にある方は飲み比べてフィニッシュによる違い、オーバークロックによる進化を楽しんで貰えたら幸いです。

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T&T TOYAMA ザ・バルク Vol.1 46% リリースとスペース配信告知

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T&T TOYAMA 
THE BULK Vol.1
BLENDED WHISKY 
Speyside Malt Whisky 12yo & Blended Scotch Whisky 5yo
Selected by T&T with kuririn
One of 1000 Bottles
500ml 46% 

評価:★★★★★★(5ー6)

香り:スパニッシュオークの色濃いウッディネス。ドライブルーンやシロップ漬けチェリー、アーモンドヌガーを思わせる甘さ。奥にはウッドチップ、微かにハーブのアクセント。

味:口当たりはまろやかで、チョコレートやドライフルーツの甘酸っぱさ、紅茶を思わせる含み香。フレーバーは骨格がしっかりとしており、余韻も長い。果実味の残滓からややビターなウッディネス、干し草、じんじんと軽やかな刺激が口内を引き締める。

香味ともシェリー樽由来の要素がしっかりと感じられる。突き抜けたウイスキーではないが、蒸留所の個性に加え、酒質と機感、全体のバランスが良いシングルモルト・・ではなく、ブレンデッドウイスキーである。ストレートやロック、またはオリジナルブレンドのベース としてなど、自由に楽しんで欲しい。
ラベルモチーフは、バルクパーツと掛けてPCパーツのCPU。え、どこかで見たことがある?…勘のいい読者は嫌いだよ…。

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先日のグラスに次いで、今度はT&T TOYAMAさんとのコラボリリースとなる1本。7月20日から、ALC、モルトヤマ、そして関連酒販店さんで発売予定。価格は4980円+税です。
裏ラベルにも記載の通り、本リリースにかかるウイスキーの選定者の一人として、協力させて貰っています。(勿論、いつものように売上や協力料等の報酬は受け取っておりません。)

THE BULKのコンセプトを端的に紹介すると、ブレンド用に調達してきた輸入ウイスキー(バルクウイスキー)の中から、そのままリリースして全く問題ないクオリティのものを一般向けにリリースすることで、ウイスキーの価格高騰の中でも、手軽に良質なウイスキーを楽しんでもらおうというものです。Vol.1とあるように、シリーズものであり、今後も継続したリリースを予定がされています。

また、副次的な狙いとしては、バルクウイスキー=粗悪なウイスキーという誤った認識に対して、実際のところどうなのかを示していく狙いもあります。
日本に限らず、世界のウイスキー産業を支えているのがバルクウイスキーです。日本においては、ウイスキー産業の黎明期から現代に至るまで、原酒の幅を補って、品質の向上にも寄与してきたことは暗黙の了解的に知られていますが、それは他のウイスキー大国であっても同様であり、メーカー間で盛んにブレンド用原酒がやりとりされ、縁の下の力持ち的に多くの銘柄に用いられてきたのです。

しかし現代の日本においては、安価なバルクウイスキーを使ってあたかも高価なジャパニーズウイスキーのように販売する、ロンダリング的な使われ方をした経緯から、人によってはその品質を疑問視する声もあります。
またバルクウイスキーなので素性が明かせない、あるいは素性不明なものがほとんどで、なんだかわからないものを買うのはちょっと…という不安もあるかと思います。そこでその品質は、本リリースに選定者として関わる、ウイスキーの造り手、ウイスキーの売り手、そしてウイスキーの愛好家、それぞれの視点で問題なしと担保したもののみをリリースしていきます。

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第一弾は、販促情報にある通り、スコットランドはスペイサイドの、シェリー樽熟成で有名な某蒸留所Mの12年熟成シングルモルトウイスキーに、ほんの少しブレンデッドウイスキーが混入してしまったもの。混入したブレンドは“とても有名なモノ”だとのことですが、香味からはそのブレンドやグレーンの特徴を感じることは…まず不可能です。

基本的にはスパニッシュオークのオロロソシェリーカスク由来の香味が主体にあり、ボディも適度に感じられる。某シングルモルト12年シェリーオークを濃くした味わいですね(加水比率が少なく、フィルタリングが最低限であるためと予想)。自分の感覚では98%、あるいは99%はモルトウイスキーではないかと予想しています。

突き抜けて素晴らしいウイスキーではないですが、標準以上のクオリティは間違いなくあるウイスキーです。価格的にも悪くない、いやむしろ手頃(金銭感覚崩壊)。
最近はシェリー系原酒が貴重ですし、下手するとこの事故エピソードを隠して某Mベースのブレンドとするか、何か美談的な(古くは某アイラモルトや某バーボンにもあった)エピソードを付け加えて、リリースされててもおかしくないと思います。

昨年、あるブレンドを企画中にこのバルクに出会い、え、これそのままリリースしたらいいんじゃとなって、今回の企画が動き出します。どうせならVol.2、Vol.3の見通しを立ててからリリースしようとT&Tの方で調整した結果、第一弾のリリースが夏場にずれ込んでしまいましたが。
クーラーの効いた部屋で、食後に軽く冷やしたシェリー系シングルモルトもオツなものです。またキャンプに持ち込んで、夜の空気と共に楽しまれるなんてのも良いですね。あるいはブレンドに使ってみるのも一案。自由に楽しんで貰えたらと思います。

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※ラベルはバルクウイスキーとバルクパーツをかけて、バルクCPUっぽいものに。ここはT&Tの二人の拘りで、QRコードからはブランドページにリンクします。ただ、なんだか狙いとは別に見た目が某社の某リリースっぽくなったような…フロム ザ バル…(おや、誰だこんな時間に

※スペース配信 告知※
日時:7月15日(土) 22:00〜
URL:https://twitter.com/i/spaces/1OdJrzzlMoVJX

本リリースをはじめ、最近何かと話題の多いT&T TOYAMAおよび三郎丸蒸留所。ゲストも交えて今回のリリースや今後の予定をトークします。
また、最近様々な商品が投入され、熱気を帯びるテイスティンググラス市場。今後発売されるオーツカ氏開発のテイスティンググラス第3弾(スティルグラス)や、静谷氏開発の咲グラス(蕾グラス)も使い勝手を先行レビューします!

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厚岸蒸溜所 ブレンデッドウイスキー 大暑 2022年リリース 48%

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THE AKKESHI 
"TAISHO" 
Blended Whisky 
A Fusion of the Worldwide Whiskies 
12th season in the 24 Sekki 
Bottled 2022 
700ml 48% 

評価:★★★★★★(6)

香り:土っぽさと焦げ感を含むピート香、燻した麦芽、スモーキーさの中にグレーン由来の穀物系の甘さとスパイシーな刺激。それらに複数の樽に由来するバニラ、ニッキ、ハーブ、柑橘、緑茶葉…様々なアロマが混じり、湧き立つような複雑さがグラスの中で陽炎のように揺らめき立ち上っている。

味:甘く厚みのある麦芽風味、含み香と共に広がるスモーキーなピート香。そこにグレーン原酒の甘さと粘性、柑橘感、スパイス、微かにお香を思わせるミズナラ樽のニュアンスやワイン樽由来のベリー系のアクセント。これらが軽快な刺激を伴って感じられる。
余韻はピーティーでビター、ウッディな苦みと焦げ感からミズナラ樽由来の個性的な甘みとスパイシーさが鼻孔に抜け、どっしりとした余韻が長く続く。

複雑でボリューミーな香味構成。モルトとグレーンの比率は6:4程度と推察。樽はバーボン樽が一番比率として高そうだが、次点はミズナラの新樽で20~30%といったところか。該当するキャラクターが随所にあり、他にはワイン樽の個性もアクセントとして感じる。熟成グレーンのコクと粘性、ミズナラの独特のスパイシーさにハーブや和柑橘感が、ピーティーで多彩なフレーバーを繋いでいる。
なおハイボールにすると複雑さの要因だった樽感、ボリューミーさを支えていたグレーンの甘みが軽くなるためか、スモーキーフレーバーを残し、すっきりとした味わいに変化する。

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「THE AKKESHI BLEND」は、厚岸蒸溜所が自社蒸留したモルト原酒と、グレーンスピリッツで調達後、厚岸蒸溜所で3年以上熟成したグレーン原酒を使いリリースするブレンデッドウイスキー。二十四節気シリーズとしては8作目、ブレンドとモルトが交互にリリースされる同シリーズにおけるブレンデッドとしては4作目となります。

”大暑”は二十四節気では凡そ7月下旬から8月上旬にあたり、読んで字のごとくの時期です。
今年は本当に暑かった…ですが関東では適度に雨も降り、空梅雨なんて言われてましたが、結局そんな心配はなく。その後に続くのは立秋→処暑→白露。昨年リリースしてWWAで受賞した同じ厚岸ブレンドの”処暑”が出てくる。二十四節気シリーズは1年に4リリースされていて、このシリーズが1年を2周して徐々に季節が埋まってきたんだなと、感慨深くもなりました。

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今回のリリースの特徴は、一つは北海道産麦芽(りょうふう)と北海道産ミズナラ樽熟成原酒による柑橘感とスパイスを連想する香り、含み香。そしてもう一つが前述のミズナラ樽原酒やグレーン原酒等、構成原酒の熟成感が増してきたことによる、バランスの取れた複雑さにあると考えています。

レシピの傾向も変わってきていて、確認したところ昨年は3年熟成の原酒をベースとしていたものの、そこから使われている原酒の最低熟成年数が1年増えたとのこと。粗さの強かった原酒の傾向が変わり、ブレンドのレシピ構成では2021年リリースのブレンデッド2作(雨水、処暑)に比べてまとまりのある方向にシフトしています。
ミズナラ熟成原酒の成長もその一つ。以前は目立たなかったオリエンタルな香味に通じる要素が香味の端々にあり、キーモルトたる働きをしています。

また、グレーンに関しては、個人的な経験から厚岸熟成グレーンの事例を紹介すると、昨年春、GLEN MUSCLE No,8 Five Spiritsのレシピ構成に関わらせてもらった際、ブレンドに使える原酒の選択肢に厚岸熟成グレーン(バーボン樽3年)がありました。ブレンドに欠かせないグレーンという1ピース、話題性としては間違いなく厚岸熟成グレーン一択です。
ですが最終的に使ったのは輸入スコッチグレーンの11年。なぜ使わなかったかと言うと、まだ熟成が短く香味がドライであり、グレーンとしての甘み、コクが弱いと感じたためでした。
一方でブレンドとしては前作となる“大寒”のリリースからは、グレーンに期待するフレーバーや特性も増してきたように感じます。たった1~2年の違いですが、日本の熟成環境では大きな違いとなり得るのです。

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ちなみに、前作”大寒”と香味の傾向を比較すると。原酒の成長というよりはブレンドの方向性の違いが大きく、冬から夏、静寂から躍動、表現する季節の違いと変化が楽しめるように思います。
大寒は1:1に近い比率でグレーンが使われていて、ややドライで静かな印象のある仕上がり。例えるなら雪が降った次の日の朝、朝日を浴びて一面白く染まった平野の景色を連想させる味わいに対して、大暑はグラスの中から陽炎のように湧き立つ個性、ボリュームのある味わいが、夏の暑さとリンクして感じられました。

冒頭述べたように、厚岸蒸溜所がリリースする二十四節気シリーズは1年間に4作品。シングルモルトとブレンデッドが2作品ずつリリースされており、来年は12本で折り返しを迎えます。つまり、順調にいけば後4年程でシリーズが完結するわけです。
それだけリリースを重ねる中で、今回のブレンドは蒸溜所としてもリリースとしても、一つ完成度の高さで階段を登った印象を受けました。

厚岸蒸溜所の熟成3年以上の原酒については、おそらくあと3~5年くらいで最初のピークを迎えるでしょう。一方で厚岸蒸溜所ではウイスキー造りにおいて毎年様々なアップデート、取り組みを行っている最中で、今なお蒸溜所そのものが発展途上です。
熟成環境は少し離れた海岸沿いの高台に第3、第4熟成庫が完成し、現在は第5貯蔵庫を建設中。それ以上に、今回使用されている北海道ミズナラ樽と北海道産麦芽りょうふうと組み合わさり、蒸溜所が目指す厚岸オールスターを形作る最後のピースと言える計画も、いよいよ佳境を迎えているところ。

コロナ禍の影響もあって多少遅れはあったようですが、きっと次のリリース前後で大きな発表があるのではないか。そして今回のリリースは、厚岸オールスターという蒸溜所が目指す理想像に組み込まれる、重要な要素、その一部を味わうことが出来る。マイルストーンな1本でもあるのです。

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※厚岸蒸溜所第3、第4、第5熟成庫(建設中)を見下ろすドローン写真。海沿いから内陸に入った場所にある蒸溜所から数キロ離れ、海沿いの高台に熟成庫が建設されている。画像引用:https://www.builder-net.jp/zisseki_kobetsu?id=7539

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※道端に落ちていたら、牛か馬の落とし物に見間違えそうだが、これが極めて重要な、最後の1ピースである。

アマハガン ハンドフィル 蒸溜所限定品 62% ”Recommend for Highball”

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AMAHAGAN 
World Blended 
Edition Hand-filled 
”Recommend for Highball”
Cask type Sherry 
Bottled 2022 
500ml 62% 

評価:★★★★★(5)

香り:ツンとして鼻腔に強い刺激を伴うクリアなトップノート。薄めたキャラメル、焦げたオーク、ほのかにドライプルーンのような甘さも感じられる。

味:香り同様にピリピリとした刺激が口内にありつつ、味はしっかりと樽由来の甘み、ケミカルな要素があり、焦げたキャラメルのほろ苦さ、ほのかにグラッシーでニッキのようなスパイシーさが余韻に繋がる。

蒸留所限定ブレンドの一つ。ブレンドの主体は5年程度と思われる若い内陸原酒で、香味とも刺激は残るが、それ以外に樽や原料由来の甘さ、ウッデイネス、各種フレーバーはそう悪いものではなく、未熟香もほぼ感じられない。そのため、推奨されているハイボールにするときれいに伸びて、軽やかな飲み口からチャーした樽の風味をアクセントに、余韻にかけてドライフルーツの甘みが程よく感じられる。
何より購入までの行程で楽しめる、エンターテイメントとしての魅力が素晴らしい。各クラフトもこうした取り組みをもっと実施してほしい。

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長濱蒸溜所で販売されている、蒸留所来訪者向けのオリジナルAMAHAGAN(アマハガン)。
アマハガンについての説明は不要かと思いますので割愛しますが、既製品のそれと異なるレシピでブレンドしたものをオクタブサイズのカスクに詰め、蒸留所内で追加熟成している商品です。
今回、ウイスキー仲間からお土産としていただいたのでレビューを掲載します。

ロットや原酒の切り替わりで名称も変わっていますが、今回のは”Recommend for Highball”
ベースとなるブレンドは、比較的若い輸入モルト原酒に長濱のモルトをバッティングし、プレーンでアタックが強く、それでいて品の良いフルーティーさを感じる構成。ストレートだとアタックが多少強く感じられますが、ロックやハイボールなら、そうした刺激が落ち着いて穏やかに楽しめるというレシピとなっています。

また、そのブレンドをオクタブのシェリーカスクで追加熟成。シェリーカスクというと色合いの濃さと香味への強い影響を予想されるかもしれませんが、樽事態はそれなりに使い古されているので、リチャーした樽材由来の香ばしく焦げたようなウッディさがある反面、シェリー樽でイメージする感じは前面に出ない、程よく付与された仕上がりとなっています。

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このシリーズの面白いところは、単に蒸留所限定品というだけではなく、その購入方法、手順にあります。

元々スコットランドの蒸溜所では、ハンドフィル、またの名をバリンチとして、蒸留所のビジターセンターで購入者が樽から直接ボトリングし、蒸留所限定のウイスキーを購入できるシステムがあります。
そのシステムを、日本の酒税法下でできる範囲で踏襲したのが、このAMAHAGAN Hand Filledになります。
写真付きで購入までの流れを紹介していきます。

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①購入希望者は蒸溜所側の購入履歴ノート、ラベルにその日の日付、購入者の名前等を記載。

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②500mlのボトルに樽から直接ウイスキーを詰める。

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③最後に、ラベルを貼って、キャップに封をして、お買い上げ。

というのが一連の流れ。
既に課税した限定ウイスキーが樽に詰められていて、それを量り売りで販売しているということではあるのですが、記帳、ラベルサイン、ボトリングという本来済ませておける作業、実施する必要のない管理(記帳)を、あえて購入時にお客さんの手で行うことで、特別感が得られるのです。
だって、蒸留所を見学しにきて、そこのオリジナルウイスキーがあるだけでも嬉しいのに、一連の流れを経験したなんて、普通に楽しすぎるでしょう。まさにエンターテイメントです。

なお、樽の中身は完全に払い出さず、少量残った状態で次のロットやレシピに加えている、所謂ソレラシステム的な運用がされており、ウナギのたれのように徐々に味わいが複雑に、奥行きを持っていくことも期待できます。
長濱蒸留所でハンドフィルの販売が始まったのは2020年あたりから。そこから何度もロットが切り替わる息の長い企画となっており、その成長や限定レシピの登場がファンの間では蒸留所訪問時の楽しみの一つとなっています。
中には成熟したハンドフィルを買うために、定期的に蒸留所を訪れる猛者もいるそうです。

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(ブレンドの熟成状態を確認する屋久ブレンダー。今回のロットが終わりそうなので、次のブレンドをどうしようか…とレシピを模索されている。Photo by C)

現在、日本各地にウイスキー蒸留所が創業し、その数は将来60カ所を超えるとも言われています。
そんな中で、大きくはピートの有無、樽感の違いでしか味わいに変化をつけることが出来ないウイスキーは、香味だけで60種類も明確な違いや注目されるブランドを作れるかと言ったら、それはかなり難しいと考えます。

勿論そうした努力は必要で、高品質でこだわりのウイスキーを作るという1点でブランドを確立できれば良いですが。
例えば地域観光と結びつけるローカル色や、体験型のエンターテイメント色、あるいは横のつながりで他のメーカーとの連携など、ウイスキーの味以外で愛好家を惹きつける取り組みが今後一層必要になってくるのではないかと思います。
値段と香味は大体同じだったら、あるいは多少高くても、買うのは思い入れがあるところ。となるのが人(オタ)の心情というものです。

その点、長濱蒸留所は本当にそこを上手く掴んでくるんですよね。
社長がアイディアマンで、良いと思ったものはガンガン取り込む、意思決定から実行までがめちゃくちゃ早いというのもあります。このハンドフィルだけでなく、先日の長濱フェスもまさにその一例です。あれの企画って動き出したの。。。(ry
現場はめちゃくちゃ大変だと思いますが、でもそれは間違いなくファン獲得につながって、ブランド向上につながって、5年後、10年後の自分達を後押しする原動力になるのです。
長濱蒸留所だけでなく、多くのクラフト蒸留所でウイスキー以外の要素も含めて様々なアイデアが実行されて、愛好家を増やしてくれれば良いなと思います。

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オマケ:7月17日(日)、社長の企画思いつきで開催された長濱ウイスキーフェスでは、蒸留所前でひたすら焼き鳥を焼く同氏の姿があり。イベント後は各社との繋がりや原酒調達のため、スコットランドに旅立ったという。改めて記載すると、同氏は長濱浪漫ビールの社長であり、全国規模の酒販店リカーマウンテンの社長でもある。

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