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NAGAHAMA シェリーカスクブレンド for 乾杯会 56% Dream of Craft Distillery

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DREAM OF CRAFT DISTILLERY 
NAGAHAMA 
Sherry cask blend 
Blended Malt Japanese whisky & Scotch whisky 
For KANPAIKAI 
700ml 58% 

評価:★★★★★★(6)

香り:ドライプルーンやデーツなどのダークフルーツ、黒蜜やチョコレートを思わせる色濃い甘さ。合わせてハーブ、微かに焼き栗のような焦げたウッディさ、スパイシーな要素もあり、香りの複雑さに繋がっている。1:1程度に加水すると、華やかなフルーティーさが強く開く。

味:香り同様にリッチで色濃く甘酸っぱい味わいだが、そこにオレンジやパイナップルなどのシロップを思わせるケミカルで華やかなフレーバーが混ざる。余韻にかけては焼き芋のような樽香の香ばしさ、ほろ苦いウッディネスが全体を引き締めて長く続く。

長濱蒸溜所の原酒を含む、シェリー樽熟成のモルトウイスキーをレシピ全体で70%以上使用。
色合い同様にこってこてのシェリーカスクだが、一部使われているハイランドモルト由来のフルーティーさ、異なる樽感が全体の複雑さに繋がり、単調になりがちな若年圧殺シェリー系ウイスキーとは異なる仕上がりが特徴。
静謐な夜の琵琶湖と、湖面に浮かぶ満月のような陰のイメージを持つウイスキー。

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昨日レビューを投稿したワインカスクブレンドに引き続き、乾杯会向けリリースのブレンデッドモルトウイスキー2種のうちの1つ。こちらも当方がブレンダーを務めさせて頂きました。
見るからに濃厚そうな色合い、愛好家ホイホイとも言える外観。これは売れるでしょってなるボトルですが、実は想定外なことがあり、結果として良い方向に転がった、ある種“持っている”リリースでした。

リリースの主体となる乾杯会は、ウイスキー愛好家である鄭氏が立ち上げた、会員制組織にして酒販企業。ワインカスクブレンドの記事や、当該ボトルの販売ページでも紹介されているため、設立経緯等詳細な説明は割愛しますが、鄭氏自身は非常に熱心なウイスキー愛好家であり、自分の手で特別なリリースを愛好家に届けるという想いのもと活動しています。
その鄭氏から相談を受け、調整させて貰ったのが長濱蒸溜所の原酒をベースにブレンドしたブレンデッドモルト2種。昨日はワインカスクブレンドの構成エピソードに焦点を当てましたので、今回の記事では当然、このシェリーカスクブレンドにスポットライトを当てていきます。

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まず、基本的な仕様はワインカスクブレンドと同じで、「和の雰囲気があるラベル、フルーティーで濃厚なブレンデッドモルト(無加水)」です。
ラベルは和のイメージを出すべく、日本画家の外山諒氏に依頼し、日本画で作成。ワインカスクブレンドが朝(陽)に対して、シェリーカスクブレンドは夜(陰)としました。
構成原酒については、長濱蒸溜所を代表する、国際的な酒類コンペで高く評価されているシェリー樽原酒を使用出来るよう、長濱蒸溜所の伊藤社長と屋久ブレンダーにリクエスト。。。

そして、ブレンドが難しかったワインカスクブレンドに対して、シェリーカスクブレンドは完成系として目指す明確なイメージがあったこともあり、特に悩むことなくレシピは決まりました。
その完成系とは何か。ブレンドコンセプトは「静謐な夜の琵琶湖と、湖面に浮かぶ満月のような陰のイメージを持つウイスキー」となっていますが、具体的な“味”のイメージとして目指す理想は、例えばグレンファークラス1987ブラックジョージ等のフルーティーさのある濃厚シェリー系ウイスキーです。

シェリー樽熟成のシングルカスクリリースには、スパニッシュオーク樽の熟成であっても、ダークフルーツの色濃い甘さとウッディな味わいの中に、アメリカンオークを思わせる黄色系のフルーティーさが混じるものがあります。個人的にはそれが当たりであり、好きなシェリー系の一つ。
なぜそんな仕上がりとなるかはさておき、今回は該当する特徴を、シェリーオクタブ熟成長濱モルトの濃厚なシェリー感、シェリー樽熟成スコッチモルトや輸入ハイランドモルトのフルーティーさ、それぞれ複数のモルトをブレンドすることで再現しようとしたわけです。

結果は、レプリカ…くらいには出来たのではないでしょうか。
そもそも熟成年数から全く異なるため、あれだけの完成度は出せませんが、シェリー樽由来の濃厚な味わいの中に潜むフルーティーさ、さながら夜の湖面に浮かぶ月、雲間から差し込む月光のようなイメージに共感してもらえたら嬉しいです。

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なお、冒頭述べたように、ちょっとした想定外な出来事や嬉しい誤算もありました。まず一つは色合い、そしてシェリー樽由来のフレーバーの濃さです。
実は今回ピックアップいただいた原酒のサンプルは、レシピを検討した6月時点ではワインだけでなくシェリー樽原酒もややドライ寄りで、色もそこまで濃くありませんでした。
それこそ、今年1月に仕込んだ発刻と祥瑞の時に使用したものからすると、半分とはいかないまでも2/3くらいの濃さ。
濃ければ良いってわけじゃ無いんですが、今回は濃厚なシェリー感をプレーン寄りのハイランドモルトで引き算して整えるつもりだったので、出来れば濃い方が良かったのです。

また、もう一つ計算外が、ピックアップ頂いたスコッチウイスキーの中に、5年熟成表記だが12年以上に感じられる熟成感と豊かな味わいのシェリー系ウイスキーがあり、経緯を聞くと12年熟成のシェリー系モルトに誤って5年が少量混じってしまったバルクなのだと。
長濱蒸溜所のシェリー樽熟成原酒との相性もバッチリで、これは間違いないとレシピを組んで完成…

と一息ついた矢先、混ざった5年はブレンデッドウイスキー(モルト&グレーン)で、今回のコンセプトであるブレンデッドモルトウイスキーには使えないことが判明。急遽別な原酒を追加でピックアップして貰いましたが、届いた原酒はシェリー感の淡いタイプ。
シェリー感とフルーティーさのバランスを考えて、シェリー系のウイスキーを70%までブレンドしましたが、レシピ作成当時の味わいは今よりずっとバランス寄りで、色合いも夜や陰陽のイメージとしてはちょっと薄い。リクエストに100%応えられたか、自信を持てない感じだったのです。

ただしこの後、“持っている”出来事、嬉しい誤算が起こります。
実はレシピを検討した時点で、構成原酒はまだ樽に入った状態。その後ブレンドされるまで約5ヶ月間、月にして6月から11月、最も樽感に影響が出る夏場を挟んだことで、原酒が色濃くリッチに熟成。
その変化は「ブレンド完了しましたよ!」と、届いた画像を見て、思わず「樽違うの使いました?」と聞いてしまった程です。

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一方で、色は良いが味はどうか、変に苦くなってないか、テイスティングするまで不安が残りましたが、結果として全てが良い方向に落ち着いてくれて、いやー鄭さん持ってるなぁと一安心。
ひょっとして長濱の屋久ブレンダーは、ブレンド時期までの変化を考えて、今回の原酒をピックアップされたのだろうか?
それは皆様の想像にお任せしますが、結果が伴うのがプロの仕事ということで。改めて素晴らしい原酒を選んで、提供してくださったことに感謝ですね。

なお、完成したワインカスクブレンドとシェリーカスクブレンドですが、発売時期が同じだったこともあり、ラベルの原画を描き起こしていただいた外山氏の日本画個展(2022年12月15日〜21日)に展示していただきました。
ウイスキーと日本画のコラボ。実は外山さんとは以前別なブランドでリリースを計画していたことがあったのですが、それは色々あってうまく形にならず、今回それを実現出来たのは非常に感慨深くもありました。
改めまして、この機会をいただいた乾杯会の鄭氏に、この場を借りて感謝致します。
そしてこのボトルを手にして頂いた皆様。美味しさとウイスキー愛に国境はないことを感じさせる、同氏の情熱が結実した味わいを楽しんでもらえたら幸いです。

NAGAHAMA ワインカスクブレンド for 乾杯会 58% Dream of Craft Distillery 

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DREAM OF CRAFT DISTILLERY 
NAGAHAMA 
Wine cask blend 
Blended Malt Japanese whisky & Scotch whisky 
For KANPAIKAI 
700ml 58%

評価:★★★★★★(6)

香り:白ワインやシャンパンを思わせる爽やかな酸と、ブリオッシュ香にも似たアロマ。乾いた麦芽、ドライアップルやグレープフルーツ。奥からケミカルなニュアンスを伴う華やかでフルーティーな香り立ち。時間経過で麦芽由来の甘さが一層感じられる。

味:柑橘を思わせる酸と麦芽の柔らかい甘み。濃縮感のあるフレーバーで、ほのかに乾草や土っぽさのあるピートフレーバーがアクセント。度数を感じさせない口当たりから、飲みこんだ後でトロピカルなフルーティーさが盛り上がるように広がり、麦芽風味と共に口内に染み込んで長く続く。

長濱蒸溜所の赤ワイン樽熟成原酒と白ワイン樽原酒をレシピ全体で過半数以上使用しており、ワイン樽由来の個性と長濱の麦芽風味、らしさを感じることが出来る仕上がり。ブレンドした複数種類のハイランドモルト由来の、系統の異なる麦芽風味と干し草のニュアンスが牧歌的な雰囲気を感じさせ、余韻にかけては近年流行りのフルーティーさが広がる。ブレンドコンセプトは朝靄を纏う伊吹山に、柔らかく差し込む朝日のような、陽のイメージを持つウイスキー。それぞれのフレーバーが、コンセプトの各要素に紐づくようにブレンドされている(自画自賛)。

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先日、ウイスキーが縁で相談をいただき、プライベートボトル2種のブレンダーを務めさせていただきました。
蒸溜所は滋賀県は長濱蒸溜所。ジャンルは国産原酒とスコッチモルトウイスキーを用いたブレンデッドモルトウイスキー。勝手知ったる…というのは失礼かもしれませんが、グレンマッスルやお酒の美術館の発刻、祥瑞など、これまで度々同様のリリースに関わらせて貰っている蒸留所です。

既にウイスキーは発売され、販売分は完売しております。有難い限りです。
勿論、これまで同様に当方が本売り上げやブレンダー料等を受け取ることはありませんが、自分が関わらせて貰ったウイスキーが完売するというのは、どこか安心してしまうものです。
今後はBAR等飲食店で、あるいは手元にあるボトルを飲んでいただく段階にあるわけですが、ブレンダーとして本レシピに込めたイメージや、今回のレシピ作成の際の苦労話など、商品情報を深掘りする形で当ブログに掲載させていただきます。

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まず本リリースの主体である乾杯会について。
本ボトルの国内向け販売を頂いた、長濱浪漫ビールや信濃屋で紹介されている通り、乾杯会は愛好家、鄭冲氏が立ち上げた、会員制組織かつ酒販企業となります。

発起人である鄭氏は10年以上日本に住まれている中国出身の非常に熱心なウイスキー愛好家で、日本において北から南までBAR巡り、イベント参加、蒸留所訪問をし、新旧問わず様々なウイスキーを飲んで勉強されています。
一方で、世界的にウイスキー需要が高まる中で、愛好家間では通常リリースと異なる特別なウイスキーを飲みたいという要望が増えつつあります。自分たちの手でそうしたウイスキーを届けたいと考え、会員制組織を立ち上げての今回のリリースを企画や、各クラフトウイスキー蒸溜所での樽購入、さらに六本木でウイスキーBARの共同オーナーとなってウイスキーを提供する場所も整えるなど、一般的なウイスキー愛好家としての枠組みを超えた活動も行っています。

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※鄭氏が共同オーナーとなっている、六本木のBAR莨樽(ろうたる)。2022年8月オープン。新旧問わず様々なボトルが揃っている。

そんな中で鄭氏から相談を受けて調整させていただいたのが、今回のリリースとなります。
頂いた条件は以下の3点。
・ラベルは日本を象徴するような和的なイメージ。
・蒸溜所を代表する原酒を使いたい。一つはシェリー系を希望。
・グレーンは使わずブレンデッドモルトで無加水、フルーティーな味わいで2種類。

ラベルについては筆字で漢字2文字ドーンみたいな、某S社さんを想起させるデザインは使いたくなかったため、日本文化の一つ、日本画をラベルに取り入れることを提案。
以前から交流させて頂いている、若手日本画家の外山諒さんを紹介し、ラベルを担当頂くこととなりました。

続いて原酒については、長濱蒸溜所を代表する原酒といったら、WWAや IWSCなどの国際酒類コンペで高い評価を受けているワイン樽熟成原酒とシェリー樽熟成原酒しかないだろうと、伊藤社長、及び同蒸溜所ブレンダーの屋久さんにイメージを伝え、原酒をピックアップしていただきました。
ラベルOK、原酒OK、スケジュールも決まってここまではトントン拍子で進み(長濱蒸溜所は本当に仕事が早いw)、さあ後は私の仕事だと、いざブレンドとなってサンプルを手に取って…ここから先が困難でした。

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ご存じの方も多いと思いますが、昨今、世界的なウイスキー需要増から輸入原酒の価格は上昇傾向にあるだけでなく、手に入る原酒も長期熟成のモノが手に入らなくなってきています。
グレーンなら比較的なんとかなりますが、それでも以前の2倍、モノによっては3倍近い価格まで高騰しています。

その結果、以前PBをブレンドした時は使えた長期熟成の輸入ハイランドモルトがサンプルに入っておらず、今までは無かった蒸留所構成から全く異なるハイランドモルトがピックアップされているなど、長濱でのブレンドならこの方向で安パイ…という想定は早くも崩壊。新しい挑戦となってしまいました。
また、今回特集しているワインカスクブレンドでは、長濱蒸溜所の赤ワイン樽熟成原酒が思ったよりも色が出ていないドライなタイプであったことも想定外でした。

色合いに関しては、じゃあシェリー系が黒、ワイン系が白、黒と白の太極図、夜と朝の陰陽でまとめようと、すぐにアイディアが浮かんだのですが、問題は味です。
なにせ、今回の条件は「グレーンは使わずブレンデッドモルトで無加水、フルーティーな味わい」。
自分はよくブレンドを”蕎麦”に例えて説明していますが、繋ぎとなる要素があったほうがまとまりやすくバランスよく仕上がることは明白です。その繋ぎとなる要素には、グレーン以外に、シェリー感やワイン感等の色濃い甘さ、ウッディなエキス、加水も該当し、若い原酒が多いブレンドであればあるほどその重要性は増します。
また、ピーテッド原酒を使ってごまかすことが出来ないことも、ハードルを高くしました。大げさに言うわけではありませんが、針の穴を通すようなコントロール、繊細なバランスでこれらの原酒をまとめ切らなければなりませんでした。

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そこで、今回は麦芽風味を軸にバランスをとることとしました。
長濱のワイン樽原酒が持つ柔らかい甘さの麦芽風味。
ミドルエイジのハイランドモルトの1つが持つ、牧歌的な雰囲気を持つ麦芽風味。
もう一つ、比較的若いハイランドモルトが持つ、フルーティーで乾いた香味を感じさせる麦芽風味。
これらの麦芽風味を大黒柱として、ワイン樽原酒は白ワイン樽を加えてもらい、色、甘さではなくフルーティーさを後押しする方向で。またピート要素、シェリー樽要素も微かに加え、全体の複雑さを増す。

試作品の最初のイメージでは、田舎街の朝、周囲に漂う草木や田んぼの香り、朝靄の漂う適度な湿度と清々しさ、そこに差し込む朝日のキラキラとした光。これらが長濱蒸溜所周辺の景色と共に、ウイスキーから感じられる各要素と紐づいて感じられました。
このイメージを、シェリーカスクブレンドのものと合わせて外山さんに伝えて原画を描いて頂いたのが、箱とラベルに印刷された作品となります。ここは流石プロですね。どちらもイメージやウイスキーの雰囲気にピッタリ合っており、プロの仕事の凄さを感じられるコラボとなったのです。

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※長濱蒸溜所 伊藤社長を挟んで、左:乾杯会 鄭氏。右:莨樽共同オーナー 郭氏。

依頼主にして発起人である鄭氏もワインカスクブレンドのほうが好みであると話されており、頂いたリクエストと期待を裏切らずに済んだと、国内販売完売と合わせて胸をなでおろしました。
以上のように、期せずして新しい挑戦もあった今回のブレンダー協力ですが、計画通りのところもあり、偶然もありで、しかしながらどちらのリリースもコンセプトが明確でラベルとの関連性もあり、手前味噌ですが、良いリリースになったのではないかと感じています。

さて、ここから先は、飲んだ人達の感想を聞きながら、自分の作品を愛でることが出来る、ブレンダーとしての特権、楽しみとなる時間です。ここまでひっくるめて一つの趣味、なんて贅沢で恵まれた時間でしょうか。
改めまして、お声がけ頂いた鄭さん、今回のリリースに協力頂いた関係者各位、そしてこのウイスキーを手に取って下さった方々に感謝申し上げて、記事の結びとします。
ありがとうございました。

ジョニーウォーカー 15年 グリーンラベル 43% 2021年以降流通品

カテゴリ:
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JOHNNIE WALKER 
GREEN LABEL 
Aged 15 years 
Blended Malt Scotch Whisky 
Talisker-Linkwood-Cragganmore-Caolila 
700ml 43% 

評価:★★★★★★(6)

香り:華やかなオーク香に、蜂蜜やバニラ、ほのかに洋梨を思わせる甘い麦芽香が混ざるリッチなアロマ。微かにスモーキーな要素も感じられるが、香りでは味以上にアメリカンオークと麦芽感が主体。

味:口当たりはマイルドで、甘い麦芽風味と合わせてスパイシーなオークフレーバー、微かに青みがかったニュアンス。徐々にほのかなピートフレーバーが後を追うように現れ、まず鼻腔にピートスモークと焦げたような香りが届き、その後余韻を引き締めるようなほろ苦さ、ウッディネスがバランス良く感じられる。

しっかりオーキーでモルティー。近年のトレンドと言える華やかでフルーティーな香味の中に、ほのかなスモーキーさを伴うバランスの取れた構成。モルト100%は伊達じゃなく、ストレートでも飲みごたえがあり、ブレンデッドにありがちな使い古された樽のえぐみ、枯れ感もなく、純粋に熟成した原酒の複雑さも楽しめる。これで4000円前後というのは、下手に同価格で12年熟成のシングルモルトを買うより良い買い物ではないだろうか。
ハイボールにすると各原酒の個性がばらけ、特にピートフレーバーを感じやすくなる。ステアしながら柔らかく立ち上るオーク香とスモーキーさが、お疲れ様の1杯への期待を膨らませてくれる。

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気がついたらラベルチェンジしていた、ジョニーウォーカーシリーズ。2020年ごろですかね。今回のレビューアイテムであるグリーンは旧ラベルを下に貼っておきますが、白地を加えたことで程よくスタイリッシュになったというか、個人的には前のラベルよりも好みです。

で、ラベルが変わったということは味も変わっています。
大きくはテイスティングの通り、従来のモルティーな甘みと味わいはそのまま、バーボン樽(あるいはアメリカンオーク樽)の香味が増して、わかりやすく華やかになったこと。さらにジョニーウォーカーというと、タリスカーやカリラという印象が強く、旧ラベルのグリーンはプレーンな原酒に由来する古い樽のえぐみや、タリスカー系の個性が主張していましたが、このブレンドは一層内陸&バーボン樽メインな構成へと変化しており、旧ラベルよりもバランスが良くなっていると感じます。

ラベルに書かれた4蒸留所からレシピを予想するなら、アメリカンオーク樽熟成のリンクウッドやクラガンモアが8〜9で、そこにタリスカーとカリラを合わせて1〜2といったところ。
軽くなった近年の内陸原酒では複雑さを出しにくいところ、強すぎると他の原酒を喰ってしまうピーティーな個性をバランスよく加え、複雑な味わいとして感じさせてくれるのは、流石大手のブレンデッドモルトという完成度。下手なシングルモルトより満足感の高い1本に仕上がっています。

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(旧ラベル、2016年に終売から復活したグリーン15年。この頃はジョニーウォーカーシリーズに共通してえぐみのような癖があり、個人的には好きになれない要素だった。)

以前Twitterかどこかで、白州が買えない人はジョニーウォーカーグリーンが代替品になるなんて話を見たことがあり。
いやいや流石にそれは厳しいでしょと、香味の傾向が違いすぎると思っていたのですが、バーボン感増し&内陸主体個性の新ラベルを飲んで見ると、わからなくもないなと。
元々白州はバーボン樽熟成のハイランドモルト系の香味に近い個性をしているので、NASや12年あたりの代替と考えるなら、価格的にも悪いチョイスじゃないかもしれません。

ただ、ここまで評価してきてハシゴを外すようで申し訳ないですが、悩ましい点がないわけではありません。
それはバランスが取れているといっても、やはりブレンデッドモルトであること。10割蕎麦と二八蕎麦では繋ぎの入った二八蕎麦のほうが喉越しが良いように、ジョニーウォーカーでは同じ価格帯で販売されているブレンデッドのゴールドラベルのほうが、全体としての一体感は高く。特にロックやハイボールにするならブレンデッドの方に強みがあります。
また、個性と飲みごたえ重視でストレートで飲んでいくにしても、愛好家勢は家飲み用に5000円以上で一層熟成感や個性のあるシングルモルト、ボトラーズを買ってしまうでしょうから、実はちょっと半端なグレードになってしまっているのかも。。。

旧グリーン→新グリーンの比較では、新グリーンの方が良くなってると言えますし、トレンドも押さえた良いブレンデッドモルトだと思うので飲めば面白い一本ですが、シリーズや市場全体を見た場合どうしたものか。
ああ、帯に短し襷に長し…

ザ ラストピース ワールドエディション Batch No,1 50% T&T TOYAMA

カテゴリ:
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THE LAST PIECE 
T&T TOYAMA 
BLENDED MALT WHISKY 
World Edition Batch No,1 
Blender: T&T TOYAMA(INAGAKI TAKAHIKO, SHIMONO TADAAKI),KURIRIN  
One of 800 Bottles 
700ml 50% 

評価:―(!)

香り:華やかでナッティな香り立ち。アプリコットジャムや熟した林檎を思わせるフルーティーな甘み。オーキーで程よいウディネス、ハーブのアクセント、ほのかにスモーキー。

味:フルーティーでしっとりと甘い口当たり。林檎の蜜、甘栗やカステラ、麦芽風味。香り同様に熟成感があり、一本芯の通った複雑な味わい。余韻にかけて香味の広がりを感じられ、微かにピーティーで華やかなオーク香が鼻腔に抜ける。

香味とも華やかでフルーティーだが、キラキラと派手なタイプではなく、しっとりとして色濃く奥ゆかしいタイプ。奥には黄色系フルーツ、麦芽風味、特徴的なピートなど、クラフト原酒由来の個性も感じさせる。
イメージとしては、THE LAST PIECEのジャパニーズエディションに熟成感を増して、完成度を追求したレシピ。日本とスコットランドの個性が織りなす、日本だからこそ作ることができるウイスキー。ストレート、少量加水、あるいはロックでじっくりと楽しんで欲しい。

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先日、T&T TOYAMAから発表された「THE LAST PIECE」のワールドブレンデッド版です。
先日レビューを更新したジャパニーズエディションは、国内5ヶ所のクラフト蒸留所原酒100%のジャパニーズウイスキー。ワールドエディションは、構成比率の過半数以上がクラフト産原酒で、そこに輸入原酒をブレンドしたブレンデッドモルトウイスキーとなります。

発売は若鶴酒造が運営する私と、ALC.を中心に、4月19日(火)から。
先行する形で、4月1日(金)から購入希望の抽選受付が開始されます。
「個性のジャパニーズ、完成度のワールド」、ブレンダーの一員として、その実現を目指したブレンドです。企画の背景、概要、販売方法に関する情報は以下をご参照ください。

公式プレスリリース:https://www.wakatsuru.co.jp/archives/3198
リリース告知記事:https://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1080141305.html


※私と、ALC.抽選販売受付:2022年4月1日12:30〜2022年4月11日23:59

https://wakatsuru.shop-pro.jp/?pid=167372090


改めて構成原酒を記載すると
・江井ヶ嶋蒸溜所 ライトリーピーテッド
・桜尾蒸溜所 ノンピートモルト
・三郎丸蒸留所 ヘビーピーテッドモルト
・長濱蒸溜所 ノンピートモルト
・非公開蒸留所 ノンピートモルト
・スコッチモルト(国内追加熟成)

クラフト原酒は全て3年熟成でバーボン樽熟成。スコッチモルトは熟成年数非公開ですが、バーボン樽以外に、シェリー樽、リフィル樽等での熟成品が用いられており、一部原酒は国内で追加熟成を行ったものが使われています。

追加熟成を経たスコッチモルトは、もともとあったスコッチモルトらしいまとまりのある穏やかな酒質に、日本的な樽感が加わって熟成感も増した仕上がり。こうした原酒の存在は、個性をまとめ上げる繋ぎとして有用である一方、その原酒に頼るだけではワールドの意味がありません。
国産原酒の個性を主として残しつつ、全体の完成度を高めるにはどうするべきか。正直、ジャパニーズのレシピ以上に悩ましく、かけた時間、試作数も多くなりました。
【補足】各原酒の個性はリリース告知記事の後半に記載→こちら

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しかしワールドブレンドというと、あまり良く無いイメージを持つ方もいらっしゃると思います。
それはブームに乗って利益を得るために、安価な輸入原酒で水増ししたリリース。つまりパッションやストーリーのない、嗜好品としての重要要素を満たさないリリース、というイメージに起因しているのでは無いでしょうか。

確かに、そうしたウイスキーの存在は否定できません。しかし本来スコッチウイスキーは美味しいものであり、日本では作り得ない原酒が数多くあります。(あるいは日本でも作れるかもしれないが、膨大なコストがかかるケース。)
例えば長期熟成原酒がそうです。
ワールドブレンドは、日本でしか作れない原酒と日本では作れない原酒、それらの良い点を引き出すことで、これまでにないウイスキーを作ることが出来る、可能性に満ちたジャンルでもあるのです。
活かすも殺すも、造り手次第というわけですね。

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THE LAST PIECEをリリースする、ボトラーズメーカー「T&T TOYAMA」は、日本のクラフト蒸溜所が、将来単独でリリースを行っていくのではなく、他の蒸留所と連携する可能性を見出せるよう、蒸留所間のハブとなることを目標の一つとしています。
一方で、同社はスコッチモルトも海外メーカーから買い付けてリリースしており、ニンフシリーズやワンダーオブスピリッツがその代表作です。つまり、日本、スコットランド、どちらにも繋がりを持つメーカーと言えます。

であるならば、THE LAST PIECEのワールドエディションは、ジャパニーズの個性感じさせつつ、スコッチウイスキーのいいところも活かした、T&T TOYAMAらしいリリースに仕上げたい。
2つのリリースを飲みくらべることで、なるほどこれが日本の個性か、これがスコッチモルトの熟成感かと、愛好家に伝わるような美味しいウイスキーに仕上げたい。
果たしてその狙いは達成されたのか、限られた条件の中で可能な限り高い点数を目指したワールドエディション。楽しんで頂けたら幸いです。

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以下:余談
4月1日から開始される、私と、ALC.での抽選販売受付は、稲垣代表の趣味趣向が色濃く反映された、激ムズクイズが用意されています。
私と、ALC.抽選販売受付ページ:

https://wakatsuru.shop-pro.jp/?pid=167372090


公開されている4蒸留所とT&T TOYAMAからそれぞれ1問、計5問が選択式で出題されます。
誤解のないように補足すると、正答率が高い人から抽選で選ばれるのではなく、正答率が高いと当たりやすくなる、当選確率がプラス補正されるものです。全問正解でもハズレる可能性があり、正答率が低くても当たる可能性があります。
そんなわけで、これはちょっとしたゲームです。各蒸留所について調べる機会だと捉えて頂き、ぜひ奮ってご参加いただければと存じます。(難しい問題と思うかもしれませんが、冷静に選択肢1つ1つを考えてみてくださいね。)

ザ ラストピース ジャパニーズエディション Batch No,1 50% T&T TOYAMA

カテゴリ:
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THE LAST PIECE 
T&T TOYAMA 
BLENDED MALT JAPANESE WHISKY 
Japanese Edition Batch No,1 
EIGASHIMA, SAKURAO, SABUROMARU, NAGAHAMA…and SECRET DISTILLERY 
Blender: T&T TOYAMA(INAGAKI TAKAHIKO, SHIMONO TADAAKI),KURIRIN  
Cask type Bourbon Barrel 
One of 300 Bottles 
700ml 50% 

評価:―(!)

香り:トップノートは黄色系のフルーティーさ。注ぎたてはドライだが徐々にお香の煙のように柔らかく香る。パイナップルや柑橘、ハーブ、パンケーキを思わせる甘さと軽い香ばしさ。フルーティーさとモルティーな甘みにスモーキーなアロマがまじり、複層的なアロマを形成する。

味:膨らみがあってモルティーな口当たり。熟したパイナップルを思わせる甘み。合わせてほろ苦い麦芽風味とウッディネス、軽いスパイスと微かに干草。じわじわと存在感のあるピートフレーバーが顔を出し、スモーキーでビターなフィニッシュが長く続く。

熟成年数以上にまとまりがあり、若さを感じさせないフルーティーでスモーキーな構成。バーボン樽のオーキーなフレーバーと、各蒸留所の個性がパズルのピースのように組み合わさり、それぞれが主張しながらも1つにまとまっている。わずか3年熟成の原酒だけで、これだけのウイスキーを作ることができる、クラフトジャパニーズの将来に可能性を感じる1杯。テイスティンググラスでストレート、または少量加水をじっくりと楽しんでほしい。

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先日、T&T TOYAMAからリリースが発表された「THE LAST PIECE」。
世界初となる日本国内5か所のクラフト蒸留所の原酒を用いたブレンデッドモルトウイスキーで、ジャパニーズ仕様とスコッチモルトを加えたワールド仕様、2つのリリースが予定されています。
本リリースは、2022年4月1日(月)から購入希望者の抽選受付を開始し、2022年4月19日(火)発売予定となります。企画の背景、概要、販売方法に関する情報は以下をご参照ください。

公式プレスリリース:https://www.wakatsuru.co.jp/archives/3198
リリース告知記事:https://whiskywarehouse.blog.jp/archives/1080141305.html


※私と、ALC.抽選販売受付:2022年4月1日12:30〜2022年4月11日23:59

https://wakatsuru.shop-pro.jp/?pid=167372090



日本国内の蒸留所の数は、建設が予定されているものを合わせると50か所、60か所と増え続けている一方で、単独で様々なウイスキーをつくるのは限界があります。
スコットランドでは、ブレンドメーカーやボトラーズメーカーが多数存在し、原酒のやり取りが当たり前にあり、中にはブレンド向け蒸留所として位置付けられている蒸留所もあります。それらが一般的ではない日本においては、今まさにその可能性が模索されている状況にあり、今回のリリースは日本のウイスキー産業に新しい事例、選択肢を作ることが出来たと言えます。

また、T&T TOYAMAはこちらも世界初であるジャパニーズウイスキーボトラーズであり、現在富山県内にウェアハウスの建設と、各蒸留所からの原酒の調達を進めています。
そのT&T TOYAMAとして初めてリリースされるジャパニーズウイスキーが「THE LAST PIECE」であり、まさにどちらも先駆者、世界初尽くしのリリースとなっています。

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今回、そんな記念すべきリリースにおいて、ブレンダーという大役を頂きました。
私はあくまで趣味としてウイスキーを楽しんでいる愛好家でしかありません。ならば、今回のブレンドはT&T TOYAMAの2名が生産者、販売者なら、自分は愛好家という立ち位置から求めている味わいを提案していこうと、原酒選定やレシピ構築のテイスティグ、ディスカッションに参加しています。

しかしこれまでブレンドレシピ構築は10リリース以上関わっていますが、今回はとにかく難しかったですね。
まず全ての原酒がバーボン樽熟成で、そしてどれも3年以上ながら短期間の熟成であったということ。
ブレンドにおいては、グレーン、あるいはシェリーやワインのような甘く濃い樽感など、モルト原酒の強い風味の間を繋ぐ要素の有無がポイントになります。
例えるなら、蕎麦打ちで言うところの小麦粉のような存在。今回はそれらの要素が一切無いなかで、バランスをとっていかなければなりませんでした。

また、今回使用した原酒と蒸溜所は
・江井ヶ嶋蒸溜所 ライトリーピーテッドモルト
・桜尾蒸留所 ノンピートモルト
・三郎丸蒸留所 ヘビリーピーテッドモルト
・長濱蒸溜所 ノンピートモルト
・非公開蒸留所 ノンピートモルト
という組み合わせ。
若い原酒であることも後押しして、それぞれがはっきりとした個性を持っていることも、各蒸留所においては強みである一方、ブレンドにおいては難しさに繋がりました。

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三郎丸のヘビーピートモルトのような、強い個性を主体としてブレンドを構築するのは解決策の一つなのですが、これはピートフレーバーで他の蒸溜所の個性を圧殺する構成であり、せっかく5か所の蒸留所の原酒をブレンドする意味がなくなってしまいます。
従って三郎丸蒸留所の原酒をガッツリ使うわけにはいかず、そうなると先に書いたようにバランスの問題が出てしまう…。

そうして調整を繰り返して仕上がったのが、今回のブレンドとなります。
三郎丸蒸留所のオイリーでどっしりとした酒質、ピートフレーバーを底支えにして、江井ヶ嶋蒸溜所の軽やかなスモーキーさ、桜尾蒸留所のフルーティーさ、長濱蒸溜所の柔らかいモルティーさ、そこに非公開蒸留所の個性と酒質がエッセンスとなったレシピ。

自分が”ジャパニーズブレンドらしさ”として考える、「十二単」のような艶やかで雅な雰囲気…とまではいかないものの、各蒸留所の個性が重なり合い、共演しつつも、まとまりのある味わい。パズルで最後のピースがはまり、一枚の絵画として新しい世界が広がった瞬間。まさに「THE LAST PIECE」の銘に相応しいリリースに仕上がったと感じています。

ちなみに、スコッチモルトを用いたワールド仕様のレビューも後日実施する予定ですが、そちらは純粋な美味しさ、ブレンドとしての完成度を見て貰えたらと思います。これも、様々な原酒を使うことが出来る日本のウイスキーだからできる、ウイスキー造りの方向性の1つです。
本リリースがジャパニーズウイスキーの将来に向け、新しい可能性に繋がることを期待しています。
→ワールドエディション Batch No,1のリリースレビューはこちら

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