タグ

タグ:スコッチ

バルヴェニー 8年 1970年代流通 43% 

カテゴリ:
IMG_9272

BALVENIE 
PURE MALT WHISKY 
Over 8 Years 
1970’s 
750ml 43% 

評価:★★★★★★(6)

【ブラインドテイスティング】
蒸留所:グレンアラヒー、グレンフィディック
年数:12年程度
樽:アメリカンオーク系のプレーンカスク
度数:43%
その他:1970〜1980年代流通あたりのオフィシャルオールドボトル

香り:穏やかな香り立ち。モルティで土っぽさを伴う古典的麦芽香から、微かに林檎や柑橘(オレンジというよりは文旦、ジャクソンフルーツ系)。薄めた蜂蜜。少し若い原酒なのか、ピリピリと鼻腔を刺激するアタックもある。

味:使い古したアメリカンオーク樽での熟成と思しきプレーンな甘さと程よい華やかさ。加水で整えられた柔らかく素朴な麦芽風味は、ホットケーキや洋梨の果肉のような白い甘さ、柑橘系のフルーティーさがあり、余韻にかけては香り同様の刺激に加えてほのかにピーティー、土っぽい要素とほろ苦さが全体を引き締める。

幾らでも飲めそうな、しみじみうまい、癒し系のオフィシャル加水のオールドボトル。麦芽由来の甘さに厚みがあり、ピート香と合わせて地酒的というか田舎的というか、古き良き時代のハイランドモルト。こういうボトルを飲むと、下のラベルに書かれたような景色がイメージされて、ふと郷愁に駆られてしまう。

FullSizeRender

IMG_9276

今回のブラインドボトルは、以前、関内のBAR Old⇔Craft の米本マスターから出題いただいたものです。自分が所有していた5リットルのミニ樽を貸した際のお礼、ということで。飲み残しがあったのでレビューがてらサクッと掲載します。

バルヴェニー蒸留所はグレンフィディックと共に、ウィリアムグランツ(WG)社傘下の蒸留所。グレンフィディックに隣接する場所に建設され、第二蒸留所という位置付けながら、モルティング設備や大規模な熟成庫、ウイスキーの需要増と共にポットスチルも8基まで増設するなど、ウィリアムグランツ社におけるウイスキー生産の中核的な機能を有する重要な蒸留所となっています。

長らくグレンフィディックがシングルモルトを中心にリリースし、バルヴェニーはグランツなどのブレンデッド向けという位置付けでしたが、1973年にシングルモルトを初リリース。
最近はシングルモルトの需要増でバルヴェニーの人気も増えはじめてブランドを確立しており、結果、WG社ははブレンド向け蒸留所としてアイルサベイを建設・稼働することとなり、ますますシングルモルトリリースに比重が増えているという傾向があります。

今回の出題ボトルは、その1973年にリリースされた、同蒸留所における初期リリース時代のラベルとなります。
ボトルも当時のグレンフィディックと同じものが流用されており、ラベルはシンプルで・・・というかWG社が当時リリースしていた各ブランドから比較すると明らかに間に合わせ感のあるもので。フィディックが人気だからとりあえず出してみよう、また、仕上がり(樽使い)も独自路線でなくフィディック系統で良いだろう。だからグランツ向けのプレーンオーク熟成のものからバッティング・加水して出しておけ、そんな空気感すら漂ってくるようです。

FullSizeRender
(同時期流通のグレンフィディック10年 JAPAN TAX付き(右)と、今回のバルヴェニー8年。飲み比べが面白そうに見えるが、当時にフィディックは闇落ち時代、1960年代前半の原酒を使っており激しくパフューミーであるため注意が必要。)

FullSizeRender
(バルヴェニー シングルモルトリリースのラベル系譜。右の初期リリースから、1980年代のファウンダーズリザーブ、10年、そして1990年代には現在に通じる形状のデザインとなる。1970年代だけ明らかにやる気が…というのは気のせいだろうか。)

バルヴェニーのオールドというと、個人的に1980年代リリースからシェリー系の印象が非常に強く。今回のブラインドではオールドのオフィシャルで、酒質が麦系暑く甘め、ほのかなピートの当時らしい内陸系という整理からでは、悔しいかな正解まで導くことができませんでした。
むしろ、パフューム時代を抜けたグレンフィディックの1970年代後期、1980年代流通あたりのボトルに通じるところが多く、このあたりは同じ傘下の蒸留所と考えたら納得できるところですが、ラベルもハウススタイルも、キャラクターが定まっていない時代ゆえのリリースと言えるのかもしれません。

一方で、バルヴェニーは何もブレンド向けのプレーンな原種ばかりを作っていたのではなく、この1970年代あたりからシングルモルトを意識した樽使いを始めるのか、後のリミテッドリリース、TUN1401といった長期熟成原酒各種で非常に良質なリリースを重ねて、ブランドとしても確立していくこととなります。
とするならば、このシングルモルト8年は、現代のバルヴェニーへと通じるターニングポイントにして、始まりの1本。日本市場でもなかなか見かけないボトルであり、貴重なものをテイスティングさせていただき感謝ですね。
ただでさえ、米本マスターからはちょっとアレなブラインドを出題されることが多かったので(笑)

ジョニーウォーカー 15年 グリーンラベル 43% 2021年以降流通品

カテゴリ:
IMG_8646

JOHNNIE WALKER 
GREEN LABEL 
Aged 15 years 
Blended Malt Scotch Whisky 
Talisker-Linkwood-Cragganmore-Caolila 
700ml 43% 

評価:★★★★★★(6)

香り:華やかなオーク香に、蜂蜜やバニラ、ほのかに洋梨を思わせる甘い麦芽香が混ざるリッチなアロマ。微かにスモーキーな要素も感じられるが、香りでは味以上にアメリカンオークと麦芽感が主体。

味:口当たりはマイルドで、甘い麦芽風味と合わせてスパイシーなオークフレーバー、微かに青みがかったニュアンス。徐々にほのかなピートフレーバーが後を追うように現れ、まず鼻腔にピートスモークと焦げたような香りが届き、その後余韻を引き締めるようなほろ苦さ、ウッディネスがバランス良く感じられる。

しっかりオーキーでモルティー。近年のトレンドと言える華やかでフルーティーな香味の中に、ほのかなスモーキーさを伴うバランスの取れた構成。モルト100%は伊達じゃなく、ストレートでも飲みごたえがあり、ブレンデッドにありがちな使い古された樽のえぐみ、枯れ感もなく、純粋に熟成した原酒の複雑さも楽しめる。これで4000円前後というのは、下手に同価格で12年熟成のシングルモルトを買うより良い買い物ではないだろうか。
ハイボールにすると各原酒の個性がばらけ、特にピートフレーバーを感じやすくなる。ステアしながら柔らかく立ち上るオーク香とスモーキーさが、お疲れ様の1杯への期待を膨らませてくれる。

IMG_8651

気がついたらラベルチェンジしていた、ジョニーウォーカーシリーズ。2020年ごろですかね。今回のレビューアイテムであるグリーンは旧ラベルを下に貼っておきますが、白地を加えたことで程よくスタイリッシュになったというか、個人的には前のラベルよりも好みです。

で、ラベルが変わったということは味も変わっています。
大きくはテイスティングの通り、従来のモルティーな甘みと味わいはそのまま、バーボン樽(あるいはアメリカンオーク樽)の香味が増して、わかりやすく華やかになったこと。さらにジョニーウォーカーというと、タリスカーやカリラという印象が強く、旧ラベルのグリーンはプレーンな原酒に由来する古い樽のえぐみや、タリスカー系の個性が主張していましたが、このブレンドは一層内陸&バーボン樽メインな構成へと変化しており、旧ラベルよりもバランスが良くなっていると感じます。

ラベルに書かれた4蒸留所からレシピを予想するなら、アメリカンオーク樽熟成のリンクウッドやクラガンモアが8〜9で、そこにタリスカーとカリラを合わせて1〜2といったところ。
軽くなった近年の内陸原酒では複雑さを出しにくいところ、強すぎると他の原酒を喰ってしまうピーティーな個性をバランスよく加え、複雑な味わいとして感じさせてくれるのは、流石大手のブレンデッドモルトという完成度。下手なシングルモルトより満足感の高い1本に仕上がっています。

IMG_9207
(旧ラベル、2016年に終売から復活したグリーン15年。この頃はジョニーウォーカーシリーズに共通してえぐみのような癖があり、個人的には好きになれない要素だった。)

以前Twitterかどこかで、白州が買えない人はジョニーウォーカーグリーンが代替品になるなんて話を見たことがあり。
いやいや流石にそれは厳しいでしょと、香味の傾向が違いすぎると思っていたのですが、バーボン感増し&内陸主体個性の新ラベルを飲んで見ると、わからなくもないなと。
元々白州はバーボン樽熟成のハイランドモルト系の香味に近い個性をしているので、NASや12年あたりの代替と考えるなら、価格的にも悪いチョイスじゃないかもしれません。

ただ、ここまで評価してきてハシゴを外すようで申し訳ないですが、悩ましい点がないわけではありません。
それはバランスが取れているといっても、やはりブレンデッドモルトであること。10割蕎麦と二八蕎麦では繋ぎの入った二八蕎麦のほうが喉越しが良いように、ジョニーウォーカーでは同じ価格帯で販売されているブレンデッドのゴールドラベルのほうが、全体としての一体感は高く。特にロックやハイボールにするならブレンデッドの方に強みがあります。
また、個性と飲みごたえ重視でストレートで飲んでいくにしても、愛好家勢は家飲み用に5000円以上で一層熟成感や個性のあるシングルモルト、ボトラーズを買ってしまうでしょうから、実はちょっと半端なグレードになってしまっているのかも。。。

旧グリーン→新グリーンの比較では、新グリーンの方が良くなってると言えますし、トレンドも押さえた良いブレンデッドモルトだと思うので飲めば面白い一本ですが、シリーズや市場全体を見た場合どうしたものか。
ああ、帯に短し襷に長し…

シーバスリーガル 12年 1950年代流通 43%

カテゴリ:
FullSizeRender

CHIVAS REGAL 
BLENDED SCOTCH WHISKY 
AGED 12 YEARS 
1950’s 
750ml 43% 

評価:★★★★★★★(7)

香り:土っぽさを伴う古典的な麦芽香と、角の取れたピートスモークと共に穏やかに香る。奥には焼き洋菓子や熟した洋梨を思わせる甘みがあり、じわじわと存在を主張する。

味:まろやかで膨らみのある口当たり。ほろ苦さを伴う麦芽風味、内陸のピート、香り同様の果実感や蜜を思わせる甘み。余韻は穏やかなスモーキーさとナッツやパイ生地のような香ばしさがほのかにあり、染み込むように消えていく。

全体的に素朴で、近年のウイスキーにあるようなキラキラと華やかな要素はないが、熟成した原酒本来の甘みとコク、オールドボトルのモルトに共通する古典的な麦感、土っぽさ、そこから連想される田舎っぽさに魅力がある。構成原酒はおそらくそこまで多くなく、樽感も多彩とは言えないが、純粋に当時のモルト原酒の質の良さだけで愛好家の琴線に訴えかけてくる。
複雑さや熟成感、華やかさを好むなら、それこそ現行品のアルティスや25年が良いだろうが、個人的には素材の良さが光る味わいも捨てがたい。

IMG_7181

オールドブレンデッドにおいて、地雷率No,1と言っても過言ではないのがシーバスリーガル12年。
その原因が、キャップの裏側の材質にあるのは周知のことと思います。では、そのキャップがコルクだったらどうでしょうか?
実はシーバスリーガル12年は、発売初期の1939年から1950年代までコルクキャップが採用されており、例のキャップが採用される1960年代以降のロットよりも地雷率が低い(コルク臭の危険はあるため、ゼロではない)という特徴があります。

だったら1950年代以前のボトルを飲めば良いじゃない。
って、それで解決したらどんなに話は簡単か。その理由は2つあり、同銘柄が日本に入り始めたのは1960年代から、本格的に流通したのは1970年代からであることがまず挙げられます。
当時シーグラム傘下となっていたシーバス社はキリン・シーグラムの立ち上げに関わり、シーバスリーガル12年はキリンを通じて日本市場への正規流通が始まったという経緯があります。
そしてその時点では、ラベルのリニューアルと合わせてキャップも例のヤツに代わっており。。。
また後述の通り、シーバスブランドの1950年代は復活の最中で、並行輸入もなかったようです。そのため、日本市場をどんなに探しても、1950年代流通品を見かけることは無いわけです。

IMG_9213
(ペルノリカール社プレスリリースから画像引用:シーバスリーガルのラベル遍歴。2022年にはまた新たなデザインへと変更が行われている。)

では、この1950年代のシーバスリーガルはどこの市場にあるかというと、答えはアメリカです。
元々シーバスリーガル12年はアメリカ市場をターゲットとして、1938年(一説によると1939年)にリリースされていました。しかしそれ以前は社として原酒の売却があったり、その後勃発した第二次世界大戦で輸出産業が崩壊するなど厳しい状況にあり、シーバス社は1949年にシーグラム社の傘下に入ります。

そして1950年にミルトン蒸留所を取得し、その後ストラスアイラへと名前を変更。(この時は名前の変更を行っただけで、特段何か大きな変更をしたわけではないようです。)
今回のレビューアイテムであるシーバスリーガル12年は、まさにミルトン蒸留所時代の原酒をキーモルトとしており、モルト比率の高さからか古き良き時代のモルトの味わいが濃く、一方で少し田舎っぽさ、素朴な感じのある仕上がりとなっています。

シーグラム社傘下でしたが、まだグループ内での扱いが低かったのか、潤沢に原酒を使えたわけではなかったのでしょう。樽もプレーンオークメインか、現代のシーバスリーガルのようなハデな樽感もありません。だからこそ、こうして飲んでみてモルトの味わいを楽しみやすいというのは皮肉なことです。
一方、1960年代に入ると35カ国に輸出されるようになるなど、シーバスリーガルのブランドが評価され、そして1970年代〜1980年代には洋酒ブームとバブル景気の日本市場へ大量に投入されていくことになり、そのボトルは現代の市場の中で地雷となって多くの犠牲者と、それでも当たりを引きたいというコアなファンを生み出すことに繋がっています。

IMG_9212
(1980年代流通のシーバスリーガル12年。70年代とではロゴが微妙に異なるなど変化はあるが、基本的に同じデザインが踏襲されている。)

今回のレビューでは、1950年代のシーバスリーガルのテイスティングを、歴史背景を交えて紹介しました。
なるほど、キャップに汚染されていない真のシーバスリーガルとはこういう味なのか・・・とはならないんですよね。

本記事冒頭、「だったら1950年代以前のボトルを飲めば良いじゃない。って、それで解決したらどんなに話は簡単か。その理由は2つあり、」と書いて、その理由の1つである“ブランドの歴史と流通国”に関する話をつれつれと書いてきたわけで、そう、理由はもう一つあるんですよね。
それは、1950年代のシーバスリーガル12年はブランドとして復活の最中であり、テイスティングでも触れたように、あまり多彩な原酒を使っていたような感じがしないわけです。それは上述のように歴史背景を紐解く上でも、矛盾のない話と言えます。

そして、60年代以降輸出を拡大した同銘柄には、シーグラムグループが保有するさまざまな原酒が使われているわけで、50年代とレシピが同じとは思えません。
ということは、結局我々愛好家が気になって仕方がない日本で認識されているシーバスリーガルのオールド「本来の味」にたどり着くには、地雷原の中からダイヤ一粒を探す、茨の道を進むしか・・・

あ、これ考えたらアカンやつですか。こんだけ長々と書いておいて結局何を言いたかったんだお前は?
・・・そこでくりりんは考えることをやめた。

【完】

くりりん先生の次回更新にご期待ください

ロッホローモンド シグネチャー ブレンデッドウイスキー 40%

カテゴリ:
FullSizeRender

LOCH LOMOND 
SIGNATURE 
SINGLE BLENDED SCOTCH WHISKY 
700ml 40% 

評価:★★★★★(5)(!)

香り:柔らかく香る甘く焦げたオークのウッディさ。キャラメルと微かにケミカル、ボール紙、軽い刺激とスパイシーなアロマを伴う。

味:口当たりは緩く、序盤にのっぺりした質感から徐々に焦げたウッディネス。フレーバーとしてはグレーンの緩やかで柔らかい甘味、らしいフルーティーさと麦芽風味。余韻は焦げたオークのほろ苦さとバニラを伴って、ケミカルな甘さが残る。

スムーズで柔らかく、あまり若さも感じないが、ストレートだとややプレーンな香味が中心。一方で、濃いめのハイボールにすると、余韻にジェネリックトロピカル系のフレーバーがあって好ましい。シングルブレンデッドという造りがロッホローモンドらしい面白さだが、それ以上に、このクオリティで2000円ちょっとという市場価格を実現出来る、ロッホローモンドの強みが光る1本。

IMG_6334

モルト、グレーン、構成原酒全てがロッホローモンド蒸留所産の単一蒸留所ブレンデッド(シングルブレンド)。
スコッチウイスキーでブレンデッドと言えば、各地にある蒸留所から原酒を調達し、様々な原酒を用いて作成するのが一般的であるところ。このロッホローモンド名義のブレンデッドは、全ての原酒を単一蒸留所で製造し、ブレンドしていることが最大の特徴となっています。

ロッホローモンド蒸溜所には
・様々な酒質のモルトウイスキーを作るための、2種類の蒸留器。(うち、一つは複数タイプの酒質の生産が可能なローモンドスチル)
・グレーンウイスキー用の設備は通常の連続式蒸留機と、カフェスチル。
・年間10000丁の樽を補修、生産可能な樽工場。
・生産したウイスキーのボトリング設備。
と、無いのはモルティング設備くらいという、ウイスキー生産に必要な全てを自社で賄えるだけの機能を有しています。

そうした機能を活用し、同社はこれまで
モルトウイスキー:
・スタンダードなロッホローモンド
・フルーティーなインチマリン
・ピーティーなインチモーン

グレーンウイスキー:
・シングルグレーン
・ピーテッドグレーン

大きく分けて以上5系統のリリースを、それぞれのブランド名で実施していたところ。昨年から方針を変更し、ブランド大項目を全て「ロッホローモンド」に統一しています。

IMG_6907
IMG_6838

今回のレビューアイテムであるロッホローモンド・シグネチャーは、現地では2019年に販売を開始したもので、日本に入荷していなかっただけで時系列は前後しますが、現在はモルト、グレーン、ブレンド、全てが「ロッホローモンド」としてリリースされているというわけです。(※現地法律上は問題なし)

わかりにくい、と感じるかもしれませんが、それは同社の販売戦略であって、とにかく「ロッホローモンド」を認知させる戦略という観点からすれば正しい方法です。
というか、このリリース事態がすごいことなのです。ただでさえ一定品質以上のモルトとグレーンを低価格に抑えて量産出来る蒸溜所は限られているにも関わらず、ロッホローモンドの原酒は5年、8年熟成でも若さが目立たず甘みや麦芽風味、フルーティーさのある個性が特徴的です。

また、今回のリリースではブレンドの後のマリッジが600丁から形成されるオロロソシェリー樽とリチャーアメリカンオーク樽でのソレラシステムが特徴とされています。ここで使われる樽は樽の保守管理に加え、リチャーを自社の樽工場で行っているもので、シェリー感よりもチャーした樽の香ばしさ、ウッディさが香味のアクセントになっています。
ともするとプレーンな香味になりがちな若い原酒のブレンドに、香味の変化、幅を与えているのです。
ウイスキー市場を陰に陽に支えるロッホローモンド。今後も意欲的なリリースに期待しています。



以下、雑談。
ウイスキーの値上がりが複数社から発表され、我々サラリーマンの懐を直撃している昨今ですが。
そんな中でも2000円台のリリースにこのロッホローモンドシグネチャーに加え、面白いリリースが複数登場しています。

・アイリッシュウイスキー「バスカー」
・シングルモルト「グレングラント アルボラリス」
・シングルブレンデッドスコッチ「ロッホローモンド・シグネチャー」

これまで、2000円前後のスコッチウイスキーというと、バランタイン、ジョニーウォーカー、シーバスリーガル。。。などの有名ブランドの12年クラスが主流。
特にホワイトホース12年は、あまり知られていませんが昭和の洋酒ブーム時に発売された限定品をルーツとした、日本市場限定品。40年近く限定品としてリリースが継続されているベストセラーで、手軽に飲めるスモーキーなウイスキーの一つです。

FullSizeRender

ここに殴り込みをかけてきたのが上述の3銘柄。
トロピカルフレーバーを”売り“にしたバスカーは、ブレンドは軽やかな飲み心地、先日発売されたシングルモルトが同じ価格帯でさらにしっかりとした味わいがある。
グレングラント アルボラリスは、10年、12年に通じるアメリカンオーク由来の華やかさがあり、ロッホローモンドは上述の通り。
全てハイボールにして飲むと、地域、樽、製法、それぞれ個性の違いが感じられ、いやいやウイスキー楽しいじゃ無いですかと思えるラインナップ。

これから暖かくなってきて、夏場のハイボール要員としてはなんぼあっても良いボトルですからね。今年は有名ブランド1つ、そして上記3銘柄をセットで充実した家飲みを楽しんでみてはいかがでしょうか。

アーストン 10年 アイルサベイ 40% シーカスク & ランドカスク

カテゴリ:
IMG_1595

AERSTONE 
AILSA BAY DISTILLERY 
SINGLE MALT SCOTCH WHISKY 
Aged 10 years 
700ml 40% 

SEACASK "SMOOTH AND EASY"

評価:★★★★★★(6)

香り:華やかでフルーティー。洋梨やすりおろし林檎を思わせるオーキーなアロマに、ナッツ、麦芽の白い部分の香り。微かに乾草のような乾いた植物感と土の香りがアクセントとして混じる。

味:口当たりは柔らかくスムーズだが、40%の度数以上にリッチでコクとしっかりと舌フレーバーがある。蜂蜜を思わせる甘み、麦芽風味が粘性をもってしっかりと舌の上に残りつつ、オークフレーバーのドライな華やかさが鼻孔に抜けていく。余韻は土っぽさと乾草のような乾いた植物感、微かにスモーキーでビターなフレーバー。序盤の甘みを引き締め、穏やかだが長く続く

アイルサベイ蒸留所の原酒を、同蒸留所の熟成庫で熟成させたもの。一言でグレンフィディック12年を思わせる構成だが、それ以上に厚みがあり、味わい深い。樽構成としては、バーボン樽だけでなく、リフィルシェリー樽の香味もアクセントになっているのだろう。グレンフィディックの華やかさにバルヴェニーの麦芽風味や甘みを足したような、両者の良いとこどりで今後が楽しみな酒質である。
コストパフォーマンスにも優れており文句のつけようがないが、SEA CASKに由来するフレーバーについては難しい。しいて言えば、味わいのコク、舌の上に残るそれが塩味の一要素と言えなくもないか・・・。このリリースに塩気を感じることが出来る感度の味覚を自分は持ち合わせていない。


LAND CASK "RICH AND SMOKY"
評価:★★★★★(5)

香り:やや酸の混じったスモーキーなトップノート。若い原酒特有のゴツゴツとした質感のあるピート香で、土系の香りと合わせて、焦げた木材、クレゾール、根菜的なニュアンスも混ざる。奥には麦芽とオーキーなアロマ、レモンやグレープフルーツを思わせる要素もあり、スワリングで主張が強くなる。

味:オイリーで柔らかいコクと甘み、燻した麦芽のほろ苦さとスモーキーさと、ほのかに柑橘系のフレーバーのアクセント。序盤はピートフレーバーと麦芽風味に分離感があるが、後半にかけて馴染む。余韻はスモーキーで微かに植物系のえぐみ、根菜っぽさを伴う。

アイルサベイ蒸留所の原酒を、グレンフィディック、バルヴェニー留所の熟成庫で熟成させたもの。
ピートフレーバーのしっかり備わったモルトで、樽構成含めて過去にリリースされたオフィシャルボトルと同じベクトル上にある1本で、おそらくピートレベルは20PPM程度。他社シングルモルトで類似の系統を挙げるなら、レダイグやポートシャーロット。根菜や焚火の煙、内陸ピートの強い主張に対し、酒質は柔らかく、麦芽の甘みがしっかりと広がる点も特徴と言える。なお、香りはこれらが合わさって複雑なアロマを感じられるが、味の面では少々分離感があるため、ストレートよりハイボール等がお薦め。

IMG_1593

IMG_1905

2007年に稼働した、ローランド地方・アイルサベイ蒸留所から10年熟成のシングルモルトリリース。海辺と内地山間部、2か所で異なる酒質のものを熟成させた、これまでにないコンセプトのウイスキーです。2018年頃に発売されていたのですが、マイナー蒸溜所ゆえに日本に入ってくるのが遅かったのでしょう、今年に入ってからようやく市場で見られるようになりました。

アイルサベイは、グレンフィディック、バルヴェニー、キニンヴィを有するグランツ社が、同社のグレーン蒸溜所であるガ―ヴァンの敷地内に建設した蒸留所です。
グランツ社は、その名を冠するブレンデッドウイスキー・グランツを中心としたブレンド銘柄を、バルヴェニーやキニンヴィ蒸留所の原酒を用いてリリースしていたところ。近年、シングルモルトとしてブランドを確立していたグレンフィディックに続き、バルヴェニーも需要が増えてきたことで、新たにブレンデッド用のモルト原酒を調達する必要が生じていました。

また、同社は傘下にピーティーな原酒を作る蒸留所が無く、ブレンドの幅を広げ、需要が増えているスモーキーなブレンデッドウイスキーのリリースに必要な原酒の確保も課題であったと言えます。
そこで建設・稼働させたのが、このアイルサベイ蒸留所でした。稼働後しばらくはリリースがありませんでしたが、2016年頃にピーティーなシングルモルトをリリース。しかしこれが魅力のある仕上がりだったかと言われれば…SPPMという酒質の甘さを示す指標など、面白いコンセプトはあるけど、やはりブレンド用かなと、あまり惹かれなかったことを覚えています。



その後、アイルサベイ蒸留所については特に調べることもなく、アイルサベイ=ピーテッドモルトだと早合点してしまっていたのですが。。。今回のレビューを書くにあたり、前回から5年越しで蒸留所の全容を把握。グランツ社の原酒調達にかかるロードマップと、アイルサベイ蒸留所の真の姿をようやく認識にするに至りました。

現在のアイルサベイは、16基のポットスチルを持つローランド最大規模の蒸留所。スチルはバルヴェニー蒸留所と同様の形状をしており、ブレンドに用いられる原酒の代替を目的の一つとしています。また、仕込み工程全体では、バルヴェニータイプのモルト以外の原酒を仕込むことも可能なように設計されており、ピーテッドモルトは千重の一重でしかなかったということになります。

aerstone_web

今回のレビューアイテムであるアーストン10年のSEA CASKとLAND CASKは、この2種類をテイスティングすることで、先に触れたアイルサベイ蒸留所のハウススタイルと可能性を味わうことが出来る、実に面白いリリースとなっています。

SEA CASKが、数PPM程度で華やかな風味を主体とするスペイサイドタイプの原酒であるのに対し、内地で熟成させているLAND CASKが20PPM程度でスモーキーさの際立った仕上がりなのは、海=アイラ、アイランズ=ピーティーと言うスコッチモルトに対する一般的な認識からすれば、「逆じゃない?」と思えなくもありません。
ですが、アイルサベイ蒸留所は下の地図でも明らかなように元々海辺に建設されていることや、バルヴェニー蒸留所の原酒を代替する目的があります。つまりアイルサベイ蒸留所で仕込み、熟成させているスタンダードなモルトなのだとすれば、このリリースの位置づけもなるほどと思えてきます。

一方で、精麦設備を持つバルヴェニー蒸留所では、1年間のうち、内陸のピートを焚いて麦芽を仕込んでいる期間があります。これを用いることで、これまでグレンフィディック、バルヴェニー両蒸留所では、少量ながらピーテッドモルトのリリースも行われてきました。
アイルサベイ蒸留所で用いられているピート麦芽が、バルヴェニー蒸留所で仕込まれているとすれば、熟成されているLAND CASK=ピーテッドモルトと言うのも、わからなくもありません。
…公式ページに説明がないので、あくまで個人的な推測ですが(汗)。

aerstone_warehouse

両リリースをテイスティングすることで見えてくる共通する特徴は、コクのある甘み、麦芽風味。SPPMという指標を用いて管理されているほど、蒸溜所としてこの点を意識しているように感じます。
そして今回のリリースだけで判断はできないものの、狙い通りの酒質に仕上がっていというか、それ以上のものを生み出してくる可能性もあると言えます。

実際、SEA CASKはアメリカンオークに由来する華やかさと、蒸溜所の特徴である麦芽由来のフレーバーが合わさって、蜂蜜のような甘みや、洋梨や林檎を思わせるフルーティーな個性。樽構成の違いからか、少し乾草のようなフレーバーも混ざりますが、ドライ寄りなフレーバーが強くなった現行品ではなく、20~30年前流通のグレンフィディックやバルヴェニー蒸留所のモルトを思わせる、40%加水とは思えないフレーバーの厚みが魅力です。正直3000円台のシングルモルト現行品で、このクオリティは素晴らしいです。

一方でLAND CASKはちょっと若いというか、単体では麦芽の甘みに対してピートフレーバーの分離感があるため、現時点では個性を楽しむという飲み方に。ただ、SEA CASKと比較したり、ハイボールにしたり、あるいはそもそもの目的であるブレンドに使われていくなら、力を発揮するでしょう。
ピートと麦芽、その2つの個性の間を他の原酒やグレーンが埋めて凸凹が合わさるようなイメージですね。実際LANⅮとSEA CASKに10年熟成のグレーンを適当にブレンドして遊んでみましたが、悪くありませんでした。既にグランツからピーテッドがリリースされているので、構成原酒としてセットで飲んでみるのも良いと思います。


海の塩気と陸の土っぽさ、みたいな熟成環境によるフレーバーの違いを感じるのがリリースの狙いかと思いきや、構成している原酒のコンセプトから違うという奇襲を受けた本リリース。
というか、SEA CASKのほうに塩気を感じられるかというと、そもそも熟成期間を通じて人間が感知できるだけの塩分量(塩味の認識闘値:1リットルあたり0.585gとして、海水の塩分濃度3.4%から計算すると…)が樽の中に入り込むには無理があります。加えて熟成環境以外の要素として、ピートも極少量で、加水も衛生面で基準値を満たした水が使われているという条件下では、ちょっと一般人の味覚嗅覚では困難なのではないかと考えられるわけです。

他方で環境の違いが温度や湿度にあると考えるなら、アイルサベイ蒸留所はバルヴェニー蒸留所に比べて若干ながら温暖な環境が予想されるため、例えば樽由来のフレーバーが強く出る等の効果も期待できます。結果として、SEA CASKでは予想以上の完成度と、LAND CASKでは面白さと可能性を楽しむことが出来たので、このリリースは先入観を持たず、あくまで今後グランツの主要原酒となるアイルサベイ蒸留所の2つのキャラクターとして楽しむのがお薦めです。

このページのトップヘ

見出し画像
×