タグ

タグ:オフィシャル

カバラン トリプルシェリーカスク 40%

カテゴリ:
FullSizeRender

KAVALAN 
SINGLE MALT WHISKY 
TRIPLE SHERRY CASK 
700ml 40% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:枝付きレーズンやクランベリー、ダークフルーツを思わせる果実の香り、オールドタイプのシェリー樽を思わせるチョコレートやカラメルを思わせる色濃い甘さ。開封直後は微かにサルファリー、ややドライで鼻腔への刺激もあるが、好ましい要素の方が強く、非常に充実している。

味:スムーズな口当たりから香り同様、ダークフルーツを思わせる甘酸っぱいフレーバー、アーモンドチョコレート。苺シロップやフレーバーティーを思わせる含み香から、余韻は若干後付けしたような甘さが軽くスパイシーな刺激、程よいウッディネスと共に残る。

色濃い甘さと果実感を伴う甘酸っぱさ。ボディは少々軽いが、香りだけならもう1ポイント上の評価をしてもいいくらい、古き良き時代のシェリー樽熟成ウイスキーの一つを連想させる1本。多少作為的なところもあるが、オロロソ、PX、モスカテル、3種の樽を組み合わせることで、上記香味を作り上げたブレンダーの手腕は見事。言うならばこれは完成度の高いレプリカ。70〜80年代流通のシェリー系オールドボトルを連想する1本。
なお、そうした経験からくる整理を除いても、よく出来たリリースでる。

IMG_8230

昨年、某所でこのボトルを飲んで「こいつは面白い」と即購入した1本。本レビューは開封後、1年ちょい経過時点という感じですね。
開封直後はテイスティングコメントでも触れたように少しサルファリーな要素がありましたが、それはすぐに馴染み、今では全体のフルーティーさ、ベリー系の香味を支える香味の一つに転じています。

最も特筆するべきは、その香味の方向性です。
昨今のシェリー樽は、シーズニングのアメリカンオークやスパニッシュが主流となり、甘くクリーミーで、ドライプルーンやチョコレートのようなフレーバーを感じるものが多くあります。
普通に買えてそのフレーバーを確認できる代表的なものは、エドラダワー10年とかですね。先日当方関連でリリースがあったT&T TOYAMAのTHE BULK Vol.1も同様。まずここで断っておくと、本リリースのフレーバーは、それらとは異なるものです。

では、どういったモノか。10年以上前のウイスキー市場には、一口にシェリーカスクといっても、様々なフレーバーの方向性が見られました。
そのうち、代表的なものが某ボトラーズのリリースや、有名家族経営蒸留所のリリースに多く見られた、カラメルのような緩い甘さと程よいフルーティーさがある、今はなきオールドシェリーの一つです。
これは時系列的には通称パハレテ、古樽に甘口シェリーを圧入して再活性化させた樽によるものと考えられ、1980年代以前には、いくつかのブレンデッドウイスキーにも見られた個性です。

IMG_8237
※本リリースを飲んで連想したオールドブレンドは、ロイヤルサルートの1980年代以前流通や、同時期のグランツ21年、スチュワート・クリームオブザバーレイなど。
今回のこのカバラン・トリプルシェリーカスクの最大の特徴は、そうした当時の味わいに通じるフレーバーが備わっていることにあります。
といっても、昔の樽を使ったとかそういう話ではなく、今ある素材を組み合わせて、限りなくかつての味わいに近いものを仕上げています。偶然か、狙ったか、それはわかりませんが、市場で評価されている香味であることは確かです。

元々カバランは、クリアで軽く、フルーティー寄りの酒質を、厳選した樽で仕上げることで、愛好家の好ましいと感じるフレーバーに上手く焦点を当ててブランドを確立してきました。
例えばソリストのシェリーカスクには、スパニッシュオークのフレーバーを上手く使って、赤黒系の果実味と豊富なタンニン、ミズナラとは異なる香木系のアロマを付与した、さながら山崎シェリーカスクを思わせるリリースが多く。フィノカスクはアメリカンオークの古樽熟成がもたらす角の取れたフルーティーさ、トロピカルフレーバーとも称される個性が付与されているものが多い。
わかりやすく好ましいフレーバーが強いため、国際コンペ等でも非常に強い銘柄ですね。

今作の樽構成はオロロソカスク、PXカスク、モスカテルカスク。熟成年数は比較的若く、5〜7年といったところで、それ故少し刺激もあります。
PXはシェリー酒そのものが濃厚な甘さであるのに対して、確かに味わいに厚みは出るものの、樽由来のフレーバーはビターになる傾向があり、おそらく3種の中では控えめ。口当たりの甘酸っぱさはモスカテルで、ベリー系のフレーバーにも寄与している。そして軸になっているのがスパニッシュオークのオロロソ。。。
自分の経験値から分析すると、これらが絶妙なバランス(記載順に、2:3:5あたりと予想)で組み合わさり、加水で整えられ、万人向けでありながら自分のような愛好家にも刺さる、さながら高品質なオールドレプリカとなっているのです。

え、カバランの40%加水?
そう感じる方も多いかもしれませんが、このフレーバーのものを安定してこの価格で作れるというのは正直凄いですし、納得できる味わいだと思います。
夏本番のこれからの時期に濃厚シェリーはちょっとキツいかもしれませんが、今から開けておいて秋口から楽しむなんていうのも良いかもしれません。

厚岸蒸溜所 シングルモルト 雅 55% 免税店向けリリース

カテゴリ:
IMG_8003

THE AKKESHI “MIYABI”
Single Malt Japanese Whisky 
For Travel Retail 
700ml 55% 

評価:★★★★★★(6)

香り:スパイシーでスモーキーなトップノート、ビターオレンジや夏蜜柑などの爽やかでほろ苦いアロマ。微かに乳酸系の酸や香ばしさもあり、一本芯の通った複雑さを感じさせる。

味:度数を感じさせないねっとりとした口当たり。オレンジを思わせる甘酸っぱさとスモーキーさ、香ばしい麦芽風味。徐々にスパイシーで、口内をひりつかせる度数相応の刺激。ほろ苦く焦げたようなピートフレーバーに、ウッディな甘さが混ざり、長く続く。

やや若さはあるが、ミズナラ樽に由来するスパイシーさや柑橘の要素を主体に、奥には厚岸モルトの個性たる麦芽風味、ピートフレーバーを感じることが出来るはっきりとした作りのシングルモルト。
情報が公開されてないため、飲んだ印象からスペックを分析すると。フェノール値は30PPM程度、熟成年数は4年程度、キーモルトは和柑橘香る個性から北海道産ミズナラ樽原酒と思われる。比率を予想すると、ミズナラ樽7割、バーボン樽1〜2割、残りはシェリー樽、ワイン樽を隠し味といったところか。
ハイボールにするとスパイシーさが収まり、麦芽と樽由来の甘みが主体となって、実に飲みやすい。厚岸の酒質の良さが光る1本。

IMG_8005

北海道、釧路よりもさらに東、車で1時間程の場所にある、厚岸町の蒸留所。
麦、ピート、樽、水、酵母、全て地のものでウイスキーを造る、「厚岸オールスター」を掲げた取り組みを掲げ、その理想の実現に向けて着実に準備を進めていることは、改めて説明の必要はないかと思います。

その厚岸蒸溜所のリリースといえば、広く知られているのは2020年からリリースが始まっている二十四節気シリーズです。1年間を12ヶ月ではなく24の季節で区切る古来の整理の中で、それぞれの季節をイメージしたウイスキーをリリースしていくもので、限定品ながら厚岸蒸溜所のスタンダードなブランドとして位置付けられています。
言い換えると、厚岸蒸溜所のウイスキーを飲もうとすると、基本的には二十四節気シリーズのどれかということになるのですが・・・実はそれ以外にも、プライベートボトル、異なる市場や地域を限定したリリースなど、あまり知られていない限定品があります。

FullSizeRender
※シングルモルト厚岸 ブレンダーズチョイス
AFトレード社がリリースしたシングルカスク。通常の複数樽ブレンドよりも、個性がはっきりとしており、麦芽風味や酒質の良いところを感じやすい。去年あたりからPBでシングルカスクリリースが国内向けにも出てきたので、機会があればぜひ飲んでみてほしい。

IMG_0004
※厚岸 ブレンデッドウイスキー 牡蠣の子守唄
厚岸町内だけのウイスキーとして2021年にリリース。基本的に厚岸町以外に流通していない地域限定品で、海外原酒と厚岸のモルトをブレンドし、厚岸町の名産品である牡蠣に合うスモーキーで麦芽風味の中にソルティーなフレーバーを感じるウイスキーとなっている。


さて、今回紹介する、シングルモルト厚岸“雅”は、国際線免税店向けに2022年にリリースされたシングルモルトです。
樽構成、原酒構成、諸々情報がオープンになっておらず、裏ラベル等への記載はおろか公式にも紹介ページがないため、謎のシングルモルトとなっており、実は私も全てを把握しているわけではありません。

蒸留所関係者に確認したところ、キーモルトが北海道ミズナラ樽に北海道産麦芽、つまりオール北海道熟成の原酒であることと、そしていくつかのバックストーリーがあることがわかりました。
同スペックの原酒は、オリエンタルな香味のあるものに加え、スパイシーで和柑橘系のフレーバーを感じられるものが多く、本シングルモルトからはその個性をはっきりと感じることが出来ます。厚岸蒸溜所の理想の実現に、着実に準備が整っていることを感じさせる味わいです。
一方、それ以外に香味から想定されるスペックはテイスティングで紹介しておりますので、ここから先は本リリースの背景にあるエピソードを紹介していきます。

まず“雅”というネーミングは、同蒸留所の代表である樋田氏のご友人の名前から1文字を取ったもの。そしてこのウイスキーは、急逝されたご友人への追悼としてボトリングされたものだそうです。
ご友人はどちらかというと下戸であったそうですが、天国でハイボールを楽しんで貰えたら…と。そう、テイスティングでも触れましたが、本リリースはストレートよりハイボールの方が、酒質の良さ、麦芽や樽由来の甘さが引き立って、非常に親しみやすくなるのです。
ひょっとするとこのリリースの原酒構成には、立崎ブレンダーではなく樋田氏が関わられているのかもしれません。

IMG_8008

そして“雅”にまつわるもう一つのエピソードが、この商品名が既に他社の商標としてあり、リリースにあたってハードルとなったことにあります。
それはそうですよね、お酒の名前として違和感のない文字ですし…。
ですが、上述のリリース経緯と1度だけの発売ということで、特別に許可を頂けたのだそうです。義理と人情といいますか、相手の狙いが悪意でない以上、同じ心で対応する。
ウイスキー関連で、あるいは本業側では結構ギスギスした話を見ることも珍しくないのですが、久しぶりにスケールの大きさ、懐の広さを感じる話だなと思えるエピソードでした。

シングルモルト厚岸 雅はバックバーを含め国内市場ではあまり見かけませんが、もし見かけたら単なるウイスキーというより、自分の目指す夢を友人に伝える、そんな意味を持ったウイスキーとして見て貰えたらと思います。

久住蒸溜所 グリーンドラム ワールドモルト 46% Lot.2021

カテゴリ:

IMG_7929

KUJU DISTILLERY 
Green Dram 
Blended Malt & New Born 
World Malt Whisky 
Lot. 2021 
700ml 46% 

評価:ー(New Bornのため評価なし)

トップノートはややドライで鼻腔への刺激があり、合わせてアメリカンオークの華やかさ、ドライアップル、麦芽由来の甘さ、微かな酸を伴うフレッシュで爽やかなアロマ。
口に含むと軽くスパイシーな刺激の奥から、麦芽のオイリーで優しい甘さが広がる。若さと共に、やや単調ではあるが、素性の良さが伺える1本。

ハイボールにするとフレッシュな木々の香りにすっきりとした味わいで飲み進めていける。多少若さが目立つようにも感じられるが、スペックを考えれば特に不足はない。むしろ最近のトレンドをおさえ、よく出来ていると言える。
育つ若木は大樹となるか。ウイスキー愛好家の想いが結実した、今後に注目したい蒸溜所の1本。

 IMG_7950

久住蒸溜所は、シングルモルト通販 洋酒専門店TSUZAKIの代表である宇戸田氏が、2021年に創業した大分県のクラフト蒸溜所です。
まず同酒販店は、宇戸田氏が家業である酒販店(津崎商事)を継ぐ際に、ウイスキーの販売に新規参入したもの。当時は日本市場におけるウイスキー冬の時代であり、消費は低迷中。その時代でありながらもウイスキーを扱おうと思ったのは、同氏がウイスキーの魅力に取り憑かれた愛好家の一人だったためです。

どれくらい惹かれていたかというと、その後ウイスキー好きが高じて地元の大分に蒸留所を建ててしまうくらいですから、よっぽどというか、もはやウイスキーが人生の一部であると言っても過言ではないほど。
ウイスキー蒸留の開始にあたっては、熊本県阿蘇山、大分県くじゅう連山にほど近い、旧小早川酒造の跡地を取得。豊かな水源、涼のある環境、この場所も縁の地であったそうですが、そこにさまざまな苦労を経て蒸留所を創業し、現在に至っています。
この際あった出来事は、同社WEBページでも語られていますが、その深掘りは、いずれシングルモルトがリリースされた時に取っておきたいと思います。

IMG_8014
※久住蒸溜所のポットスチルライトアップ。「100年後も久住でウイスキーを作り続ける」を掲げ、絶賛稼働中。画像引用:久住蒸溜所informationより。

さて、今回レビューしたグリーンドラムは、2023年にリリースされた、久住蒸溜所のニューボーンと、輸入したモルトウイスキーを久住蒸留所で追熟しバッティングした、ワールドブレンドモルトです。
ラベルのLotはリリース時期ではなく、久住蒸溜所の原酒の蒸留時期を示しており、香味から樽はバーボン系、2021年蒸留のニューボーン原酒に、おそらく熟成年数は5〜10年クラスの内陸スコッチモルトウイスキーが使用されていると予想します。

スコットランドより温暖な環境を思わせる若く強めの樽感が若干あるものの、基本的には華やかでドライな輸入原酒にオイリー、あるいはワクシーというような柔らかく甘い麦芽風味の仕事が感じられ、若さはあるが嫌味なところなく、素性の良さが伺える1本となっています。
久住蒸溜所は現在大分県産大麦をはじめ、伝統的なスコットランドのウイスキー製法をベースに、そこに大分の地がもたらす恵み、ならではの工夫を取り込んだ製法を模索していますが、それだけでなく造り手の独りよがりになってない香味の方向性にも、今後のリリースが期待できそうだと感じます。

余談ですが、宇戸田氏がウイスキーに惹かれたきっかけは、大学時代に飲んだグレンフィディックだったそうです。
30年以上前ですから、当時流通していたフィディックはメルシャン時代のNASか、ドットウェル時代の10年か。何れにせよ、現代より麦芽風味が厚く、洋梨やすりおろし林檎を思わせる白色系のフルーティーさがしっかりあった頃のモノ。
そして今回テイスティングしたGreen Dramにも、華やかで麦芽の甘みを感じる先に、同銘柄が見えてくるような…。そんな印象も感じる1本でした。

アイルオブラッセイ ライトリーピーテッド Batch R-01.1 46.4%

カテゴリ:
FullSizeRender

ISLE OF RAASAY 
LIGHT PEATED 
Batch R-01.1 
700ml 46.4% 

評価:★★★★★★(6)

香り:酸のある柔らかい麦芽香とスモーキーさ、燃え尽きた後の焚き火、淡い柑橘香がベース。その上に樽由来のアロマが複数あり、フレンチオークのバニラ香やオークフレーバーに、ワインオークを思わせる酸が混じる。

味:柔らかいコクのある口当たり。潮汁のようなダシっぽさとほろ苦いピート、麦芽風味に角の取れたミネラルを感じる。
余韻は穏やかなスパイスの刺激とビターなピート、序盤の柔らかさに反して強めのタンニンが口内を引き締める。

ライウイスキーカスク、チンカピンオークカスク、ワインカスク。3種類のカスクで熟成された6種類の原酒の組み合わせ。樽の使い方は賛否あるかもしれないが、このスタンダードリリースはそこまで煩く主張しない。一方で、この蒸留所で注目すべきは酒質。麦の厚みとピート、樽香の奥にある地味深さ。出汁っぽさと角の取れたミネラルは、仕込み水に由来していると思われ、それが厚みと地味深さに通じている。
ちょっと田舎っぽい感じが地酒っぽさ、現行品ならスプリングバンクにも共通するようなイメージ。 ハイボールは樽感が軽減され、酒質は伸びて、穏やかにスモーキー。

IMG_7384

アイルオブラッセイは、スコットランド、タリスカーで知られるスカイ島に隣接する、ヘプリディーズ諸島の一つ、ラッセイ島に2014年に設立された新興蒸留所です。
ただし 2014年は蒸留開始ではなく、会社の立ち上げであり、着工は2016年、蒸留の開始は2017年9月、樽詰めが行われたのはその翌月、2017年10月からというスケジュール感となっています。

今回のボトルは、そのラッセイ蒸留所のコアレンジとして初めてリリースされたR-01(Release-01)の2ndバッチ。2021年に初めてリリースされたR-01シングルモルトも麦芽風味と独特の複雑さがあって良かったですが、2ndも中々です。
今回のリリースを含むスタンダード品の原酒としては、4年熟成前後のものが構成原酒となっていますが、ラッセイ蒸留所の魅力は、若くても高品質な原酒を作り出すという3種6パターンの原酒作り。
そして発酵から加水まで、すべての行程に使用される、敷地内で組み上げられるミネラル分豊富な伏流水にあると感じています。

まずは使い方では良くも悪くもなる、樽使いから紹介していきます。
ラッセイ蒸留所の原酒はノンピートとピーテッドがあり、これをブレンドすることで、今回のテイスティングアイテムにある適度なピートフレーバーを持ったライトリーピーテッドウイスキーが出来上がります。
この2種の原酒の熟成に使われる樽は、ボルドー赤ワインカスク、ライカスク、そしてチンカピンオークカスク、それぞれ3種類であり、故に3種6パターンの原酒を使い分けると言うことになります。
そしてここで使われる樽にこだわりがあり、若くしてもそれなりな味わいに仕上がるのは、樽由来の要素も大きいのではないかと感じています。

FullSizeRender

何がどう違うのか。赤ワイン樽は、ウイスキーでよくある名もなきバーガンディカスクではなく、ワインを知らない人でも知っている程の超有名ワイナリーを含む、3社の樽が使われています。 ライカスクはアメリカのウッドウォードリザーブ蒸留所から。そして、日本でいうミズナラと同種とされる、北米産のチンカピンオーク。

過去のイベントで個別の原酒をテイスティングしたこともありますが、ワインはまだ若くこれからと言う印象があったものの、ライのピートは適度なオーク香とスモーキーさ、チンカピンオークはウッディだが複雑な香味があり、限定のシングルカスクなど、リリースによっては若さが目立ち、樽感がうるさいものもしばしばありますが…。
スタンダード品はそれぞれを適度に組み合わせることで、香味に複雑さを与えています。樽の質の良さが原酒の魅力を引き上げ、中でも今回のような複数樽バッティングの加水品からは、充分味わい深いウイスキーがリリースされているのです。

IMG_7416

IMG_1367
IMG_1368
IMG_1370

そして注目すべきポイントがもう一つ。それは仕込み水です。
昨今、味わい深いオールドボトルに対して、現行品は味が軽い、という話はよく聞きます。その要因としては、麦芽品種の違い、製法の違い、樽の違いなどが考えられるわけですが。もう一つ、仕込み水も確実に変わっていると思われます。
例えばアイラ島などは、上下水道の整備が明らかに進んでいませんでした。結果、蛇口をひねれば地層を通った茶色い水が出る、なんて話も普通にあるわけですが、その水で仕込み、加水したモルトと、今の技術でフィルタリングした浄水で仕込んだモルトは、同じものになるでしょうか。
間違いなく仕上がりは異なるとともに、前者のほうが香味が複雑になることは容易に想像できます。

ラッセイ蒸留所では、上述の通り、敷地内で汲み上げられた、伏流水をウイスキーの発酵から蒸留、加水まで、製造行程ほぼ全てで使用しています。
ボトルデザインに、化石を含む地層が採用されているのは、まさにこの仕込み水を意識してのこと。だからでしょうか。アイルオブラッセイ R-01.1は、他の現行品のモルトにはない地味深さ、味わい深さがあり、それを複数の樽感でさらに複雑な仕上がりとしている。
実は樽や製造技術だけでもなく、今となっては特別な仕込み水が、縁の下の力持ちとなっているのではないかと感じます。

FullSizeRender
※アイルオブラッセイ R-01.1を飲んでいてイメージしたグレンイラ5年。1980年代にカリラ蒸留所を所有していたバロックレイド社リリースのバッテッドモルトであり、カリラを軸にブレンドされている。今回のリリースを飲んだ時に真っ先に思い浮かんだボトル。内陸っぽさと島っぽさ、若いが地味深い味わいに共通点を感じる。

なおこの蒸留所、蒸留設備だけでなく、レストラン、そして宿泊施設が整備されており、公式サイトでも美しい設備を見ることが出来ますが、実はつい先日まで日本側の代理店となっている株式会社都光が訪問されていて、その関係者筆頭の伊藤氏(@likaman_ito)が現地の写真をSNS で公開されています。
まったく、羨ましい限りです。けしからんし羨ましいので、マジで1回連れて行ってください、社長(笑)!!

IMG_7888
IMG_7889

イチローズモルト 清里フィールドバレエ 33rd 53% シングルモルトジャパニーズウイスキー

カテゴリ:
IMG_6171

KIYOSATO FIELD BALLET 
33RD Anniversary 
Ichiro’s Malt 
Chichibu Distillery 
Single Malt Japanese Whisky 
700ml 53% 

評価:★★★★★★★(7)

香り:メローでスパイシーなトップノート。松の樹皮、キャラメルコーティングした胡桃やアーモンド、艶やかさのあるリッチなウッディネス。奥にはアプリコットやアップルタルトを思わせるフルーティーさ、微かなスモーキーフレーバーがあり複雑なアロマを一層引き立てている。

味:口当たりはウッディで濃厚、ナッツを思わせる軽い香ばしさ、微かに杏シロップのような酸味と甘み。徐々に濃縮されたフレーバーが紐解かれ、チャーリング由来のキャラメルの甘さ、オーク由来の華やかさ、そしてケミカル系のフルーティーさが広がる。
余韻はスパイシーでほろ苦く、そして華やか。ハイトーンな刺激の中で、じんわりとフルーツシロップのような甘さとほのかなピートを感じる長い余韻。

香味全体において主役となっているのが、ウッディで新樽要素を含むメローでスパイシーな樽感。これは中心に使われているというミズナラヘッドのチビ樽によるものと考えられる。
また、アプリコットなどのフルーティーさやコクのある甘さにシェリー樽原酒の個性が、さらには秩父の中でもたまに見られるアイリッシュ系のフルーティーさを持った原酒の個性がヒロインのごとく現れる。その他にも、スパイシーさ、ピーティーさ、香味の中から登場人物のようにそれぞれの秩父原酒の個性が交わり、複雑で重厚な1本に仕上がっている。原酒の熟成は平均10年程度、高い完成度と技量を感じる。

IMG_6704

昨年8月に公演された、第33回清里フィールドバレエ「ドン・キホーテ」。その記念となるウイスキーが2023年5月15日に発表されました。
毎年、清里フィールドバレエのリリースにあたっては、その発起人である萌木の村の舩木上次氏が知人関係者にサンプルを配布されていて、今年もご厚意で先行テイスティングをさせていただいています。いつも本当にありがとうございます。

清里フィールドバレエの記念ウイスキーは、そのストーリーやフィールドバレエそのものをウイスキーのブレンドに反映して、25期の公開からサントリーとイチローズモルトで毎年作られてきました。
2020年までは、サントリーでは輿水氏、福璵氏が白州原酒を用いて。イチローズモルトでは肥土氏がブレンダーとして、羽生原酒と川崎グレーン原酒を用いて。
2021年からはイチローズモルトの吉川氏がブレンダーとなって、秩父蒸留所の原酒を使って、まさに夢の饗宴と言うべきリリースが行われています。

あまりに歴史があり、これだけで冊子が作れてしまう(実はすでに作られている)ので、本記事では直近数年、秩父のシングルモルトリリースとなった2021年以降に触れていくと、バーボン樽原酒とチビ樽のピーテッド原酒で白と黒の世界を表現した「白鳥の湖」。
ポートワイン樽原酒を用いて女性的かつミステリアスな要素が加わった「眠れる森の美女」。
それぞれのリリースがフィールドバレエの演目を元にしたレシピとなっており、グラスの中のもう一つの舞台として、更に贅沢な時間を楽しむことができます。

IMG_2062
※清里フィールドバレエが開催されている山梨県・萌木の村は、2021年に開業50周年を迎えた。その記念としてアニバーサリーシングルモルトが、秩父蒸留所のシングルモルトを用いてリリースされている。今作とは異なり華やかさが強調された造りで、こちらも完成度は高い。

一方、今回の記念リリースは舞台ドン・キホーテをイメージしてブレンドされているわけですが、正直見て楽しい演目である一方で、ウイスキーとして表現しろと言われたら…、これは難しかったのではないでしょうか。
造り手が相当苦労したという裏話も聞いているところ、個人的にも香味からのイメージで、老騎士(自称)の勘違い冒険劇たる喜劇ドン・キホーテを結びつけるのは正直難しくありました。

今回のリリースのキーモルトとなっているのは
・ミズナラヘッドのチビ樽(クオーターカスク)原酒
そこに、
・11年熟成のオロロソシェリー樽原酒
・8年熟成のヘビリーピーテッド原酒
という3つのパーツが情報公開されています。
これらの情報と、テイスティングした感想から、私の勝手な考察を紹介させていただくと。
通常と少し異なる形状のチビ樽原酒、つまりウイスキーにおける王道的な樽となるバーボンやシェリーではなく、個性的で一風変わった原酒を主軸に置くこと。これが舞台における主人公、ドン・キホーテとして位置付けられているのかなと。

そして、このチビ樽原酒に由来する濃厚なウッディさと、幾つもの樽、原酒の個性が重厚なフレーバーを紡ぐ点が、登場人物がさまざまに出てくる劇中をイメージさせてくれます。
特に中間以降にフルーティーで艶やかな、女性的なフレーバーも感じられる点は、まさに劇中におけるヒロイン、キトリ登場という感じ。
しかも余韻が樽感ではなく、ほのかなスモーキーさで引き立てられる点が、キトリと結婚することになるバジルの存在…、といったキャスティングなのだろうかと。口内に残るハイトーンでじんじんとした刺激は、さながら終幕時の万雷の拍手のようにも感じられます。

IMG_6719
※清里フィールドバレエ「ドン・キホーテ」
画像引用:https://spice.eplus.jp/articles/301927/amp

ただ、このリリースをフィールドバレエというよりウイスキー単体で捉えた場合、純粋に美味しく、そして高い完成度の1本だと思います。
造り手がベストを尽くした、一流の仕事。萌木の村に関連するリリースに共通する清里の精神が、確かに息づいている。秩父蒸留所の原酒の成長、引き出しの多さ、そして造り手の技量が感じられますね。

実は自分は秩父の若い原酒に見られるスパイシーさ、和生姜やハッカのようなニュアンス、あるいは妙なえぐみが得意ではなく、これまで秩父モルトで高い評価をすることはほとんどなかったように思います。
ただ10年熟成を超えたあたりの原酒のフルーティーさや、近年の若い原酒でも定番品のリーフシリーズ・ダブルディスティラリーの味が明らかに変わっている中で感じられる要素、そしてブレンド技術やニューメイクの作り込みと、流石に凄いなと思うこと多々あり、既に昔の認識のままでもありません。

良いものは良い、過去秩父蒸留所のモルトを使った清里フィールドバレエ3作の中では、今回の1本が一番好みです。
発表は5月15日、一般向けの抽選発売は5月20日からとのこと。萌木の村のBAR Perchをはじめ、国内のBARでももちろん提供されるはずですので、その際は、当ブログの記事が複雑で重厚な香味を紐解くきっかけの一つとなってくれたら幸いです。

IMG_6721

このページのトップヘ

見出し画像
×