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スコットランド最南端の蒸留所。ブラドノック蒸留所の原酒は、かつてはブレンデッドウイスキー・ベルの原酒等に活用されていたものの、所属するDCL全体の生産調整で1993年に操業を休止。
他のローランド地方の蒸留所とほぼ同時期の閉鎖であり、同地区の衰退が見てとれる出来事の一つであったわけですが、ここで前オーナーとなる建築家レイモンド・アームストロング氏が蒸留所を1994年に買収。紆余曲折の末、2000年に生産量年間10万リットルという条件付きでの再稼働※を果たします。

レイモンド氏の時代は、小規模なシングルモルトブームの時期。ブラドノックからは今風に言えばスモールバッチリリースと言える、熟成年数がバラバラないくつかのモルトや、ブラドノックを再度復興させようとする物好きな(失礼)有志によるボトラーズブランド・ブラドノックフォーラムがリリースされていましたが、2010年に再度蒸留を休止し、2014年に破産。
いよいよこのまま消えていくものと思われましたが、奇しくもウイスキー業界は世界的なブームに突入しようとしていたところ。オーストラリアの事業家チームが蒸留所を買収したことで、本格的な再稼働を果たすことになります。

後述するように、レイモンド氏はブラドノック蒸留所をウイスキー製造とは異なる目的で買い取ったとされていますが、結果的にここで繋がった20年間が、リトルミルやローズバンクら他のローランド閉鎖蒸留所と現在の姿を分けたとも考えられます。

そうして蒸留所の創業200周年にあたる2017年に発売を開始したのが、NAS"サムサラ"、15年”アデラ”、27年”タリア”。2018年には10年もラインナップに加わり、今年に入って日本市場にも流通が始まりました。
今回、これら4種のサンプルを入手。飲んでみるとなかなか個性的な味わいというだけでなく、それぞれのボトルに共通するハウススタイルが感じられたため、まとめてレビューすることにしました。


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BLADNOCH 10 years old 
LIMITED RELEASE
700ml 46.7%
暫定評価:★★★★★(5-6)

香り:注ぎたてはリンゴキャンディーのようなフルーティーさと酸を感じるアロマ。時間経過で微かに発酵したような香りと、干し草、ドライでトーンの高い刺激に加え、少しケミカルのような要素も感じる。

味:ややスパイシーで、乾いたウッディネスとバーボンオーク、バニラとほのかにフローラルな含み香を伴うパフュームライクな口当たり。香りの印象とはだいぶ異なっており、余韻はドライで麦芽由来の甘み、ヒリヒリとした刺激を伴って長く続く。

香りからベンネヴィスやロッホローモンド系かと思いきや、味わいは乾いた草、軽やかなパフューミーさがあり、蒸留所のキャラクターを理解することが出来る。主として使われている樽はアメリカンホワイトオーク、バーボン樽だろう。
少量加水すると、香りはテキーラのような植物感、味はバーボンを思わせるメローな穀物感が顔を出してくる。なかなか特徴的なウイスキーだが、単語から感じられるほどのネガティブさはなく、不思議と飲めてしまうバランスの良さがある。

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BLADNOCH NAS ”SAMSARA”
LIMITED RELEASE
700ml 46.7%
暫定評価:★★★★★★(5-6)

香り:キャラメルナッツのような甘みと軽い香ばしさ、奥には熟成したチーズのような深みのある酸。乾いた粉っぽいオークのニュアンス、おがくず、鼻孔へのトーンの高い刺激がスワリングと共に感じられる。

味:まとまった口当たり。ドライプルーンや蜜っぽい甘み、ほのかにハーブなど、シーズニングシェリーにも似たスウィートな樽感に加え、微かにフローラルな要素が中間から開いてくる。余韻はドライで微かにソーピー、ナッツを思わせるフレーバーも伴う。

酒質そのもののキャラクターや熟成感は前述の10年と大きく違いはないが、バーボン樽熟成の原酒をベースに、オーストラリア産の赤ワイン樽でフィニッシュしたという蒸留所新体制の色が垣間見える作品。ワインカスクフィニッシュは全体への厚みに加え、多少あざとい甘さもあるが、ともすればシーズニングシェリーに近いフレーバーにも繋がっている。
加水すると、フィニッシュの要素が薄くなるのか、ベースになったバーボンオーク由来と思しき10年でも感じたメローな甘みに加え、ソーピーさが味で主張してくる。

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BLADNOCH 15 years old ”ADELA”
OLOROSO CASK EXPRESSION
700ml 46.7%
暫定評価:★★★★★★(5-6)

香り:オロロソシーズニング樽の濃厚なアロマ。ドライプルーンやチョコチップクッキーのような甘みと焦げたような苦みが前面にあり、奥には発酵したような酸、時間経過でゴムっぽさも感じる。

味:黒糖麩菓子を思わせるような甘みとドライプルーンの柔らかい酸味、合わせてややビターなウッディネスが序盤から広がる。後半にかけてほんのわずかにフローラル。また、口当たりは粘性が感じられるが、徐々にピリピリとした刺激が顔を出し、余韻はスパイシーでウッディ。しっかりとドライでローストアーモンドとダークフルーツのニュアンスも伴う。

オロロソ樽で熟成された原酒のみで構成されている。そのため、シーズニングシェリー樽のキャラクターがメインに備わっているため、酒質由来の香味はだいぶ奥に抑え込まれている。しかしふとピントが合うたびに、香りの酸や、味のフローラルさは消えていないことが伝わってくる。少量加水すると樽由来のゴム感やビターな要素が落ち着き、多少バランスが良くなる。
決して悪くはなく、近年のシェリー系のキャラクターを好むなら評価される仕上がりと言える。ただしこの手の味わいを求めるなら、このモルトである必要はないというジレンマも抱えている。

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BLADNOCH 27 years old ”TALIA”
RARE RELASE
700ml 46.7%
暫定評価:★★★★★★(6)(!)

香り:トップノートはリンゴ酢や梅酒のような酸を主体に感じるオーキーなアロマ。水で湿った和紙、くぐもっておりかなり特徴的。時間経過でオーキーでフローラルな要素も伴う。

味:少しの水っぽさ、角のとれたウッディネスと共に床用ワックスのような含み香を一瞬感じ、合わせて微かにフローラル。これらの後からナッツの軽い香ばしさと、リンゴのコンポートや熟したパイナップル、トロピカルなフルーティーさが広がる。余韻はドライでウッディ、軽いフローラルさと紙っぽいニュアンスを伴う。

多彩な香味だが、なんとも独特。一時期のリトルミルにも近い。1990年代蒸留の原酒でありながら、トロピカルなフレーバーを伴う点はこのボトル最大のポイントであるが、それ以外の要素が確実に好みを分けるだろう。
過度に主張しない樽感はリフィルバーボン、リフィルシェリーらのバッティングで、近年の上位グレードに良くある綺麗な作られ方。少量加水すると香りの酸が軽減され、アメリカンオークの華やかさが開き、余韻にかけてのフルーティーさへスムーズに繋がる。全体的に香味が伸びて、好ましく大きな変化が感じられた。

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全体をまとめると、"例のフレーバー"を持った特徴的な原酒、ということ。
今回テイスティングした4種は、100%UD社時代の原酒で構成される27年と、レイモンド時代に少量蒸留されていた原酒を主としているSAMSARA、10年、15年。蒸留時期が90年代と2000年代、2つの時代に別れますが、本質的なキャラクターは大きく変わっていないように感じられます。

つまり香りにある発酵したような酸と、味に感じるフローラルな軽いパフューミーさ。後は乾燥した植物。これが現在のブラドノックのハウススタイルなのでしょう。また、40%加水ではべたつくような口当たりになりがちなところ、46.7%の独特な仕様で、フレーバーの広がりや全体のバランスにも繋がっているようです。

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(今回レビューした4種のリリースに加え、2018年にはワインフィニッシュの17年、そしてバイセンテナリーリミテッドリリースの29年(上写真、価格5000£!!)もリリースされるなど、引き続き旧世代の原酒を使ったリリースが展開されている。27年はリトルミル等にあるようなフルーティーさも備えていたが、こちらの構成は果たして・・・。)

ラインナップを通じてベースにあるキャラクターが変わらないという特徴から、この蒸留所のハウススタイルを知りたいという方は、ひとまず10年を飲めば良く。好ましいと感じるならば、他のボトルもオススメできます。
強いて言えばシェリー感の強い15年は、その場合であっても好みと異なるかもしれませんが・・・。
いずれにせよ、スコッチウイスキーのオフィシャルからパフューム系のフレーバーが消えた現代では、その手の愛好家にとっては喜ばしいリリースが復活したとも言えます。

一方で、過去リリースされていたボトラーズやオフィシャルのブラドノックには、そのフレーバーがあったりなかったりするのと、あっても軽いタイプのものが多いので、何らかの理由でどちらかに変化する、不安定な特性を持っているのかもしれません。
2015年以降、ブラドノックはポットスチルを増設するだけでなく、それまでの設備も一新。生産量は年間150万リットルとレイモンド時代の15倍にまで引き上げられており、それらによる影響はどう出るのか。
バッカスのサイコロがどんな目を示すかは、新しい世代のリリースを待って判断することになりますが、それまで果たして現代の市場にこのウイスキーがどう受け入れられ、評価されていくのか。様子を見たいと思います。

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※外界と隔離されたような時間が流れるブラドノック周辺の景観。レイモンド氏が蒸留所を買収した理由は別荘地としてのものだったとされる。再稼働の経緯には、蒸留所周辺住民への配慮や前々オーナーであるUD社との間で結ばれていた買収条件など、様々な事情があったとされ、そうした背景がウイスキーマガジンの記事に詳しく特集されている。

補足:サンプルテイスティングのため、ボトルの画像はTHE WHISKY EXCHANGE からお借りしています。