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静岡蒸溜所 プロローグK シングルモルト 3年 55.5%

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SHIZUOKA 
"PROLOGUE K" 
THE LEGENDARY STEAM-HEATING STILL 
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY 
Aged 3 years old 
Cask type Bourbon Barrel 
Released in 2020 
700ml 55.5% 

評価:★★★★(4)

香り:和柑橘を思わせる爽やかさと苦み、若干の土っぽさ。蒸かした穀物のような甘さもあるが、奥にはニューポッティーな要素に加え、セメダイン系のニュアンスも伴うドライ寄りの香り立ち。

味:飲み口は度数相応の力強さで、若干粉っぽさのある舌あたり。バーボン樽由来のやや黄色見を帯びたウッディな甘味が、軽めのピートや麦芽のほろ苦さを伴って広がる。
一方で、中間から後半、余韻はあまり伸びる感じはなく、樽感、ピートとも穏やかになり、若さに通じるほのかな未熟要素、軽いえぐみを残して消えていく。

強めの樽感と軽めのピートでカバーされ、若さは目立たない仕上がり。樽はウッディな渋みが主張するような効き方ではなく、余韻にかけて穏やかに反転する変化が面白い。これは温暖な環境と短い熟成年数、そして酒質によるところと推察。若い原酒のみで構成されているため、酒質と樽感との分離感も多少あるが、少量加水するとスムーズで軽やか、麦芽由来の甘さも引き立ちまとまりが良くなる。
クラフト蒸留所のファーストリリースとして、そのクオリティは及第点。”伝説のスチル”の真価はこれからか。

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静岡蒸溜所から2020年12月にリリースされた、シングルモルトのファーストリリース”プロローグK”
ボトルで購入は出来ず、コロナ禍でBAR飲みも控えているため飲めていませんでしたが、知人のBARで小瓶売りのテイクアウトが可能だったため、緊急事態宣言前に調達していたものです。

静岡蒸溜所は、2016年に静岡県の奥座敷、中河内川のほとりに、洋酒インポーターであったガイアフロー社が創業した蒸溜所です。
創業にあたっては、旧軽井沢蒸溜所の設備一式を市の競争入札で落札し、可能な限り活用していく計画が発表されたことでも話題となりました。

その後聞いた話では、設備は老朽化していて、ほとんどが新蒸溜所での運用に耐える品質を保持していなかったそうです。ですが、モルトミルとポットスチル1機は活用可能だったとのことで、静岡蒸溜所に移設されて再び原酒を生み出し始めます。これが、今回リリースされたプロローグKのルーツである、"伝説の蒸留機 K”となります。
また、蒸溜所の創業年である2016年は、蒸溜所にすべての設備が整っていなかったため、初留・再留とも蒸留機Kで行う形態で仕込まれていました(現在は初留のみ)。今回のリリースも、全て同原酒で構成されているとのことです。

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(今は無き、軽井沢蒸溜所での1枚。このシルエットは、プロローグKのラベルデザインや、ボトルシルエットにも採用されている。)

以上の経緯から、創業前は"軽井沢蒸留所の復活"とも話題になった静岡蒸留所ですが、創業してからの評価はピンキリというか、必ずしもいい話ばかりではありませんでした。
WEBやメディアを通じて発信される拘りや新しい取り組み、愛好家からの期待値に反して、ウイスキー関係者からは「迷走している」という評価を聞くことも。。。

私自身、設備や蒸留行程の細かいところまで見てきた訳ではないので、あくまでウイスキーイベント等でカスクサンプルをテイスティングする限り。骨格が弱い一方で雑味が多いというか、発酵か、蒸留か、何か仕込みでうまくいってないような。。。酒質の面でも惹きつけられる要素が少ないというのが、少なくとも1年前時点※での本音でした。
※昨年はコロナでイベントがなく、見学にも行けなかったので。


(静岡蒸留所 プロローグKのPR動画。ウイスキー作りやリリースまでの流れが、22分とPR動画にしては長編の構成で紹介されている。プロローグKの紹介は16分あたりから。え、そこまで考えて?というこだわりも。)

そして3年熟成となるプロローグKです。男子3日会わざれば・・・ではないですが、日本のモルトで1年は大きな影響を持つ時間です。あれからどのように変化したのか、じっくり見ていきます。
構成原酒の蒸留時期は、創業初期にあたる2016年から2017年。麦芽は50%が日本産、30%はスコットランドから輸入したピーテッド麦芽、残り20%はドイツ、カナダ産のビール用の麦芽(ノンピート麦芽、ホップが効いているわけではない)を使用。これら原料を蒸留機Kで蒸留した原酒をバーボン樽で3年熟成した、31樽から構成されています。

飲んだ印象としては、樽感は強いですが、ベースは繊細寄りのウイスキーだと思います。
ピートも内陸系のものを軽めなので、フレーバーのひとつとしてアクセントになってます。
香りに感じられる特徴的な柑橘香や、樽香によらない幾つかの個性は、麦芽の構成に由来するのでしょうか。以前とある蒸溜所の方から「日本産の麦芽を使った原酒は、熟成の過程で和の成分を纏いやすい」という話を伺ったことがありますが、このプロローグKのトップノートでも、同様の印象が感じられました。

樽感が強めなのは、蒸留所のある場所が、静岡の山間ながら温暖な熟成環境に由来していると考えられます。
短期間の熟成なので、華やかなオーク香やフルーティーさ、ウッディな渋みはまだ出ていませんが、樽由来の甘み、エキス分は良く溶け込んでいます。
つまりこれから熟成が進めば、一層ウッディになり、フルーティーな変化もありそうですが、現時点ではかつて感じた印象のまま、酒質の厚み、奥行きが少なく、後が続かない。スッと消えていくのは、その為かなという感じです。
この良く言えば繊細、率直に言えば弱い箇所をどう補うかが、仕込みからリリースまで、全体的な課題だと感じます。

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(蒸留機を増設し、設現在の形になった静岡蒸溜所で蒸留された原酒のサンプルの一つ。ラベルにはWood firedという新しい取り組みによる表記がある。創業初期より骨格はしっかりしたと感じられるが・・・。)

蒸留所としては、2017年以降にポットスチルを増設し、地元で産出する木材・薪を使った直火蒸留という新しい取り組みも始めるなどしています。(これは温度が上がらないなど、苦労されていたと聞きます。)
ですがその酒質は、例えば三郎丸のリニューアル前後や、長濱の粉砕比率調整前後のような、ベクトルが変わるような大きな変化があった訳ではないようで、どこか問題を抱えているように感じます。

静岡蒸溜所の原酒は、近年のトレンドと言える洗練されてクリアなキャラクターではなく、クラフト感というかクラシックな雑味というか。。。言わばクラフトらしいクラフト、という路線が創業時から変わらぬベクトルとして感じられます。
加えて懐が深いタイプではなさそうなので、ピークの見極めが難しそうです。繊細さを活かすなら短熟のハイプルーフもアリですが、この手の酒質は樽と馴染みにくく奥行きも出にくいため、雑味や未熟香とのバランスをどうとっていくか。個人的には酒質や余韻のキレを多少犠牲にしても、いっそ樽をもっと効かせた後で、46%加水くらいにしてまとめる方が向いてる感じかなと思います。

果して、10年後にどちらのキャラクターがウイスキーとして正しいかはわかりません。
ですが、思い返すと軽井沢蒸留所の原酒も、決して洗練されたタイプではありませんでした(美味い不味いは、好みやカスク差もあるので保留。実際、軽井沢は樽による当たり外れが大きかった)。軽井沢蒸留所のDNAを持つ静岡蒸留所にあって、このキャラクターはある意味でらしさであり、"伝説"を受け継ぐ姿なのかもしれません。

新設されるクラフトディスティラリー、北海道、茨城、静岡、岡山、4蒸留所の状況まとめ

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昨今のウイスキーブームに端を発し、日本各地でウイスキー蒸留所の建設計画や、既存設備を使ってのウイスキー事業参入の話が続々と持ち上がっています。

かつて昭和の時代にあった地ウイスキーブームを連想させるような流れ。
ここでは今風にクラフトウイスキーブームと言いましょうか。
「どうせまた淘汰されていくんじゃないか」
生産から出荷まで時間のかかるのがウイスキーです。熟成している間にブームが終わってしまった、なんていうシナリオも十分あり得ます。

しかし当時と異なり、今の市場にはクラフトウイスキーが地位を確立する土壌が整っています。
違いはブレンドウイスキー全盛だった市場に、シングルモルトウイスキーが地位を確立していること。
少量生産で次々とバッチを変えていく、アラン蒸留所などに見られるスタイルもファンの中で受け入れられていること。
また、インターネットの普及により、独自で販路を確立することも可能であること。
海外への販路が確立出来れば、国内のブームの影響は最小限に抑えられること。

多種多様なモルト原酒、グレーン原酒、ブレンド技術。さらにはブレンドして加水したことで大量に生産されるウイスキーを販売するための販路が必要とされていた当時と異なり、少量生産少量出荷で、大手メーカーに比べてスピーディーな商品開発がマイクロディスティラリーにとっては追い風となり得る可能性を秘めています。

さて、昨日笹の川酒造の山桜を紹介し、先週は静岡蒸留所について記事にしました。
ここで現在計画されている日本各地のクラフトウイスキーの蒸留計画、参入計画について、現時点の情報をまとめます。


1.北海道厚岸蒸留所(堅展実業)※
東京で食材・酒類の輸出入を手がける"堅展実業"が計画中。
建設予定地は既に定まっており、2014年11月に厚岸町と事業化に向けた協定書に調印済み。
敷地面積は2960平方メートルで、蒸留棟1棟と事務所棟1棟、発酵槽5基と蒸留器2基を設置予定。
2016年9月までに酒類製造免許の取得をめざしており、生産するのはモルトウイスキーで生産能力は年間3万リットル。
先日紹介した静岡よりも小規模な蒸留所となります。
仕込む原酒はピーテッドタイプを予定しているとか。

輸入、輸出業をしているメーカーであり、販路を広げることは純粋な酒造メーカーよりも心得ていそうです。
同社は過去蒸留所建設場所の選定のため、購入した原酒の熟成実験を同市内で行っており、そうしたデータもプラスに働く可能性はあります。
堅展実業WEBページ・・・は無いようですが、蒸留計画の詳細は以下日経新聞記事にも掲載されています。

堅展実業、道東初のウイスキー蒸留所 厚岸町で16年稼働
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO80136200V21C14A1L41000/


2.茨城蒸留所(木内酒造)※
同社はネストビールを中心に、クラフトビールの市場に地位を確立している有名メーカー。
日本のみならず海外への販路を持っているだけでなく、元々ビアスピリッツにグラッパに、蒸留酒事業も実施している関係で酒類総合メーカーとしてのノウハウもあります。
その木内酒造が先日、新事業に向けた準備が進行中としてFacebook上にUPした写真が以下です。
どう見ても蒸留設備のポットスチルに、連続式のグラッパ蒸留器のような…グレーン用?も。奥にはシェリー樽と思しき黒塗りの樽も見えます。


写真引用:木内酒造合資会社Facebookページ

"写真は新事業に関わる重要な機械、何に使われるものか想像しながら楽しみにお待ちください。"
とはメーカーのコメント。いやはや、これは期待せざるを得ないですよ。
ちなみに写真に写った樽は、某有名蒸留所に卸しているメーカーから買っているという・・・。

木内酒造は上述のようにネストビールがあり、そのビールをウイスキー樽で熟成させた製品も販売しています。
自社でウイスキーを作ったとなれば、その樽がビールにまわり、ビア樽がウイスキーにまわる。勿論その他の蒸留酒との連携も可能。
なにこのループw
個人的に、静岡と並んで続報が楽しみなメーカーです。

木内酒造WEBページ
http://www.kodawari.cc/?jp_home.html


3.静岡蒸留所(ガイアフロー)
こちらは特に追記は無いですね。
ブラッカダー社と繋がりがあることで海外への販路も持っている、期待が出来るメーカーです。
詳細は別記事で確認頂くとして、概要だけまとめておきます。

建設場所:静岡県玉川地区
敷地面積:2000㎡
生産規模:ポットスチル2器、年間10万リットル程度
着工開始:2015年9月
建設計画:年明けまでに蒸留所と熟成庫を1棟ずつ建設
製造開始:2016年春(製造免許もこのころまでに取得)
販売開始:2019年頃

関連記事は以下から。
http://whiskywarehouse.blog.jp/archives/cat_873847.html

ガイアフローのWEBページは以下から。
http://www.gaiaflow.co.jp/


4.岡山蒸留所(宮下酒造株式会社)※
このメーカーほど不遇なことはないなと、クラフトディスティラリーの話題が出るたびに思っていました。
なんというか時期が悪かった。独歩ビールや日本酒等を製造販売する宮下酒造が、2015年の設立100周年に向けた記念事業としてウイスキーの製造免許を取得し、仕込みを開始したのは2012年のことです。
本格的なブームの来る前で、まだそこまで話題にならなかったんですよね。なので静岡や厚岸は知っていても岡山を知らないという方は結構居るようです。

当時の仕込みはビールや焼酎用の設備を流用しており、まさに"地ウイスキー"という感じです。
麦芽は岡山県産とドイツ産をブレンド。水は旭川の伏流水を自社敷地内の井戸水。
麦芽の配合割合や酵母の種類、発酵、蒸留時の温度などを少しずつ変えながら10回に分け、原酒約1千リットルを仕込んだとのこと。
原酒は今年で3年が経過しするため、お披露目まであと僅かというところに来ています。


とはいえ焼酎用の蒸留設備はステンレス製だったと思うので、原酒の傾向は唸らされる内容になる可能性は高いですが、同社は2015年、ウイスキー用のポットスチルを新規導入しており、今後はこれまでの仕込みとは違う形になるため、新しいクラフトディスティラリーとしての活躍が期待できそうです

当時の状況は以下の新聞記事、メーカーWebサイトに情報がまとめられています。

宮下酒造Webページ
http://www.msb.co.jp/tag/%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC/


※蒸留所の名称は、一部決定しているものを除き、仮称として地域の名称としています。



ガイアフロー社が記者会見  蒸留所建設に向け静岡市と今後の計画を発表

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ここのところ情報が出ていなかった、ガイアフロー社が建設を進める静岡蒸留所について。
昨日7月1日、静岡市役所でガイアフロー社と静岡市の共同記者会見が開催され、建設予定地の市有地(約2000平方㍍)の貸与契約締結、蒸留所のイメージ図や静岡市と連携して進める今後のプランなども発表されたようです。
会見にはガイアフロー社だけでなく、静岡市長の田辺氏、玉川地区の各団体も参加し、一体的に進めて行くPRもあった様子。こうした記者会見が開催されると、いよいよ本格的に動き出したという印象があります。


写真引用及び関連記事:蒸留所建設で市有地賃貸 静岡市と契約(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/local/shizuoka/news/20150701-OYTNT50160.html?from=ycont_top_txt


写真引用:中村社長のFacebookにUPされた会見の様子。
中村社長(右)「安倍川のように澄んだ味で、世界中のバーで愛されるような酒をつくりたい」
田辺市長(左)「まさに官民連携の事業。玉川地区に夢を与えてもらえれば」
右下の「静岡」なるウイスキーが気になるのは飲み手の性・・・(笑)

蒸留所の完成予想図はなんとも蒸留所らしからぬ感じです。
横に長い感じなのは、見学行程を意識した構成、たとえば外側に通路があり、のぞき窓から中を見て気軽に見学出来るような構造になるのでしょうか。
生産量は年間約10万リットルが予定されているとのこと。
これはキルホーマン蒸留所の生産量とほぼ同じ、秩父蒸留所が増産しても8万リットル程度という話でした
ので、秩父よりもちょっと大きめ の設備が出来るのではと予想されます。

今後の予定については先日記事にした通りですが、静岡市は地元の市民団体による農産物の加工所を蒸留所付近に建設するようで、同蒸留所では地元の野菜や加工品の販売だけでなく、地元静岡産のの大麦を使ったウイスキーの生産なども計画されている模様。
地元産の麦を使ったウイスキーといえば、思い浮かぶのはスプリングバンクの伝説的名酒ローカルバーレイであり、近年ではキルホーマン蒸留所や、秩父蒸留所も地元農家と契約して地元産の大麦を仕込みに活用しています。
ウイスキーは地の酒であり、元々は各蒸留所で当たり前であったところ、製造工程の効率化によって精麦行程が外注方式に集約されたことで、その境目はあやふやになっていました。さらに時代を遡れば、農家が自分の畑の収穫の一部から作っていたというルーツもあります。
その土地土地の個性を味わうのがシングルモルトであれば、こうした地物での生産は愛好家にとって歓迎すべきプランです。麦芽だけでなく、マイクロディスティラリーならではの強み、魅力を活かした商品展開を期待したいです。

軽井沢蒸留所の一部設備を受け継ぐことでも注目される同蒸留所。
新しい蒸留所建設の話はワクワクしますね。 今後の発表、動きにも引き続き注目していきます。
(急遽製作したという圧倒的存在感の静岡ボトル。2019年のリリースに期待。)
写真引用:同社広報Twitter  https://mobile.twitter.com/gaiaflow/status/616413091606061056

※当ブログの静岡蒸留所に関する関連記事は以下。
http://whiskywarehouse.blog.jp/archives/cat_873847.html

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