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2019年を振り返る ~印象に残ったボトルや出来事など~

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1年があっという間に過ぎ去ってしまった・・・なんてことを毎年呟いている気がしますが。(もう歳だなぁ・・・とも)
日々こうしてブログを更新していると、過ぎ去ってしまった時間の存在を実感出来る、日記的な感覚があったりします。

2019年に更新したレビュー数は270程度、総数は1500を越えました。うち投稿していない銘柄もあったりで、何だかんだ500銘柄は飲んでいると思います。
また、今年はブログ活動をしてきた中でも、最も繋がりの広がった年で、楽しいことも多かったですし、考えさせられる事柄も少なからずありました。
2019年最終日の更新では、これら1年で経験したことの中から、印象に残っている出来事やボトルをまとめて振り返っていきます。

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■Liqulの執筆開始&グレンマッスルのリリース
最も印象的だった出来事は、勿論この2つ。
まずひとつ目が、酒育の会の代表である谷島さんからお声がけいただき、Liqulでオフィシャルボトルレビューの執筆を開始したこと。
同紙がWEB媒体へと移行する来年からが本番なので、今年は準備運動的な意味合いもありましたが、業界で活躍されている皆様と一緒に活動することができたのは、大きな刺激になりました。

また、執筆にあたりアイコンを新垣先生に描いて貰えたのも、ウイスキーの縁で実現した出来事のひとつです。
某海賊漫画風くりりん似顔絵。個人的にはすごく気に入っているものの、仲間内から「こんな悪い表情出来てない」と言われておりますがw
2020年最初の記事は既に入稿済みで、先日リニューアルが発表されたアランの新旧飲み比べが掲載される予定です。

そしてもうひとつの出来事は、オリジナルリリース「グレンマッスル18年ブレンデッドモルト」が実現したことですね。
宅飲みした際の酔った勢いで始まった計画でしたが、愛好家にとってのロマンをこうして形に出来たことは、ブログ活動というか人生の記念になったといっても過言ではありません。
実現に当たってご協力頂いた笹の川酒造、ならびに福島県南酒販の皆様、本当にお世話になりました。。。

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グレンマッソー18年は、国内で3年以上貯蔵されていたものとはいえ、輸入原酒(バルク)を使ったブレンデッドモルトウイスキーです。
突き抜けて旨いリリースとは言えませんが、キーモルトを探るミステリアスな面白さに、嗜好品として楽しんでもらえるバックストーリー。加えて香味にも流行りの系統のフルーティーさがあり、一定レベルのクオリティには仕上がっていたと思います。

何の思い入れもなくとりあえずサンプルだけ手配して、複数のなかから比較的まともなものを選んで・・・というような選定方法では、我々愛好家側の色は出せないと思っての”ブレンド”というジャンルでしたが。SNS等で「今年印象に残ったウイスキーのひとつ」と、何人かに言って貰えていたのが嬉しかったですね。
そして第一歩が踏み出せたことで、それに続く新しい動きもあり、来年はそのいくつかを発表出来ると思います。我々の作った味がどんな感想をいただけるのか、今から楽しみです。

※参照記事

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■ジャパニーズウイスキーの定義とワールドブレンデッド
さて、輸入原酒と言えば、2019年は輸入原酒を使いつつ「ジャパニーズ的な名称を用いたリリース(疑似ジャパニーズ)」が、前年以上に見られたのも印象的でした。
一部銘柄に端を発し、ウイスキーの成分表記についても少なからず話題となりました。こうした話は、すべて情報を開示したり、事細かに整理したからといってプラスに働くものとは限りませんが、法律上の整理と一般的なユーザーが求める情報量が、解離してきているのは間違いありません。
今の日本は、昭和のウイスキー黎明期ではないんですよね。

一方で、大手の動きとしてはサントリーが「ワールドブレンデッドウイスキー AO 碧」を新たにリリースしたこともまた、2019年の印象的な出来事のひとつだったと感じています。
ワールドブレンデッド表記は、自分の記憶ではイチローズモルト(ベンチャーウイスキー)が2017年頃から自社リリースに用い始めた表記。ジャパニーズウイスキーブームのなかで、それとは逆行するブランドを業界最大手であるサントリーが立ち上げたのは驚きでした。

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ウイスキー文化研究所ではジャパニーズウイスキーの定義作りが進み、既に素案が公開されている状況にあります。
来年のTWSCはその定義に基づいてカテゴリーの整理が行われていますし、4月にはジャパニーズウイスキーフェスティバルが開催される予定であると聞きます。

シングルモルトウイスキーでは、産地が重要な要素となるため基準に基づく産地呼称等の整理が必要ですが、ブレンデッドはジャパニーズだけでなく、広い視点で考えなければならないとも思います。
他産業ではMade in Japanブランドが世界的に強みと言っても、日本製のパーツや材料が評価されている部分もあれば、国内外問わず作られたそれらを、日本の技術や品質追求の考えの下で組むことで形成されている部分もあります。
サントリーの碧を始め、ワールドブレンデッド区分のウイスキーは、日本の環境だけでなくブレンド技術という日本の技をブランドに出来る可能性を秘めたジャンルと言えます。

つまり輸入原酒(バルクウイスキー)もまた、使い方次第で立派なブランドとなるのですが、問題なのは酒ではなく”売り方”。どこのメーカーとは言いませんが、海外市場をターゲットに、紛らわしいを通り越したえげつない商品をリリースしている事例もあります。
現在作られている基準をきっかけに、そうした整理にもスポットライトが当たり、業界を巻き込んだ議論に繋がっていくことを期待したいです。

※参照記事

■2019年印象に残ったウイスキー5選
小難しい話はこれくらいにして、行く年来る年的投稿ではお決まりとも言える、今年印象に残ったウイスキーです。
まず前置きですが、今年は冒頭触れたとおり、500銘柄くらいはテイスティングをさせていただきました。
中には、サンプル、持ち寄り会等でご厚意により頂いたものもあります。皆様、本当にありがとうございました。

オールドの素晴らしいものは相変わらず素晴らしく、そうでないものはそれなりで。一方ニューリリースでは原酒の個性が弱くなり、ボトラーズは特にどれをとってもホグスヘッド味。。。のような傾向があるなかで、それを何かしらとタイアップして売るような、ラベル売り的傾向も目立ちました。
市場に溢れる中身の似たり寄ったりなリリースに、食傷気味になる愛好家も少なくなかったのではないかと推察します。

その中で、今年印象的だったボトルを年始から思い返すと、オフィシャルリリースや、作り手や選び手の想いが込められたものほど、そのバックストーリーの厚みから印象に残りやすかったように思います。
個人的な好みというか、その時その時の美味しさだけで選ぶなら、カテゴリーから上位を見てもらえれば良いので、面白味がありません。味以外の要素として、そのリリースに込められた情報、背景、個人的な思い入れ等も加味し、”印象に残ったウイスキー”を選んでいきます。
なお先の項目で触れている、グレンマッスルやサントリー碧も該当するボトルなのですが、二度紹介しても仕方ないので、ここでは除外します。(ニューポット、ニューボーンについても、来年まとめるため対象外とします。)

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チャーしたスパニッシュオークの新樽で熟成された山崎。味は若い原酒を濃い樽感で整えたような粗さはあるが、その樽感がシェリー樽、あるいはシーズニングという概念を大きく変えた。味以外の"情報"で、これ以上のインパクトはない。是非飲んで欲しい1本。

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最高の白州のひとつ。白州蒸留所シングルモルトで初の30年熟成という点も印象的だが、15本と極少数生産故、樽から全量払い出されなかったことがもたらした、アメリカンオーク由来の淀みのないフルーティーさ、良いとこ取りのような熟成感が素晴らしい。

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アメリカで多くのシェアを獲得していた、全盛期とも言える時代のオールドクロウ。
100年を越える瓶熟を経てなお濁らずくすまず、艶のある甘味と熟成ワインのように整ったウッディネスが素晴らしい。また味もさることながら、ボトルそのものが有するバックストーリーも申し分なし。記憶に刻まれた、文化財級の1本。

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新しい蒸留所が示した新時代への可能性。樽由来のフルーティーさ、麦芽由来の甘味とフロアモルティングに由来する厚みのあるスモーキーフレーバーが合わさり、短熟らしからぬ仕上がりが評判となった。来年の10周年、そしてこれから先のリリースにも期待したい。

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マイ余市を選ぶつもりが、年末の持ち寄り会で滑り込んだ特別なウイスキー。2014年に天寿を全うされた、故竹鶴威氏に敬意を表した記念ボトル。ニッカが蒸留所を再稼働させた1990年の、最初の原酒をリメードホグスヘッド樽で熟成させたシングルカスクで、ニッカらしいウッディさにオークフレーバーと、ベンネヴィスらしいフルーティーさが合わさった、ファン垂涎の1本。

※その他候補に上がったボトル
・グレンファークラス 29年 1989-2019 ブラックジョージ
・リトルミル40年 1977-2018 セレスティアルエディション
・アラン 18年 オフィシャル
・アードベッグ 19年 トリーバン
・余市10年 2009-2019 マイウイスキー作り#411127

ちなみに、2019年はウイスキーだけでなく、ワインも色々飲んだ1年でした。
いくつか個別の記事を書いてみて、まだワインについては1本まとめて記事に出来るだけの経験が足りないと、オマケ程度でふれるにとどめましたが、ウイスキー好きに勧められるボトルもある程度固まったように思います。
ウイスキー愛好家のなかでも、ワインを嗜みはじめたメンバーがちらほら出てきていますし、来年はウイスキー×ワインの交流も進めていきたいですね。

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■以下、雑談(年末のご挨拶)
さて、本更新をもって2019年の投稿は最後となります。
まとめ記事ということで長くなりましたが、最後に来年の話を少し。。。

来年3月で本ブログは5周年を迎えます。
ブログ活動を再開した当時はどれだけ続くかなんて考えてませんでしたが、これも本当にあっという間でした。
ブログを通じて色々と繋がりも増え、執筆活動以外の動きもあり。先に記載した通り、来年は新たに発表出来ることもいくつかあると思います。

他方で、ブログ外のところでは息子が小学校に上がるなどの家庭環境の変化や、仕事のほうも任されている事業で管理職的な立ち回りが求められるようになってきて、公私とも変化の大きな年になりそうです。
自分にとってブログ活動は趣味であるため、継続はしていくつもりですが、今年から暫定的に行っている週休二日ルールを定着させるなど、時間の使い方を考えなければならなくなると思います。こうして、環境が変わっていくなかで何かを継続することは、本当に難しいんですよね。

楽しみである気持ちが半分と、不安のような複雑な気持ちが半分。。。というのが今の心境。そんな中でも、細々とでも活動は継続していくつもりですので、皆様来年もどうぞよろしくお願いします。
それでは、良いお年をお迎えください。

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オールドクロウ 7年 (1969-1976) 100プルーフ ボンデッド

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OLD CROW 
KENTUCKY STRAIGHT BOURBON WHISKY 
BOTTLED IN BOND 
1970's 
(Distilled 1969) 
(Bottled 1976) 
750ml 50% 

グラス:国際規格テイスティンググラス
時期:不明
場所:BAR BLACK HEART 
暫定評価:★★★★★★★(7)

香り:メローで華やか、熟した梅のような穏やかな酸と、メープルシロップやバニラの甘味。穀物感とこなれた香ばしさが、ワッフルのような洋菓子を思わせる。

味:香り同様にメローでコクのある口当たり。序盤はグレーンの甘味がメインにあるが、徐々に熟したオレンジのような酸と軽いスパイシーさ、品の良いウッディネスが口内に染み込む。
余韻はスパイシーでウッディ。じんじんとしたハイプルーフ由来の刺激が心地よく、振り子のように収束していく。

メローで度数よりも香味とも柔らかく、それでいて骨格はしっかりとしている。経年も合わさった熟成感が心地よいバーボン。これもまた現行品とは別物で、余韻に変なえぐみや渋みもなく、ストレートでも負担なく飲める。今回はストレートのみだったが、ロックも試してみたい。

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先日レビューさせていただいた、禁酒法前のオールドクロウ100proofとの比較でテイスティングしたもの。同じくBOTTLED IN BOND 仕様の流通時期違い。
ですが今回のレビュー記事では、禁酒法時代との比較や香味分析ではなく、飲んでいて疑問に感じた、オールドクロウの歴史における”凋落”に関して自分なりの考えを書いていきます。

1970年代、フランクフォートにあった蒸留所と共にオールドクロウの版権を持っていたのはNational Distillery社。オールドグランダッドやEHテイラー等を販売していたメーカーです。(※取得した時期は1920年とも30年代とも言われている。)
当時同社ではすぐに出荷出来る工業用アルコールの生産に重きをおいていたとのことで、蒸留所も1960年代に蒸留器の変更含む大規模な改装工事を実施し、原酒製造プロセスにおける生産量の増加と効率化(コストダウン)が図られたとされています。

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(オールドクロウ1912-1919とオールドクロウ1969-1976、現代から100年を遡るテイスティングで、今回のボトルは50年前に置かれたマイルストーン。詳細は不明だが、マッシュビルは禁酒法前(左)がライ比率高め、今回の蒸留所改修後がコーン比率高めで、現在に近いスタンダードなレシピであると思われる。禁酒法前ボトルのレビューはこちら

オールドクロウはかつてアメリカで一番売れた、バーボンの花形とも言えるブランドでしたが、1970年代から80年代の市場において凋落が始まります。
その背景には1960年代の蒸留所改修後、新たに導入した製造行程にミスがあって味が落ちたことに加え、それを解決せずに操業を続けたメーカー側の姿勢があった・・・という話が伝わっているのですが、不思議な話、その時代の真っ只中にある今回の1本は、言うほど悪い味とは思えません。っていうか普通に美味しい。

確かに当時のND社は、パフュったグランダッドやギルビーズジンなどの別件事例があります。
あるいは熟成年数の短い、スタンダード品のみ影響が大きく、熟成の長いものはネガティブな影響が樽の効果で打ち消されていたなら理屈はわかります。
実際、当時は今より樽材の質が良かったと考えられ、マイルドな味わいや果実風味はオールドバーボンの魅力でもあります。
しかし以前飲んだ70年代流通のスタンダードも、メローで加水が効いてソフトな口当たり。これもそこまで悪い味か?という感じ。少なくとも同年代の他のメーカーのスタンダードと比べ、大きな差があるとは思えません。
蛇足ですが、松田優作が「旨い」と言ったエピソードがあるのもこの時代のオールドクロウなんですよ。(映画の中なので、なんの基準にもなりませんが(笑))。

個人的な予想をすると、製造行程のミスは事実として、同社のなかでバーボンそのものの販売力の低下。即ちブランドの優先順位の調整があり、PR不足からジムビームなどのライバル銘柄や、他の酒類の台頭を許してしまったとか、そういう外的要因のほうが大きかったのではないかと。
失礼ながら、スタンダード品はコーラとかセブンスターで割って飲むようなことを主としていた市場で、まるっきり飲めないようなものならいざ知らず、ベースの味が多少落ちたという理由でブランドが凋落するとは思えないのです。

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1987年、人気の落ちたオールドクロウはジムビーム社に買収され、問題となった蒸留所も閉鎖。同銘柄用の貯蔵庫としてのみ現存することとなります。
なお、先日ニュースになったジムビーム蒸留所の火災は、このオールドクロウ蒸留所跡地にある貯蔵庫群の一部で発生したものでした。
ジムビーム社買収後のオールドクロウは3年熟成で、バーボンの基準を満たすなかでは若い部類。自社ブランドであるジムビーム以上の優遇はするはずもなく、低価格路線にすっかり定着しています。
自分の記憶が正しければ、火災を受けたジムビーム側のコメントに「あそこにあるのは若い原酒だから被害は少ない」というのがあったと思いますが、年数、市場価値、それらを踏まえて確かになるほどと。
なんとも諸行無常、あるいは栄枯必衰というやつですね。

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今日のオマケ:ジャックダニエル ボトルドインボンド 1.0L 50% 免税向け

ワインクーラーにウイスキー突っ込む展示センスはどうしたものか、とは思いますが、こういうのも出ていたのかという1本。BOTTLED IN BOND表記が復刻版のようで、なんともそそられますね。
調べてみて、日本にも平行品が入っているのですが、全く気づいていませんでした(笑)

高い度数らしい骨格のしっかりした口当たりに、ジャックらしいメローさと焦げたウッディネスが合わさって、それなりな仕上がり。熟成年数は5~6年くらいでしょうか。多少近年のバーボンに見られるえぐみというか、ネガ要素もありますが、変にドライさや酵母っぽさも目立たず、ロックで飲んだら良さそうです。
ただしジャックダニエルの50%仕様のものだと、シルバーセレクトやシングルバレルがあり、値段もそう変わらない(味は樽の効き具合に違いはあるが、この2本のほうがリッチ)ので、辛口なことを言うと中身を考えた時に日本でこれをチョイスするのは・・・ラベル以外に難しい気がします。

オールドクロウ 1912年蒸留 100プルーフ 禁酒法前

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OLD CROW 
BOURBON WHISKY 
BOTTLED IN BOND 
Distilled 1912 
Bottled About 1919 
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(948ml 50%)

グラス:ロックグラス&木村硝子
時期:開封直後
評価:★★★★★★★★★(9)

香り:艶やかでスパイシー、ボリュームのあるアロマ。カステラを思わせる洋菓子の甘さとほのかな焦げ感、カラメルソース、オレンジママレード、チェリーシロップと駄菓子のヨーグルトクリームのような人工的な甘さと酸。微かにハーブリキュールのような薬品香も混じる。

味:経年によって角のとれた柔らかい飲み口。メープルシロップ、チョコチップクッキー、そして穏やかな酸味が、徐々にスパイシーさとウッディな渋味と共に存在感を増し、歯茎と舌を刺激する。
余韻は粘性のある柑橘系の甘酸っぱさに加えて、ジンジンとした刺激がゆっくりと収斂し、穏やかに消えていく。

グラスのなかで長い眠りから目覚め、刻々と変化する香味、ボリューミーで艶のあるテクスチャーは陶酔感も伴う。ライ比率が高いのか、しっかりとしたボディに加えて、澱みやヒネのない状態の良さが純粋に素晴らしい。
ボトリング直後はもっとウッディでスパイシーだったと思われるが、1世紀を越える経年がもたらす、負担のない飲み口と角のとれた香味、舌触り、そして時を飲むロマン。長期熟成したワインを思わせる、瓶熟の真髄を見るようなボトルでもある。
最初の1杯は、当時の飲み方を再現してロックグラスでストレート。。。

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今回の一本は超弩級。歴史的価値も満載で、ラベル酔いせざるを得ない禁酒法施行前のオールドクロウ。とてつもなく貴重なボトルを、開封作業から経験させていただきました。オールドボトルの開封はいつも緊張しますが、今回のそれは今までの比じゃなかく、オープナーを持つ手が震えましたね。

このボトルをレビューするにあたっては、まず関連情報として禁酒法と、その当時の消費者の動向について簡単に紹介していきます。
アメリカでは1920年から1933年まで禁酒法が施行され、0.5%以上のアルコールを含有する、”酔いをもたらす飲料”が規制対象となりました。
この法律は酒を飲むことを禁止しておらず、販売することを禁止したものであったわけですが、結果法律施行前に大量の買い込みが行われただけでなく、施行期間中は精神薬の区分で販売されたり、闇ルートでカナディアンウイスキーの販売が横行したり、施行前より消費量が増えたり。。。といった、多くの有名なエピソードが生まれることとなります。

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(禁酒法の期間中、医師の許可をもらうことで例外的に酒類を購入することが可能だった。同法の影響で多くの蒸留所が操業を休止せざるを得なかったが、薬という抜け道から一部は生産を継続することができたという。上はその認定証。)

この手のウイスキーは、古ければ古いほど数が少なくなっていく傾向があります。
ましてまともに販売されてなかった13年間の、谷間の時期があるのですから、普通ならその前のウイスキーは消費しつくされているはず。。。ただ、ことバーボンにあっては禁酒法期間中だけでなく、その前の時代のものも一定数出物があるのだそうです。

というのも当時、酒が買えなくなる可能性が高いことを知った富裕層が、駆け込み需要でウイスキーを買い集めて倉庫に保管(盗難を恐れ、隠し倉庫に置かれるケースが多かった模様)。その後当人が何らかの理由で飲めなくなり、時が流れて発掘されるということが度々あるのだとか。今回のオールドクロウも、時期的にそうして保管されていたボトルの一つだったと考えられます。
日本では特級時代の末期が洋酒ブームの終演とバブル崩壊に重なり、多くのウイスキーが在庫となった結果、近年のオールドボトル市場を賑わしていますが、それに近い現象とも言えますね。

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(隠し倉庫の中から発掘された、禁酒法前のバーボンウイスキー。こうした出物が、現地オークションを度々賑わしている。ただし、一定数あるといってもコレクターも多く、価格が安価であるわけではない。)

さて、いよいよ本題。オールドクロウは、スコットランドからの移民だった創始者が1830年に製造を開始。1856年に作り手が亡くなった後、今回のラベルにも書かれているW.A.Gaines社が製造を継ぐこととなります。
当時のオールドクロウは、アメリカンウイスキーを代表する銘柄と言えるほどの人気があり。同社はオリジナルのレシピを受け継いで製造を行ったとされていますが、蒸留器や生産ラインが変わったからか、あるいは心情的な問題か、昔のほうが出来が良かったなどのネガティブな意見が見られ、逆に創始者の残した原酒には伝説的な価値がついたというエピソードが残されています。

1920年、W. A. Gaines社は禁酒法を受けてウイスキー事業から撤退。オールドクロウはオールドグランダッド等で知られるNational Distillery社へと移っていくことになるわけですが。。。ND社時代になると、創業者の時代とは蒸留所だけでなくレシピも異なっていたようで(禁酒法期間中で操業が制限されていたことも要因の一つと考えられる)、オリジナルのレシピを色濃く受け継いでいるのは、今回の流通時期まで。
現在のオールドクロウは、ジムビーム傘下となり、コーン77%、ライ13%、モルト10%のジムビームと同じマッシュビルで製造されていると言われていますが、当然オリジナルのレシピは全く異なるもの。正確にはわかりませんが、今回テイスティングで感じた印象としてはかなりライ比率が高い作りだったのではと思われます。

それはバーボンでありながらバーボンでないとういか、過去経験にない要素を持つ味わい。ボディに厚みがあり、スパイシーで酸味も伴う穀物ベースの香味構成はライの比率の高さを感じさせる部分ですが、経年によってウッディネスと口当たりが丸みを帯びて、存在感はハイプルーフバーボン相応にありつつ決して荒々しくない。(度数は90プルーフ台には下がっていると思われるが。)
オールドバーボンらしい艶やかさ、鼻孔に抜けていく馥郁とした甘いオーク香を堪能していると、自然に余韻が消えていき、口内が正常な状態に戻る。
力強さと優しさ、何杯でも飲めてしまいそうな印象を持つ仕上がりは、現行は勿論、60年代、70年代のどのオールドクロウとも異なるものです。

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(右は1969年蒸留、ND社時代のオールドクロウ100proof。コーン比率が高くなったのか、バーボンらしいバーボンという味わい。このリリースが行われた当時、W.A.Gaines社はウイスキー事業から撤退しているが、版権の関係か、あるいは広く馴染んだ作り手の社名だったことからか、ND社は表記を継続して使っていたという。なおこの後、ND社は製法を誤り粗悪な原酒を作った結果、オールドクロウの凋落を招くこととなる。)

勿論、今回のテイスティングで感じた味わいは当時のままではなく、100年間を越える経年がもたらした変化が加わったもの。元々はもっとバッチバチで、余韻が穏やかなんて言えないような、荒々しいものであったと推察します。
モルトウイスキーやブレンデッドスコッチでは、こういう形にはならない、アメリカンウイスキーだからこその仕上がりです。

今回のボトルはコルク直打ち。それを蒸留年と瓶詰め年、そして度数が書かれた紙シールで封印してある仕様で、スクリューキャップでないことも時代を感じさせる要素。液面低下は肩のONE QUARTの上あたりで、経年を考えれば妥当なところでした。コルクの状態を見ても、フェイクである可能性はまずないと思います。
一方紙封印の瓶詰め年の記載部分が破れてしまっており、何年熟成か正確なところはわかりませんでしたが、禁酒法時代のバーボンは一部輸出品を除いて500mlサイズで販売されていたため、1クオート仕様であることから6年または7年熟成あたりで1919年の流通ではないかと。それこそ、当時の駆け込み需要にあわせて出荷されたのではないかと考えられるのです。

純粋な美味しさもさることながら、それを作り出した当時のレシピと、それを仕上げた時間の流れ、そして様々な偶然の積み重ね。それを頂いた機会に感謝を込めて、堪能させていただきました。


以下、補足。
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禁酒法前、今回のオールドクロウと同時期のボトルのTAXシール。この時代はボトリング時期が上、蒸留時期が下に書かれている。

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