カテゴリ

カテゴリ:アードベック

アードベッグ レアカスク 1998-2020 Cask No,50 For Benjamin tan 56.5%

カテゴリ:
FullSizeRender
ARDBEG RARE CASK 
Benjamin Tan's Private Collection 
Aged 22 years 
Distilled 1998 
Bottled 2020 
Cask type American Oak Refill Cask (6 years old), 2nd fill Sherry Cask (16 years old) 
Cask No,50 
700ml 56.5% 

暫定評価:★★★★★★★★(7-8)

香り:トップノートはリッチでふくよかな甘みを伴うシェリー香。ただべたつくような甘さではなく、コーヒーを思わせるアロマティックな要素や、レーズンや無花果等のダークフルーツ、林檎のカラメル煮などフルーツの甘酸っぱさも含んでいる。合わせて落ち着きのあるピートスモーク、ほのかに鰹節っぽさも伴う複雑なアロマ。

味:粘性のある口当たり。色濃いウッディさ、香り同様のリッチなシェリー感が、存在感のあるピートスモークを伴って広がる。香りと異なり、味はピートが優位。ダークフルーツジャムのようなシェリー感を底支えにして、アイラピートのスモーキーさ、カカオチョコを思わせるほろ苦さが余韻にかけてしっかりと広がる。
余韻は焦げた木材、鰹節、そしてほのかな薬品香を伴う特有のスモーキーフレーバーが、甘いシェリー香を伴って長く続く。

樽次第では、近年でもこういうものを作れるのか。古き良き時代を彷彿とさせるような、シェリー系のアイラモルト。甘酸っぱく赤黒系のフルーティーさのあるシェリー感に、どっしりとしたスモーキーさ。余韻にかけてアイラ系の要素、アードベッグと思える風味。微かに溶剤ような異物感が混じったが、全体的には良質なシェリー感とピート感で楽しめる。例えるなら1975年のオフィシャルシングルカスクリリースを、現代の材料で可能な限り再現したと言えるようなクオリティである。素晴らしい1杯。

IMG_20210214_000040

ありえないなんてことはありえない。不可能を可能にする方法は存在する。
香味もさることながら、リリースまでの流れにも、それを感じる・・・・・そんな貴重なボトルのサンプルを頂いていたので、今さらながらレビューさせてもらいます。

そもそもアードベッグ含め、ディアジオ(グレンモーレンジ含む)関連のオフィシャルで、PBをリリースするのは不可能と言われてきました。今回はシンガポールの酒販 Whisky Journey代表であるBenjamin Tan氏が発起人となり、有志を募ったうえでカスクを購入。有志はインポーター・酒販としても活動する方々であり、日本からは、Kyoto Fine Wine & Spiritsを経営するOjiさん、Nagataさんが名を連ねています。
こうした経緯から、本ボトルは形式的にはBenjamin Tan氏個人のプライベートコレクションとなりますが、実質的には。。。ということで、ここ最近まず日本には入ってこなかったアードベッグのオフィシャルシングルカスクが、国内市場でも発売されることとなったのです。


今回のボトル、特筆する要素はリリース経緯だけでなく、香味にもあります。
近年のシェリー樽熟成モルトの大多数は、近年シェリーとして分類されるシーズニングによる独特の風味があり、1970年代前半、あるいは1960年代蒸留のモルトに見られたフレーバーがほぼ失われているのは、周知のことと思います。
このシーズニングシェリー系のフレーバーが不味いとは言いません。突き抜けない代わりに安定しており、ちょっと前まであったシェリー酒そのものが混じったような椎茸フレーバーや、爆発するような硫黄感など、トンデモ系は本当に少なくなりました。

一方で、愛好家が求めてやまない、赤黒系のフルーティーさ、独特の艶やかな、妖艶なニュアンスをもったリリースも少なくなっています。
これは、トンデモ系の樽が確変を起こしたということではなく、玉石混合だった中で”石”のクオリティを近年のシーズニングシェリー樽が引き上げたこと。一方で数の限られている”玉”は安定して出回らないため、オフィシャルリリースに回す樽をシーズニングシェリー樽にシフトしたことが背景に考えられるわけですが、本リリースのシェリー感は”玉”に該当するモノであり、愛好家からすれば90年代でこの味はありえない、と思えたことを実現しているのです。

リリースされたカスクは、グレンモーレンジのビル・ラムズデン博士が、試験的に熟成していた3樽のうちの1つ。
・リフィルアメリカンオーク樽で6年
・2ndフィルオロロソシェリーバットで16年
という熟成スペックが紹介されていますが、どちらもセカンドフィルでありながら、まるで1st fillの樽で熟成したかのような濃厚さです。
余程スペシャルな樽で熟成したかのように感じますが、一体どんな素性なのか。。。ここからはラムズデン博士がなにを実験しようとしたのか含め、考察したいと思います。


歴史を紐解くと、1998年は、アードベッグ蒸留所がグレンモーレンジに買収され、再稼働した次の年。有名なリリースでは、ベリーヤングからルネッサンスまで続く、10年リリースへの旅に使われる原酒が仕込まれた年です。
ですがこの時点では、今回の原酒は明確な意図を持って樽詰めされた訳ではなかったと考えます。

2015年、アードベッグの200周年リリースが行われた年。ウイスキーマガジンのインタビューでラムズデン博士は樽の質の低下に触れると共に、「この10年間、アードベッグで様々な実験をしてきた。実験をした樽のいくつかはキープしてある」という話をしています。
今回の樽がその一つとするなら、実験の意図は最初の6年でなく、後の16年間にあったと考えられるのです。

IMG_0302
(アードベッグ・ベリーヤング〜ルネッサンスのシリーズ。1998年蒸留は近年と思えるが、評価されているビンテージでもある。)

IMG_0301
(アードベッグ・ウーガダール初期ボトル。箱裏にビンテージ表記あり。パワフルな中にシェリー樽のコクと甘みのある美味しいリリースだった。今回のシェリー樽はこうしたリリースの払い出し後か、それとも。。。)

では、この16年間の熟成に使ったリフィルオロロソバットは何者か。。。丁度2003年から、アードベッグはウーガダールをリリース。初期のそれは1975,1976年のシェリーカスク原酒を使ったとされており、または当時多くリリースされたシングルカスクか、そうした空きシェリー樽のどれかが使われたと考えるのが一つ。
また、リフィルのアメリカンオークシェリー樽で1st fillかのような色合いは考えにくく、その濃厚なエキスとダークフルーツ系の香味から、使われたのはスパニッシュオーク樽なのではないかとも予想しています。

すると実験は、シェリー樽に関するものだったのではと。そもそも「シェリーバットで長期熟成すると風味がダメになる」「アードベッグはフィニッシュに向かない」というラムズデン博士のコメントが、先のインタビュー記事に見られる中で、この樽はフィニッシュで、それも16年という比較的長い後熟を経ています。
例えば一度熟成に使ってアク抜きされたスパニッシュオークの良い部分、好ましいシェリー系のニュアンスを熟成を経て取り出そうとする実験なら、これは狙いとして成程と思えます。
(実際、グレンモーレンジですが、15年のリリースで1年間だけ新樽フィニッシュをして、明らかに後の原酒のためのアク抜き的なことをした例もあります。※以下ボトル)

IMG_0304

一方でもう一つ興味深いのが、リリース本数500本から逆算すると、最初の6年間の熟成で使われたリフィルアメリカンオーク樽も、500リットルないし、それくらいのサイズだったと考えられることです。
※バーボン樽をニコイチ、サンコイチしたとかでなければですが。

ベースとなった原酒は1998年の樽詰めなので、アードベッグ1975等でのリリースに使われたシェリー樽のリフィルを、アメリカンオーク樽として使っているのではないか。。。とか。
あるいは文字通りバットサイズの新樽を一度使った後に詰めたか、希望的観測も込みで前者かなと思いますが(そうだとすれば、実現した味わいのイメージとの繋がりもあって面白い)、こうして家系図のように歴代リリースを紐解いていくのも、あれこれ考えられて楽しいです。それも全ては上質な原酒であるからこそ、踏み込みたいと思えるんですよね。
結論?すいません、実際の狙いは結局推測の域を出ませんが、実験は成功で間違いないかと思います(笑)。←本記事末尾に公式情報を追記(3/23)

IMG_0303

昨今、原酒の枯渇から良質なリリースは限られた市場にしか出回らなくなり、特に日本に入らないことも多くなりました。
一方、こうしたリリースを楽しめるのはごく一部の愛好家だけ、市場に入っても飲めないという声があるのも事実です。
実際今回のリリースもかなり高額です。ですが、関係者が暴利で売ってるわけではないので、交渉してどうなるわけでもありません。そして手を出さなければ他の国に買われて消えていく。。。

ないものはどうやっても飲めませんが、あれば可能性はゼロじゃない。繋がりが作られてるということが、次の機会にも繋がります。
不可能とされていたリリースの実現、文句なしの中身。その機会を作って頂いた有志の皆様に感謝し、本日の記事の結びとします。
今後のリリースも楽しみにしております!


※後日談(3月23日追記)※
ウイスキー仲間から、本ボトル外箱の内側に経緯らしいことが書いてある。として連絡を頂きました。
実はこのサンプルを頂いた際、一緒に共有頂いたのはトップの表ラベル写真で、それ以外はWEBでも見あたらなかったので見てなかったんです(汗)。カッコいい外箱があるなぁくらいにしか思っておらず。
頂いた画像から恐る恐る読んでみましたが・・・結論からすれば、上記の記載、狙いは概ね間違っておらず、実験について書かれていないことを考察しているような内容になっていた、という感じです。
いやぁ、奇跡的ですね。ブラインドで正解した時とは違う、安堵感のようなものがあります(笑)。
気になる方は以下に転記しておきますので、ご参照ください。

【UNIQUE CASK HISTORY】
The Spirit was distilled on Wednesday, 28th January 1998, during the watch of Stuart Thomson, Ardgeg’s devoted Distillery Manager. Then, in American oak refill casks the whisky began to quietly mature. Six years on, Dr Bill was intent on creating single malt worthy of Ardbeg Uigeadail, a much loved dram with old, sherry-aged stock at its heart. And so he transferred an experimental batch of this whisky into second-fill oloroso sherry casks he had selected personally. Over the next 16 years, one cask gained a particular fruitiness and an intensely medicinal note. Set aside by Dr Bill to celebrate its singular character, Cask no.0050 deserves to be enjoyed in its own right.

アードベッグ スーパーノヴァ 2019 53.8%

カテゴリ:
IMG_20191101_230248
ARDBEG 
SUPERNOVA 
LIMITED EDITION 2019 
For Ardbeg Committee 
Cask type Bourbon 
700ml 53.8% 

グラス:テイスティンググラス
時期:開封後1ヶ月未満
場所:BAR Eclipse 
評価:★★★★★★(6)

香り:ドライでグレープフルーツやシトラスの淡い柑橘を感じさせる香り立ち。スモーキーではあるが鼻が麻痺してしまうのか、最初は不思議とそこまで強く感じない。徐々に焦げた木材やタール、塩素などじわじわピート由来の要素が存在を主張していく。

味:口に含むとバニラや麦芽糖の甘味から強いピートフレーバーが開き、一気にスモーキーに。燻した麦芽や焦げた木材、岩塩をふったアーモンドナッツ、じわじわとヨードや薬剤。オークのニュアンスもあるが基本的にはピートが支配的。ただそれ以上にフレーバーのメリハリに欠けるというか、どこかもっさりとした印象を受ける。
余韻はピーティーで強くスモーキー、燻した香りが長く続く。

ピーティーで、特にスモーキーな要素が強い。熟成年数は15年前後か、未熟感はなく加水すると口当たりの柔らかさと柑橘系の要素が開くが、少し溶剤っぽさも感じられる。
全体的にパリッとした感じはなく、少々くたびれたような。。。立ち込める煙のなか、マスクをしてフレーバーを手探りで探しているような。。。ピートが限界値を越えているからか、なんとも不思議な感じだ。

IMG_20191101_230137

先日久々にリリースされた、アードベッグスーパーノヴァの新商品。スーパーノヴァは通常50PPMのアードベッグのフェノール値を、さらに引き上げたスーパーヘビーピーテッド仕様が特徴であり、熱狂的ファンの多い銘柄。前作の発売は2015年でしたから、まさに待望の1本と言えます。
加えて、先日リリースされたトリー・バンが良い出来でしたので、このスーパーノヴァへの期待が高まっていたところ・・・。
飲んでみるとなにかこう、想像していたものと違うというか、率直に言ってコレジャナイ感もあったのは自分だけではないと思います。

その最大の要因は、ピートフレーバーの輪郭がはっきりしないことでしょうか。
間違いなく強いは強いのですが、フレッシュでパワフルに主張するような形ではなく、グラスや口のなかでピートや木材に火がついて燃え広がるように、焦げたニュアンスやスモーキーな要素が支配的になる。それは良く言えば若いアイラにありがちなオレオレ感のない、存在感のある大人なピートであり。。。一方でやりすぎて香味のディテールが拾えないもどかしさにも繋がっているように感じます。

スーパーノヴァのフェノール値は100PPM以上とされ、細かい数字は公開されていませんが、2015年のリリース以上に焚き付けたか、あるいは熟成が長いのか。人間が感知出来るピートレベルを越えた焚き付けは、ともするとウイスキーとしての骨格やメリハリを奪いかねないのかもしれません。
こういう系統は、同様にスーパーヘビーピーテッド仕様のオクトモアにはないため(共通するところもいくつかありますが)、若い原酒の方がバランスがとれるのか。。。いずれにせよ比較的はっきりと主張のあった前作とは異なるスモーキーさのある1本で、評価は別れると思います。

メーカーコメントでは「ピーティーさの限界に関する概念を覆す」、「今までで味わったことがないスモーキーな刺激」、「宇宙空間への誘い」とあるのですが、それは良い悪いは別として言葉の通りでした。(宇宙はさておき)
なんというか、なるほどねと。それを狙ってこの味なら得心がいく仕上がりと言えそう。この真意は、後日イベント等でボブか関係者に会う機会があれば伺ってみたいです。

IMG_20191104_191122_1

今日のオマケ:キリン一番搾り とれたてホップ 2019年収穫
今年も来ました、とれたてホップ。数少ない大手メーカービールのなかで楽しみな秋の風物詩。去年同様スッキリと、ラガービールとして美味しい一杯という感じですね。
どの辺がとれたてホップやねんと言われると、既存品よりホップが強く主張するのではなく、しっかりとした麦の風味と爽やかな含み香で、ビールとして鮮度が高いような瑞々しい?味わいなのかなと。(この手の限定品は出荷から日数が経過してないので、鮮度が高いのはそうなのですがw)
モツ鍋、餃子、あとは肉類だと唐揚げとか、ジューシーなアテとマッチしそうな1本。さて、1ケース買っておくかな(笑)。

アードベッグ 25年 1975-2001 ジョン・ミルロイ 58%

カテゴリ:
IMG_20191003_020104
ARDBEG 
John Milroy Selection 
Aged 25 years 
Distilled 1975 
Bottled 2001 
Cask type Sherry Butt 
700ml 58% 

グラス:国際企画テイスティング
時期:開封後1週間程度
暫定評価:★★★★★★★★(8)

香り:ややドライでハイトーン、鼻腔を刺激する強いアタック。ピーティーで燻したようなスモーキーさに混じる塩素や薬品香、その奥にはコシのある麦芽香と粘土を思わせる土系のアロマも混じる。

味:口に含むと香りほどのアタックはなく、オイリーで焦げ感を伴いながらヨードや魚介系のニュアンス、潮気を思わせるピートフレーバーがどっしりと広がる。合わせてバタークッキーやグレープフルーツ、ほのかにアプリコット。麦と樽由来の要素もあり、ボディは厚い。
余韻はほろ苦く強いスモーキーさと柑橘香、微かにゴムのようなニュアンスを伴いつつ長く続く。

アイラの要素が濃縮したような重厚なアードベッグ。香りに少々固さというかシャープな刺激があるが、味わいは樽が酒質を邪魔せず角を取る程度に効いて、口内で存分に個性を発揮するような仕上がりとなっている。
こういうのを飲んでしまうと、90年代のアードベッグが穏やかであるという意見も納得。素晴らしい1杯にただただ感謝。

IMG_20191003_020201

このボトルをテイスティングするのは本当に久しぶり(7~8年ぶりくらいか)、文句なく旨いアードベッグです。
シェリー樽表記ですが2nd fillのアメリカンオークといった系統で、酒質ベースの仕上がり。アードベッグの当時は麦感が厚く、そして何よりアイラ的なピート要素が非常に濃いものが多く、それが90年代以降との違いとなっています。

時代が時代だけに、1970年代蒸留のオフィシャルでは濃厚なシェリー樽仕上げのものもしばしばあり、それはそれで美味で、昔の自分はそっちの方が好みだったりもしたのですが。。。こうしてプレーン系統の樽で熟成されたものを飲むと、より一層個性が強調されて良いですね。
酒質の厚さがピートフレーバーを受け止め、奥行きもさることながらスケールの大きな味わいに繋がっているようです。

このヘビーピート仕様の背景には、1960~1970年代に同系統の原酒の需要が増え、蒸留所を所有するDCLとして対応を求められていたということがあります。(当時のアードベッグは、DCLとハイラムウォーカー社がそれぞれ株式を保持していた。筆頭はDCL。)
DCLは、グレンギリーでの仕込みの失敗やカリラのリニューアルに伴う一時閉鎖などから、ブローラを再稼働させたりとピーテッド原酒の仕込みに苦心していた時期。アードベッグも同様の役割を担ったのでしょう。
1974年にはアードベッグでのモルティングだけでなく、ポートエレンで精麦されたモルトを使うようになるなど、仕込みの量が増えていたようです。

そして1979年、カリラの操業が軌道に乗り、ピート麦芽需要も一段落ついたためか、DCLはアードベッグをハイラムウォーカー(後にアライド社)に完全売却します。
アードベッグは後に、回り回って関連会社の傘下として戻ってくることになりますが、1979年から1980年代の閉鎖間際のポートエレンは、シャープなピーティーさと麦系のニュアンスも比較的ある、アードベッグに感じられたものと同じようにアイラ要素の強い原酒が仕込まれています。個人的な考察ですが、アードベッグが担っていた役割を一時的に肩代わりしたのかなとも予想しています。

現代は再びピーテッドモルト需要が高まり、通常リリースも主張の強いピーティーさを身につけるだけでなく、スーパーノヴァなど更に強くピートを焚き付けたリリースもあります。ただ、酒質が昔より軽いのと、それ以上に使われているピートの産地や種類が違うのか、フレーバーの仕上がりが異なっている。
1970年代のアードベッグ。まさに時代が産んだ銘酒と言える1本なのです。

IMG_20190908_210306
この日のワイン:シャトー・コス・デストゥルネル AOCサンテステフ 1982
ラフィットに隣接し、格付け1級にも肉薄するという評価のワイン。
フルボディで甘味は控えめの黒系果実香、鰹節や鞣し革、リコリス、黒土。熟成によって角のとれたタンニンとビターで柔らかい酸を伴う余韻。。。
普段分かりやすい新世界のワイン主体なので、楽しく酔って終わりですが。いやはやこういうレイヤーの多い上質なワインは、深く没入していくような感覚があります。

格付けによる違いとか、熟成のポジ・ネガな部分の違い等、まだまだ勉強している身ではありますが、個人的にこの1本はネガ要素が少なく、こういうのが良い熟成なのかなと感じられる構成でした。

アードベッグ トリー・バン 19年 2000-2019 46.2%

カテゴリ:
IMG_20190904_092806
ARDBEG 
TRAIGH BHAN 
Batch No,1
GUARANTEED 19 YEARS OLD 
Distilled 2000 
Bottled 2019 
Cask type American Oak & Oloroso Sherry 
700ml 46.2% 

グラス:グレンケアン
場所:BAR Eclipse first 
時期:開封直後
暫定評価:★★★★★★★(7)

香り:グラスに注いだ瞬間から立ち上るヨードや潮気を含むピート香。香り立ちは柔らかく、灰っぽさや乾いた土、奥には柑橘や蜂蜜、オークのニュアンスをアクセントに、しっかりとスモーキーなアロマ。

味:マイルドな口当たり、角のとれたピートフレーバーと塩気がはっきり感じられる。乾燥させた麦芽、木屑、香り同様柑橘類の甘味と仄かな酸、含み香に松脂を思わせる要素も混じる。
余韻は塩気がそのまま残り、スモーキーでピーティー、ウッディな渋みを伴って、ほろ苦く蓄積するように長く続く。

なんとも正統派なアードベッグ。樽感は香味ともリフィル系のプレーンなタイプで、酒質を邪魔しない構成が、逆に多彩な香味と熟成感を際立たせている。この樽使いはいかにもディアジオらしい。飲み進めていくと、強い塩気と蓄積するようなウッディさが若干引っ掛かる部分もあるが、全体的には完成度の高いオフィシャルリリースである。

IMG_20190903_225417
IMG_20190903_232830

9月3日、昨日発売されたばかりのアードベッグの新商品、トリー・バン。特に狙って飲みに行った訳ではないのですが、入荷しているなら1杯いっときますかと。
同シリーズはスモールバッチで毎年様々なスペックのシングルモルトをリリースしていく構想のようで、ファーストリリースは2000年蒸留で19年熟成。アイラモルトでは近年数少なくなってきた中熟仕様かつ、単一蒸留年の仕様でリリースされています。

トリー・バンはゲール語で歌う砂を意味する・・・ボトリングの日は嵐だった・・・という背面ラベルや外箱記載のエピソードはさておき。
近年ラフロイグが18年を終売にしたり、あるいはラガヴーリンがショートエイジの8年をラインナップに加えるなど、アイラ全体で15年熟成以上のリリースの話をほとんど聞かない中。アードベッグは昨年も20年熟成以上のミドルエイジリリースを限定で実施していた実績があるだけでなく、20年近いシングルモルトを2万円ちょっと、納得感のある価格設定でリリースしてきたのは素直に驚きです。

樽構成はアメリカンオーク樽とオロロソシェリー樽。味わいから察するに、アメリカンオーク樽は複数回使用したサードフィルあたりのウイスキーカスクがメイン。合わせて使われているオロロソシェリー樽はヨーロピアンオークと思われますが、これも大半がリフィルと思われます。
シェリー樽の比率はそこまで多くない印象で、酒質の個性を潰さない熟成をさせつつ、口当たりの甘味やコク、バランスを整えるために少量使っているのではと推察。
他のリリースだと、ラガヴーリンのジャズフェスボトルとかで近い作りがあったなと。あとは毎年恒例のスペシャルリリース系統ですね。いかにもディアジオらしい樽使いです。

プレスリリース等の事前情報から、シェリー樽多めかと思っていたので(色合いが"暖かみのある茶色"ってなってたし)、あまり期待してなかったというか、少なくともこの系統とは予想していませんでした。
香り立ち、味わい、オフィシャルリリースとして10年等の延長線上にある仕上がりで、価格だけでなく内容にも納得。先日のアードベッグデーでリリースされた”ドラム”も、あれはあれで若いなりに良さはありましたし、こういうので良いんですよ。
また、ボトラーズ等でもリリースが増えているヤングエイジのアイラモルトは個性の強さなどで普通に楽しめるものもありますが、今回のようなリリースを飲むと、熟成した原酒の存在は尊いものと認識させられます。

トリー・バンのファーストリリースはアードベッグ好きに是非とオススメ出来る1本。ただし余韻にかけて多少引っ掛かる酸やウッディさが気になった部分もあるので、開封後の変化も見てみたいと思います。
特にあの塩気。。。海辺で樽の乾燥でもさせていたのか、蓄積するように残る特徴的なフレーバー。アイラらしいっちゃらしいですが、この辺が馴染むとどうか。
ただそれ以外では、現時点でも総じて好印象なモルトでした。

アードベッグ ベリーヤング 1998-2004 58.3%

カテゴリ:
IMG_20190816_110506
ARDBEG 
Very young 
Distilled 1998 
Bottled 2004 
700ml 58.3% 

グラス:グレンケアン 
時期:不明 
場所:Bar Eclipse 
評価:★★★★★★(6)(!)

香り:強くシャープ、ややクリアなピーティーさが全面にあり、ヨードと合わさって鼻孔を刺激する。土っぽいアロマ、微かにシトラス、ハーブ、金属っぽさを伴う塩気も感じられる。

味:勢いがあってパワフルな口当たり。ピーティーでビター、飲み口から鼻孔までピートスモークが広がる含み香。徐々に魚介出汁のスープのようなコクが感じられ、微かに焦げたようなニュアンスも伴う。フィニッシュは序盤同様ピーティーでスモーキー、レモンピールの柑橘系のほろ苦さを伴いつつスパイシーで長く続く。

若いアイラ特有のシャープで強いピーティーさと、ヨード香がもたらす甘さが樽材の要素にマスクされずダイレクトに感じられる。一方で若さ由来の未熟感、ニューポッティーさは香味ともほぼない。突出して素晴らしい訳ではないが、若いなりのアードベッグの良さを嫌みなく味わえるのが、このボトルの飲みどころと言えるのかもしれない。

IMG_20190609_011810

アードベッグ蒸留所の紆余曲折についてはこれまでも度々触れているので省略。話は1997年、グレンモーレンジに買収され、再び本格的に操業を開始した地点から。
この新生アードベッグから、将来的なオフィシャルリリースの切り替えにあたり、原酒の切り替え、新しいアードベッグのハウススタイルの体現、ブランド確立等を目的として2004年にリリースされたのが、ベリーヤング、スティルヤング、オールモストゼアー、ルネッサンスの4種類です。(以下、画像参照)

ベリーヤングが約6年熟成に始まり、それから8年、9年、10年。蒸留は1998年で同じですが、リリース毎に熟成年数を増す形式がとられており、10年のリリースを完成と考えれば他はワークインプログレスという仕様となります。
正直どれも悪くないというか、それぞれ良さはあるのですが、ベリーヤングはファーストリリースであることと、あえて約6年という短期熟成の原酒がオフィシャルからリリースされたというインパクトもあってか、実際の完成度はさておき一連のシリーズのなかで特に高い評価を受けていたように記憶しています。

IMG_20190816_110534
(アードベッグ10年熟成への旅、4種。良い意味で熟成と樽に邪魔されておらず、インパクトがあってわかりやすい味わいはベリーヤングであるが、逆に良い意味で熟成を通じて個性も整っているルネッサンスが個人的には好みで、完成度も高いと感じている。この辺は嗜好品故の個人個々の好みの差でもあるだろう。なおスティルヤングやオールモストゼアーは中間にあってか半端な印象があるかもしれないが、それぞれヤングアイラの特徴は捉えやすく、決して悪い出来ではない。)

自分が本格的に飲み始めた頃には、ルネッサンスに加え、スタンダードの10年がリニューアルされた後だったわけですが、アードベッグは10年より若い方がいいね、なんて評価をイベントのブース等で聞いたこともあったくらいです。
当時は長期熟成のこなれたモルトがオフィシャル、ボトラーズ問わず多くリリースされていた時期でしたので、若い原酒で樽感に邪魔されない、パンチのある味わいが逆に重宝されたというのもあるのでしょう。ピートの強さで言えば間違いなく強かったのはベリーヤングです。

今のウイスキー市場から見ればなんとも贅沢な話だったようにも思います。
一方で、この当時1990年代のアードベッグをはじめとしたアイラモルトは、若くても今ほど粗さが目立たないというか、オイリーなコクと麦感があって、それはそれで良さが感じられるモノが多いようにも感じています。
例えば、ラガ12年のスペシャルリリースも初期の頃と今とでは大きな差があります
アードベッグについても、今回久々にベリーヤングを飲みましたが、近年のボトラーズからリリースされる6~7年程度の熟成の若い原酒等のように、ただピートが刺々しく、浮わついたようにならないのが、経年での変化を差し引いても印象的でした。

このページのトップヘ

見出し画像
×