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アンネームドアイラ 30年 1991-2022 WDC 3rd Anniversary Collection 51.4%

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UNNAMED ISLAY (Lapharoaig)
Wu Dram Clan 3rd Anniversary Collection
Aged 30 years
Distilled 1991
Bottled 2022
Cask type Bourbon barrel #2674
700ml 51.4%

評価:★★★★★★★(7)

ラベルの圧に反して、あるいは度数に反して香味は上品で複雑。穏やかな香り立ちから、華やかなオークとナッツ、乾いた麦芽に角の取れたスモーキーさ、柑橘やグレープフルーツ。
口当たりも同様に、じんわりと角の取れた柑橘感とオークフレーバー、ピートスモーク、海のアロマが混ざり合って広がる。
最初の一口も美味いが、二口目以降に複雑さが増してさらに美味い。熟成は足し算だけではない、引き算と合わさって作られる、上質な和食のような繊細さが熟成の芸術たる1本。

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香味の傾向から、おそらくラフロイグと思われる1本。
ラベルからイメージされるバッキバキでゴリゴリな味わい(失礼)ではなく、女性的というか紳士的というか、実に優雅でバランスが取れた長期熟成アイラモルトです。

バーボンバレルで30年も熟成したら、もっと樽感は強く、ウッディでオーク感マシマシな感じに仕上がりそうなものですが、熟成環境が冷涼で一定、それである程度湿度が高く、長期熟成期間中にタンニンが分解されていく過程を踏まえれば、こうしたリリースにもなりえるのか。
この淡い感じは、今回の原酒の供給もとであるシグナトリーのリリースを俯瞰した時に見られる特徴にも一致しており、同社の熟成間強によるものとも考えられます。

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Wu Dram Clanは、KFWSの王子さんを含む、ラベルに描かれている3名の愛好家で構成されるプライベートブランドです。既に数多くのリリースを手がけており、その全てが非常にクオリティの高いスピリッツであると、愛好家間では多少高くてもこのブランドなら、という指標の一つにも鳴っています。

今回のリリースは、同ブランド3周年を記念して、アイラモルト、グレンバーギー、キャパドニックの3種がリリースされたもの。
3名それぞれが酒類におけるスペシャリストと言えるレベルの愛好家であり、このリリースでラベルに大きく描かれたBoris氏は

「our Man from Munich, moving things in the background, hunting and analyzing in cold blood. No matter how tough the negotiations get, Boris will handle it. But in the end it has to be peated.(最終的にはピーテッド化する)」と紹介されるほど、高い交渉力と、ピーテッドモルトに対するこだわりがあるそうです。

その氏がセンターなラベルとあれば、とっておきとも言えるアイラモルトも納得ですね。古き良き時代を思わせる要素と、近年のトレンドを合わせたようなフレーバーのバランス感も、WDCやKFWSのリリースによく見られる傾向です。
改めて非常にレベルの高い1本でした。

ゲゲゲの鬼太郎 ハイランドパーク 15年 & ウィリアムソン 5年 for 東映アニメーション音楽出版

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GEGEGE NO KITARO
ORKNEY SINGLE MALT & BLENDED MALT WILLIAMSON 


先日、ウイスキー繋がりの知人Sさんから、このウイスキーを飲んで感想を教えてほしいとリクエストがありました。なんならブログ掲載用にボトルごと貸すからと。コロナもあって最近BARに行けてないので、これは本当にありがたい。二つ返事で了承し、ボトルをお借りしました。

モノは、東映アニメーション音楽出版さんが信濃屋さんの協力でリリースしたウイスキー2本。どちらも蒸留所表記がありませんが、オークニーモルトはハイランドパーク、ウィリアムソンはラフロイグのティースプーンモルトと思われます。
自分は同漫画の作者である、水木しげる氏が長く住まれた東京都調布市に所縁があり、何かと目にする機会も多かったところ。今回のリリースについても情報は知っていましたが、こうしてテイスティングできる機会を頂けるのは、これも縁というヤツかもしれません。

今回、Sさんからは
・蒸留所について、ハウススタイルから見てこのボトルはどう感じるか。
・熟成樽は何か(どちらもHogshead 表記だが、フレーバーが大きく異なる)
・ウィリアムソンの”澱”

この3点について、感想を頂きたいとのリクエストを頂いています。
特に”澱”はモノを見るのが一番だと、ボトルごと送って下さったようです。蒸留所については先に触れた通りですが、頂いた質問への回答を踏まえつつ、まずはこれらのリリースをテイスティングしていきます。

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KITARO 
Distilled on Orkney 
”HIGHLAND PARK” 
Aged 15 years 
Ditilled 2004 
Bottled 2020 
Cask type Hogshead "Refill Sherry"
700ml 63% 

香り:淡くシェリー樽由来の香ばしい甘さを伴う、微かにサルファリーな香り立ち。焙煎した麦やコーヒーを思わせる要素、奥に蜂蜜のような甘みと腐葉土の香りがあり、時間経過で馴染んでいく。

味:口当たりはパワフルで樽由来の甘さ、麦芽の香ばしさをしっかりと感じる。香り同様に乾煎りした麦芽、シリアル、シェリー樽に由来するドライオレンジやメープルシロップ、そして徐々にピーティーなフレーバーが存在感を出してくる。余韻はビターでピーティー、微かに樽由来のえぐみ。度数に由来して力強いフィニッシュが長く続く。

借りてきた直後はサルファリーな要素が若干トップノートに出てきていたが、徐々に馴染んで香ばしい甘さへと変わってきている。使われた樽はリフィルシェリーホグスヘッドと思われ、樽に残っているエキスが受け継がれ、濃厚ではないがバランス寄りのシェリー感。ストレートではやや気難しいく、ウッディなえぐみもあるが、加水すると樽由来の甘み、フルーティーさ、そしてピート香が開いてバランスが良くなる。これはストレートではなく加水しながら楽しむべき。
ハイランドパーク蒸留所のハウススタイルは、ピートとシェリー樽の融合。それを構成する原酒の1ピースとして違和感のない1樽。

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NEZUMIOTOKO 
WILLIAMSON "LAPHROAIG" 
Blended Malt Scotch Whisky 
Aged 5 years 
Ditilled 2011 
Botteld 2017 
Cask type Hogshead "Bourbon"
700ml 52.5% 

香り:しっかりとスモーキーで、淡くシトラスやレモングラスのような爽やかな柑橘香に、アイラモルトらしい潮気、海辺を連想させる要素も伴う。

味:短い熟成期間を感じさせない口当たりの柔らかさ、オイリーなコク。ピートフレーバーには乾燥させた魚介を思わせる要素に、バニラや淡くオーキーなフルーティーさ樽由来のオーキーなフレーバーも感じられる。余韻はスモーキーでほろ苦い、ソルティーなフィニッシュが長く続く。

BLENDED MALT表記だが、所謂ティースプーンなので実質的にラフロイグと言える。蒸留所のハウススタイルと、ポテンシャルの高さを感じる1本。若いは若いのだが、若さの中で良い部分がピックアップされており、未熟要素は少なく素直な美味しさがある。加水すると香りはより爽やかに、ラフロイグらしい柑橘感を後押しする淡いオークフレーバーと、薬品を思わせる含み香が開く。ストレート、加水、ハイボール、好きな飲み方で楽しみたい夏向きの酒。

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以上のように鬼太郎はハイランドパークで、樽はシェリーホグスヘッド(恐らくリフィル)。
ねずみ男はラフロイグで、樽はバーボンホグスヘッド。通常、ホグスヘッド表記だとバーボンのほうを指すことが一般的なので、鬼太郎ボトルは珍しい仕様と言えます。

続いて質問事項の一つだった、ねずみ男の”澱”ですが、写真の通り、確かにすごい量が入ってますね。
ウイスキーの澱と言われるものは大きく2種類あり、1つはボトリングをする際、樽の内側が崩れて黒い粉として入り込むケース。通常はフィルタリングするため除外されますが、リリースによってはわざと入れているのではないかというくらい、シェリー樽だろうがバーボン樽だろうが、一定の量が必ず入っているものもあります。

もう1つは、保存環境の寒暖差からウイスキーの成分が固形化したり、樽から溶け出た成分が分離して生じるものです。先の”黒い粉”よりも粒が細かく、ふわふわと舞い上がる埃のような感じになり、例えるならクリームシチューを作っていて分離してしまった乳成分のようなモノ。
今回のリリースは、加水していないのに度数が52%まで下がっています。熟成を経て度数は変動するものですが、一般的なバレルエントリーは約64%で、そこから5年で10%以上低下しているのはかなり早い。樽の内部で何か特殊な変化があったことが予想できます。
また、ボトリング時期が2017年で、2020年のリリースまで約3年間ボトリングされた状態で保管されていたことを考えると、その間に何らかの変化があったとも考えられられます。

飲んだ印象としては、これらの合わせ技によって発生した澱であるように感じますが、灰を被ったようなこの特殊な仕様は、今回のラベルである”ねずみ男”とマッチしている点が興味深いですね。
香味についても、Williamson=ラフロイグと言える個性はもとより、若い原酒ながらフィルタリングをしていないことによる厚みと複雑さ、そしてボトリング後の時間経過によって熟成年数らしからぬ落ち着いた感じもあり、なかなか面白い1本に仕上がっていると思います。

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一方で、鬼太郎のハイランドパークは、先に触れたように珍しいラベルの表記なのですが、仕様としても珍しいと言えます。
それは近年のハイランドパーク蒸溜所はオフィシャルリリースにはシェリー樽を、ボトラーズリリースにはバーボン樽を融通する傾向があると言われているため。バーボン樽熟成のボトラーズリリースはいくつか市場に見られますが、シェリー樽のほうは貴重なのです。(それでいて、63%という樽詰め度数からほとんど下がってない高度数設定も、ボトラーズだからこそと言える珍しい仕様です。)

熟成のベースは、比較的ピート香が強い原酒が用いられたようで、樽由来の甘くビターな香味が強くある中でもしっかり主張してきます。
ハイランドパーク蒸溜所では、オークニー島で採れる麦芽やピート以外に、スコットランド本土のもの、あるいは試験的にですが古代品種の麦芽やアイラ島で採れるピートを使った仕込みも行われているなど、様々なタイプの原酒を仕込んでいる蒸留所です。中でもシェリー樽の甘みとピート由来のスモーキーさは、ハイランドパーク蒸溜所の”らしさ”、ハウススタイルを形成する重要な要素です。

今回のリリースに使われたのはリフィルシェリー・ホグスヘッド樽であると考えられるため、濃厚なシェリー感ではありませんが、近年のオフィシャルリリースに見られる味わいと同様の要素があり、以前何度か飲んだシングルカスクのプライベートボトル(以下、画像参照)に通じる一本だと感じました。

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話は少しそれますが、かつてボトラーズリリースは、オフィシャルリリースと同等の完成度、あるいはそれ以上の美味しさを併せ持つ個性的なウイスキーを、当たり前のようにリリースしていました。
一方、昨今は長期熟成の原酒が枯渇。合わせてシングルモルトがブームになり、オフィシャル各社がブランドを拡充すると、ボトラーズメーカーへ提供する原酒の量が減少し、今まで当たり前だったものが当たり前にリリースされることはなくなりました。
現代のウイスキー市場では、オフィシャルリリースは総合的な完成度と無難な美味しさを、ボトラーズリリースは原酒の個性と面白さを、そこには必ずしも美味しさは両立しないという住み分けになっており、ステージが完全に切り替わっています。

そうした中、ボトラーズ各社や酒販メーカーが今までと異なる視点、価値を持たせたリリースを企画するようになり、今回のような一見するとウイスキーとは関係ない、異なる文化との融合もその一つです。
かつてイタリアのMoon Import社がリリースしていた”美術品シリーズ”に共通点を見出せる発想とも言えますが、今回のボトルは漫画とのコラボという異文化融合ラベルでありながら、バックバーにあっても違和感のないデザインを心がけたとのこと※。確かに、他社からリリースされているコラボ品に比べて、落ち着いた配色、シンプルなデザインとなっています。
※参照:ip-spirits(ウイスキー販売) |

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長々と書いてしまったので、最後にまとめと言うか雑感を。
私をはじめとして愛好家視点では、ゲゲゲの鬼太郎とウイスキー?なんで?と、そういう疑問が先立つところがあるんじゃないかと思います。
鬼太郎達が住んでいる場所が、上の写真のオークニー諸島やアイラ島のような、牧歌的で、それでいて不毛の大地にあるかと言うとちょっと違う気もしますが、スコットランドの蒸留所にはケルピーなどの精霊やゴーストの伝承は数多くあります。
そういう”伝承”など現地のエピソードを絡める発信があると、リリースそのものにも違和感がなくなってくるのかもしれません。あるいは国産蒸留所とのコラボとかですね。付喪神、八百万の神、百鬼夜行、日本ではその手の話題に事欠きませんから。

一方で、中身は先にまとめたように、
ハイランドパークは王道というか、ハウススタイルの1ピースを切り取ったような味わい。
Williamson(ラフロイグ)は蒸溜所のポテンシャルと、ボトラーズリリースらしい面白さ。
ボトルをお借りしたということで、1か月間くらいかけてテイスティングしましたが、ハイランドパークはその間も刻々と瓶内での変化があり、ラフロイグは最初から最後まで安定していました。

ゲゲゲの鬼太郎は漫画として長い歴史を持ち、今なお親しまれる漫画ジャンルのベストセラー。来年は水木しげる氏生誕100周年にあたり、映画も制作中のようで、今回のリリース含めて今後話題になっていきそうです。一方、両蒸留所もまたスコッチモルトの中で長い歴史を持ち、高い人気があるものです。その点を繋がりと考えれば、蒸溜所のチョイスも繋がりが見えてくる…か。
個人的にアニメラベル=色物のような第一印象があったことは否定できませんが、カスクチョイスは信濃屋さんということで、ボトラーズリリース受難の中にあっても、面白いカスクを持ってくるなと、楽しんでテイスティングさせて頂きました。
貴重な機会を頂き、ありがとうございました。ボトルは今度オマケをつけてお返ししますね!

※本記事に使用した「Photo by K67」表記のある写真は、ウイスキー仲間のK67さんが撮影されたものを提供頂きました。サイトはこちら

ラフロイグ 10年 カスクストレングス バッチ11 58.6%

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LAPHROAIG 
AGED 10 YEARS 
ORIGINAL CASK STRENGTH 
Batch No,011 
Bottled 2019 Mar 
700ml 58.6% 

グラス:木村硝子テイスティンググラス
場所:自宅@ブラインドサンプル・T氏
時期:開封1~2ヶ月程度
評価:★★★★★★(6)

【ブラインドテイスティング】
地域:アイラ
蒸留所:ラフロイグ
年数:12年程度
樽:バーボンバレル主体
度数:57%
その他:香りでウィリアムソンかその他ボトラーズかと思ったが、どうもオフィシャルくさい。カスクストレングスの新しいバッチとかか。

香り:ナッツを思わせる香ばしさと、甘いバニラやヨードをまとった強いスモーキーさ。合わせてグレープフルーツ、焦げた木材、樹脂っぽいような癖が仄かに感じられる。

味:口当たりはとろりとして柔らかいが、中間くらいからパワフルなアタックとピートの広がり、燻した麦芽のほろ苦さ。シトラスやグレープフルーツの柑橘系のフルーティーさと、奥にはオーキーなニュアンスも。若いモルトらしくしっかりとした骨格がある。
余韻はオイリーだが、スパイシーで酒精を感じさせるヒリつくような刺激があり、強いアイラピートと共に長く続く。

注いだ瞬間の香りでラフっぽいなと感じたサンプル。度数の高さ故にパワフルでピーティーで、オーク由来のバニラやフルーツのアクセント。微かにシェリー樽原酒と思われるコクのある甘味が、力強さを楽しめるバランスに整えている。
加水するとピートが焦げたようなニュアンス、塩素系の薬品香りがメインに出てくる。一方で味はオイリーな中に一体感が感じられ、悪くない。

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今年リリースされた、オフィシャルラフロイグのカスクストレングスの最新バッチ。
以前は日本でも正規品が販売されていたラインナップの一つですが、現在はイギリス、アメリカなど一部海外市場でのみ販売されており、日本では割高な並行品が流通している状況。それ故、日本のラフロイグ愛好家はTWEなど海外ショップから直接取り寄せる方法をとっているようです。

つまり、それくらいコアなファンから人気のある銘柄ということなのですが、蒸留所を傘下に持つサントリーのお膝元とも言える日本で流通のない不思議。。。(一般受けする銘柄ではないため、という理由のようですが)
今年のものは特に出来が良いとの前評判も聞いていたところ、どこかで飲もうとしていた時に、とあるサンプルのお礼にとブラインドでの出題をいただきました。
Tさん、ありがとうございます!


その感想は、若くてハイプルーフなラフロイグ。ほぼボトル指定ですね。
オフィシャル直系の味わいですが、現行品10年よりも樽感が豊かでボディもしっかりしており、特に燻したようなピーティーさが支配的な構成に仕上がっています。
アードベッグやラガヴーリン等から感じるシャープで乾燥したようなピートフレーバーとの違いは、今尚使われているとされるフロアモルティングでの精麦によるところか。キルホーマンの100%アイラでも感じましたが、口内でもくもくと煙が立ち、どっしりとした存在感があるスモーキーさは、オールドボトルに通じるところで。。。乾燥のさせ方の違いから来るものではないかと。(例えば弱火でじっくり、強火でカリっと、というような。)

一方でラフロイグやボウモアと言えば、ピートと共にトロピカルなフルーティーさのあるタイプが好まれますが、今回のボトルは柑橘系のニュアンスがメイン。バーボンオーク由来のトロピカル系統に通じるオークフレーバーはピートに燻された味わいの奥にあり、時折じわりと感じられる程度です。
樽構成はバーボン樽(リフィル含む)が主体と思われますが、恐らくシェリー樽も少量使われているのでしょう。比率は1割程度かそれ未満か。。。ですがそのシェリー感が繋ぎとなり、オーキーさを突出させない分、全体を整えてバランスをとっているように感じられました。

なお、2011年にラフロイグはBeam社の傘下となっているだけでなく、世界的にウイスキーブームが起こった時期に突入していくわけで、これまで以上に大量生産時代の仕込みに突入します。
製造法方等にどんな変化があるのか。樽についてもどのような違いが出てくるかは、いよいよ違いが出始めるスケジュール。既に全体的に軽くなりつつある銘柄が多い中で、ラフロイグも焦げた樹脂のようなネガ要素が若干感じられるなど、近年必ずしもポジティブな話題ばかりではなく。その変化は要チェックです。

ラフロイグ 31年 1966-1997 シグナトリー 50.7% #1093

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LAPHROAIG 
SIGNATORY VINTAGE 
Aged 31 years 
Distilled 1966 
Bottled 1997 
Cask no, 1093 
700ml 50.3% 

グラス:グレンケアン
時期:不明
評価:★★★★★★★★(7ー8)

香り:スモーキーかつフルーティー。麦芽の厚みを伴う香り立ち。微かな薬品香があるが、ヨードは全体に溶け込むようで、エステリーな要素と土っぽいピート、グレープフルーツとパッションフルーツを感じる。

味:柔らかく角のとれた口当たり。香り同様に土っぽさとじわじわとグレープフルーツの綿、黄色系果実を思わせるフルーティーさ。合わせて麦芽風味の厚みとコク。余韻はほろ苦くビター、染み込むようなピートスモークが長く続く。

ボトルラストということで少し樽のニュアンスが抜けてしまったか、本来であればもう少しフルーティーさとピートが強く、香味の骨格もあったのではないかと思うが、長期熟成らしい熟成感と落ち着きのある構成で、実に美味なアイラモルトである。じっくりとストレートで。


ボトルに残った最後の1杯分に立ち会うのは、いつだって特別な気持ちになります。
それは、ああ終わってしまったと言う寂しい気持ちもあれば、やっと終わったという苦行から解放された時の心情にも似た場合もあり。。。そして今回のように、スコッチにおいて神格化されつつある1960年代というだけでなく、蒸留所にとって特別な時代のボトルの最後の1杯ともなれば、その感情はひとしおです。

ラフロイグがアイラを代表するブランドのひとつとなる、その立役者として知られているのがウイスキー史上初の女性蒸留所所長ベッシー・ウィリアムソン氏です。近年はボトラーズリリースでウィリアムソン名義のラフロイグ(らしいもの)がリリースされていることから、単語として聞いたことがある、という飲み手も多いと思います。

彼女についてのエピソードは・・・長くなるのである程度まとめさせていただくと、前オーナーの秘書や助手として従事し、そのオーナーから引き継ぐ形で蒸留所所長に就任したのが1954年。退任は1972年とされ、今回の原酒の蒸留時期はまさにその真っ只中のものです。
また、所長引退が1972年といっても、1962年には長期間安定して蒸留所を存続させるため、ブレンデッドウイスキーのロングジョンを製造販売していた米国企業Schenley Industries社に売却しており、徐々に第一線から身を引いていたところ。1967年からは蒸留プロセスも石炭直火ではないスチーム加熱方式が導入されるなど、蒸留所の規模が段階的に拡張されただけでなく、現在まで続くラフロイグとバーボン樽の組み合わせが確立したのもこの頃です

それが彼女が作りたかったウイスキーの味だったのか、知る術はありません。(どこからどこまでが、彼女自信の方針かはわからないのです。)
ただ彼女の手腕はウイスキー製造というよりは、ビジネスやマネジメントという形で発揮されていたようです。実際、所長就任直後から製造に関することは別な人物に任せていたという話もあり。これは彼女が生粋のアイラ島民ではなかったことや、ウイスキーの製造現場が今以上に男性社会かつ閉鎖的だったとされる当時を考えれば、「蒸留所をアイラ島の産業として長期間存続させる」ということが、彼女なりの周囲への配慮だったのかもしれません。

(1964年のラフロイグ蒸留所・・・もといベッシー所長の紹介動画。今よりも小規模な蒸留所全景、フロアモルティングや蒸留風景など、当時の様子を見ることができる。)

今回の原酒は、上述の1967年の拡張工事が行われる前のもの。時期的には古代種の麦芽、フロアモルティング、そして石炭直火に樽はリフィルのシェリーホグスヘッドというオールドスタイルな組み合わせで作られた、貴重なボトルであると言えます。
また、そこにベッシーウィリアムソン所長時代という役も乗っかって、かなり重厚な情報量です。

味もやはりこの時代らしく麦感が厚く、そこにボウモアほどではないですがトロピカルなフルーティーさが備わっているのもポイント。この時代のアイラは、ピートフレーバーが今ほどオラオラと主張せず、土っぽい香味を伴いながらじんわりと広がり、それが麦感や樽由来の要素と合わさって、先のトロピカルなフルーティーさを引き立てている。各フレーバーがいい感じに相互補完関係にあるような構成なんです。
本ボトルにおける最後の1杯、しっかりと堪能させてもらいました。


余談:ベッシー・ウィリアムソン氏は生涯独身であったという紹介をされているサイトがいくつかありますが、海外サイトを見ると1961年に結婚していることが書かれています。独身を貫きウイスキー事業に見も心も捧げた、という方が職人的なイメージが強くなりそうですが、これはどちらが正しいのか。
自分は同氏がウイスキーの職人というよりは、一人の経営者という認識なので、そこまでストイックな人物像でなくても良いんじゃないかなぁと考えています。


ラフロイグ 15年 1990年代流通 43%

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LAPHROAIG 
AGED 15 YEARS 
SINGLE ISLAY MALT 
1990's 
700ml 43%

グラス:木村硝子テイスティング
時期:不明
場所:自宅@サンプル
評価:★★★★★★★(7)

香り:注いですぐは樽由来の甘い香りと若干の焦げ感とゴムっぽさ。あわせてヨードを纏ったピートスモークもはっきりと主張する。スワリングしていると、塩素、樽感の奥から熟したグレープフルーツやトロピカルな要素も伴う。

味:ややオイリーでスウィート、軽いスパイシーさを遅れて感じる。香り同様に若干のゴム感のある樽由来の色濃いフレーバー。熟したグレープフルーツ、魚介のダシ、ピーティーな苦みと塩気の刺激が後半から存在感を増す。
余韻はスパイシーでピーティー。ヨードというか海藻、仄かにアーモンドナッツ。湿ったウッディネス。島系の要素と樽香が声高に主張しないものどっしりとした存在感で長く続く。

シェリーやチャーオーク系の樽由来のしっかりとした甘みに、強いピートと塩気、当時のラフロイグらしいトロピカル系のフルーティーさも奥に備わっていて、少々樽感が野暮ったくはあるがリッチな味わいを堪能出来る。総合力の高い1本。

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チャールズ皇太子が愛飲したとされている、ラフロイグ15年。近年では2015年に蒸留所創業200周年としてリリースされたものが有名ですが、元々の通常ラインナップは1980年代にリリースされ、1990年代にかけてラベルチェンジして再版された後、2010年頃に終売となっています。

1980年代流通の15年、通称ビックレッド(写真下)は今や伝説的なボトルとして知られています。
アイラ要素のあるピート香と、トロピカルなフルーティーさが混じり合う多層的な香味が、やや強めの樽感と合わせて感じられる。一方、今回テイスティングした1990年代流通は、一部酒質はその系譜を受け継ぎつつも、樽感はさらにリッチな仕上がりで、フルーティーさよりもピートと樽由来の甘みのほうが目立っている。主従の異なる仕上がりとなっています。

今回のボトルを1995年前後での流通品と仮定すると、蒸留時期は1980年代前半あたりになります。
ボトラーズのラフロイグでこの頃のものは、酒質が多少軽くなってきてはいるものの、ピーティーさに加え、魅惑的なトロピカルフレーバーを備えるものがあります。この15年は、まさにその系統の酒質を強めの樽感で束ねたような構成であるとも感じました。

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なお15年終売の後、その後継品としてリリースされたのが、2016年に終売となった18年です。
終売間際の15年であってもシェリー系の樽が比較的強めに効いたリリースだったと記憶していますが、18年はどちらかと言えばバーボンバレルやホグスヘッドタイプのフルーティー路線で、200周年の15年系統です。

当時、終売はあまり気にならず、むしろフルーティーな18年を歓迎していましたが、今改めて旧世代のラフロイグを飲むと、その1杯の満足感に驚かされます。
それはさながらブイヤベースのような、こってりとした魚介料理のイメージ。近年の華やかな15年とは、飲み応えも仕上がりも全くの別物ですね。
今回のサンプルはウイスキー仲間のGさんとのサンプル交換で頂いていたもの。最近この手のラフロイグがご無沙汰立っただけに、その美味しさを思い出させてくれた1杯となりました。

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