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シングルモルト 三郎丸 令和6年能登半島地震 チャリティーボトル

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Single Malt Japanese Whisky 
SABUROMARU 
Noto Charity Bottle 
Aged 3 years 
Distilled 2000 
Bottled 2024 
Cask type Bourbon Barrel #200142 
700ml 61% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:トップノートからしっかりと主張するスモーキーさ。グレープフルーツやレモンピールを思わせる柑橘香、燻した麦芽に土のアロマも伴う。

味:柔らかい麦芽由来の甘みを伴う口当たりから、ピートのほろ苦さ、スモーキーさが香り同様の柑橘感をともなって力強く広がる。余韻はピーティーでパワフル、焦げた藁や柑橘の綿、喉を通じて体の中心に熱い酒精が宿る。

三郎丸蒸留所のハウススタイルである、ピーティーな酒質の個性がはっきり感じられるシングルモルト。3年熟成という期間は一見すると短いが、雑味少なく柔らかい口当たりや香り立ち、存分に個性を発揮した構成。また、本リリースはアイラ島のピートではなく、スコットランド内陸で産出したピートで仕込んだ麦芽を用いているため、余韻にかけて強くスモーキーさが主張するのも特徴と言える。
この優しくも力強い味わいが、1日も早い復興の後押しと、被災地へのエールとなれば幸いである。
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令和6年能登半島地震によってお亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみを申し上げます。また、被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。
本日紹介するのは、1月9日に若鶴酒造・三郎丸蒸溜所から発表(プレスリリースは1月16日に実施)された、令和6年能登半島地震への寄付を募るためのチャリティーボトルです。

本リリースでは、私もリリースメンバーの一員として原酒選定、各種文書の文案作成等で協力させて頂きました。
関東在住のくりりんが、なんでこのチャリティーに?と思われるかもしれませんが、これまでの活動や血縁関係で北陸地方には所縁があり、震災当日は偶然同地方に居たこともあって、現地の混乱も僅かながら経験しました。
能登半島等被害の大きな地域に比べれば私の経験は微々たるものですが、早期復興に少しでも協力できればと本企画に協力させて頂きました。

一般発売は1月22日から、若鶴酒造の直営オンラインサイトであるALCにて。その売り上げは消費税、資材費を除いた全額が、日本赤十字社の令和6年能登半島地震災害義援金に寄付されます。
生産量の限られる三郎丸において貴重な1樽を実質無償提供すること。さらに、本リリースとは別に、今やベストセラーとなった「三郎丸蒸留所のスモーキーハイボール缶」の売り上げを、一部義援金として寄付することまで発表されています。

三郎丸蒸留所があるのは本地震によって被害を受けている北陸地域であり、直接的な被害は少なかったとは言え、観光や消費の点では間違いなく影響があります。
自分達も苦しいが、それでも地域に恩返しがしたい。このプロジェクトには金額以上に、稲垣社長をはじめとした各メンバーの想いが込められていると感じます。



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さて、ここから先はチャリティーボトルの中身の話をしていきます。
今回のチャリティーボトル用に選定されたのは、三郎丸蒸留所で2020年に蒸留された、内陸ピート仕込みの原酒です。フェノール値は50PPMで、蒸留器は勿論ZEMON。その原酒をバーボン樽で3年5ヶ月熟成させた、シングルカスク・シングルモルト・ジャパニーズウイスキーとなります。

後日リリース予定のシングルモルト三郎丸Ⅳ The Emperor と、スペック上は同じタイプの原酒ですね。
蒸留所で貯蔵する同仕様の原酒から、蒸留所スタッフの花里さんがピックアップしたのは写真の3種。No,200223は口当たりが非常に強く、まだ熟成が必要だと感じましたが、残る2つは最初の飲み頃を迎えているかのように、好ましいフレーバーと柔らかい飲み口を備えていました。
No,200182はピーティーでありつつ、全体を通して柔らかい麦芽や樽由来の甘さが主体。
No,200142は口当たりこそ同じ系統だが、余韻にかけて力強く好ましい柑橘感が特徴。
サンプルを飲んだ感想は概ね同じで、推しは後者。その後のミーティングで、単体で完成度が高く飲んで元気づけられるような、良い意味での勢いがあるNo,200142の原酒が全員一致で選ばれます。

なお、この原酒は昨年9月ごろ一度サンプリングされており、その際の下野さんの感想は今回のものとは全く別だったそうです。ギスギスとして溶剤系の刺激も強く、内陸ピートの仕込みであることからスモーキーさは強烈で、アイラピートの出汁感や柔らかさは出ていない、もっと暴れた印象の強いものだったとか。
それがわずか4-5ヶ月でこれだけの変化がある。熟成によるウイスキーの成長は、まさに男子3日会わざれば…と言うことなんですよね。今回選ばれなかった2種も、他の原酒同様に今後ますます成長していくでしょうし、次のサンプリングでは全く別な表情を見せてくれると予想します。


2024年1月1日、ちょうど新潟の南魚沼~長岡あたりの地域に自分は居ました。
同地域の震度は5強~。東日本大震災を想起させる揺れでした。
幸い、私の周囲に地震による直接の被害はなく。
普段やり取りするメッセンジャーのグループで、稲垣さんや下野さんの無事は確認。蒸留所も無事。ハリーズ金沢は少しばかりボトルが破損したようですが、マスターの田島さんも無事。まあT&Tの両名は元日から風邪で寝込んでいて、違う意味では無事じゃなかったのですが。
そしてその後、徐々に明らかになる震災の被害の大きさ。復興への険しい道のり…。

最初はBULKシリーズで復興支援ボトルをどうかと提案したのですが、それでは意味がないと稲垣さん。実は既に三郎丸モルトでチャリティーボトルをリリースしようと考えていたのだとか。そこからが早かったです。リーダーシップとはこういうものだと、見せつけられるような指示の速さ、周囲の仕事の速さで企画が動いていきます。
ラベルを書かれたコーラ氏(@c_o_l_a)に至っては、僅か2~3日でこの作品を完成。デザインもあっという間に決まり、当初予定より大幅に前倒してのリリース発表へと繋がります。

ラベルに描かれたのは、能登半島の見附島。今回の地震で大きな崩落があったことが報じられた、能登のシンボルとして知られている名所です。その在りし日の姿と昇る朝日に復興への想いを込めたNoto Charity Bottle。
この1本が、一日も早い被災地域の復興の一助となれば幸いです。

シングルモルト 長濱 セカンドバッチ 50%

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SINGLE MALT NAGAHAMA 
THE SECOND BATCH 
Distilled 2017 to 2019 
Bottled 2023 
Cask type Sherry, Koval, Islay Quarter, Bourbon Quarter 
500ml 50% 

評価:★★★★★★(5→6)

香り:甘やかなウッディネス、複数のスパイスを思わせるアロマにりんごのカラメル煮や柑橘、カシスシロップ、微かに焦げた木材を思わせる要素を伴うリッチなアロマ。

味:とろりとした口当たり。黒かりんとうのような軽い香ばしさを伴う甘さと麦芽風味から、スパイシーな刺激と合わせて柑橘のジャムを思わせる甘酸っぱさ。余韻はウッディでビター、微かなピートを伴いジンジンと口内を刺激する長い余韻。

シェリー系の原酒を土台に、特にKOVALカスク由来のスパイシーさやアメリカンオークのフレーバーが合わさって、複雑な味わいが形成されている。ピーティーな原酒も少し使われており、香味の中で奥行きに通じているのが心憎い。
一方で、リリース直後の印象は各樽のフレーバーが馴染みきっておらず、濃厚さの中に複数の個性があるようでチグハグしたところもあったが、時間経過で馴染み一本筋の通った複雑さへと変化している。オススメはストレートを時間をかけて。

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長濱蒸溜所が2023年5月にリリースした、シングルモルト第2弾。
シェリー樽熟成原酒を軸に、KOVAL(バーボン)カスク、アイラクオーターカスク、バーボンクオーターカスクによる熟成原酒をバッティングしたシングルモルト。基本ノンピートですが、シェリー樽原酒についてはノンピートとピーテッド、それぞれの原酒が使われている。若い原酒ゆえに馴染みきってない印象はあったものの、今できる最大限の工夫をしたと感じた1本だったところ。
そろそろ第3弾のリリースも控えているので、ここで復習しておきたいと思います。
(え?そもそも1stのレビューがあがってないじゃないかって、細かいことを気にしてはいけない…)

シングルモルト長濱は、第1弾がバーボン樽やミズナラ樽原酒など、長濱蒸溜所にある様々な樽をベースにバッティングしたシングルモルト。
リリース直後もテイスティングしていますが、先日都内某BARでブラインドテイスティングをする機会があり、改めて飲んでみるとスパイシーかつしっかり柑橘系のフレーバーがあって、長濱かな?とは答えましたがTHE FIRSTとはわからなかった。時間経過によっていい意味でフレーバーが馴染み、大きく印象が変わっていたんですよね。
そして今回、久々にテイスティングしたTHE SECONDですが、これもやはりいい方向に変わっていると感じています。

長濱蒸溜所だけでなく、若いウイスキー全体に見られる傾向ですが、若い原酒で濃いめの樽感をバッティングしたシングルモルトやブレンデッドは、それがマリッジを経て馴染んだと感じてもボトリング後さらにもう一段、経年変化によってフレーバーが一体化する傾向があるように思います。
若い原酒の場合フレーバーの奥行き、複雑さが少なく、かつ味わいが強いため、どうしても原酒同士が馴染みにくいのでしょう。小さい子供たちだけ集めてもわちゃわちゃして落ち着かない小学校のクラスのようですが、成長すればある程度落ち着いてきますよね。

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そうした意味でTHE SECONDの変化は、恐らくKOVALカスク由来のスパイシーさ、焦げたようなウッディさ、そして若い原酒由来の酸といった要素が、シェリー樽由来の色濃い甘さの中に混じり、ただそれという単独の存在だけではなくなったという感じです。
例えば酸味が熟成樽由来の甘味と合わさったことで、ダークフルーツや柑橘を思わせるフレーバーへと変化している感じ。元々持っていたポテンシャルがしっかり発揮されてきています。

一方で、長濱らしさといえば、柔らかい麦芽風味とスパイス香、限定でリリースされるシングルカスク含めて、今まで飲んできた大体のリリースに共通して感じられる要素がこのボトルにもあります。そしてそれは、リリース直後でも時間が経っても一定の主張をするので、あー長濱だなと安心させてくれます。

そしてTHE SECONDでは、もう一つの特徴としてトンネル熟成庫の存在がピックアップされていました。
長濱蒸溜所は、長濱駅前にある長浜浪漫ビールに併設された蒸留棟で原酒の仕込みが行われているものの、熟成は使われなくなった旧道のトンネル、廃校となった小学校、そして2022年からは琵琶湖に浮かぶ竹生島でも行われています。

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※旧観音寺トンネルを活用した熟成庫。県内では心霊スポットとしても知られていたが、熟成庫となって天使がきたからか、噂もすっかり。

小学校、トンネル、異なる環境での熟成。トンネル熟成庫は1年を通じて気温が冷涼で、樽感が強く出る30度を超えることはまずない環境。樽感としてはスコットランドでの熟成に近くなり、一方でトンネル内は湿度が非常に高いことも特徴です。
どのような違いが出るかというと、度数が下がりやすくなると言われており、天然の加水が効くためか、まろやかな口当たりになると聞いています。

荒々しくも濃厚な原酒が育ちやすい温暖な熟成環境に比べ、穏やかでまろやかな原酒が育つなど違いが明確に表れていることが、それぞれの原酒をブレンドした際の複雑さに通じるわけです。
まだ若い原酒であるため真価を発揮するには多少時間が要りますが、その時間を含めて楽しむのもクラフトの味というヤツですね。
竹生島熟成とピーテッドがテーマの3rdリリースも楽しみにしています!

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厚岸 ブレンデッドウイスキー 小雪 48% 二十四節気シリーズ

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THE AKKESHI 
BLENDED WHISKY 
SYOUSETSU 
20th. Season in the 24 Sekki 
700ml 48% 

評価:★★★★★★(5-6)

香り:トップノートはプレーンな甘さの後で、焼き芋のような香ばしさ、微かな焦げ感と土のアロマ。じわじわとスモーキーで、奥にはオレンジやカスタード、オークフレーバーが潜んでいる。

味:口当たりはスムーズで瑞々しい。グレーンや樽由来の甘みの後から、柑橘、シェリー樽のヒント、麦芽風味とピート香がバランス良く広がる。余韻にかけて軽やかなスパイシーさとミネラル、ほろ苦く穏やかにスモーキーなフィニッシュ。

ピート、麦芽、グレーン、樽、それぞれが過度に主張せず、バランスの良い印象を受けるブレンデッドウイスキー。熟成感が増してきた結果がはっきりと出ており、ストレート、ロック、ハイボール、様々な飲み方でも楽しめる。特にハイボールがオススメ!
ストレートでは少しボディが軽い印象を持ったが、これは使用している厚岸熟成グレーンの質によるところか。この時期の降っても積もらない小ぶりな雪の如く…。

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二十四節気シリーズ、折り返しの第13弾。
飲んだ最初の一言は「まとまってきたなぁ」と。第一印象でそう感じるほど、今回のリリースもまたそれぞれの原酒の個性、樽感がバランス良くまとまっており、それぞれの原酒の成長が感じられる仕上がりです。
樽構成はバーボン樽メインに、モルトはミズナラ樽や繋ぎのシェリー樽がそれぞれ1〜2割か。微かに赤みがかった色合いにも見えるので、ワイン樽も少量使われているかもしれません。

原酒構成はモルト6:グレーン4、あるいは5:5といった、比較的グレーン原酒が全体を慣らしている印象。ピートフレーバーもその分穏やかで、ノンピートモルトも一部使われてる感じですね。
以前リリースされたブレンデッド大寒もそうでしたが、最近の冬のブレンデッドリリースはあえてグレーンの比率を上げているのか、加水によって全体がさらに慣らされてまとまりが良く、一方で少し軽いというかしんとしているというか、ボリューミーな傾向にある春から夏にかけてのブレンドの対極にあるように感じます。

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(2023年5月にリリースされた、ブレンデッドウイスキーとしては前作となる厚岸“小満”。原酒が熟成を増してバランスの良さを感じるのは今作と同じだが、ブレンド比率と構成原酒の違いで小満の方が躍動感を感じる。)

こうしたタイプのウイスキーは、味のインパクトが少ない分、面白みがないという印象を受けるかもしれません。
ただ、真逆に強すぎる個性、強すぎる主張のものは、毎日付き合うのが疲れるモノです。ウイスキーの完成系は一つではなく、毎日飲んでも飽きがないくらいの、ちょっと地味なくらいの味わいも完成系の一つだと言えます。
ブレンデッドウイスキーの場合、特に大手製品のスタンダードグレードはまさにそんな感じですね。

じゃあ厚岸の限定リリースにそれを求めるか?というと、それもまた好み次第ですが。。。こういうブレンドを自前の原酒だけで作れるようになってきた、というのが蒸留所としても成長の証。
1ショットで途中加水も試しながら、あるいは別途ハイボールも飲んでも飲み疲れない。むしろグレーンがよく伸びて、ストレートとはまた違う印象もあるくらいです。
厚岸蒸溜所のウイスキーとして、入門の1本にしてみても良いと思います。

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(厚岸蒸溜所の裏手。早い秋の終わり、忍び寄る冬の気配…)

シングルモルト 三郎丸Ⅲ THE EMPRESS カスクストレングス 60% ヘビリーアイラピーテッド

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SABUROMARU 3 
THE EMPRESS 
SINGLE MALT JAPANESE WHISKY
Cask Strength
Heavily Islay Peated (45PPM) 
Distilled 2020 
Bottled 2023 
One of 1800 bottles
700ml 60% 

評価:★★★★★★(6)(!)

香り:トップノートはレモンやグレープフルーツ、黄色を帯びた柑橘香、灰のような柔らかいスモーキーさ。微かに根菜、スパイス、オーク香。そして淡い薬品香を伴う。

味:コクのある口当たりから、グレープフルーツや柑橘、香ばしい麦芽風味、そしてピーティーなフレーバーがしっかりと広がる。中間以降は力強く、ジンジンとした刺激、奥にはバーボン樽由来のオークフレーバー。合わせて塩気やダシのような厚みがあり、ほろ苦くスモーキーなフィニッシュへとつながる。

今はまだ若さもあるが、全体的にネガティブなフレーバーが少なく、コクのある口当たりや柔らかいスモーキーさが女性的な印象も感じさせるモルトウイスキー。個人的な印象は、カリラとラガヴーリンに、少しアードベッグを加えたような…。
前半部分の口当たりの柔らかさやコク、雑味の少なさはZEMON由来、柑橘系のニュアンスは木桶発酵、そして余韻にかけての出汁感、繋がりのある味わいや柔らかく特徴的なスモーキーさはアイラピート由来と多くの新要素が感じられる。熟成感も過度に樽が主張しておらず、5年、10年後が楽しみな1本。

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年々進化を続ける若鶴酒造・三郎丸蒸留所。
今年については、映画「駒田蒸留所へようこそ」でも話題になっており、そのリリースにも注目が集まっているところ。いよいよ今年のシングルモルトリリース、三郎丸Ⅲ THE EMPRESS(女帝)が発売されました。

三郎丸蒸留所で、稲垣マネージャー主導で2016年から始まった大規模な再建計画と、三郎丸としてのブランドの立ち上げ。今回の原酒の仕込みの時期となる2020年は、その最終段階にして、若鶴酒造のウイスキーではなく、真に三郎丸蒸留所のハウススタイルやコンセプトを体現するウイスキーの仕込みが行われた年となります。
え、それはクラウドファンディング明けの2017年ではないのか、と思われるかもしれませんが、2017年〜2019年の仕込みは一部旧世代の設備等を用いているため、若鶴酒造のウイスキー事業として名もない蒸留棟だった旧時代から完全に切り替わったわけではありませんでした。

昨年リリースされたシングルモルト三郎丸Ⅱも、2019年に自社開発のポットスチルZEMONによって蒸留された原酒でリリースされていますが、2019年の蒸留の際に余溜として用いられたのは、前年2018年まで使用していた旧世代の改造ポットスチル時代のもの。
蒸留に難しさもあった2019年の原酒から、注意深くテイスティングすると旧世代の個性を感じるのはそのためです。

三郎丸蒸留所はコンセプトとして「THE ULTIMATE PEAT(ピートを極める)」とともに、目指すシングルモルトは「1970年代のアードベッグ」を掲げています。
2020年の仕込みからは、重要なポイントとなる“アイラ島で取れたピートで製麦したモルト”を原料に用いて蒸留することで、従来の内陸産ピート由来の野焼きのような強いスモーキーさから、柔らかく個性的なスモーキーさに変わり。
味わいへの影響としては、余韻にかけてダシっぽさやコク、あるいは塩味といったアイラモルトにも通じる個性が得られています。
また、これまでのリニューアルで手を入れられてこなかった発酵槽も新たに木桶を導入。これで原料、粉砕、糖化、発酵、蒸留、そして熟成。全ての行程が三郎丸仕様になり、目指すシングルモルトの姿に向け、大きな1歩を踏み出したのです。

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(アイラ島、ブルックラディ蒸留所近くのピートホグで採掘されたアイラピート。内陸ピートとは成分が異なり、アイラモルト特有とも言われるヨード香や塩気に由来すると考えられる。稲垣マネージャーが現地を訪問した際、自社の仕込みの量であれば契約可能であることが判明し、アイラピート麦芽の供給契約を締結。)

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(2020年から導入された木桶発酵槽。最初は1基だけだったが、のちに2基となった。96時間の発酵行程のうち、蒸留前の一定期間をホーローから木桶に移して実施する。これにより、乳酸発酵が促されて味わいの複雑さ、柑橘系のフレーバーが際立つ。)

三郎丸Ⅲ THE EMPRESSに関し、これまでのリリースからもう一つ変化があるのが、熟成における樽由来の成分の出方、樽感の濃さです。
過去のリリースと今作とで樽感を比較すると、三郎丸Ⅲのほうが淡く、スコッチウイスキー寄りのまとまり方をしている印象を受けます。
これは熟成期間のうち2022〜2023年の1年間、T&T TOYAMAの井波熟成庫に移して熟成をさせたため、その効果があったものと考えられます。
井波熟成庫は断熱を重視した部材、設計が用いられており、1年を通じて安定した熟成が可能となっています。

参考までに、以下写真の通り三郎丸ⅡとⅢの色合いを比較すると、Ⅱのほうが若干濃い色合いです。これが10年熟成原酒なら微々たる違いかもいれませんが、これらの原酒はまだ3年で、効果があったのはうちⅢの1年のみ。味についてもⅡの方が樽感がアバウトというか、濃くでた分原酒に馴染みきっていない印象を受けます。
一方で、樽感が若干淡くなったこともあり、今までより少し若いニュアンスが感じられるのも特徴かもしれません。しかし今回のリリースはあくまで3年熟成です。3年としては十分酒質は整っているのですが、樽感としても酒質としても、今後の伸び代が残されていると見ることが出来ます。

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以上のように、年々進化を重ねる三郎丸蒸留所のウイスキーの中でも、この2019年から2020年の間は、原料や設備のアップロードから非常に大きな変化があったことが感じられるリリース。少なくとも、これまでの三郎丸蒸留所のウイスキーと三郎丸Ⅲ THE EMPRESSとでは、全く違う印象を感じられると思います。

ちなみに、2020年の仕込みはアイラピートの他に、従来と同じ内陸産ピートでの仕込みも行われています。
稲垣マネージャーの話では、その原酒を用いたシングルモルトは2024年5月ごろ、「シングルモルト 三郎丸Ⅳ THE EMPEROR」としてのリリース予定とのこと。フェノール値はⅢが45、Ⅳが52でほぼ同じ。ピートフレーバーは熟成期間が長いほどこなれて馴染んでいくため、アイラピートと内陸ピートの個性の違いを学ぶという意味では、これ以上ないリリースになるかと。。。

それこそ今までは熟成環境由来とされていたアイラモルトの個性が、ピートに由来することが大きかったという事実から、ウイスキー愛好家として得られる経験値は大きいと思います。
言い換えるとアイラモルトを日本で作っただけでは?…ということもありません。オリジナルの蒸留器ZEMONは日本唯一です。
三郎丸蒸留所のファンは勿論、今までのリリースはあんまり…と言う方も、ぜひ飲んでみて欲しいですね。

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(三郎丸蒸留所限定で販売が始まった、三郎丸ランタン。ものづくり好きな稲垣マネージャーらしい公式グッズである。)

T&T TOYAMA ザ・バルク Vol.2 オーバークロック 45%

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T&T TOYAMA
THE BULK Vol.2 
BLENDED WHISKY OVER CLOCK 
Speyside Malt Whisky 12yo & Blended Scotch Whisky 5yo
Oloroso Spanish Oak Cask Finish
Selected by T&T with kuririn
One of 900 Bottles
500ml 45%

評価:★★★★★★(6)

香り:複雑でウッディなトップノート。複数のダークフルーツやカカオチョコレートを思わせる豊かなアロマ。色濃く濃厚な甘さの奥には焼き栗や焦げた木材、微かに樹液の要素が混じる。

味わい:まろやかで濃厚な口当たり。香り同様にダークフルーツ、ドライプルーンやブルーベリージャムを思わせる甘さと角の取れた酸味から、徐々にどっしりとしたウッディネス。ビターで煮だした紅茶、微かな刺激を伴う長いフィニッシュへと繋がる。

ベースとなるウイスキー、THE BULK Vol.1が持っていた熟成感とシェリー樽由来の要素に、後熟したスパニッシュオークのフレーバー、シーズニングのシェリー感が加わって一層濃厚で甘酸っぱく、複雑な香味へと仕上がっている。
後熟期間も合わせてほぼ13年熟成シングルモルトと言えるブレンデッドウイスキーだが、この樽感を受け止められる酒質のキャパは流石というところか。開封直後は後熟に用いた樽感が若干浮ついて感じられるかもしれないが、時間経過で馴染み、某M蒸留所のリリースに求めたいリッチな味わいを楽しませてくれる。

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当方が関わらせてもらっている、T&T TOYAMAのTHE BULKシリーズから、第2弾となるVol.2 オーバークロックが2023年12月5日より発売されます。
本リリースは、メーカー間で主にブレンド用の原酒として取引されているバルクウイスキーの中でも、高品質なもの、面白い個性やメッセージ性のあるもの、そして手頃な価格で楽しめるものを個人向けにバラ売りする。いわばパソコン部品のバルク品から着想を得たリリースです。

前作Vol.1は、ほぼ●ッカランとされるバルクブレンデッドスコッチウイスキー。
スペイサイド地域のシェリー樽熟成で有名な某M蒸留所の、シェリー樽で12年間熟成されたシングルモルトウイスキーに、なんらかの事情によって5年熟成表記相当のブレンデッドウイスキーがごく僅かに混入してしまったもの。
表記上はブレンデッドウイスキーとなりますが、その香味はバランスの良いシェリー樽由来の要素と、シングルモルトとしか思えないほどはっきりとした個性があり、まずはそのままボトリングしました。※Vol.1の記事はこちら

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THE BULK Vol.1は、エピソードの面白さや、近年高騰を続けるシェリー樽熟成ウイスキーを手軽に楽しめるという位置付けもあって、愛好家の皆様からは想像以上の好評を頂いたところ。
THE BULK Vol.2 オーバークロックは、Vol.1でリリースしたバルクウイスキーを、スパニッシュオークのオロロソシーズニングカスクに詰めて、三郎丸蒸留所の熟成庫で約1年間後熟した、濃厚仕様のリリースです。

1年間の追熟とはいえ、明らかに濃く、やや赤みがかった色合いの変化から、外観の情報だけでも違いを感じて頂けると思います。
度数は1%落ちましたが、香味は濃厚なものとなっており、Vol.1で感じた以上のダークフルーツやカカオチョコレート、煮出した紅茶、ほのかに焦げた木材。。。といった、スパニッシュオーク由来のフレーバーがマシマシです。
ですが濃厚さと引き換えに多少ウッディさも強くなり、Vol.1と比較してアンバランスであるのも本リリースの特徴となっています。

これは本リリースのサブタイトルが“オーバークロック(Over Clock)”とあるように、ラベルデザインにもなっているパソコン部品のCPUで、安定性を犠牲にする可能性があるものの、本来の定格以上の性能を引き出す手法と掛けて表現しています。
Vol.1を企画した際、これはこれで美味しいのだけれど、ボトラーズリリースとしてはバランス寄りで、シェリー樽熟成には更なる濃厚さを求めるニーズもあるのではと感じており。全体のバランスを多少犠牲にしても、面白さや個性を強化したものをと、昨年から並行して仕込んでいたのがVol.2なのです。

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通常、フィニッシュで樽感を後付けしたウイスキーは、香味に多少のズレや違和感が生じることとなります。
今回のフィニッシュ用いた樽は、Vol.1の大多数を占めるわっからんなシングルモルトの熟成に用いられた樽と近い特性を持っていると思われるものを選んでいますが、熟成が途中でリセットされることで濃厚さに加えてウッディネス、渋みといった要素も新たに足されることとなり、リリースとして上手くまとまるかはチャレンジでもありました。

本品開封直後は多少その香味のズレが感じられるかもしれませんが、時間経過でまとまり、複雑さや良い部分が増していく印象。
実はカスクサンプル時点では「あれ?」と思う要素が強かったのですが、ボトリングしてみたら甘みと果実味が強くなって想像以上にいい具合。8月くらいにリリースしようかと話していましたが、引っ張って正解だったかもしれません。
やっと寒さの増してきた2023年年末。家でゆったり飲む1本にちょうどいいリリースだと思いますし、Vol.1が手元にある方は飲み比べてフィニッシュによる違い、オーバークロックによる進化を楽しんで貰えたら幸いです。

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