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カテゴリ:★5

御岳 ファーストエディション 2023 シングルモルト 43%

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ONTAKE DISTILLERY 
THE FIRST EDITION 2023 
Single Malt Japanese Whisky 
Cask type 1st fill Solera Sherry Butt 
700ml 43% 

評価:★★★★★(5)

香り:トップノートはドライプルーンやレーズンを思わせる甘く穏やかなシェリー樽由来のアロマ。微かに柑橘やアーモンドのアクセント。ややビターで軽い香ばしさに通じる硫黄香も感じられる。

味:柔らかい口当たり、香り同様のドライフルーツのフレーバーから香ばしさ、コクのある味わい。酒質の透明感に通じる品の良い甘さが特徴で、余韻にかけては軽やかな刺激と栗の渋皮煮、カカオを思わせる適度にビターなウッディネスが染み込むように広がる。

ノンピートタイプの原酒で43%まで加水されていることから、香味とも各要素はあまり強く主張せず、シェリー樽由来のフレーバー含めて穏やかにバランスよくまとまったシングルモルト。ともすれば面白味に欠ける仕上がりとも感じるかもしれないが、じっくり味わってみると中々どうして味わい深いのは、この蒸留所の酒質とシェリーの古樽由来のポテンシャルからだろう。例えるなら、京料理のような和食に通じる上品さと奥行きがある。
何より本リリースを起点に今後の異なる仕様のリリースにも繋がる、スタートラインにしてハウススタイルを表現した1本である。

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直近5年以内に創業した新興蒸留所の中でも、ニューメイクでの評価だけでなく、創業者こだわりの環境、設備、ハウススタイル等から、ここは間違いないと、愛好家から高い期待を寄せられているのが鹿児島県 西酒造 御岳蒸留所です。

何がそこまで凄いのかというと、
  • ウイスキーの熟成は基本シェリー樽
  • シェリー樽の大多数はソレラ払い出しのもの(2019年〜2021年まではソレラ払出し100%、2022年以降は一部シーズニング有り)
  • 蒸留所内部だけでなく、外観、景観にもこだわった各種施設。
  • 焼酎造りで培われたノウハウ、技術等によって生み出される、クリアでありながらコクのあるニューメイク。
などなど。実はこれ以外にも多数あるのですが、ウイスキーに直結する要素としてはこのあたり。

特に話題となったのは、ニューメイクの味わいもさることながら、熟成に用いられているシェリー樽でしょう。
西酒造においてウイスキー事業の創業は2019年ですが、同社は1845年から焼酎を製造しており、代表的な銘柄が「天使の誘惑」。天使の誘惑はシェリー樽熟成を売りにしている焼酎ですが、御岳蒸留所では焼酎事業で培ったシェリー樽調達ルートを活用し、ウイスキーは基本的に全てシェリー樽で、それも先に記載したようにソレラ払出しという、愛好家としては興味を持たずにいられない樽で熟成されているのです。

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※御岳蒸留所から望む鹿児島、桜島(御岳)方面の展望。標高400mほどの場所にある蒸留所からの景観は、一見の価値あり。

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※御岳蒸留所の熟成庫内部。石造りの熟成庫の中には、ソレラ払出しのシェリー樽の証明とされる黒塗りの樽が並ぶ。エンジェルシェアは年2%とのことで、10年単位での熟成も期待できる。

ここでシェリー樽について補足をすると、ウイスキーの熟成に用いられるシェリー樽は、大きく分けると実際にシェリー酒の熟成に用いられていた樽(呼び方は複数ありますが、本記事ではソレラ・シェリー樽とします)と、擬似的なシェリー酒を入れて一定期間保管したシーズニング・シェリー樽の2種類があります。

ソレラ・シェリー樽は、シェリー酒の消費量やそもそも熟成方法の関係から流通量が少なく、また樽ごとの香味も安定しづらいことで、現在は一定品質のものを大量に確保できるシーズニング・シェリー樽が主流となっています。
しかし愛好家間では、昔はソレラ・シェリー樽が主流であり、そして昔の方がウイスキーは美味しかった、つまりこれはソレラ・シェリー樽によるものだと、一種の神格化とも言える評価を受けています。

実際のところどうなのか、この考察については長くなるので本記事では省略しますが、ソレラ・シェリー樽はアメリカンオークのみが使われており、長期間シェリー酒を熟成していたため古樽となって木材そのもののエキスは出にくく、ゆっくりと熟成が進みます。故に良質な樽であれば長期熟成を経て華やかでフルーティーで、そこにシェリー樽由来のフレーバーがバランスよく交わる形が期待できます。
一方でシーズニングシェリー樽の保管期間は1年〜4年程度であり、樽材はアメリカンオーク、スパニッシュオーク、どちらもありますが、木材由来のエキスが多く出るため、特にスパニッシュオークのものは早い段階で濃厚な味わいに仕上がるという傾向があります。

そのソレラ・シェリー樽を使ったであろう御岳蒸留所のシングルモルト、ファーストリリースはいつ出るのか、個人的にも非常に楽しみで、その発表があったのは2023年11月末。記憶する限り、ファーストリリースにシェリーカスクを持ってきたクラフト蒸溜所は初めてだと思います。
構成原酒はもちろん御岳蒸留所のこだわりの一つであるシェリー樽熟成にあり、発表されたファーストリリースのラベルには「1st fill Solera Sherry Butt」の文字がしっかりと記載されています。


本リリースの一般販売開始は12月20日。(公式サイトでの抽選販売は同日11時から)
実は御岳蒸留所は友人複数名がカスクオーナーになっており、早い段階でそのニューメイクをテイスティングさせてもらっていました。
また今回はその繋がりで、一般販売よりも早くシングルモルトをテイスティングさせてもらいました。
その印象はレビューの通りですが、思った以上に上品で、そしてバランス型の仕上がりという感じです。これは、御岳蒸留所が目指すウイスキーの方向性である「芳醇なフルーツの香り。バランスの取れた香味。喉を滑るようなクリアな飲み口。」によるものと思います。

シェリー樽由来の風味は、加水されていることもあって柔らかく穏やかで、ひょっとするともっと濃厚でウッディなスパニッシュオークのシーズニング的なものを予想されていた方からすれば「あれ?」と思うかもしれません。
ただし先に触れたとおり、ソレラ・シェリー樽は長期間熟成に用いられた後の古樽であり、元々長期間の熟成向き、短い熟成であれば酒質の味わいを活かす自然な仕上がりとなる傾向があります。今回のリリースで味わえる要素はまさにその傾向で、長期熟成を経て芽吹くであろう複雑さ、奥行きの種とも言える各要素を、じっくり飲むことで感じられると思います。

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※御岳蒸留所のポットスチル。奥は発酵層、糖化層。ポットスチルはラインアームを上向きに設計し、フルーティーで深い香味成分を取り出すことを狙う。

また、味わいのベースとなる御岳蒸留所の酒質については、ニューメイクの時に感じられたのは、柔らかさ、クリアで雑味が少ないのにコク、厚みがあるという、本来ウイスキーのニューメイクが持つであろう様々な要素のなかから、いいところだけ取り出したようなもの。自社培養の酵母によるところか、それとも技術によるのか、以前飲んだ際に本当に驚いたのを覚えています。
成長した原酒は、これは本リリースにおいては、特に味わいの中で口当たりの柔からさ、膨らみの中でその質の良さを感じられると思います。

こうした樽と酒質由来の風味をスコッチモルトに当てはめると、一昔前のオフィシャル・マッカランみたいな印象もあるシングルモルト御岳。
しいて言えば46%、あるいは50%仕様のリリースを飲んでみたいところですが、それはきっと今後実現してくることでしょう。
酒質は若くても長期熟成でも楽しめるクオリティがありますが、熟成環境や樽は長期熟成を狙えるものであり、むしろ下手に若い段階で出さず、一定の熟成を経た上で高度数のリリースとして出すほうが、リリースの完成度は間違いなく高くなると考えられます。

今回のリリースは、将来に向けてのスタートライン、ハウススタイルの卵。「世界を狙う」ではなく「世界が狙う」ウイスキーを目指し、今後ここからさらにスケールの大きなリリースが展開されてくることを、楽しみにしています。

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福島県南酒販 963 AXIS ワールドブレンデッドウイスキー 46%

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963 
AXIS 
WORLD BLENDED WHISKY 
Produced by Fukushima kenan shuhan 
700ml 46% 

評価:★★★★★(5)

香り:プレーンでグレーンのクセの少ない穀物系の甘さ、ほのかに樽香。じわじわと内陸系モルトの酸や甘さを伴うフレッシュなアロマ。

味:口当たりはマイルドで、香り同様癖の少ないグレーン系の甘さが広がる。奥にはモルティーで、複数の樽香。古樽やバーボン樽のウッディネス、熟成した原酒の甘酸っぱさと若い原酒由来の酸味がグレーンベースなブレンドのアクセントとなっている。
余韻はややスパイシー、微かにウッディでほろ苦いフィニッシュがじんわりと続く、

ブレンド比率的にはグレーンウイスキーベースと思しきブレンデッド。ただし安ブレンドに使われるようなスカスカなグレーンではなく、コシの強いバーボンスタイルのグレーンに、同社が保有&熟成させた内陸モルトをブレンドしているのだろう。バランスが良く、若さや癖の少なさは万人向けの飲みやすさに通じている。ストレートはもちろん、ロックやハイボールなど、さまざまな飲み方で楽しむことができる。

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笹の川酒造の関連会社である、福島県南酒販がリリースするウイスキーブランドが、地元福島県郡山市の郵便番号963を銘柄名とした963ブレンデッドウイスキーです。これまで、963のスタンダードラインナップは、エントリーグレードの赤と黒、そしてミドルグレードのAXISとBONDSでしたが、その中でも価格的にボリュームゾーンに位置するAXISが大幅リニューアルしました。

963ブランドの構成原酒は基本的にはイギリスからの輸入原酒ですが、ウイスキー製造免許をもつ笹の川酒造(安積蒸留所)が製造元となることで、原酒のブレンドはもとより、追加熟成や自社蒸留の原酒などを確保した原酒をアレンジすることができる点に強みがあります。
安積蒸留所の熟成庫を見学しに行くと、樽の鏡板に「963」と書かれた樽を見かけることがあります。あれは今後使用するブレンド用に原酒を追熟、アレンジしたりしているためで、聞くところによれば県南酒販専用の熟成庫もあるのだとか。

日本の酒税法免許の整理では、蒸留設備を持ち、ウイスキー製造免許を持っていなければ輸入原酒であっても熟成、ブレンド、加水等のアレンジをすることはできません。
製造元との繋がりがあるからこそできるアレンジ力、原酒の活用が、963ブランドの強みとなっています。

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さて、今回リニューアルしたAXISですが、角瓶形状だったボトルやラベルデザインだけでなく、中身も大きくリニューアルしています。
この角瓶仕様が発売されたのは2019年、今から3年前。ブレンダーや保有原酒の変化もあるのでしょう。
以前のAXISや963関連の低価格帯リリースは、比較的若い内陸系の原酒を追熟させて、日本の温暖な熟成環境にありがちなウッディな樽感が加わったような構成でしたが、今回のAXISはそうした個性は控えめで、全体的にプレーンで癖のない甘みを感じさせる構成です。

その香味からコシの強いヘビータイプのグレーン、BSG(バーボンスタイルグレーン)をベースに、安積蒸留所で追加熟成した原酒をブレンドしてバランス良くまとめているのだと推察します。
グレーンというと安っぽい感じがするかもしれませんが、今の原酒市場においては、同じ価格帯で若くて荒々しいモルトを使われるより遥かにバランスよく仕上がるため、特にこうした晩酌や飲食店等で広く使われる間口の広いブレンドの場合、取りうる選択肢として充分アリだと思います。
下手に若さや個性の強いブレンドは、食事に合わせづらいんですよね。

また、その一方でちゃんと963らしさというか、旧世代のAXISにも通じる樽香も奥に感じられるため、ブランドの継承はされていると言うのもポイントだと思います。
今回のリニューアルでBONDSが休売となり、原酒をAXISに集約していくとのこと。原酒や資材の高騰、色々あるとは思いますが、競争の激しくなってきたウイスキー市場の中で一定のシェアを取れていることでもあり、縁のある地の企業の活躍に明るい気持ちにもなります。

近々ハイエンドブランドの963チェスナットウッドリザーブ25年もリリースされるとのこと。
リリース時期的に今年のウイスキーフェスのブースで提供もあるでしょうから、今回のリリースと合わせて、ブースで色々話を聞いてみたいと思います。

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(地味にグッズが多いのも963ブランドの面白さ。写真のスキットルはアウトドアで重宝しています。)

グレンリベット 12年 ダブルオーク 40% Lot2023.3 &ごめんなさい案件

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THE GLENLIVET 
12 YEARS OLD 
DOUBLE OAK 
Lot 2023.3 
700ml 40% 

評価:★★★★★(5)(!)

【ブラインドテイスティング】
トップノートはオーキーで華やか、ややドライ。洋梨などの果実香を感じる。奥には干藁、おが屑。
口当たりは蜜っぽい甘さ、ボディは加水で緩いが麦芽由来の甘みの後から、香り同様にオーキーでほろ苦いウッディネスを伴うフィニッシュ。
香味のスケールは小さくまとまった感じはあるが、好ましい要素主体でバランス良く味わえる。

バーボンオーク主体、12年熟成程度、オフィシャル複数樽バッティングのシングルモルト、地域はスペイサイド。
というところまでは絞り込める。
また、酒質には素性の良さが感じられ、大手メーカー、大手蒸留所による造りとも感じられる。
予想銘柄はグレンフィディックかグレンリベット。

ただ、オールドっぽさはないし、現行と考えるとフィディック12年かな。現行フィディックにしては麦感が柔らかいというか、蜜っぽい甘さが気になるけど・・・。
グレンリベットは一つ前のグリーンボトル時代や、ちょっと前に終売になった13年ファーストフィルアメリカンオークならともかく、現行はかなり樽感が淡くなってドライ、若さも目立ってた印象だから、近年リリースでは無いと予想。
現行リベット12年だったら、ペルノさんにゴメンナサイ発信するよ(笑)
ということで、銘柄はグレンフィディックで!
……。

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『グレンリベット及びペルノリカールさん、ごめんなさい』

ドヤ顔で回答しました。
しかも現行リベットはないとまで断定して回答しました。
まさかのど現行、グレンリベット12年ダブルオークでした。
出題者でもないのに、この時隣に居た某A氏の笑顔が憎たらしい。

弁明させていただくならば、2019年にグレンリベット12年がグリーンボトルから今の12年ダブルオークにリニューアルした時、そのインパクトたるや凄かったんです。
アメリカンオーク樽の華やかさや林檎系のフレーバーが薄くなり、ドライな樽香に若干ニューポッティーですらあるフレーバー。
アンケートをとったわけではありませんが、少なくとも自分の周囲の愛好家、当時のFBやTwitterでは賛否の賛を探す方が難しかった。

著名な某テイスターは、3rdフィルの樽の比率が増えているのではないかとし、厳しいコメントを発信していたのも覚えています。

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一方で、同様にラベルチェンジをしたグレンフィディック12年(写真右)は、当時味がそこまで変わらず、固めの洋梨や林檎、麦芽にオークフレーバーという感じで、安定感が光る結果に。
数年前にグレンフィディック12年のレビューを書いた時も…

「同じく12年のシングルモルトで売り出している某静かな谷のように、リニューアルする毎に樽感が薄く若さが目立って、いったいどうしたのかという銘柄も散見されるなか。グレンフィディックの安定感が際立つ結果になっているようにも感じます。」
なんて書いてます。

ただこうして最新ロットをブラインドで飲み、意外な結果に驚いてもう1杯注文して、さらに比較で現行グレンフィディック12年とも飲み比べた結果。
認めざるを得ないわけです。グレンリベット12年が美味しくなっているということに。

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「認めざるを得ない」なんていうと、偉そうというか、何かこの蒸留所にネガティブな想いがあるかのように思えますが、決してそんなことはありません。
むしろ近年の市場でトレンドの味を抑えてきたことは流石大手メーカーだと思いますし、それ以上にグレンリベットが旧ボトル時代の樽感、クオリティを取り戻していたことは素直に嬉しいことです。

故に約束通り「ゴメンナサイ」しますが、嬉しい誤算、嬉しいごめんなさいなので全然OK。
グレンリベッットは政府承認第一号の蒸留所であり、全てのモルトの基本と言われた時代があり、同様にUnblended表記やPure Malt表記など、オールド好きには特別な想いがあるのがグレンリベットです。

グレンリベット12年ダブルオークは、アメリカンオーク原酒とヨーロピアンオーク原酒のバッティング。
酒質がこなれた瓶内変化ではなく、明らかにリニューアル当時と比較して樽感がリッチになっているあたり、1stフィルのアメリカンオーク樽原酒を増やし、そこにヨーロピアンオークでコクを与える、この安定感に大手の底力を感じました。
ちなみに比較したところ、現行フィディック12年が以前よりまたちょっと固く、青っぽくなったような気もしましたが、これは誤差の範囲かもしれません。

一方で同じく流通量の多いスコッチモルトのスタンダードだと、ボウモア12年の現行品が結構美味しいんです。ボディは緩いというか軽いのですが、グレープフルーツや赤系果実の混じるピートフレーバーは、以前のボウモアに通じるキャラクター。大手メーカーのリリースも、定期的に試してみないとその真価が測れませんね。
今回も良い経験をさせてもらいました。2019年〜2020年にグレンリベットに絶望した各位、裏ラベルにボトリングロットが書かれてますので、ぜひ今一度試してみてください。

厚岸 シングルモルト 白露 55% 二十四節気シリーズ

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THE AKKESHI 
Single Malt Japanese Whisky 
"Hakuro" 15th season in the 24 "Sekki" 
700ml 55% 

評価:★★★★★(5)

香り:ビターでスモーキーなトップノート。焦げた樽感、根菜、スパイシーでウッディなアロマ。奥には麦芽やオレンジママレードの甘さも感じられ、複雑で強く広がる。

味:リッチでピーティーな口当たり。最初はねっとりと厚岸らしいコク、オレンジや黒砂糖を思わせる甘みが感じられるが、即座に柑橘の皮、ピート、濃く入れたほうじ茶、ビターなフレーバーがピートスモークと共に支配的に広がる。余韻はビターでスモーキー、土や根菜を思わせる要素とタンニンが混ざりあう。

24節気シリーズの折り返し、第12弾。厚岸のリリースは総じて麦芽とピート、そしてミズナラ樽由来のフレーバーが軸になることが多い。今作はここにシェリー樽やワイン樽由来の個性が合わさった、系統の異なるウッディネスの二重奏とピート由来のビターなフレーバーが、複雑で濃厚に広がる。また、口当たりねっとりとした質感はラム樽由来だろうか。
ベースの酒質は熟成を経て間違いなく成長しているが、個人的には樽感の強さが本作は少々アンバランスに感じられた。ハイボールもややタンニン、渋みが濃く、フレーバーの複雑さを評価するか全体のバランスを評価するかで好みが分かれる印象。好きな人は間違いなく好き。

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3ヶ月に一度のペースでリリースされる、厚岸蒸溜所の二十四節気シリーズ。気がつけばファーストリリースから3年が経過。いやいや、24本って長いなーと思った2020年のその時から、気がつけば折り返しの12弾です。

原酒は3年ベースだったものが平均4年となり、熟成感や香味のまとまりが明らかに良くなってきた最近の厚岸リリース。今作も酒質の成長が感じられる味わいとなっています。
一方で今作、白露は樽由来の風味が強くてアンバランス、好みの分かれる部分があるなと感じさせる要素もありました。
樽構成比率は、北海道産を含むミズナラ樽が15%、シェリー樽15%、ワイン樽30%、バーボン樽30%、ラム樽10%あたりと予想。ピーティーな原酒の割合も多く、ウッディでビターな仕上がりはレビューの通りです。

発売した8月下旬に即開封、その後時間を置きながらじっくりテイスティングしていくものの、どうしても自分はこの苦味が気になってしまう。
特に今年は夏が長かった、というかこの記事を書いてる11月上旬であっても、半袖半ズボンで居られる気温が続いてますが、ようやく夜は涼しくなってきて、ふとアウトドアで飲んでみるとこれが悪くない。焚き火と紅葉、清涼な空気と厚岸 白露、是非そんな組み合わせを試して欲しいです。

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さて、二十四節気シリーズで積極的に3年、4年と言う若い原酒を使っている厚岸蒸溜所のリリースですが、勿論それを使わなければリリースなんて出来ないという原酒事情はさておき、もう一つはリフィルカスクを作るという目的があります。
元々寒暖差が大きく夏場は温暖な日本の気候、昨今は地球温暖化で北海道であっても30度越えは珍しくありません。

その環境において長期間の熟成を目指す場合、古樽の確保は厚岸に限らず各クラフト蒸留所の共通課題と言えます。
将来に向けて原酒を確保しておく必要があるのでは?こんなにリリースして大丈夫か?
たまにそんな疑問も見聞きしますが、いやいや将来に向けては原酒だけでなく、その時間で適正な熟成感をもたらす樽と熟成環境の確保が必要なんです。
30年経って蓋を開けたら全部激渋タンニン丸じゃ、とてもリリース出来ません。

また厚岸蒸溜所は目指す“厚岸オールスター”たる機能、原料が揃ってからが本当のスタート。現時点では、発表されていないモルティング設備と厚岸ピートのパーツが残っていますので、スタート地点まであと一歩といったところでしょうか。
ノンピート原酒は今作の白露にも使われているように、北海道産麦芽のりょうふう、ミズナラ樽、酵母で仕込まれたものがあるため、着実に準備は整っていますが、厚岸ピートについてはまだ準備段階なのです。

かつて再稼働したアードベッグが、10年計画でオフィシャルスタンダードを復活させましたが、それと同じように厚岸蒸溜所もそれくらいの時間が必要なのだと思います。
そう考えると、二十四節気シリーズに残されたあと12作、残り3年間を経た先が蒸留所としてはちょうど10年です。
今回のリリースで見られた酒質の成長と樽感のアンバランスさ、これが将来どのように実を結ぶか。次回作も今から楽しみです。

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T&T TOYAMA ザ・バルク Vol.1 46% リリースとスペース配信告知

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T&T TOYAMA 
THE BULK Vol.1
BLENDED WHISKY 
Speyside Malt Whisky 12yo & Blended Scotch Whisky 5yo
Selected by T&T with kuririn
One of 1000 Bottles
500ml 46% 

評価:★★★★★★(5ー6)

香り:スパニッシュオークの色濃いウッディネス。ドライブルーンやシロップ漬けチェリー、アーモンドヌガーを思わせる甘さ。奥にはウッドチップ、微かにハーブのアクセント。

味:口当たりはまろやかで、チョコレートやドライフルーツの甘酸っぱさ、紅茶を思わせる含み香。フレーバーは骨格がしっかりとしており、余韻も長い。果実味の残滓からややビターなウッディネス、干し草、じんじんと軽やかな刺激が口内を引き締める。

香味ともシェリー樽由来の要素がしっかりと感じられる。突き抜けたウイスキーではないが、蒸留所の個性に加え、酒質と機感、全体のバランスが良いシングルモルト・・ではなく、ブレンデッドウイスキーである。ストレートやロック、またはオリジナルブレンドのベース としてなど、自由に楽しんで欲しい。
ラベルモチーフは、バルクパーツと掛けてPCパーツのCPU。え、どこかで見たことがある?…勘のいい読者は嫌いだよ…。

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先日のグラスに次いで、今度はT&T TOYAMAさんとのコラボリリースとなる1本。7月20日から、ALC、モルトヤマ、そして関連酒販店さんで発売予定。価格は4980円+税です。
裏ラベルにも記載の通り、本リリースにかかるウイスキーの選定者の一人として、協力させて貰っています。(勿論、いつものように売上や協力料等の報酬は受け取っておりません。)

THE BULKのコンセプトを端的に紹介すると、ブレンド用に調達してきた輸入ウイスキー(バルクウイスキー)の中から、そのままリリースして全く問題ないクオリティのものを一般向けにリリースすることで、ウイスキーの価格高騰の中でも、手軽に良質なウイスキーを楽しんでもらおうというものです。Vol.1とあるように、シリーズものであり、今後も継続したリリースを予定がされています。

また、副次的な狙いとしては、バルクウイスキー=粗悪なウイスキーという誤った認識に対して、実際のところどうなのかを示していく狙いもあります。
日本に限らず、世界のウイスキー産業を支えているのがバルクウイスキーです。日本においては、ウイスキー産業の黎明期から現代に至るまで、原酒の幅を補って、品質の向上にも寄与してきたことは暗黙の了解的に知られていますが、それは他のウイスキー大国であっても同様であり、メーカー間で盛んにブレンド用原酒がやりとりされ、縁の下の力持ち的に多くの銘柄に用いられてきたのです。

しかし現代の日本においては、安価なバルクウイスキーを使ってあたかも高価なジャパニーズウイスキーのように販売する、ロンダリング的な使われ方をした経緯から、人によってはその品質を疑問視する声もあります。
またバルクウイスキーなので素性が明かせない、あるいは素性不明なものがほとんどで、なんだかわからないものを買うのはちょっと…という不安もあるかと思います。そこでその品質は、本リリースに選定者として関わる、ウイスキーの造り手、ウイスキーの売り手、そしてウイスキーの愛好家、それぞれの視点で問題なしと担保したもののみをリリースしていきます。

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第一弾は、販促情報にある通り、スコットランドはスペイサイドの、シェリー樽熟成で有名な某蒸留所Mの12年熟成シングルモルトウイスキーに、ほんの少しブレンデッドウイスキーが混入してしまったもの。混入したブレンドは“とても有名なモノ”だとのことですが、香味からはそのブレンドやグレーンの特徴を感じることは…まず不可能です。

基本的にはスパニッシュオークのオロロソシェリーカスク由来の香味が主体にあり、ボディも適度に感じられる。某シングルモルト12年シェリーオークを濃くした味わいですね(加水比率が少なく、フィルタリングが最低限であるためと予想)。自分の感覚では98%、あるいは99%はモルトウイスキーではないかと予想しています。

突き抜けて素晴らしいウイスキーではないですが、標準以上のクオリティは間違いなくあるウイスキーです。価格的にも悪くない、いやむしろ手頃(金銭感覚崩壊)。
最近はシェリー系原酒が貴重ですし、下手するとこの事故エピソードを隠して某Mベースのブレンドとするか、何か美談的な(古くは某アイラモルトや某バーボンにもあった)エピソードを付け加えて、リリースされててもおかしくないと思います。

昨年、あるブレンドを企画中にこのバルクに出会い、え、これそのままリリースしたらいいんじゃとなって、今回の企画が動き出します。どうせならVol.2、Vol.3の見通しを立ててからリリースしようとT&Tの方で調整した結果、第一弾のリリースが夏場にずれ込んでしまいましたが。
クーラーの効いた部屋で、食後に軽く冷やしたシェリー系シングルモルトもオツなものです。またキャンプに持ち込んで、夜の空気と共に楽しまれるなんてのも良いですね。あるいはブレンドに使ってみるのも一案。自由に楽しんで貰えたらと思います。

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※ラベルはバルクウイスキーとバルクパーツをかけて、バルクCPUっぽいものに。ここはT&Tの二人の拘りで、QRコードからはブランドページにリンクします。ただ、なんだか狙いとは別に見た目が某社の某リリースっぽくなったような…フロム ザ バル…(おや、誰だこんな時間に

※スペース配信 告知※
日時:7月15日(土) 22:00〜
URL:https://twitter.com/i/spaces/1OdJrzzlMoVJX

本リリースをはじめ、最近何かと話題の多いT&T TOYAMAおよび三郎丸蒸留所。ゲストも交えて今回のリリースや今後の予定をトークします。
また、最近様々な商品が投入され、熱気を帯びるテイスティンググラス市場。今後発売されるオーツカ氏開発のテイスティンググラス第3弾(スティルグラス)や、静谷氏開発の咲グラス(蕾グラス)も使い勝手を先行レビューします!

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