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古きを学びて新しきを得る、温故知新という言葉があります。
ブラウンスピリッツやリキュールの場合は、古いものを軽々に時代遅れなどと言い切れず、ましてカクテルは昔のレシピが継承されながらも、ベースのお酒は年々香味が変わっている状況。
紡がれた先にある今を変えるには、オールドジャンルもまた知っておかねばならないのは道理と言えます。

今回紹介するBAR、東京・立川のサンドリエは、基本はしっかりと抑えつつ、時にオールドボトルや海外で流通する未知のお酒を、レシピを調整しながら取り込む。温故知新をグラスに詰めたようなカクテルと、レアウイスキーの数々を手頃な価格から提供しているBARの一つ。ドリンカーの皆様に是非オススメしたいオーセンティックバーです。

BAR Sandrie 
時間:19:00~29:00
定休日:火曜日
住所:東京都立川柴崎町3-4-4 すいれんビル2F (立川駅南口徒歩3分)

サンドリエのマスターにしてオーナーである大野さんとは、カウンター越しではなく持ち寄り会で知り合いました。
丁寧な人柄に加え、その際作って頂いたカクテルのアプローチに得心がいったと言うか、端的に言えば自分の好みにマッチした事もあり。
最近は仕事の都合でちょっとだけ寄り道しやすくなったので、時間が取れる時に寄らせてもらっています。

(先日の1杯目は完全におまかせ。出て来たのは和三盆と90年代流通のゴードンジンを使ったジンフィズ。チャームは燻製3種盛り。レモンは搾りたてを果肉が残る形で散らし、爽やかで軽快な飲み口と飽きの来ない上品な甘み。絶妙なバランスで何杯でも飲んでいられそう。。。)

(同じくジンベースで、ホワイトレディ。
組み合わせは先のゴードンジンに、1980年代流通のコアントロー。クリアな口当たりから、口内で温度が上がるにつれて骨格のしっかりした風味が広がる。) 

ジンベースのカクテルは、マスターの得意なジャンルとのこと。
しかしジンフィズはシェイクからのステアという手順に加え、砂糖、レモン、ソーダの量の調整もその都度グラス毎に必要で、手間だけでなく味を安定させる技術も必要。"バーマンの技量を試すカクテル"なんて挑戦的な二つ名も知られています。
それを狙って頼むようなモンじゃないと思いますが。手間のかかるカクテルをしれっと出してくれて、しかも 文句なく美味いのですから、これ以上ないサービスですよね。

一方で、オールドリキュールは現行品に比べ香味が強く、ボディもしっかりしてるものが多い傾向があります。
ホワイトレディだと、コアントローとジン、どちらもそのタイプに該当。ジントニックのような割るタイプはまだ調整しやすい印象はありますが、強いもの同士を掛け合わせることが多いショートカクテルだと、レシピの構成にセンスと経験が問われると感じます。

(現行ボンベイのジントニック。。。しかしただのジントニックではなく、バーマンとボンベイが共同開発した、トニックエッセンスを使用したもので、割る側の工夫がされている1杯。すっきりとした柑橘感のあるボンベイジンに、マッチする各種フレーバーを自由に調整出来る。この1杯も実にうまい。)

冒頭でも触れたように、今も伝わるオーソドックスなカクテルレシピは、リキュールの香味やボディが今より遥かに強い時代に生まれ、当時のメーカーやバーマンの創意工夫で形になってきました。
時代とともにお酒の味が変わる中で、レシピだけが残るものもあれば、それをベースに調整が行われてきたのもあると言えます。
つまり今カクテルブックに載っているレシピが最適かはわからないのです。

「カクテルは今までの経験や気づきを思い出しながら、時に定石に囚われずに美味しさを追求したい。」というのは、話の中で出て来たマスターの言。
定石に囚われないというのは、例えば目新しさで何かをするのではなく、美味しいものを飲みたいというお客の本質を満たすにはどうしたら良いかを考えた結果、時にオールド、時に現行、様々な選択肢の中から最適なレシピを導いて提供すること。
突き詰めると、カクテルしかりウイスキーしかりは、飲む側の好みに合うかなんですよね。
どのBARにもある思想のようで、それをしっかりとした基礎の上で抵抗なくやっているのが、サンドリエの魅力と思うのです。


さて、カクテルパートが長くなってしまいましたが、ここはウイスキーブログですし最後はウイスキーを紹介して結びとしましょう(笑)。

サンドリエのバックバーには懐かしのGMコニッサーズチョイスや、ダッシーなどマスターが収集したレアなボトルが多数。ゆるいところからスタートして。。。と行くのが定石ですが、この日はすでにカクテルを飲んでいたので、いきなりマネージャーズドラムのリンクウッドから。
マネドラらしくハイプルーフで強い酒質と淡い樽香、香ばしくスモーキーな味わいで、12年と若いながらリンクウッドのキャラクターを充分に楽しめるボトルです。
(先日レビュー記事も公開した、グレンファークラス角瓶の21年、25年を飲み比べ。古き良き濃厚かつフルーティーなシェリー感。ファークラスマジックを感じる世代。)

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(今年の7月から提供されている、サンドリエも名を連ねる3店舗連名のオリジナルボトル。クーリー10年。パワフルでややドライだが、オーク由来の華やかさもありハイボールが美味しい。)
写真のように、ラインナップはスコッチ系が中心ですが、バーボンやブランデーも多少あり、スコッチウイスキーを軸に「それならこう言うタイプも」と繋げていけるような、要点を押さえている印象。
一人でも複数名でも落ち着いて飲めるカウンターとサービスは、ウイスキードリンカーなら失望することはないと思います。

サンドリエは今年の12月で5周年を迎えます。東京都心部が活動の中心である自分としては、都内駅前数分のところにあるBARで、よくもまあこれだけのボトルが適正価格と言えるレベルで残ってるものだと素直に驚くとともにカクテルについても前述の通り文句なし。引き続き通うであろうBARが、また一つ増えてしまいました。
大野さん、これからもお世話になります!