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山梨県北杜市清里にあるリゾート施設「萌木の村」。この施設内にあるホテル・ハットウォールデンのバーラウンジとして整備されているのが、今回訪問したパーチです。

このBARはウイスキー愛好家の中でも隠れ家的な環境として知られ、業界内の著名な方々はもとより、自分のウイスキー仲間の何人かも都内から足繁く通っているところ。
都心部から各種交通機関で約3時間、今の時期だと新緑の山々と鮮やかに咲く桃の花を見ながらの行程で、それはそれで優雅なものではありますが・・・おそらくこのブログを見ている方の過半数以上は、電車を一駅二駅乗ってふらっと行くようなBARではないと思います。

しかしだからこそでしょうか。この場所には、リゾート特有とも言えるゆったりとした空気と、都心部のBARにはない居心地の良さ、それを作り出すスタッフのホスピタリティ。そしてオリジナルボトルを含む素晴らしいお酒の数々があり、一度訪問すればファンになってしまうだけの環境が整っているのです。

まずはホテルにチェックインし、BARオープンまで隣接するレストランROCKで簡単に食事・・・のつもりが美味しくて結構がっつり。萌木の村で醸造しているビールと地元産のグリルソーセージ等を味わい、満たされた気持ちでBARに向かうと、"村長"である舩木上次さんが仕事終わりに立ち寄ってくださいました。

「やっと来ることが出来ました、お待たせしてしまい申し訳ございません。」
「良いんだよ、それより今日はお酒のことをいっぱい勉強させてもらうよ。」

舩木さんとは2年ほど前から交流がありたが 萌木の村には訪問機会を作ることが出来ずにいました。 
そんな中、舩木さんと二人三脚でこのBARパーチを育てて来た、バーマンの久保田さんが退職され、新天地でさらなる修行に励まれるという報せ。私もまたそろそろ公私とも忙しくなる時期で、これは行くなら今しかない、無理してでも行くしかない!と妻にも頼み込んで都合をつけ、やっと訪問することが出来た訳です。

この日は偶然団体のお客様が入られていて、BARラウンジには開店早々から美酒に酔う愛好家の歓喜と、静かな熱気が漂っていました。

自分はウイスキーやワインが眠るセラーを案内して貰った後で、ラウンジへとチェックイン。
パーチはラウンジという位置付けから、写真の通り広い空間があり。そこは煉瓦造りの暖炉に加え、舩木さんが集められたアンティークのオルゴールも特色の一つ。
普通ならBARに行ったらカウンター席一択なのですが、今回は窓際のテーブル席に着席。窓の外は名残雪、暖炉の火を眺めながら、時折聞こえて来るオルゴールの高く優しい音色の中で、運ばれて来るお酒を楽しむ。そんな贅沢なひと時を堪能しました。

この記事ではそのうちの一部を紹介させて頂きますが、後日メモが残る限り個別のレビューもまとめていきます。

パーチのバックバーは、地元清里ゆかりとも言える白州に加え、その近隣のウイスキーである駒ヶ岳、軽井沢、イチローズモルト・・・ほか各種ジャパニーズウイスキーのラインナップが豊富。
もちろんスコッチウイスキーやバーボンも、都心部ではすっかり見られなくなってしまったような銘柄まで多数あり、文字通り愛好家垂涎、1杯目の注文から目移りしてしまいます。

オープニングドリンクは、そんなジャパニーズウイスキーから軽井沢1960年蒸留 21年43% "岩田久利 吹き硝子ボトル"。
天に昇っていくかのような、幻想的な美しさを備えたボトル。。。っていうか、今の時代にこれが開いてるBARは初めて見ましたよ。
驚く自分の隣で、「酒は開けて飲まないと!」と笑う舩木さん。
経年と加水で柔らかい飲み口から、ナッツを思わせる軽い麦感に、軽井沢らしからぬ上品なシェリー感。少し抜けたような印象はありますが、オープニングにはちょうど良いくらいです。

次は1960繋がりのスコッチモルト、GMのグレングラント1960-2001へ。これは純粋に美味い。古き良きGMらしくふくよかで、少し土っぽさを伴う豊かなシェリー感がたまりません。
そしてこれぞ地元、NAから25年までバックバーに一通り揃う白州ラインナップからは、久々に旧ボトルの12年を。もちろん、響や山崎も揃っているのですが、シェリーシェリーときたところで方向転換。今の白州12年より香味に存在感があり、厚みのあるウッディネスとスモーキーさがじんわりと広がっていきます。

macphails40&50
間髪入れずにオススメされるまま、なつかしのマクファイル40年&50年。ああ、もう順番はめちゃくちゃ。。。だがそれがいい(笑)。
中身はマッカランとしてウワサされているマクファイルズシリーズ。この長期熟成を普通にリリースしていたのですから、GMの規模と歴史がどれほどのものかが伝わってくるというもの。40年のほうがシェリーが効いており、スウィートでリッチな味わい。50年はリフィル系の華やかでドライなオークフレーバーが中心。

などなど、この他にも秘蔵のボトルも含めウイスキーを楽しんだところで、久保田さんにパーチの看板メニューとも言える"季節のフルーツを使ったカクテル"を作ってもらいました。
完全お任せ、雑な注文でしたが「そこそこ飲まれてますので、ここはクールダウンのために・・・」と作られたのが、ジンと柚子とトロピカルフルーツジュースのカクテル。

これがメチャ美味い。自分のコンディションに合っていたというのもあると思いますが、ジンと柚子の柑橘系の爽やかさが一体となり、ともすればクドくなりがちな双方の柑橘感、強いアタックはトロピカル系の果実味で丸みを帯びて穏やかに。
爽やかでありながら、満足感もある素晴らしい仕事の1杯でした。


この日は、舩木さんの友人であり、清里在住のNさんも来られていて、お二人から色々とこれまでの話しを伺うことができました。
曰く、パーチはかつてこのように整った環境ではなく、特段こだわりのないスペースだったそうです。それこそ、ウイスキーも数種類しか無かったという。。。
自分もこれまでの旅行先で立ち寄ったホテルのバーラウンジは、広く浅くを満たすが多く、特に地方の観光地のそれに突き抜けて凄いものは少ないという印象を持っていました。(先日宿泊した箱根の某ホテルラウンジは、カタログで売りの一つにしているのに荷物置き場になっていたほどで・・・。)

そこにバーマンとなる久保田さんが入社、当時ウイスキーに興味が無かったという舩木さんは、ラウンジを拡充する中で徐々にウイスキーの沼へ。。。この時、一人の常連客の後押しが二人に大きな影響を与えたとも聞きます。
ここからは清里の父・ポールラッシュ氏の言葉にある「最善を尽くせ、そして一流であれ」の精神の元、久保田さんは技術を磨き、舩木さんはウイスキーを集め、バーラウンジの環境を整えるだけでなく多くの人との繋がりをこの地に呼び込んでいきました。
そしてそれは、清里ウイスキーフェスティバルの開催をはじめ様々に結実。清里フィールドバレエやポールラッシュ生誕120周年記念ウイスキーといった、単なる記念品ではないウイスキーを産み出す事にも繋がっていくのです。
これが僅か10年に満たないうちの出来事だとすれば、信じる人は少ないのではないでしょうか。今後、この萌木の村、並びにBARパーチからどのような物語が生まれていくのか、楽しみでなりません。

(萌木の村発の記念ウイスキー達。一部はBARパーチでなければ飲むことが出来ないものも。各ボトルのレビューはこちら。)

こうしてオープンからクローズまで、すっかり長居をさせて頂き、ラウンジから徒歩1分未満の寝室でベットイン。翌朝には地元食材を使った美味しい朝食が待っている。
ああ、これは素晴らしい贅沢ですよ(笑)。
清里はこれからが新緑芽吹く春の訪れ、そして妖精の舞う夏へと続く、観光地としてのメインシーズンを迎えます。
次はいつ来れるかな、出来ればシーズン中にもう一度来たい、なんて考えながら満たされた気持ちで東京へと戻りました。
萌木の村の皆様、お世話になりました!

ホテル ハット・ウォールデン
バーラウンジ パーチ 
営業時間:20:00〜02:00
定休日:月曜日
住所:〒407-0301 山梨県北杜市高根町清里3545