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お酒の美術館 PBリリース第2弾「琥月」「姫兎」江井ヶ嶋蒸溜所とのコラボに協力

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お酒の美術館のプライベートボトルリリース第2弾、シングルモルトジャパニーズウイスキー琥月(KOGETSU)、ブレンデッドウイスキー姫兎(HIMEUSAGI)が、9月上旬から同BAR店頭にて提供されています。
2022年にリリースされたPB第一弾、発刻、祥瑞同様に、くりりんがブレンダーとして原酒選定と、製品候補となるレシピ作成で協力させていただきました。

公開されていないものも含めると、関わらせていただたウイスキーリリースは20を超え、商品開発という視点での面白さ、難しさ、通常みることが出来ない奥深い世界を経験させてもらっています。
今回のリリース内容については、以下お酒の美術館からのプレスリリースに詳しく記載されていますが、本ブログではブレンダーとしての当方の視点から記事をまとめていきます。

公式プレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000041825.html
お酒の美術館:https://osakeno-museum.com/


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今回のコラボは、昨今評価が高まっている瀬戸内のブナハーブン※こと江井ヶ嶋蒸溜所とのコラボレーションで実現。(※瀬戸内のブナハーブンは自分が勝手に言ってるだけです。公式名称ではありません。)
シングルモルトジャパニーズウイスキー琥月は、2018年に蒸留され、5年間オロロソシェリー樽で熟成された10PPM未満の原酒を、シングルカスク、カスクストレングスでボトリングしたもの。
ブレンデッドウイスキー姫兎は、琥月をキーモルトとして、江井ヶ嶋蒸溜所が保有するスコッチモルトウイスキー、グレーンウイスキーをブレンドしたもの。モルトとグレーンの比率は5:5で、50%に加水してリリースされています。

琥月からは江井ヶ嶋蒸溜所のハウススタイルであるシェリー樽のフレーバーと昨今の酒質向上を感じることができ、姫兎は輸入原酒とのブレンドによってキーモルトの個性を感じつつもソフトで飲みやすい味わいに仕上がっています。
また、どちらのウイスキーからもシェリー樽のフレーバー以外に“にがり”のような潮のニュアンスが微かに感じられ、これもまた同蒸溜所の個性の一つ。
飲み方としては、琥月はハーフロックで、姫兎はハイボールがおすすめです。涼しくなってきたとはいえ、まだ1杯目はシュワシュワが恋しい。1杯目は姫兎か祥瑞をハイボール、2杯目は琥月か発刻をロックで、PBコースなんていかがでしょう。

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■リリース経緯など
お酒の美術館から、次のPBについて相談があったのは確か2022年年末のこと。
同年4月にリリースしたPB第一弾が好評で、特に祥瑞のほうはもう在庫がなく、ハイボールですっきりと飲めるウイスキーを新たに作れないか。
提案内容はざっくりとこんな感じで、どこか対応してくれる蒸留所は無いかと、日頃やり取りさせて頂いている複数社に相談・・・、結果、T&TのラストピースやKFWSさんのPB等で繋がりがあった、江井ヶ嶋酒造と話を進めることとなりました。

ご存じの通り、江井ヶ嶋酒造は1919年からウイスキーの製造を開始した国内でも屈指の歴史を持つウイスキーメーカーです。立地は兵庫県瀬戸内海沿岸沿いと、ストーリー性もある環境。1984年に整備された蒸留棟は、導線の確保された設備一式を有しています。
ただ、その造りは安定しておらず、長らくメーカーとしてもウイスキーは優先順位が低い状況にありました。それが大きく変わったのが2016年以降、設備の改修やスタッフの意識改革等が効果を発揮し、特に2018年以降の原酒はこれまでとは異なる高い品質のものとなっています。

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本リリースに限らず、自分がブレンダーとして関わらせてもらう以上、愛好家視点で蒸留所の個性とユーザーから求められている味わいをリンクさせたウイスキーを提案することを目指しています。
お酒の美術館は全国で約70店舗を展開する、もはや全国規模のBARチェーン店です。ここでウイスキーが情報発信と合わせて提供されれば、蒸留所の魅力、造り手の努力が知られる一助となるのではないか。そんな想いをもって、企画に関わらせて貰いました。

ただ当初はブレンドだけの予定で、その前提で前捌きをして江井ヶ嶋蒸溜所から候補となる原酒を出して頂いたのですが・・・。
カスクサンプルをテイスティングしたお酒の美術館の社長:富士元氏から、このクオリティならシングルモルトも希望したいとリクエストがあり。だったら、シングルモルトのカスク選定を進めつつ、ブレンデッドのほうはシングルモルトでリリースする原酒の一部をキーモルトとすることでどうかと提案(これが後々自分の首を絞めることに…)。

製造側には手間のかかる提案ですが、江井ヶ嶋蒸溜所の平石社長、中村工場長、両名から快諾頂き、シングルモルト琥月、ブレンデッド姫兎としてリリースの方向性が決まりました。

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■シングルモルトジャパニーズウイスキー 琥月 62%
シングルモルトは個性の酒。江井ヶ嶋蒸溜所のハウススタイルの一つは、全熟成樽の約7割を締めるというシェリー樽由来のフレーバーです。
バーボン樽も魅力的ですが、ここは瀬戸内のブナハーブンたる江井ヶ嶋の個性をアピールする方向で、オロロソシェリー、ペドロヒメネスシェリー(PX)、クリームシェリーの3種類の樽から、候補となる原酒を複数出して頂きました。

クリームは妙にスパイシーな癖があり、今回のリリースの方向性には合わないと除外。悩んだのは親しみやすいが癖も少ない樽感のオロロソシェリー樽の1つか、濃厚だがビターでウッディなPX樽の1つか。
今回は選んだ原酒をキーモルトとしてブレンドも作成するため、ここでミスチョイスすると取り返しがつきません。ここにきて、あ、これ結構難しいアイディアを出してしまったぞと、自分が置かれた状況を認識するに至ります…。

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悩んだ結果、シングルモルトとしては甲乙付けがたいため、ブレンドレシピとしてどちらが希望に沿ったレシピを作れるかで決めようと一旦保留。ブレンドの作業量が2倍になってしまいましたが、決められないのだから仕方ありません。

オロロソベースとPXベースとで、それぞれ候補となるレシピを複数造り、原酒群の中で最もバランスが良かったオロロソシェリー樽原酒の1つ(Cask No,101808)でリリースを進めることとなりました。
5年と若い熟成期間ですが、酒質が向上した2018年の仕込みだけあってベース部分の味わいは親しみやすく、特に加水すると非常に柔らかく飲みやすい味わいへと変化することから、素性の良さも感じられます。

ややビターなウッディネス、麦チョコや黒糖麩菓子のような甘さ、かすかにドライフルーツやピートのアクセント。
おすすめはハーフロックですが、お酒の美術館らしい楽しみ方として、ストレートにオールドブレンデッドを少量加えた飲み方を、裏メニューとして提案します。
正式なメニューではありませんが、お店で飲まれる方はぜひ裏メニューとして注文してみてください。(自分のおすすめは1980年代流通のジョニ黒です。)

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■ブレンデッドウイスキー 姫兎 50%

先に触れたように、琥月をキーモルトとし、江井ヶ嶋蒸溜所のモルトウイスキーに輸入モルトウイスキー、輸入グレーンウイスキーを加えたワールドブレンデッドウイスキーです。
モルトとグレーン比率は5:5。企画立案当初、お酒の美術館側からコンセプトとして提案された通り「ハイボールですっきりと飲めるウイスキー」をテーマにブレンドしています。

メレンゲや綿菓子を思わせる甘いアロマ、干し草、グレープフルーツやハーブ、青りんごを思わせる果実のアクセントに、微かにビターで潮気や樽由来の要素が混じる味わい。
琥月の原酒を一部使用しているためシェリー樽由来のフレーバーが感じられるだけでなく、江井ヶ嶋蒸溜所のもう一つの個性であるにがりのような潮のニュアンスがポイントです。

このニュアンスは、明石海峡が眼前に広がる熟成環境や、敷地内の深井戸からくみ上げられる仕込み水の関係からか、江井ヶ嶋蒸溜所のウイスキーに感じることが多い特徴で、今回は琥月より姫兎の方がこの特徴を捉えやすい印象があります。
ブレンドと加水で樽由来の要素が落ち着いた結果、個性を感じやすくなったのでしょうか。また、全体を通して感じられる麦芽風味は、輸入ハイランドモルトを江井ヶ嶋蒸溜所でリフィル樽に入れて追加熟成した原酒に由来するフレーバー。ノンピートタイプで麦芽風味が豊か、これだけでも通用するレベルの原酒で、正直これを別リリースとして出したいとも感じたほどでした。

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ただし、個性の強いシェリー系短熟ジャパニーズモルトである琥月に、モルティーなハイランドタイプの原酒を主体に構成するとなると、全体的にリッチな味わいとなって「すっきり飲めるウイスキー」に仕上げるのは難しくなります。
例えるなら、シェリー樽の原酒が”ざる用の濃さの麵つゆ”で、ハイランドモルトが小麦の風味豊かなうどんです。これがどんぶりいっぱい、ぶっかけうどんの量で出てきたら・・・すっきりとは食べれません。
じゃあ水で薄めれば・・・味がペラペラになってバランスが悪くなってしまう。つまり味を調えつつも奥深さは消さない、ダシのような存在が必要になります。

そこで使用したグレーンが、非常にプレーンでさっぱりとしたタイプ。樽やモルトの強い個性を引き算し、均一化するような感じで整えて、全体をうまくまとめてくれました。
心情的にはモルト、グレーン比率を6:4、あるいは7:3あたりのクラシックなタイプにしたかったのですが、モルトの個性が強くなりすぎてしまう。スコッチウイスキー縁の下の力持ちと言えるグレーンの重要性を改めて感じましたね。
試行錯誤の多かった作品ですが、何とかテーマの通りまとめられたと思います。ぜひハイボールで楽しんでいただけたらと思います。

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■お酒の美術館PBについて
お酒の美術館PBは源氏物語絵巻をラベルに用いた、シリーズ構成のウイスキーです。
2022年にリリースされた発刻、祥瑞は長濱蒸溜所の協力でリリースされたもの。
「発刻」は長濱蒸溜所の濃厚なシェリー樽原酒とピーティーな原酒を合わせ、輸入モルト、長期熟成グレーンでバランスを取りつつ加水なしでボトリングした、パワフルでスモーキーな愛好家向けのブレンデッド。
「祥瑞」は若い輸入原酒に発刻と同様の長期熟成グレーン、そして同じ濃厚なシェリー樽原酒をブレンドし、加水して47%でリリースした、華やかでフルーティーな万人向けのブレンデッドです。
今回はここに新たに「琥月」、「姫兎」の2種類が加わったわけですが、今後も国内クラフトメーカーとタイアップしたリリースが計画されています。

これらのリリースに関して、私は監修・協力の立場にありますが、報酬や給与、監修料等の金銭は一切受け取っておりません。(同チェーン店で飲んでいると、1本売れたら何%懐に入るんですか?という質問を受けることがありますがw)
あくまでお酒の美術館の常連として、一人のウイスキー愛好家として、趣味として協力させてもらっています。具体的には、蒸留所との繋ぎ、原酒選定、ブレンドレシピの提案までで、そこから具体的な契約や価格設定、店頭での提供はお店側の領域、私は関わっていません。
逆に、お酒の美術館側からもコンセプト以外は蒸留所とのやりとりなど、お任せ頂いてる状況。だからこそ、手間をかけて納得のいくブレンドを作れるという強みがあります。

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BAR お酒の美術館のラインナップは、元々ベースとなっていたのが中古酒販として買い取ったウイスキーでしたが、昨今はそのコンセプトに加えて手軽に洋酒全般を楽しめるBARチェーンとして、領域をオールドから現行品へも広げつつあります。

従来のBARが階段を上った先や微妙に目立たない路地の裏など、隠れ家的なコンセプトであるのが多いところ。もちろんそれは魅力であるのですが、同店は逆に路面店、コンビニとのタイアップ、駅構内、空港の保安検査後のスペースといった、人が多く集まる場所に出店しています。ウイスキーの魅力はまず飲んで、知ってもらわないことには伝わりませんから、このPBを通じて広く日本のウイスキーの魅力が広まったら。。。と、それが冒頭にも書いた私の想いに繋がります。

改めて、今回もまたこうした貴重な機会を頂けたことを、この場を借りて御礼申し上げます。
クラフトの成長を心強く感じると共に、ブレンドの奥深さに悩み、そして楽しむ。なんと贅沢な経験でしょうか。
今回のリリースは先月からお酒の美術館全店で提供されています。機会がありましたら是非飲んでいただければ幸いです。

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シングルモルトあかし 4年 2018-2022 ヘビリーピーテッド 62% for KFWS

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EIGASHIMA DISTILLERY 
SINGLE MALT AKASHI
Heavily Peated 
Aged 4 years 
Distilled 2018 
Bottled 2022 
Cask type Bourbon Barrel #101855 
For Kyoto Fine Wine & Spirits 
500ml 62% 

評価:★★★★★★(6)

香り:フレッシュでスモーキーなトップノート。表層的にはピートと柑橘系のニュアンスが主体で好ましい香り立ち。そこからハーブ、焦がした針葉樹、微かに古い酒蔵のようなアロマが混ざり、度数相応の鼻腔への刺激も感じられる。

味:口当たりはオイリーでややビター、スモーキーで角のとれた麦芽風味。続いてバーボンオーク由来のバニラと麩菓子の甘さ、グレープフルーツ、オレンジオイルのような質感、奥には針葉樹や根菜を思わせるニュアンス。
余韻はピーティーでほろ苦くスパイシー。強いスモーキーさとハーブのよう青みがかった要素がが鼻腔に抜けて長く続く。

素性のいい麦芽風味に力強いピートフレーバーが特徴の1本。造り手の違い、意識の違いがこうも味わいに影響するのか。雑味が多く樽のノリも悪いかつての姿はなく、柑橘系の要素と樽感も良い塩梅で感じられる。決して洗練された味わいではないが、そこに江井ヶ嶋らしさ、個性を感じることが出来るとも言える。
江井ヶ嶋蒸溜所、新時代の始まり。是非先入観を捨てて飲んで欲しい。

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京都の酒販&インポーター、Kyoto Fine Wine & Spirits社(KFWS)からリリースされたプライベートボトル。実は、自分もちょっとお手伝いさせて貰いました。
同社のPBは、先日のWDC向けボトルをはじめ、多少価格は高くとも、高品質で間違いのないモノをリリースしていることで知られており、言い換えるとKFWSは愛好家からの信頼の厚いブランドであると言えます。
さながら一昔前のシルバーシールみたいな位置付けですね。

それ故、KFWS向けリリースで、江井ヶ嶋蒸溜所のあかしがラインナップされた時の愛好家の反応は…想像に難くないと思います。
少なくとも2010年代までは愛好家からほとんど評価されることがなかった、あの“あかし”です。
今回のリリースは、蒸留所とKFWSの繋ぎから関わらせてもらっているのですが、元を辿ればKFWSの2人もまた、いやいやくりりんさん、江井ヶ嶋ですよ?と、信用半分疑問半分といった反応でした。

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それが、現地で原酒をテイスティングしてから、「あれ、これ良いじゃない」と評価が変わります。本リリースを飲んだ愛好家の、SNS等での反応も総じて同様。
自分は、三郎丸蒸留所の原酒交換リリースであるFAR EAST OF PEATや、T&T TOYAMAのLAST PIECEのブレンド等を通じて、江井ヶ嶋蒸留所の酒質の変化、進化を知っていましたが、やはり最初は同じようなリアクションをしました。

何故こうも、多くの愛好家が同じような反応をするのか。
それは、以前のシングルモルトあかしは単純に美味しくない、という表現が正しくないとすれば、雑味が多く決して洗練された酒質ではない、雑味が多いが複雑と言うわけではなく妙にシャープで樽感と馴染みが悪い、全体的に何かしらのこだわりを感じさせる味わいではない、ということ。
現蒸留所長に伺ったその理由は、端的に言えば、雑に造った酒は雑な味にしかならない、ということでした。

かつて江井ヶ嶋蒸溜所は、そもそもの企業名・江井ヶ嶋酒造の通り日本酒をメインに作っていましたが、醸造酒を作らない夏場に製造スタッフを遊ばせない為に蒸留酒も作っていました(現在はウイスキーは通年製造)。そのため、意識は高くなく、言うならば安かろう悪かろうな、あるいは桶売り前提のようなスタンスでウイスキー造りが行われてきました。
一例となる出来事として2010年ごろ、自分が江井ヶ嶋蒸溜所を訪問した際、スタッフが麦芽のフェノール値を把握しておらず、「商社が勝手に持ってくる物で作ってるからわからない」なんて説明を受けたこともあるくらいです。

そうなると、様々なことがおざなりになっていくものです。
一方で、2016年に現蒸留所長の中村裕司氏が着任され、現場の問題点を把握し、上層部に伝え、その改善に着手したことで、特に2018年ごろの酒質から明確に違いが現れてきます。
具体的に何をやったかと言えば、錆びて汚れた配管やタンクなどの交換・整備、清掃の徹底、発酵等の造りのノウハウ部分の見直しです。
中村氏は元々日本酒側の人間であるためウイスキーは未経験でしたが、だからこそこの設備、この造りではいけないと気づけたと言います。
そして「お前ら、そんなウイスキー作ってて家族に恥ずかしくないんか、一緒に飲みたいウイスキー造ってるって言えるんか」とスタッフに檄を飛ばした意識改革は、同氏の酒造りに対する熱い想いを感じさせるエピソードとなっています。

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なお、同社がウイスキー製造免許を取得して100年に当たる2019年は、ポットスチルの交換も実施。古いポットスチルは、現在蒸留所正面にオブジェとして設置されています。
変更といっても、サイズも形状も変更されていませんが、2019年以降の仕込みは雑味が減ってさらに酒質が良くなったことから、確実に効果はあったこの交換。逆に言えば、2018年蒸留の原酒はまだ発展途上であると言えます。

ですが、蒸留における心臓部であるポットスチルが変更されていない2018年蒸留原酒に見られる旧世代からの進化こそ、中村所長がもたらした同蒸留所の変革と新時代の始まりを、最も感じられる要素だと私は感じています。
成分分析した場合も、数値上の特性が良いのは間違いなく2019年でしょう。記録に残る2019年、記憶に残る2018年と言ったところでしょうか。
本リリースはピーテッド仕様なのも良いですね。アイラのイメージから、やはり海辺のモルトにはピートが似合う。アイラ海峡、あかし海峡、なんか似てるし(笑)

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本リリースは昨年の発売で既に完売していますが、今回の樽が必ずしも特別な樽だった訳ではなく、2018年の中では平均的なものから好みに合う成長の原酒を選んだという感じ。
この時テイスティングした原酒のサンプルのクオリティは総じて安定しており、その証拠に、現在流通しているスタンダード品であるシングルモルト・ホワイトオークあかし(3〜4年熟成原酒がメイン、500ml 46%)の味わいも、確実に向上しています。

ただし江井ヶ嶋蒸留所のハウススタイルは、実はバーボン樽でもピートでもなく、ノンピートから極ライトピートでシェリー樽熟成にあります。
今回のボトルはその点では少し外れたものですが、今後リリースされるいくつかの他社PBはシェリー系で、そのキャラクターが良い具合にマッチしていることから、また違った驚きを愛好家にもたらしてくれると期待しています。
新時代の到来からまだ5年あまり、原酒の成熟はこれからですが、地ウイスキーからクラフトウイスキーへ、あかしの遂げた進化を本リリース、あるいはいずれかのボトルで感じてもらえたらと思います。

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ファーイーストピート 4th Batch ブレンデッドモルト 50%

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FAR EAST OF PEAT
FOURTH BATCH 
BLENDED MALT WHISKY 
EXTRA SELECTED 
700ml 50% 

評価:★★★★★★(6)

香り:香ばしさと黒砂糖を思わせるほのかなシェリー感がトップノートにあり、合わせてハイランドタイプの麦芽香。奥にはスモーキーな個性があり、香りのボリュームに繋がっている。

味:香りで感じた麦芽風味と甘みがメイン。微かに柑橘やシェリー樽のウッディネス、乾いた植物感。じわじわと内陸ピートのスモーキーさ。地味だが通好みと言える構成。江井ヶ嶋のピートや三郎丸モルトは底支えで、強く主張はしないが余韻にかけて存在を感じられる。

三郎丸蒸留所のヘビーピーテッドモルト、江井ヶ嶋のライトリーピーテッドモルト、そしてスコッチモルトのバッテッド。
比率的にはスコッチモルトが多いのだろう。熟成感と落ち着きのある個性でブレンドとしての完成度を高める狙いが見えつつも、最近流行りのキラキラ華やかオーキータイプではなく、麦芽風味主体の構成に仕上げてきた点が面白い。
加水するとスモーキーフレーバーが表に出てくる。飲み方はストレートからロック、ハイボールにはちょっと向かない。

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三郎丸蒸留所が進めるクラフト蒸留所との原酒交換でリリースされる、FAR EAST OF PEAT 第2弾。
今回は江井ヶ嶋蒸溜所とのコラボリリースにおける、ワールドブレンデッド仕様のブレンデッドモルトウイスキーです。

ジャパニーズ仕様であった3rd Batchは、三郎丸蒸留所のヘビーピーテッドモルトの個性が前面に出ており、ピーティーな味わいがメインとなっていました。
一方、この4th Batchではピートフレーバーは底支え的な使われ方で、メインに感じられるのはスコッチモルトの香味。裏ラベルのコメントに「スコッチモルトを吟味してブレンド。華やかで多層的な味わいを目指した」とあり、ピーティーな3rd Batchとは全く異なるコンセプトを感じる仕上がりとなっています。

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これはFAR EAST OF PEATの第1弾、長濱蒸留所とのコラボリリース、ワールドブレンド(上写真、赤ラベル)と同じ方向のレシピですね。
三郎丸というとヘビーピートですが、ブレンドは輸入原酒を用いることで、ピーティーなものからムーングロウのようにフルーティーなものまで幅広くリリースされていて、ジャパニーズとしてのリリースからガラリとキャラクターを変えています。

構成原酒にはおそらく10年以上熟成したスコッチモルトが使われており、中にはピーテッドタイプのものもあるのではないかと予想。樽構成もバーボン以外でシェリー樽原酒が使われるなど、複数の樽、複数のピート、複数の酒質、確かに多層的な香味が感じられます。
ただ、華やかかというと、ここはちょっとイメージと違う気もします。それこそ、華やかと言えばスコッチモルトのバーボン樽原酒にあるオーキーでドライ、キラキラ系の味わいだと思いますが、このブレンドは内陸系の麦芽風味を中心としてシェリー樽由来のフレーバー、そして国産原酒という構成なので、華やかというよりはモルティーでいぶし銀な感じなんですよね。

とはいえ、不味いと言う話ではなく、バランスも取れているブレンデッドモルトだと思います。
次のリリースがどの蒸留所との組み合わせかはわかりませんが、引き続きことなる2種類のレシピで、日本のウイスキーの可能性を探求していって頂きたいです。

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オマケ:
今回のコラボ企画では、当然ながら江井ヶ嶋蒸溜所からも三郎丸蒸留所の原酒を使ったリリースが予定されています。
リリース時期は4月中とのこと。江井ヶ嶋のクリームシェリー樽3年熟成ノンピートモルトと、三郎丸蒸留所のバーボン樽熟成ヘビーピーテッドモルトをバッティングした、ブレンデッドモルトです。

ラベルデザインは、使われている原酒の色調をモチーフにしたもの。あまり意識していなかったのですが、江井ヶ嶋蒸留所って熟成されている原酒の半分くらいがシェリー樽らしく、蒸留所のスタイルと言える原酒の一つなんですよね。その原酒が、同じく蒸留所のスタイルと言える三郎丸のヘビーピーテッドと混ざり合う。
最近の江井ヶ嶋原酒は期待できますし、シェリー樽とバーボン樽のバッティングからも、FAR EAST OF PEAT`とは異なる仕上がりが期待できる。このリリースも楽しみにしています。

ファーイーストオブピート 3rd Batch 三郎丸×江井ヶ嶋 ブレンデッドモルト 50%

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FAR EAST OF PEAT
THIRD BATCH 
BLENDED MALT JAPANESE WHISKY 
SABUROMARU × EIGASHIMA 
Cask type Bourbon Barrel 
700ml 50% 

評価:★★★★★★(6)

香り:焦げた土と乾草、野焼きの後のような強いスモーキーさと煎餅のような香ばしさ。スワリングするとモルティーな甘み、バニラ、柑橘等のアロマ。奥には林檎を思わせる品の良い甘みもあって、微かにスパイシーな要素も感じられる。

味:香ばしい麦芽風味とピートフレーバーと柑橘感。口当たりはオイリーで厚みがある中に、乾いた麦芽の軽やかな風味が混ざり、香り同様のスモーキーさを鼻腔に感じさせつつ、柔らかい余韻へと繋がる。

三郎丸のヘビーピーテッドモルト(50PPM)と、江井ヶ嶋のライトリーピーテッド(10PPM)、共にバーボン樽熟成のバッティング。
香りでは強く存在感のあるスモーキーさが主体だが、味わいは乾煎りしたような麦芽の香ばしさ、モルティーで厚みのある味わいが第一に感じられる。全体としては三郎丸原酒のフレーバーが主体であるところ、その隙間を補うように江井ヶ嶋モルト由来の要素が感じられ、お互いの個性が共演したブレンデッドモルトである。
加水すると爽やかな柑橘感、グレープフルーツの綿のようなほろ苦さがあり、徐々にスモーキーに変化する。

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三郎丸蒸留所が日本各地の蒸留所と原酒を交換し、ブレンドすることでリリースする、ブレンデッドモルトウイスキー「FAR EAST OF PEAT」シリーズ。第1弾は長濱蒸溜所との原酒交換で、そして今作第2弾となる3rd Batch と 4th Batchは、兵庫県江井ヶ嶋蒸溜所との原酒交換によって実現したリリースとなります。

リリースにあたっては、三郎丸蒸留所の稲垣マネージャーの提案で関係者によるスペース放送を実施させて頂きました。※当日資料、アーカイブ記事はこちら
平日の夜でしたが、250名を超える方々にご参加いただき、内容もスペース放送らしく適度なぶっちゃけがあり、そしてそれぞれの蒸留所のウイスキーに対する考え方や、リリースを紐解く内容でもあり…。
司会として関わらせてもらって光栄という以上に、一愛好家としてめちゃくちゃ勉強になる放送でした。


※三郎丸蒸留所 稲垣マネージャー、江井ヶ嶋酒造 中村蒸留所所長、T&T下野代表との対談用参考記事

今回のリリース、そして放送を通じて最も認識を改めたのは、江井ヶ嶋蒸溜所の原酒の変化でした。
三郎丸じゃないんかい、という突っ込みが聞こえてきそうですが。三郎丸についてはもう3~4年前にニューメイクの段階で認識を改めて、これは偉大な蒸溜所に届きうると、別途PBまで企画したところです。
個人的には認識を改める要素は三郎丸にはなく、むしろ今後2018年以降蒸留の原酒が、同蒸留所の評価をさらに高めていくものと確信しています。

一方、江井ヶ嶋蒸溜所については、今更取り繕う気もありませんが、今回のコラボの話を昨年初めて聞いた時は「大丈夫なのか?」くらいに思っていました。
いやだって、江井ヶ嶋蒸留所のこれまでの原酒って正直地ウイスキーそのものというか、雑味が多く厚みがない、良さを感じる要素がまるで無いわけではないものの、それを探し出すのが難しいと言うのが本音のところで・・・。

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ただ、構成原酒に加え、カスクサンプルやT&Tのニューメイクもテイスティングし、あれ、江井ヶ嶋良くなったんじゃない?と。
2019年以降は設備が入れ変わってるのでその影響かと思いましたが、どうも今回のリリースに使われた2018年時点から全然違う。
放送を通じて中村所長に確認したところ、造り方の見直し、設備の清掃徹底や保守管理、老朽化した配管などの入れ替えは、中村所長が蒸留所に着任した2016年から行なっていたそうで、成る程そういうことかと、認識を改めるに至ったのです。

個人的な整理ですが
・地ウイスキー = 酒造等がありあわせの設備で造った、特にコンセプトのないもの。
・クラフトウイスキー = こういうウイスキーを造りたいという想いを持って、設備の設計調達や製法の工夫を行ったもの。
であると考えています。
その整理で見るならば、現在の三郎丸蒸留所はまごうことなきクラフトであり、江井ヶ嶋蒸溜所もまた、クラフトウイスキーへ転換したことは間違いないと言えます。

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さて、今回のリリースに用いられたものを含めて、三郎丸原酒はどっしりとした厚みのある風味、スモーキーフレーバーが特徴であり、ある意味造り手の若々しさとも言うべき強い主張が個性でもあります。

リニューアル直後、一部旧時代の設備が残った2017年に比べ、マッシュタンが新しくなった2018年蒸留の原酒はネガティブな雑味要素が少なくなり、ピーティーなフレーバーが一層強く感じられるようになりました。
ただ、2019年に比べて2018年はまだ旧世代の残滓とも言うべき針葉樹やオリーブオイルのような若干のオフフレーバーを残しており、また3年熟成時点ではピートフレーバーも荒々しく、単体ではちょっと暴走気味(造り手談)であるところも否めませんでした。

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一方、江井ヶ嶋蒸留所の酒質は、元々がライトで厚みがあまりなく、それでいて苦味やえぐみのような、マイナス方向での雑味が全体にかぶさってくるような傾向がありました。

ですが先に書いたように近年蒸溜の原酒やニューメイクを飲んでみると、軽やかな風味はそのままに、以前は厚みが出ず雑味があった中盤から後半にかけては品のいい麦芽風味と柔らかいコクが感じられるのです。
今回のブレンドに用いられた、三郎丸蒸留所と交換したバーボン熟成したものは蜂蜜レモンや和柑橘、そして穏やかなスモーキーフレーバーへと続いていきます。


力強く奔放な三郎丸、柔らかく穏やかな江井ヶ嶋。使われた比率は2:1程度。
凸凹が組み合わさるような、例えるなら、蕎麦打ちで粗挽き粉に更科粉をブレンドして、食感と舌触りを良くするようなイメージでしょうか。
加水することでさらに香味の広がりが生まれ、両蒸留所の個性を味わうことができます。
それは未完成だからこその面白さと将来性であり…。2人の造り手によるクラフトウイスキーの共演を、是非楽しんでほしいですね。

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江井ヶ嶋 ブレンデッドウイスキー シェリーカスクフィニッシュ 50%

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EIGASHIMA 
BLENDED WHISKY 
SHERRY CASK FINISH 
500ml 50% 

評価:★★★★★(5)

香り:トップノートはオロロソシェリーの甘いシーズニング香、合わせてメローなグレーン、穀物を思わせる要素も混ざり、全体的に柔らかい甘さが主体のアロマ。微かに焦がした杉板のような、古典的な日本家屋に通じる香りが混ざる。

味:まずシェリー樽由来の香味が広がる。ドライプルーンを思わせる近年系シェリーの甘み、奥にビターなカカオ、ウッディネス、微かにスパイスや針葉樹のアクセント。じわじわと舌先からタンニンが感じられ、余韻はシェリー樽の甘さが鼻腔に抜けるとともに、ピリッとした刺激が残る。

香味ともはっきりとシェリー樽の個性が感じられるブレンデッド。加水すると一瞬甘酸っぱいドライフルーツ、柑橘の皮、オランジェットなど香りを構成する要素が増すが、極短時間の変化であり、その後はドライなグレーン感が主体となる。他方で味わいはスムーズでマイルド、余韻は日本の熟成環境を思わせるウッディさが残る。輸入原酒とのブレンドとは言え、これが江井ヶ嶋のリリースである点に驚かされた。

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江井ヶ嶋酒造からリリースされている、江井ヶ嶋蒸溜所のモルト原酒と、輸入原酒(モルト、グレーン)をブレンドし、オロロソシェリー樽でフィニッシュした通常リリース。
同社のウイスキーブランドと言えばホワイトオークとあかしですが、2019年に蒸溜所名義をホワイトオーク蒸蒸溜所から江井ヶ嶋蒸溜所とし、新たに“江井ヶ嶋”ブランドを最上位に位置付けてリリースを行う、ブランド戦略の見直しが行われました。

そうしてリリースされたうちの1つが、このブレンデッドウイスキーです。
しかしこれまで江井ヶ嶋のモルト原酒は、雑に作っているのが見えるというか、悪い意味で地ウイスキー的というか、「風味が薄っぺらいわりに原料由来とは傾向の異なる雑味が多く、樽感のなじみも悪い。」
はっきり言っていい印象はなく、この蒸留所、立地以外何が良いのかわからない、というのが本音でしたね。
(同じように感じていた愛好家の皆様、江井ヶ嶋の皆様は怒らないので、黙って拍手ボタンを押しましょう。)

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他方で、昨年から2018年蒸留のカスクサンプル、直近のニューメイクを飲ませていただく機会があり、あれ、悪い要素が消えてる。。。っていうか別物じゃん、と評価を改めていたところに、先日のスペース放送です。
事前打ち合わせ含めて詳しい話を聞き、江井ヶ嶋蒸溜所のウイスキーは、同社が1919年にウイスキー販売を始めて100年経った今からやっと“始まる”のだと、確信に至りました。

字面的な印象で言えば「地ウイスキーからクラフトウイスキーへ」と言いますか。
この改革の立役者である中村蒸留所所長が着任された2016年以降、江井ヶ嶋蒸溜所では意識とプライドをもった仕込みが行われているだけでなく。2019年の改修工事前から、老朽化した配管やタンクの交換など、今まではおざなりにされていた設備の保守管理・清掃も徹底されるようになったと言う話を聞き、原酒の香味の変化にも納得しました。
やはりモノづくりは細かいことの積み重ね、基礎をおろそかにしてはならないと言うことですね。

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(2月3日のスペース放送。中村蒸留所所長の「お前ら、そんなウイスキー作ってて家族に恥ずかしくないんか、一緒に飲みたいウイスキー造ってるって言えるんか」という話は、胸の内に込み上げてくるものがあった。)

そんなわけで、じゃあ新時代の江井ヶ嶋のウイスキーを飲んでみようと。スペース放送にあたって購入していた一つが、このブレンデッドウイスキーです。
輸入原酒を使っているため、江井ヶ嶋モルト100%の香味ではありませんが、例え輸入原酒を一部使おうとも香味の仕上げに設備の影響は少なからずありますし、何より造り手の意識が低いと、よくわからないものが仕上がってくるのは説明するまでもありません。

傾向としてはフィニッシュに使われたシーズニングシェリー樽の、近年の市場で良く見る香味を主体。ですが、バランス良く仕上がってます。
江井ヶ嶋蒸留所は実はシェリー樽の保有比率が高い(全体の半分以上)そうで、これはある意味で江井ヶ嶋のハウススタイルと言えるのかもしれません。
何より、ちゃんとユーザーが求めている味に向き合っている気がしますね。フラットに見ればようやく他社と横並びのスタートラインの立ったとも言えますが、お、中々悪くないじゃんとも、思わされる一本でした。
引き続き注目していきたいと思います。

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