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2019年10月

ラガヴーリン 9年 ゲームオブスローンズ ラニスター 46%

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LAGAVULIN 
AGED 9 YEARS 
GAME OF THRONES 
HOUSE LANNISTER 
700ml 46% 

グラス:木村硝子テイスティング
時期:開封直後
評価:★★★★★★(5ー6)

香り:スモーキーでフレッシュなピート香、土っぽさと若干の焦げ感を伴う。ヨードと塩素、仄かにシャープな刺激。シトラスのような爽やかな柑橘っぽさも混じってくる。

味:緩く少し水っぽさのある口当たり。じわじわとスパイシーでオイリーな質感に代わり、香り同様焦げ感のあるピート、ジャーキーの塩気のある旨味エキス、黒土やスモーキーな香りが鼻孔に届いてくる。
余韻はスパイシーでオールブランのようなほろ苦さが長く続く。

香りはフレッシュさとヨードのニュアンスのある、整ったアイラモルトという印象だが、度数に反して味が若干薄く、水っぽさを感じる点が少々物足りない。万人向けとしては、ちょうど良いのかもしれないが・・・。
一方この手の緩いタイプは加水するとバランスが崩れるかと思いきや、少量加水ならむしろ延びる。野暮ったさが消えて洗練されたような印象すらあり、酒質の持つ力を実感させられる。

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アメリカを中心として主要各国で大ヒットした長編TVドラマ”ゲームオブスローンズ”と、ディアジオがタイアップして昨年11月にリリースしたリミテッドエディション。
蒸留所選定の経緯はわかりませんが、ドラマのストーリーに登場する7つの王国と、キーパーソンを加えた8種類のシングルモルト+限定のジョニーウォーカー1種類、計9銘柄がリリースされていて、さながら現代の花と動物シリーズのようです。

ラインナップは近年のリミテッドではお馴染みの銘柄に加え、人気のクライヌリッシュ以外にカーデュー、グレンダランと渋いところもあり、ドラマを見ていない自分も全種揃えてしまいたくなるようなラインナップです。
一方で今回のリリースは、全てがオリジナルというわけではなく、オフィシャルのラベル違いというボトルも含まれているようです。
それこそ渋いところ銘柄であるカーデューとグレンダラン、そしてダルウィニーがどうもそれっぽく。一方でラガヴーリンにはそもそも9年熟成品はありませんし、クライヌリッシュも通常リリースにはない50%オーバーのハイプルーフ仕様となっていて、この2本はゲームオブスローンズコレクション向けオリジナルボトル確定のようです。

後は見た目で判断が難しいのがロイヤルロッホナガーとタリスカー。タリスカーはラインナップが豊富なのでどれが使われているのか判らず、またロッホナガーの12年で100ドルというのは。。。ラインナップに近い価格帯のリリースが見当たりません。ただUKAmazonでは40ポンドしないようなので、やはり中身はオフィシャル12年か。
また以下のオーバン・ベイ・リザーブは順当に考えるとリトルベイなのですが、樽が若干強いというか、飲んだ印象は微妙に違うようにも感じます。まあラベルがカッコいいのでそれだけで大正義なんですけどね(笑)。

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思わず疑心暗鬼になるようなシリーズではありますが、むしろそれを楽しむのも一興ですし、オリジナルとラベル違いという整理が、実際のドラマと関係があるのかあれこれ考えるのも嗜好品としての楽しみ方だと思います。

同シリーズは日本国内だと価格は些か割高で。。。出張や旅行の際に免税店や現地ショップで好きな銘柄をお土産がわりに購入するのがオススメ。特にこだわりがないなら、クライヌリッシュとラガヴーリンですね。ラガヴーリンはテイスティングの通り飲み口柔らかい万人向けという印象ですが、クライヌリッシュもどこかで試してみたいです。価格から考えると、蒸留所限定のカスクストレングス系統だといいなあと。
なお日本には入ってきていませんが、ゲームオブスローンズブランドからは、ワインもリリースされています。こちらは税込み15$程度とさらにお手頃。お好きな方へのお土産は、ウイスキー以外を探してみても良いかもしれません。
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ノブクリーク ライ シングルバレルセレクト 57.5% #5937

カテゴリ:
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KNOB CREEK 
SINGEL BARREL 
Kentucky Straight RYE Whiskey 
Barrel #5937 Hand Selected By Fujioka's Wine Times 
750ml 115Proof 

グラス:国際規格テイスティンググラス
時期:開封直後
評価:★★★★★★(6)

香り:パワフルでスパイシーな香り立ち。注ぎたては刺激が強いが、徐々にクッキー、薄めたメープルシロップの甘味。オレンジやグレープフルーツの柑橘系の要素が、若干青みがかった爽やかさと合わせてスペアミントを思わせる。

味:強く荒々しいスパイシーさを伴う、フルボディな口当たり。メローで粘性のあるチャーオーク由来のキャラメルの甘味、続いて搾った柑橘、徐々にビターなウッディネスへと変化していく。
フィニッシュはスパイシー、口内への刺激は最後まで長く続くが、キャラメルオレンジの甘味が舌の上に長く残る。

樽の効き具合はノーマルのノブクリークシングルバレルよりもやや控えめ。そこにライウイスキーらしいスパイシーさ、樽や穀物由来の要素とは異なるフレーバーが柑橘やミントのニュアンスに繋がっている。熟成は若そうだが嫌みな要素は少なく、しかしバッチバチ。少量加水すると香味ともまとまって味わいやすくなる。


ハワイ・オアフ島にあるワイン専門店"Fujioka's Wine Times"(以下、フジオカワインと表記)が、ジムビームから独自に樽を買い付けてリリースした、シングルバレルのライウイスキー。ジムマーレイ氏じゃないですが、最近ライウイスキーがアメリカ側でバズってきてるらしいですね。
ノブクリークのライは、100Proofの通常品のみしか日本市場に流通しておらず、シングルバレル115Proofは未入荷。加えてお値段税込み約48$の限定ウイスキーと考えれば、現地の思い出プライスレス込みで比較的お手頃な1本かなと思います。

ノーマルのノブクリークは9年熟成で、マッシュビルはコーン75%、ライ13%、モルト12%であるところ、ノブクリーク・ライの100Proofは熟成年数5~9年のバッティングで、マッシュビルはコーン35%、ライ55%、モルト10%とのこと。おそらくこのフジオカワイン向けのボトルも同じ比率で仕込まれた原酒でしょう(ライのマッシュビルは不明とするサイトもあり、あくまで参考程度)。ライウイスキーなので当然ですが、ノーマルなノブクリークに比べてハーバルで、スパイシーな特徴が強く出ています。

他方でレビューで感じたように熟成年数は比較的若いのか、5~6年程度のものと思われます。
ショップで聞いてもシークレットだと教えて貰えませんでしたが、他でリリースされてる同価格帯のプライベートセレクトの熟成年数はその辺りであり、あまり長熟の原酒をジムビーム側が出してないのかもしれません。
チャーオーク由来の甘味のなかにスパイシーさと酸味、そして若干スペアミントのような爽やかさと柑橘感があり、若さがそれらの勢いを後押ししている。カクテルベースにしても面白そうで、マンハッタンなどのショートカクテルには強そうですが、ライムやスペアミントを使うミントジュレップとかなら絶対美味しいだろって感じです。

かつてバーボンはライウイスキーだった時代があり、徐々にコーン比率が高まっていったという経緯を考えれば、この味わいは古の味のひとつ。今オールドで流通しているそれらは、樽香は多少違えどベースはきっとこんな感じだったのでしょう。
このプライベートセレクトは、同店に限らず様々なショップやグループから行われていて、メーカーズマークのように、そのうち日本にも入らないかと期待しています。

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フジオカワインの店内。外観が地味なので、それがギャップになって在庫の多さに圧倒されます。
看板はワインショップですが、ワインをメインにした総合酒類取扱店という感じ。ウイスキーにビール、あとは日本酒。葉巻もあります。
限定のウイスキーは、今回のライウイスキーに加え、同じくノブクリークのシングルバレルに、Hawaiian Whisky Mafia名義のメーカーズマーク・プライベートセレクト。写真でも写っていますが、ジャパニーズウイスキー区分では、例の焼酎ウイスキーも棚に並んでいました。

ちなみにこのお店に限らず、アメリカワインの価格が日本の流通価格から一律1000~2000円引きくらいなんですね。辺り前と言えばそうなのかもしれませんが。
例えば日本では3500円程度で売ってるケンダルジャクソンが、普通のスーパーで15$くらいでしたし、日本への輸送コストどんだけかかってるんだ。。。羨ましい。

アベラワー グレンリベット 12年 1980年代流通 特級表記 43%

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ABERLOUR - GLENLIVET 
SINGLE MALT 
12 YEARS OLD 
1980's
750ml 43% 

グラス:国際規格テイスティンググラス
時期:開封後2週間程度
場所:お酒の美術館 神田店
評価:★★★★★★(6ー7)

香り:スウィートで若干ドライな香り立ち。ダークフルーツのレーズンを思わせる甘さ、カカオチョコレートやカラメリゼの甘味とほろ苦さの奥には、微かにエステリーなニュアンスも感じさせる。

味:スムーズでスウィート、粘性のある口当たり。口の中で盛り上がるような厚みと広がりがあり、洋菓子やオランジェット、カラメリゼ、ほのかにレーズン。シェリー樽由来の甘味が広がる。余韻はウッディでほろ苦く長く続く。

バランスの良いシェリー系のシングルモルト。ファーストフィルとセカンドフィルの古き良き時代のシェリー樽原酒を主体に構成されていると思わせる香味構成は、適度なシェリー感と熟成感、深みのある甘みでスタンダードボトルとして申し分のない完成度である。是非ストレートで。

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バーボンでBottled in bond表記に特別感があるように、スコッチでも古い世代の表記に同様の印象を感じるものがある。UnBlendedやPure Highland Maltなど数ある中で代表的なものが、◯◯-GLEN LIVET表記です。

もはや解説の必要もありませんが、19世紀のスコッチウイスキー市場では、GLEN LIVET蒸留所の人気にあやかろうと蒸留所の名前の後に、GLEN LIVET表記をつけるという広告戦略が多くの蒸留所で見られました。
その文化は20世紀になっても一部の蒸留所で残っており(ケイデンヘッドなどのボトラーズでは継続的に使い続けているケースもあり)、代表的なスペイサイド銘柄はマッカラン、グレンファークラス、ダフタウン・・・そしてこのアベラワーは、1970年代後半から1980年代前半に流通したブランデーに似たデザインのボトルの時代を除き、1990年代前半あたりまでGLEN LIVET表記を使っていたようです。

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(1970年代前半流通のアベラワー・グレンリベット。特徴的な角瓶で、43%以外に50%仕様のものや、単一蒸留年表記のものもあるなど、当時のオフィシャルとしては珍しいスタイルだった。その香味はパワフルで濃厚なシェリー感が特徴であり、現在リリースされているアブナックのはしりとも言える。)

このGLEN LIVET 表記があるからスペックが異なるかというと、そうではないのが前述のBIBと異なる点ですが、スコッチウイスキー好きにとってなんとなく期待させられる特別感があるのが、この表記の持つ特徴と言えるかもしれません。

さて、今回のボトルの流通時期は1980年代中頃(おそらくラベルの期間は1985~1990年あたり)というところ。
蒸留時期は1970年代前半から中頃となる訳ですが、1973年に同蒸留所は拡張工事を行いスチルを2基から4基に増やしているだけでなく、設備全体も近代化を実施。資本としてはその翌年にペルノリカール傘下に移っており(近代化されたのはペルノリカール傘下に移った後とも言われる)、何れにせよ丁度蒸留所に変革があった時期に仕込まれたウイスキーということになります。

アベラワーはホワイトヘザーなどの構成原酒として主に使われてきましたが、古い時代のそれにはよりリッチなシェリー感が備わっているものの、今回のものはシェリー感はそれなり。しかし上記70年代のシングルモルトしかり、オールドのそれらに備わったシェリー香の共通点は今回の時代のアベラワーにも備わっていて、酒質のモルティーさとに由来する厚みと合わせてバランスの良い味わいを楽しめる、オフィシャルスタンダードとしてレベルの高いボトルだと思います。

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今日のオマケ:メアンダー・モスカート
南アフリカの甘口スパークリング。
日本ではマスカットで知られるアレクサンドリア(ミュスカ・ダレキサンドリー)を使っており、香りは熟した洋梨、ライチ、あるいは王林などの酸味の少ない爽やかな甘味を感じさせる。一方で口に含むと炭酸の刺激のなかにジューシーで蜜のような甘味、糖分しっかり。もはやこれは炭酸白葡萄ジュース。
めちゃくちゃスイスイ飲めるが度数はビールより高い7.5%なので、お酒に不馴れな方には危険なワインだと思う。

先日のラグビー南アフリカ戦、南アフリカの酒でも飲みながら見ようかと思うも手持ちがなく、子守りの合間に近所のカクヤスにいったところ唯一あったのがコレ。
15年前の自分だったら感動したんだろうなあ、という味。今は1杯でお腹一杯な甘さ。赤を買っておけば良かった。。。

ちなみに試合は残念ながら日本が敗退してしまいましたが、南アフリカの圧倒的パワーの前にも諦めず、必死に立ち向かう姿に、強くなるために重ねた努力の日々を重ねてただただ感動。サッカー、野球、テニス、スポーツ観戦はよくしますが、負けた試合に感動して泣いたのは初めてでした。
ありがとうジャパン!これからも応援します!

ザ・ホイッスラー 7年 ブルーノート 46%

カテゴリ:
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THE WHISTLER 
IRISH WHISKY 
Age 7 years 
THE BLUE NOTE 
Single Malt 
(Oloroso Sherry Cask Finish) 
700ml 46% 

グラス:木村硝子テイスティング
時期:開封後1週間程度
評価:★★★★★★(5ー6)

香り:甘やかで軽い香ばしさを感じるアロマ。パウンドケーキやラムレーズンアイスのような甘味。仄かにアルコール感もある。時間経過でドライフルーツの要素が開く。

味:スウィートな口当たり。ピリピリとスパイシーだが合わせてかりんとうやチョコレートシリアルを思わせる軽い香ばしさのある甘味が、徐々にカカオを思わせるビターなウッディネスへと切り替わっていく。戻りには微かにアイリッシュらしいケミカルさと、オーキーなニュアンスもある。

7年と若い熟成年数だが、若さはあまり感じない、むしろシェリー感がほどよくあるバランスの良い仕上がり。コスパの良い1本と言って差し支えないだろう。加水するとシェリー系の甘さが開くと共に、マイルドな口当たりに。


5年間バーボン樽で熟成したあと、長期間シェリー酒の熟成に使われた樽で2年間フィニッシュした、短期間の熟成ながらそれなりに仕上がっているアイリッシュシングルモルト。ホイッスラーは作り手が口笛の名手であることからつけられたのだとか。
また、ブルーノートとは、正式にはブルーノートスケールで、JAZZ等で使用される長音階のうち一部が半音下がっているような音階のこと。シェリー樽フィニッシュによって通常のバーボン樽熟成のそれとは異なる音階(フレーバー)となったウイスキーを例えたネーミングのようです。

一方、ブルーノートの「ブルー」は、哀調や孤独感、憂鬱などを表現するブルースの語源でもあるため、シェリー樽熟成のウイスキーが果たしてその表現に適切かというと。。。ちょっと違和感はあります。
まあバーボン樽で華やかな仕上がりよりは、色濃い甘味を帯びたそれは、現在のブルー(青)が持つ意味である、落ち着いた雰囲気を纏っていると言っても過言ではないのですが。何れにせよテイスティングのとおり7年間の熟成とは思えない未熟感の少なさと、シェリー樽のフレーバーが浮わつかないバランスのとれた仕上がりは、若いなりに完成度の高い1本だと思います。

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(ボアン蒸留所外観。ガラス張りで解放感のあるショールームのよう。蒸留所のオーナーは、アイルランド最大のアルコール飲料会社のオーナーでもあるとのこと。画像引用:https://casksaway.ie/2019/01/19/boann-distillery/)

このウイスキーの製造元であるボアン蒸留所は、2016年に完成したばかりの新しい蒸留所です。そのため、今回レビューする7年熟成のシングルモルトは自前の原酒というわけではなく、時系列から推察すると、5年熟成の原酒を別な蒸留所から調達し、自社貯蔵庫で2年間シェリー樽で追加熟成させたものではないかと。
他にリリースされてる10年熟成のシングルモルトやカスクストレングスも同様にシェリー樽フィニッシュですので、シェリー樽熟成からが同社のアレンジであり、ベースとなる原酒が異なるのでしょう。

植物っぽさやケミカル感のあまり目立たない素直な印象のある酒質で、買い付け先はクーリーあたりと推察。
一方で、追加熟成に使われたオロロソシェリー樽は、実際にシェリー酒を長期間熟成していた樽である(つまり、ソレラの古樽?)ということがPRされていますが、何年程度のものなのかは明らかにされていません。
1960年代のシェリーカスクを思わせるような、深みのあるシェリー感とフルーティーな味わいがある訳ではないものの、旧ボトルのマッカランのシェリーを思わせる黒糖感が付与されており、生臭さもサルファリーさもないので、そう悪くないものだと感じます。

この蒸留所の真価を問うのは実際の原酒がリリースされてからになります。とはいえ、現時点で良質な樽を調達出来るコネクションや、資本力があるというのは強みだと思います。
また蒸留と合わせてビールの醸造も行っているとのことで、その気になれば自前のビアカスク熟成も出来るのでは。関連企業による流通網の確保も問題ないでしょうし、蒸留所の将来が楽しみな1杯でした。

ウイスキーオブザイヤー2020 TOP3をバッファロー・トレース勢が独占 - ジムマーレイ ウイスキーバイブル

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”ジムマーレイ氏はアメリカで宝物を見つけたのかもしれない”
10月とは思えないほど暑い日々が続いていましたが、所用で1週間弱海外に出ている間に、すっかり秋らしくなっていた。。。帰ってきたら寒いしドラフト会議も終わっていたし、ジムマーレイ・ウイスキーバイブルも2020がリリースされてましたよ。なんだろう、この取り残され感。
そんなわけで少し遅くなりましたが、今年も同書籍の動向について紹介していきます。

JIM MURRAY'S WHISKY BIBLE 2020

ウイスキーバイブルは、次の1年間のウイスキーガイドとして、評論家のジムマーレイ氏がまとめている書籍。スコッチのみならず、アジア、アメリカ、カナダと世界中から約4700という銘柄が掲載されています。
この書籍の特徴はジム・マーレイ氏が、掲載されているすべての銘柄をテイスティングし、独自採点でポイントをつけてまとめているということ。そのため2018-2019年時点で最も評価が高かった銘柄が世界一のウイスキー、ワールドウイスキーオブザイヤーとして掲載されることとなるため、毎年少なからず注目されている著書でもあります。

ウイスキー特化で世界一を認定しているアワードは、愛好家団体が主催するモルトマニアックス(MMA)、ウイスキーマガジンが主催するワールドウイスキーアワード(WWA)、そしてジムマーレイ氏のウイスキーオブザイヤーがあります。
他に今年から始まった日本のウイ文研主催のTWSCや、総合酒類コンペではISCなどもありますが、ウイスキーに特化したタイトルは上の3つが愛好家間でのメジャーどころ。
それぞれ審査委員の好みというか、毛色の違いというか、受賞案件を比べてみると違いが出て面白いなと感じる反面、最近のウイスキーバイブルには些か傾向に変化があるという気がします。

というのも、このジムマーレイ氏の評価ですが、タイトルは5年前を最後にスコットランドから離れ、日本を経由してカナダから米国入り。
2017年にブッカーズ・ライ13年、2018年にテイラーフォーグレーン12年、そして2019年にはウィリアム・ラルー・ウェラーと3年連続で世界一をアメリカのウイスキーがとっているだけでなく、特に昨年は主要部門がほぼアメリカ色に染まった受賞結果は衝撃でした。

元々ジムマーレイ氏はバーボンやライウイスキーを評価していて、以前から「ライウイスキーにルネッサンスが起こる」とも発言しており、トップ評価を受けたのは初めてではありません。
中でもバッファロー・トレース蒸留所の原酒を使ったウイスキーがお気に入りという印象。そして今年発売されたウイスキーバイブル2020におけるアワードは・・・昨年の流れそのまま、またしてもアメリカ、またしてもバーボン。それも、4700銘柄のうち上位3銘柄をアメリカンウイスキーが独占するという、過去例のない結果となりました。

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■THE WINNER
・Jim murray's World Whisky of the Year 2020
1792 Full Proof Kentucky Straight Bourbon



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・Second Finest Whisky in the World
William Laure Weller 2018

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・Third Finest Whisky In the World
THOMAS H. HANDY SAZERAC STRAIGHT RYE WHISKY 2018

この3銘柄はすべて、バッファロー・トレース蒸留所の系列によって作られたものです。
これまで全17巻を発刊してきたウイスキーバイブル史上初めての出来事で、ジムマーレイ氏も「さすがにあり得ないと思ったので、トップ10の銘柄を再度テイスティングしたが、結果は変わらなかった」とSpirits business紙に語っています。
2位となったウィリアム・ラルー・ウェラー、並びに3位のトーマス・ハンディ・サゼラックは昨年のウイスキーバイブル2019から連続の表彰台。よっぽど旨いのか。。。

ちなみに1792フルプルーフは、蒸留所はバートン1792ですがここもバッファロー・トレースの系列。ビンテージ違いと思われるものを飲んだことがあり、確かに熟成感とリッチな甘味、適度なウッディネスで余韻も良くできてる。最近のバーボンにしては良い仕事してるなあ、という感じの1本でした。(レビューを掲載していたら★7くらいの評価だったと思います。)

自分はバーボンも結構好きなので色々飲んでいますし、スコッチやジャパニーズと同じくらい魅力があるジャンル、と言うことは理解しています。安定したクオリティを求めるならバーボンとも言ってるくらいです。
他方で、ここ数年で同ジャンルのウイスキーが味を向上させたという印象はなく、むしろ逆に長熟原酒と良質な樽の枯渇でスコッチ同様苦しい状況。しかしウイスキーバイブル2014でグレンモーレンジ・エランタ19年が世界一となって以来、頑なにスコッチのタイトル獲得がない不思議。。。しかも今年はTop 3もシングルカスクウイスキー部門も、一つもスコッチの名前がないのです。

全体的に苦しいなかに、光輝く素晴らしい一樽がたまに現れる条件は五分五分。それでこの結果は、単にそのサンプルが入らないだけかもですが、なにかを意図しているような気もしてしまいます。
例えば、クラフトバーボンブームが起こっている同国において、ブランド戦略として長熟プレミアムバーボンの市場を活性化させようとしているとか・・・考えすぎかもしれませんが。

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さて、他のカテゴリーに目を向けると、スコッチウイスキーでは今年も来ましたグレングラント18年。年数ごとのカテゴリーでもグラントのオフィシャルがウィナーとなっており、実際どのグレードでもコスパ、構成共に良くできているオフィシャルブランドだと思います。

スコッチカテゴリーはグラント18年の連覇となりましたが、同じ系統だとさらにフルーティーなグレンモーレンジ19年もありますし、麦系ならアバフェルディやクライゲラヒの20年オーバーグレードもある。ミドルグレードのスコッチモルトは拮抗してるような気がするんですよね。
さらにリストを見ていくと。。。"The Macphail 1949 China Special Edition 1"ってなんやねんそれw
中国市場はホント金が動いている。ただ70年熟成で過度な熟成が過ぎたのかもしれませんが、こういう限定品の長熟スコッチがトップに入ってこないのはジムマーレイ著書の傾向でもあります。

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(ジャパニーズ・シングルモルトカテゴリーを受賞した、シングルモルト松井・ミズナラカスク。決して悪い酒とは言わないが。。。相対評価で色々と疑問が。本ブログでのレビューはこちら

そして衝撃だったのが、ジャパニーズのカテゴリー。え、いや他にあるやろ?という結果は、TOP3以上の衝撃と言えます。
まずジャパニーズウイスキーオブザイヤーは、竹鶴ピュアモルトNASが受賞。不味いとは言いませんが。。。昨年は萌木の村がリリースしたポールラッシュ生誕120周年記念シングルモルトでしたから、落差が凄まじい。
日本のウイスキーの上位グレードにあるような強めに出た樽感が苦手なら、バーボンも同じようにウッディですし、シングルカスクウイスキーオブザイヤーを受賞したのは短熟樽感バッチリな南投オマーのバーボンバレルというのは。。。なんというか選定に微妙な違和感があるんですよね。

そしてジャパニーズのシングルモルトカテゴリーでは、松井酒造"シングルモルト松井・ミズナラカスク"がウィナーに。複雑な表情をする愛好家の姿が見えるようですが、以前レビューしたとおり、これはウイスキー単体で見るとそんなに悪くありません。
クリアで柔らかい酒質に、バーボン樽の鏡板だけミズナラに変えるという工夫(単にコスト削減目的の偶然の産物かもしれないが)もあって、風味もこの時点では良い感じにまとまってます。
ただし悪くないのであって、日本最高の一本とは。。。数年前の某ウイスキー評論家T氏の言葉を借りれば、正気とは思えない、が適切にすら感じます。

この受賞に、愛好家が祝福ムードにはおそらくならないように思います。あの松井が?という色眼鏡で見られてしまうだろうこの結果は、身から出た錆というか、企業側の問題に過ぎません。酒に罪はないのですが、親の評判で苦労する子供を見るような気持ちになりますね。


だらだら書いてしまいましたが、アメリカの蒸留所のなかに素晴らしい一樽が眠っているというのは確かにその通りで、このジャンルにもう少し目を向けるべきとも感じています。
ただスコッチに比べると、日本に入って来ていない銘柄がアメリカンウイスキーには多く、トップ銘柄をテイスティング出来る機会はまずないだろうとも思います。
ですが、このジャンルの特徴は、同じ蒸留所で作られた類似系統の銘柄が結構あるということ。
バッファロー・トレース蒸留所であれば、ブラントン・ゴールドや、ジョージTスタッグJr等、比較的入手しやすいものもあります。
また受賞銘柄以外では、最近メーカーズマークのプライベートセレクトが多数リリースされていて、これもなかなか良くできているバーボンです。
2020年は、ジャパニーズのクラフト各社から3年熟成がリリースされる年で、その成長を見ると共に、この辺りを追いかけてみるのも面白いと思います。


【ウイスキーバイブル2020 全カテゴリーウィナーリスト】
■SCOTCH WHISKY
・Scotch Whisky of the Year
Glen Grant Aged 18 Years Rare Edition

・Single Malt of the Year (Multiple Casks)
Glen Grant Aged 18 Years Rare Edition

・Single Malt of the Year (Single Cask)
The Macphail 1949 China Special Edition 1

・Scotch Blend of the Year
Ballantine’s 17 Years Old

・Scotch Grain of the Year
The Last Drop Dumbarton 1977

・Scotch Vatted Malt of the Year
Glen Castle Blended Malt 1990

■SINGLE MALT SCOTCH WHISKY
・No Age Statement
Glen Grant Rothes Chronicles Cask Haven

・10 Years & Under (Multiple Casks)
Glen Grant Aged 10 Years

・10 Years & Under (Single Cask)
Annandale Man O’ Sword

・11-15 Years (Multiple Casks)
Glen Grant Aged 15 Years Batch Strength

・11-15 Years (Single Cask)
Signatory Vintage Edradour Ballechin 12 Year Old

・16-21 Years (Multiple Casks)
Glen Grant Aged 18 Years Rare Edition

・16-21 Years (Single Cask)
Whisky Castle Glen Spey Aged 21 Years

・22-27 Years (Multiple Casks)
Glenmorangie Grand Vintage 1996

・22-27 Years (Single Cask)
The Whisky Shop Glendronach Aged 26 Years

・28-34 Years (Multiple Casks)
Ben Nevis 32 Years Old 1966

・28-34 Years (Single Cask)
Gordon & MacPhail Inverleven 1985

・35-40 Years (Multiple Casks)
Port Ellen 39 Years Old

・35-40 Years (Single Cask)
Glenfarclas The Family Casks 1978 W18

・41 Years & Over (Multiple Casks)
Glen Scotia 45 Year Old

・41 Years & Over (Single Cask)
The Macphail 1949 China Special Edition 1

■BLENDED SCOTCH WHISKY
・No Age Statement (Standard)
Ballantine’s Finest

・No Age Statement (Premium)
Johnnie Walker Blue Label Ghost & Rare

・5-12 Years
Johnnie Walker Black Label 12 Years Old

・13-18 Years
Ballantine’s 17 Years Old

・19 – 25 Years
Dewar’s Aged 25 Years The Signature

・26 – 50 Years
The Last Drop 56 Year Old Blend

■IRISH WHISKEY
・Irish Whiskey of the Year
Redbreast Aged 12 Years Cask Strength

・Irish Pot Still Whiskey of the Year
Redbreast Aged 12 Years Cask Strength

・Irish Single Malt of the Year
Bushmills Aged 21 Years

・Irish Blend of the Year
Jameson

・Irish Single Cask of the Year
Kinahan’s Special Release Project 11 Year Old

■AMERICAN WHISKEY
・Bourbon of the Year
1792 Full Proof Kentucky Straight Bourbon

・Rye of the Year
Thomas H. Handy Sazerac 128.8 Proof

・US Micro Whisky of the Year
Garrison Brothers Balmorhea

・US Micro Whisky of the Year (Runner Up)
291 Barrel Proof Colorado Whiskey Aged 2 Years

■BOURBON
・No Age Statement (Multiple Barrels)
1792 Full Proof Kentucky Straight Bourbon

・No Age Statement (Single Barrel) Colonel E H Taylor Single Barrel Bottled In Bond

・9 Years and Under
Russell’s Reserve Single Barrel

・10-12 Years
Elijah Craig Barrel Proof Aged 12 Years

・11-15 Years
Pappy Van Winkle 15 Years Old

・16-20 Years
Michter’s 20 Year Old Kentucky Straight Bourbon

・21 Years and Over
Pappy Van Winkle 23 Years Old

■RYE
・No Age Statement
Thomas H. Handy Sazerac 128.8 Proof

・Up to 10 Years
Knob Creek Cask Strength

・11-15 Years
Van Winkle Family Reserve 13 Years Old

・Over 15 Years
Sazerac 18 Years Old

・Single Cask
Knob Creek Single Barrel Select

■CANADIAN WHISKY
・Canadian Whisky of the Year
Crown Royal Northern Harvest Rye

■JAPANESE WHISKY
・Japanese Whisky of the Year
Nikka Taketsuru Pure Malt

・Single Malt of the Year (MB)
The Matsui Mizunara Cask

■EUROPEAN WHISKY
・European Whisky of the Year (Multiple)
Thy Whisky No. 9 Bøg Single Malt (Denmark)

・European Whisky of the Year (Single)
Penderyn Single Cask no. M75-32 (Wales)

■WORLD WHISKY
・Asian Whisky of the Year
Nantou Distillery Omar Bourbon Cask #11140804 (Taiwan)

・Southern Hemisphere Whisky of the Year
Bakery Hill Peated Malt Cask
Strength (Australia)

※上記画像、ならびに受賞リストは以下から引用しました。

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