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2018年11月

グレンギリー 10年 1990年代初頭流通 40%

カテゴリ:
GLEN GARIOCH
10 YEARS OLD
Highland Single Malt
1980-1990's
750ml 40%

グラス:テイスティンググラス
時期:開封後2週間程度
暫定評価:★★★★★(5)

香り:白ぶどうや洋梨を思わせる、淡い酸味とフルーティーさ。干草、ラベンダー、あるいはポプリを思わせるフローラルなアロマ。

味:少し水っぽさのある軽やかな口当たり。麦感、洋梨、合わせてフローラルなパフューム香が鼻腔に届く。また、ライトなピーティーさも感じる。
余韻はダシっぽいコクも感じつつ、心地よくドライ、フローラルでビターなフィニッシュ。

ボウモアタイプのフローラルなパフューム香が備わっているが、構成としてはハイランドらしい軽やかな麦芽風味とほのかなピーティーさで、純粋な完成度は決して低くない。該当する香味が問題ない飲み手は美味しく頂けるボトルと考えられる。


グレンギリー、モリソンボウモア社時代最後のラベル。この後サントリー傘下となり、鹿の描かれた小豆色系のトールボトルにチェンジします。
当時のグレンギリーといえば、パフュームフレーバーで知られ、蒸留時期が1990年代に入ると消えることから、モリソン社のモルトは1970年代後半から1980年代いっぱいの蒸留時期が鬼門。それもボウモアと同系統の香りが出ているのですから、原因も共通。。。即ち冷却機の処理という説の信憑性を高めています。

ただ、パフューム香は好みの問題であり、それを一つのフレーバーと見るならこの手のボトルは決して完成度が低い訳ではありません。
軽やかな麦感、白色系の果実味、余韻にかけて残るライトなピート。まさにハイランドなスタイルの一つ。このブログの評価は、ウイスキーとしての基礎点4点に自分の好み6点分を加点していくスタイルなので★5という評価になりますが、より高評価なコメントがあってもおかしくはないと思います。

なお、同ラベルのボトルには黒いキャップシールと金色のキャップシールの2パターンが存在します。(今回のボトルは黒)
ロットとしては金色の方が古く、黒い方が新しい。何本も飲み比べた訳ではないものの、自分が飲み比べたものはどちらも同系統ながら、金色の方が麦芽風味が強い印象。。。つまりこのラベルを見たら、飲み手を選ぶヤツと思って頂ければと。

一方、ラベルの蒸留所のイラスト部分が丸く切られたロットが1世代前の当たるのですが、昔飲んだ印象では綱渡りしてるようなそれ系のニュアンスがありつつ、麦感主体でギリギリOKだった記憶があり。。。ちょうど良い機会なので、改めて飲んで確認したいと考えています。

タリスカー 8年 59.4% リミテッドリリース 2018

カテゴリ:
TALISKER
Aged 8 years
Limited Relase in 2018
Cask type 1st fill American oak Bourbon Casks
700ml 59.4%

グラス:木村硝子テイスティンググラス
場所:持ち寄り会
時期:開封後1ヶ月程度
評価:★★★★★★(6)

香り:透明感があり、塩素を思わせるツンとした刺激、シトラス、フレッシュなピート香と淡い焦げ感。徐々に燻したようなニュアンスとヨードを淡く伴う。

味:ピーティーでオイリーな口当たり。奥からグレープフルーツのわた、砂糖漬けレモンピールを思わせる柑橘感をアクセント。合わせてソルティー、乾燥した麦芽、個性が際立っている。
余韻はスパイシーで焦げたようなピーティーさ、口内を刺激する軽い荒さを伴って長く続く。

樽感は比較的プレーンで、フレッシュな香味を邪魔しない程度。それでいてニューポッティーな印象はなく、若い原酒の勢いと個性がまとまっている、作りの上手さを感じる1本。
少量加水すると程よいこなれ具合、ハイボールは微かな柑橘感のある酸味、焦げたようなピーティーさでこれもまた楽しめる。


毎年恒例、ディアジオのリミテッド、スペシャルリリース。日本では例年翌年の4月にMHDからまとめてお披露目されますが、イギリスでは銘柄毎に順次リリースされています。
今年はここ数年必ずラインナップに組み込まれていたポートエレンやブローラが無いなど、価格的な派手さは控え目。
ですが、そのラインナップのうちコアドリンカーの注目を集め、既に話題になっているのがこのタリスカー8年です。


リリースそのものは、昨年ラガヴーリン8年がリリースされたように、NA化やヤングエイジ化という近年のスコッチに見られる傾向の一つ。しかし、ことタリスカーで言えば、8年熟成は1980年代までのリリースで高い評価を受けたオフィシャルスタンダードを連想するスペックであるだけでなく。ヤングエイジで初のカスクストレングス仕様という点も合わせて、その筋の愛好家から興味関心を集めるには充分すぎると言えます。

一方、ハイプルーフで若いオフィシャルと言えば、タリスカーノース57%あたりと香味の重複があるんじゃないかと思いきや、そこは流石のリミテッドです。
ノースは若く荒々しい味わいに、樽香も強目な作りですが、この8年は樽香はあくまで自然に、淡く柑橘感とコクを後押ししている程度。無難と言えばそうなのですが、若い酒質由来のフレッシュな香味が嫌味少なく楽しめるあたりが、これまでのスペシャルリリース路線から外れない丁寧さを感じる構成であり、違いとも言えます。

かつてのTD ラベル時代のタリスカー8年とは構成から違うので、比較するようなモノでもありませんが、これはこれで好まれる味わいなのではないでしょうか。
先述の通り話題性も抜群。価格も現地を見る限りそれほどでもないですし、国内入荷の暁にはちょっとした争奪戦になるんじゃないかと思います。

キリン 富士山麓 樽熟原酒 50% 終売を発表 後継品は未定

カテゴリ:
いい奴から居なくなる、昨今のウイスキー業界はベタな脚本を見るようです。
富士山麓は2005年にキリンウイスキーの顔になるブランドとしてリリースされ、今から約2年前にリニューアル。値上げを兼ねてはいましたが、それでもコスパ抜群とファンに受け入れられていた人気銘柄「キリン 富士山麓 樽熟原酒 50%」が来年3月に終売となる報道がありました。

ウイスキー原酒不足拡大 キリン、一部販売終了へ(日経新聞 11/28)
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO38267140Y8A121C1EAF000?s=2

この終売情報は今月初旬くらいには酒屋に流れており、既に出荷規制中との話も。自分も先日のウイスキーフェスで裏を取らせてもらっていたところでした。
で、いつ記事にするかと下書きを作っていたところにこの報道です。思ったよりも発表が早かったですね。


終売の経緯は「ハイボールブームによる原酒不足」となっていますが、もう少し紐解くと、先日リリースされた上位グレード「富士山麓シグニチャーブレンド(想定価格:5400円)」に原酒を集約するため。
ブレンドの軸に使われる原酒の熟成年数は違いがありますが、シグニチャーブレンドはNA仕様で、特にグレーンは短熟でもそれなりに仕上がるため、数年後を見据えた場合リリースの安定に繋がるのでしょう。

また、昨今原料等の価格上昇から、国産にしろ輸入にしろ原酒の価格も上がっている状況で、採算を考えての決定もあるものと思われます。
50%とエントリーグレードながら高度数設定もウリでしたが、その分酒税も高かったのが富士山麓樽熟原酒。1700円前後を店頭想定価格としつつも、最近ディスカウントショップなどでは税込1500円程度で売られていることもしばしばあり。
別途キリンが販売している御殿場モルト・グレーンや、他のウイスキー価格を調べていただければ(カラクリもおおよそ察しがつくものとは思いますが)、儲け出てるんだろうかと疑問に思っていたくらいでした。終売の事前情報も、驚きはすれど意外ではなかった、というのが率直な感想です。

これらを踏まえると、今年に入りシグニチャーブレンドをショップ限定品から通常流通に切り替えていたのは、樽熟原酒の終売に向けた一手であり、キリンウイスキーの看板とも言える「富士山麓」ブランドを存続させるためでもあったのではないかと考えられます。

(今回終売の富士山麓樽熟原酒50%と2018年8月に一般販売を開始したシグニチャーブレンド。右のピュアモルトはキリン・ドリンクスの限定商品。)

なお、終売となる代わりに富士山麓関連の新商品があるかというと・・・何かしら動きがあるのは記事でも書かれているとおりなのですが、裏を取りきれておらず詳細は不明です。
記事中では次世代に向けて原酒の保全にも動くとあり、加えて上記の経緯を考えると、50%の高度数を維持した商品では確実に値上げでしょうし、価格を維持するなら40〜45%くらいで、使われていたうち熟成した原酒はシグニチャーブレンドに寄せ、残りの原酒で作れるもの。。。例えば「薫風」や「オークマスター樽薫る」の上位グレードあたりではないかと予想します。

余談ですが、キリン以外でもう1銘柄終売だか休売になるという噂もあります。こちらも確認が取れていませんが、ひょっとすると近いうちにまた紙面を賑わすのではないかと考えられます。
ウイスキーブームはオリンピックあたりまで続くとは思うのですが、各社の息切れ具合が、反動となって後の冬の時代に繋がらなければとただただ心配です。

クイーンアン 特級表記 1980年代流通 43%

カテゴリ:
QUEEN ANNE
Rare Scotch Whisky
1980's
750ml 43%

グラス:テイスティンググラス
時期:開封後1週間程度
評価:★★★★★★(6)

香り:香ばしくほのかにピーティーな香り立ち。乾いた穀物、麩菓子、奥にはおしろいを思わせる麦芽香。べっこう飴やオレンジピールを思わせるアクセント。

味:マイルドな口当たり。薄めた蜂蜜やべっこう飴、カルメ焼きを思わせる軽い香ばしさを伴う甘味、オレンジピールや干草、徐々にビター。
余韻は軽やかなスパイシーさを伴ってピーティー、ほろ苦くスモーキーでじんわりと消えていく。

際立ってモルティーでもスモーキーでも、そして樽感が強いわけでもないが、それらをバランス良く備えたスタンダードなスコッチウイスキーと言えるブレンドである。ハイボールにするとボディの軽さが目立つものの、原酒の素性の良さで嫌味なく飲み進められる。


ロングモーン、ベンリアック、そしてグレンリベットとグレングラントら、現代における名だたるスペイサイドの蒸留所を所有する、グレンリベット社傘下のヒル・トムソン社がリリースしていた輸出用銘柄。今回の1980年代流通品はヨーロッパ以外にアメリカ、南アフリカ、アジアと100カ国以上に輸出されていたとする記録も残っており、拡張路線が極まっていた時代であることが伺えます。

それを支えたのが、1977年に同社がシーグラム社の傘下となったことによる販路と原酒の提供でしょう。買収前の70年代と、80年代以降のクイーンアンでは香味構成にも変化が見られます。
1970年代に流通した、少し角ばったようなグリーントール時代(下写真)は、バニラや洋梨、あるいはポン菓子のような白色系の甘味を主体にした構成であるのに対し、80年代前半はカルメ焼きのような色づいた甘味とほろ苦さ、グレーン由来の風味と合わせてピートもそれなりに感じられます。

(クイーンアン1970年代流通。品の良いスタンダードタイプのブレンデッド。若いベンリアックを中心に、同量以上のグレーンを加えて組み上げたような印象。)

実はこのラベルのクイーンアン。80年代後半から90年代流通のものは飲んだことがあったのですが、通関コード付きの80年代前半は飲んでいませんでした。
取り立ててモルティーというわけではなく、グレーンも前世代同様あるいは少し多めくらいに使われているように思いますが、先に書いたように70年代から見てモルトの傾向に変化が見られたのは、時代背景から考察のしがいがあって興味深いです。

香味で近いタイプは同時期のハンドレットパイパーズとか、あとはロングジョン・スペシャルリザーブも似てる部分があるかな。
80年代後半の特級時代末期になると一気にライト路線になるのですが、この70年代から80年代初頭の2世代については、好みで選んで良いというか、少なくとも古いから良いとは言い難いように思います。

グレンアルビン 34年 1965-2000 キングスバリー 49.1%

カテゴリ:
GLEN ALBYN
Kingsbury
Aged 34 years
Distilled 1965
Bottled 2000
Cask type Sherry #3833
700ml 49.1%

グラス:リーデルヴィノテクスピリッツ
時期:不明
暫定評価:★★★★★★★★(8)

香り:オールドシェリー特有のカラメルソースを思わせる深みのある甘み、淡いベリー香とドライフルーツ、熟したオレンジ、ふくよかでリッチなアロマ。

味:リッチなシェリー感のあるクリーミーな口当たり。シロップ漬けチェリー、デラウェア、瑞々しさと品の良さのあるフルーティーな甘み。徐々に古樽の落ち着いたウッディネス。
余韻ヒリヒリとしたアタックを若干感じつつ、ほろ苦い土っぽいピートのあるスウィートなフィニッシュ。

リッチなシェリー感だがどこかシロップ的な甘みとクリアなニュアンスがあり、これがドライフルーツとは異なる果実味に繋がっている。またオールドシェリーらしいベリー感も感じられる、充実した1本。


キングスバリーのケルティックシリーズ。他にラフロイグやボウモア、様々なリリースが行われましたが、どれも非常に良い出来で、輸入していたジャパンインポートの当時の無双っぷりの象徴であると共に、コレクターズアイテムにもなりつつある貴重な1本です。

グレンアルビンと言えば、インヴァネスやネス湖といったエピソードが定番ですが、もう一つあるのが今やタムデューに残るのみとなった、サラディン式モルティング設備を、1954年にグレンモールと共に先立って導入したというエピソード。
当時両蒸留所はマッキンレー社の傘下で、ブレンデッド・マッキンレーズの主要原酒として増産路線にあり、同社の方針によるところがあったのでしょう。この他、当時における最新の設備を揃えていた蒸留所であったとも語られています。

1960年代は、各蒸留所でモルティングが行われていた最後の時代にあたります。1970年代になると、業界最大手DCL社は傘下蒸留所でのモルティングをモルトスターに一元化する形に切り替え、他社の多くがそれに追従する形で現在に至ります。
この出来事は、その地で収穫された麦芽とその地のピートという"地酒"から始まったスコッチウイスキーが、一元管理された製品へ大きくシフトした出来事だったと言えます。

話が引き続き脱線しますが、モルティングの代表的な方法は、フロアモルティング、サラディン式、ドラム式と単語だけ語られる事が度々ありますが、その違いが酒質に対してどのような効果を及ぼすのか、語られる事はあまりありません。
一つ考えられるのは、仕込まれた麦芽の均一度合いの違いでしょう。フロアモルティングは敷き詰めた麦芽を人出を使ってひっくり返しますので、どうしても均一な仕上がりにはなりません。ムラはかなりあったのではないでしょうか。
サラディン式は敷き詰められた麦芽に対して、一方方向から強い風を送りつけて撹拌・乾燥させるため、それなりに効果はあると思いますが、完全ではないように感じます。(っていうかエネルギーもえらく使いそうです。。。)
一方、ドラム式は洗濯乾燥機みたいなもので乾燥させるため、これはかなり均一に仕上がると考えられます。

この均一度合いの違いが、その後糖化し、モロミを作る段階で、フレーバーの違いになって効いてくるのではないかと予想します。
今の麦芽品種に対してどの程度効果があるかはわかりませんが、麦芽由来の味が強く出ると言われるゼファーあたりの古代種の麦芽では、それが時にフルーティーさや複雑さ、あるいは今回のアルビンのように厚みのある味わいなど、ポジティブな影響を及ぼしたのではないでしょうか。
そこに良質なオールドシェリーの樽が使われるとくれば、不味い訳がないんですよね。

なおこのボトル、以前サンドリエのマスターが持ち寄り会に持参されていたのですが、その際のテイスティングノートが解読不能という有様。先日伺った際、追試をカウンターにて行ったものです(笑)。
合わせてお世話になりました!

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